https://www.mbs.jp/voice/special/archive/20180801/
今年6月に大阪北部を襲った地震で多くの家屋が被災しました。1か月以上経った今も修復が進まず、そ
のままの状態になっているところもあります。そんな中、風呂が壊れた家で暮らし、急な「立ち退き」を
迫られて、不安な日々を送る人がいます。
地震でお風呂が使えなくなった高齢夫婦宅
地震の爪痕が残る大阪府茨木市。屋根にブルーシートがかけられた住宅が目立ちます。2階建ての借家に
住む内村清子さん(69)。75歳の夫・久生さんと2人暮らし。間取りは3DKで、家賃5万円を家主
に支払って生活しています。築約50年の自宅はあの日、激しい揺れに襲われました。
「ここ(2階)で寝ててね。8時前だったでしょ。タンスがベリベリと全部落ちてきて、ぎゃー助けてっ
て思わず言ってしまったんです」(内村清子さん)
幸いけがはありませんでしたが、壁にひびが入ったりトイレのタイルが剥がれたりしたため、市の調査で
「一部損壊」とされました。そして、一番の問題はお風呂です。
「水道出ないです。全く水は出ないです」(内村清子さん)
今でもお風呂は使えません。原因は自宅の外にありました。
「給湯器がここにあったんです。それが剥がれて飛んで」(内村清子さん)
地震で、水道管とつながっていた給湯器が外れました。地震から1か月以上経った今でも、そのままの状
態です。
「お風呂だけ使えるようにしてくださいと(家主側に)言ったんですけど、それは無理ですと言わはっ
た」(内村清子さん)
突然の「立ち退き」要求
家主側は「修理はしない」の一点張り。それどころか、追い打ちをかけるように7月17日、内村さんの
もとに家主側からある通知が届きました。
「今後同じ様な大きな地震が発生すれば建物が倒壊する恐れがあります。皆様には平成30年8月末日を
以って当物件の賃貸借契約を終了とさせていただきます」(家主側からの通知より)
つまり、8月末で立ち退きを要求するという内容でした。家主側によると、立ち退き料は見舞金5万円、
引っ越し負担金10万円のあわせて15万円。ただし条件がありました。
「8月末までにご退去されない場合、引っ越し負担金はお支払い出来兼ねます」(家主側からの通知よ
り)
夫は今年5月に脳梗塞で入院。緑内障も患っています。夫婦の収入源は月15万円ほどの年金です。夫の
通院費が重くのしかかり、立ち退き料15万円では到底引っ越しはできないといいます。
「引っ越し代を見積もったときに27万円と聞きましたから、(立ち退き料15万円は)引っ越し代にも
あてはまらないし、次の家の探す気持にもなれない。直して住めるようにさえしていただければ、これ以
上にことを言うつもりもない」(内村清子さん)
家主側は「住人の安全のため」
内村さんが住むエリアには、同じ家主が所有する借家が5棟並んでいます。6世帯が住んでいますが、住
人全員が65歳以上の高齢者。一斉に立ち退きを迫られています。
85歳の丸塚和子さん。一緒に暮らす夫の曻さん(75)は、立ち上がりや歩行が不安定な「要介護1」
と認定されています。片づけをするのも一苦労。食器棚の中で倒れたコップは地震のあともそのままの状
態です。ただ、自宅の被害はお風呂やトイレの壁にひびが入った程度。今まで通りの生活を送る丸塚さん
夫婦にとって「立ち退き要求」は突然のことでした。
「うちとしては、このままおっておれんことないから。暑いのと荷造りなんか絶対できひんもん」(丸塚
和子さん)
この家に住んで約20年。足腰も弱り、引っ越しをする体力もありません。住み慣れた我が家を「終の棲
家」にしたいと考えていましたが、思いもよらない「立ち退き要求」に困り果てています。
「もうね、20年住んでたら荷物が増えますわ。もうどないしよかと思ってんねん。荷物が多すぎて。2
人しかおらんのに不思議なもんやな」(夫・曻さん)
「もう何があっても、ほんま動きたくない」(和子さん)
「年いってるから、そりゃ動くの嫌やわ」(曻さん)
なぜ、一方的な「立ち退き要求」をするのか。MBSの取材に対し、家主側は「住人の安全のため」と主
張します。
「住人の安全を考えて、退去をお願いしています。退去しようと思えば、2か月あれば出られるでしょ
う。立ち退き料15万円は妥当とは思いませんが、少ないか多いかは本人次第です」(家主側)
“立ち退きトラブル”は各地で
実は、地震のあとに立ち退きを迫られるトラブルは各地で起きています。7月に茨木市で開かれた「立ち
退き問題」の相談会。大阪北部などに住む10人が集まりました。そのほとんどが高齢者です。
「借金までして向こうに引っ越さなあかんのかなって、そんなんばかり頭の中に浮かんできて」(摂津市
の住民)
「おふくろのほうが精神的に患ってきてまして、病院にも連れていかなあかん状態」(茨木市の住民)
相談会を主催した団体には現在、立ち退きを迫られているなどの相談が約30件寄せられているというこ
とです。
地震で借家が損壊、立ち退かせる「正当な理由」になる?
では、実際に家主から「立ち退き」を迫られた場合、応じなければならないのでしょうか。その根拠にな
る法律が借地借家法です。これは、弱い立場になりがちな借り手の権利を守るための法律です。そこには
「正当な理由がなければ住民を立ち退かせることはできない」と定められています。今回のように地震に
よって借家が損壊した場合、立ち退かせる「正当な理由」になるのでしょうか。
「瓦がずれて雨漏りがするとか壁にひびが入ったとか、そういった修繕によって対応できる場合にはそも
そも賃貸借契約を解約して終了させるという『正当な事由』がない」(増田尚弁護士)
また、家主が壊れた風呂やトイレを修理しないことについては、「基本的な義務を果たしていない」と指
摘します。
「家賃を支払っている以上、家主さんは住むのにきちんとした状態にする義務がある。基本的な義務を履
行していないことになる。それは家主さんとして法律上おかしい」(増田尚弁護士)
今年6月に大阪北部を襲った地震で多くの家屋が被災しました。1か月以上経った今も修復が進まず、そ
のままの状態になっているところもあります。そんな中、風呂が壊れた家で暮らし、急な「立ち退き」を
迫られて、不安な日々を送る人がいます。
地震でお風呂が使えなくなった高齢夫婦宅
地震の爪痕が残る大阪府茨木市。屋根にブルーシートがかけられた住宅が目立ちます。2階建ての借家に
住む内村清子さん(69)。75歳の夫・久生さんと2人暮らし。間取りは3DKで、家賃5万円を家主
に支払って生活しています。築約50年の自宅はあの日、激しい揺れに襲われました。
「ここ(2階)で寝ててね。8時前だったでしょ。タンスがベリベリと全部落ちてきて、ぎゃー助けてっ
て思わず言ってしまったんです」(内村清子さん)
幸いけがはありませんでしたが、壁にひびが入ったりトイレのタイルが剥がれたりしたため、市の調査で
「一部損壊」とされました。そして、一番の問題はお風呂です。
「水道出ないです。全く水は出ないです」(内村清子さん)
今でもお風呂は使えません。原因は自宅の外にありました。
「給湯器がここにあったんです。それが剥がれて飛んで」(内村清子さん)
地震で、水道管とつながっていた給湯器が外れました。地震から1か月以上経った今でも、そのままの状
態です。
「お風呂だけ使えるようにしてくださいと(家主側に)言ったんですけど、それは無理ですと言わはっ
た」(内村清子さん)
突然の「立ち退き」要求
家主側は「修理はしない」の一点張り。それどころか、追い打ちをかけるように7月17日、内村さんの
もとに家主側からある通知が届きました。
「今後同じ様な大きな地震が発生すれば建物が倒壊する恐れがあります。皆様には平成30年8月末日を
以って当物件の賃貸借契約を終了とさせていただきます」(家主側からの通知より)
つまり、8月末で立ち退きを要求するという内容でした。家主側によると、立ち退き料は見舞金5万円、
引っ越し負担金10万円のあわせて15万円。ただし条件がありました。
「8月末までにご退去されない場合、引っ越し負担金はお支払い出来兼ねます」(家主側からの通知よ
り)
夫は今年5月に脳梗塞で入院。緑内障も患っています。夫婦の収入源は月15万円ほどの年金です。夫の
通院費が重くのしかかり、立ち退き料15万円では到底引っ越しはできないといいます。
「引っ越し代を見積もったときに27万円と聞きましたから、(立ち退き料15万円は)引っ越し代にも
あてはまらないし、次の家の探す気持にもなれない。直して住めるようにさえしていただければ、これ以
上にことを言うつもりもない」(内村清子さん)
家主側は「住人の安全のため」
内村さんが住むエリアには、同じ家主が所有する借家が5棟並んでいます。6世帯が住んでいますが、住
人全員が65歳以上の高齢者。一斉に立ち退きを迫られています。
85歳の丸塚和子さん。一緒に暮らす夫の曻さん(75)は、立ち上がりや歩行が不安定な「要介護1」
と認定されています。片づけをするのも一苦労。食器棚の中で倒れたコップは地震のあともそのままの状
態です。ただ、自宅の被害はお風呂やトイレの壁にひびが入った程度。今まで通りの生活を送る丸塚さん
夫婦にとって「立ち退き要求」は突然のことでした。
「うちとしては、このままおっておれんことないから。暑いのと荷造りなんか絶対できひんもん」(丸塚
和子さん)
この家に住んで約20年。足腰も弱り、引っ越しをする体力もありません。住み慣れた我が家を「終の棲
家」にしたいと考えていましたが、思いもよらない「立ち退き要求」に困り果てています。
「もうね、20年住んでたら荷物が増えますわ。もうどないしよかと思ってんねん。荷物が多すぎて。2
人しかおらんのに不思議なもんやな」(夫・曻さん)
「もう何があっても、ほんま動きたくない」(和子さん)
「年いってるから、そりゃ動くの嫌やわ」(曻さん)
なぜ、一方的な「立ち退き要求」をするのか。MBSの取材に対し、家主側は「住人の安全のため」と主
張します。
「住人の安全を考えて、退去をお願いしています。退去しようと思えば、2か月あれば出られるでしょ
う。立ち退き料15万円は妥当とは思いませんが、少ないか多いかは本人次第です」(家主側)
“立ち退きトラブル”は各地で
実は、地震のあとに立ち退きを迫られるトラブルは各地で起きています。7月に茨木市で開かれた「立ち
退き問題」の相談会。大阪北部などに住む10人が集まりました。そのほとんどが高齢者です。
「借金までして向こうに引っ越さなあかんのかなって、そんなんばかり頭の中に浮かんできて」(摂津市
の住民)
「おふくろのほうが精神的に患ってきてまして、病院にも連れていかなあかん状態」(茨木市の住民)
相談会を主催した団体には現在、立ち退きを迫られているなどの相談が約30件寄せられているというこ
とです。
地震で借家が損壊、立ち退かせる「正当な理由」になる?
では、実際に家主から「立ち退き」を迫られた場合、応じなければならないのでしょうか。その根拠にな
る法律が借地借家法です。これは、弱い立場になりがちな借り手の権利を守るための法律です。そこには
「正当な理由がなければ住民を立ち退かせることはできない」と定められています。今回のように地震に
よって借家が損壊した場合、立ち退かせる「正当な理由」になるのでしょうか。
「瓦がずれて雨漏りがするとか壁にひびが入ったとか、そういった修繕によって対応できる場合にはそも
そも賃貸借契約を解約して終了させるという『正当な事由』がない」(増田尚弁護士)
また、家主が壊れた風呂やトイレを修理しないことについては、「基本的な義務を果たしていない」と指
摘します。
「家賃を支払っている以上、家主さんは住むのにきちんとした状態にする義務がある。基本的な義務を履
行していないことになる。それは家主さんとして法律上おかしい」(増田尚弁護士)