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賃料不払を理由にした契約解除を背信行為と認めるにるに足りない特段の事情あるとして解除を無効とした事例

2008年10月02日 | 最高裁と判例集
 約17か月分の賃料不払を理由とする借地契約の催告解除につき、背信行為と認めるに足りない特段の事情があったとして、右解除を無効とした事例 (東京地裁平成元年12月27日判決、判例時報1359号78頁)

 (事案)
 借地人Yは地主Xの先代と昭和8年頃より借地関係を継続し、本件まで地代の遅滞等の紛争を起さなかった。地代は事実上年払が多く、Xが便宜取立てに赴く慣行もあった。

 Yは昭和61年12月28日、60年分の地代不足分約13万円と61年年分約170万円の支払を62年1月半ばまでの猶予を申出てXの了承を得た。しかしYはそれまでに支払わなかった。この間Yの次男が重病になった。

 Xは62年6月16日、同年5月分までの滞納地代総額約255万円を3日以内に支払うよう催告の上借地契約を解除した。Yは解除の前後を通じ誠意ある対応を採ったが、XはYに会うことを避けた。

 (判決要旨)
 遅延期間は支払猶予の時点から計算すれば5か月程度に過ぎない。この間に支払わなかったYは強く非難されるべきであるが、次男の病状のことや、事実上は原告が取立てに赴いたり、年末まで猶予したりする長年の慣行に照らすならば、この一時をもって数10年も続いている本件契約の解除を直ちに相当ならしめるほど高度の背信性があるとは言えない。しかも、Xの催告に対してYは催告期間内及び期間後直ちにX宅や事務所を訪ね真摯な対応をしており、催告期間内②弁済の事実が認められない点も催告金額と期間(3日間)及びそのための対応を考えると、やはり背信性が極めて高いとはいえない。(t)

 以上のとおり、Yの背信性はさほど強いものではなく、加えてまた、XY間の賃貸借関係が長期に及んでおり、しかもその間正常な関係が保たれてきたこと、Yはその不注意を法律の無知から紛争を引き起こしたものの、その後供託もし経済的に問題もなく信頼関係の復旧に努めていることに照らせば、催告期間中ないしその直後にXがYに対し地代支払についてしかるべき協議に応じてやっておれば、正常な賃貸借関係の継続が十分可能であったと考えられる。そうすると、結局本件の解除についてはXY間の信頼関係を破壊しない特段の事情があるということができる。

 (寸評)
 判決はもとより正当である。こういう判例があるからといって賃料の支払がルーズであっていいわけでは決してない。5か月分の滞納で解除を認めなかった例もあれば、4か月分の滞納で解除を認めた例もある。いうまでもなく賃料債務は賃借人の最も重要な債務であり、Yの不払は重要な義務違反である。だから賃貸人側も契約解除し易い。

 当事者間の信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があれば解除は認められないのが通説・判例だが、それはあくまで最後の砦だ。

(1990.12.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より



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