博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2025年3月に読んだ本

2025年04月01日 | 読書メーター
世界史のリテラシー 仏教は、いかにして多様化したか: 部派仏教の成立 (教養・文化シリーズ)世界史のリテラシー 仏教は、いかにして多様化したか: 部派仏教の成立 (教養・文化シリーズ)感想
仏教の発祥から多数の部派への分岐と仏教の多様化、日本での展開を概観。仏教に関する基本事項をわかりやすい筆致でかいつまんで説明してくれている。部派の分岐の実相は中国の百家争鳴、あるいは儒家の学派の分岐を考えるうえでの参考になるかもしれない。日本仏教については、従来のほぼすべての仏教思想ほ包含する広大な宗教世界を構成していると多様性を評価しつつも、当初から律蔵を欠いたことから、伝統敵に僧兵や一向一揆、近代に戦争協力をするなど、間接直接に暴力を肯定することになったと批判する。
読了日:03月01日 著者:佐々木 閑

古代エジプト文明 世界史の源流 (講談社学術文庫 2847)古代エジプト文明 世界史の源流 (講談社学術文庫 2847)感想
古代エジプト通史を期待したが、文字通り古代エジプト文明史だった。通史的な面もあるものの、アマルナ時代、ラメセス2世の時代といった具合に特定の時期をピックアップするという方式で、文明のあり方や文明の伝播に多く紙幅を割いている。文明の伝播に絡めてアレクサンドロス大王を大きく取り上げるというのは古代エジプト史としてはちょっと変わってるかもしれない。アレクサンドロス以後の時代だけで本編9章分のうち3章分を占めている。それでもポンペイの遺物からエジプトの要素を見出す話なんかは面白い。
読了日:03月03日 著者:大城 道則

比較神話学 (角川ソフィア文庫)比較神話学 (角川ソフィア文庫)感想
言語学から神話の成立を探る試みということになるだろうか。本書を読んで、昔日本神話の概説書(確か上田正昭『日本神話』だったと思う)で、神話そのものの分析・考察ではなく神々の名前に込められた意味をひたすら探っているのにうんざりした記憶があるが、ああいう研究の発想の源はここにあったのかと納得した。松村一男氏による解説はその後の神話学や宗教学などの展開をまとめていて有用。
読了日:03月05日 著者:フリードリヒ・マックス・ミュラー

近世日本の支配思想: 兵学と朱子学・蘭学・国学 (982) (平凡社ライブラリー 982)近世日本の支配思想: 兵学と朱子学・蘭学・国学 (982) (平凡社ライブラリー 982)感想
朱子学が江戸幕府の官学となったのは寛政異学の禁以後であり、「兵営国家」日本を支えた思想は兵学であったという。その兵学の中心となる『孫子』の注釈は多く儒者によって書かれた。朱子学においても、古賀侗庵の思想からは婦人の再婚を認め、殉死に反対し、特に武家の蓄妾を批判するなど、女性解放の思想が見られという指摘や、蘭学者の国家意識や「国益」をめぐる議論を面白く読んだ。しかし自由闊達な源内からも中国に対する蔑視が見て取れるのにはうんざりしてしまうが。
読了日:03月08日 著者:前田 勉

ファラオ ――古代エジプト王権の形成 (ちくま新書 1849)ファラオ ――古代エジプト王権の形成 (ちくま新書 1849)感想
1月刊行の大城道則『古代エジプト文明』と内容が重複する部分もあるが、あちらが通史を核とした概説的な内容だったのに対して本書は王権論を核とした各論となっている。著者の個人的な体験が盛り込まれていたり、ミイラやピラミッドの専論的な章節もある。ピラミッドを王墓とした大城書に対し、本書では一部のピラミッドは王墓と言えるかもしれなが、現在の状況ではすべてのピラミッドが王墓と断言するのは難しいという立場を取る。
読了日:03月13日 著者:馬場 匡浩

古代中国の裏社会: 伝説の任俠と路地裏の物語 (1078) (平凡社新書 1078)古代中国の裏社会: 伝説の任俠と路地裏の物語 (1078) (平凡社新書 1078)感想
『史記』游侠列伝で取り上げられている侠客・郭解の半生をたどりつつ当時の文化や社会、歴史を紹介するという趣向。前著『古代中国の24時間』とは打って変わって刺客による暗殺だとかニセ金造りだとか何やらきな臭い話題が中心。ニセ金造りで捕まった人が国家による銭の鋳造に従事させられていたという話が面白い。著者の『史記』の読み込みぶりも読み所となっている。終盤では郭解の生涯と関連付ける形で刺客と游侠の違い、そして現代のネットによる私的制裁へと話が広がっていく。
読了日:03月16日 著者:柿沼 陽平

東南アジアの華人廟と文化交渉 (関西大学東西学術研究所研究叢刊60)東南アジアの華人廟と文化交渉 (関西大学東西学術研究所研究叢刊60)感想
フィリピンの廟でサント・ニーニョ(聖嬰=少年イエス)が玉皇三太子として祀られていたり、シンガポールの廟でガネーシャが祀られていたりといった習合ぶりを見てると、日本の神仏習合もアジアとしては当たり前と思えてくる。シンガポール最古の仏教寺院で祀られている華光像が宇治の萬福寺の華光像と酷似しているというのには何だか胸が熱くなる。
読了日:03月18日 著者:二階堂 善弘

古代マケドニア全史 フィリッポスとアレクサンドロスの王国 (講談社選書メチエ)古代マケドニア全史 フィリッポスとアレクサンドロスの王国 (講談社選書メチエ)感想
アレクサンドロス大王以前の状況と、大王の死後の状況をまとめる。マケドニア史にはマケドニア人自身の手による史料が不足しているということだが、それでもこれだけのものが書けるのだなという印象。マケドニア王国の成立から扱っているが、分量としてはフィリッポス2世に関する内容がかなりを占める。フィリッポスが学者たち、特に歴史家を動員して自己宣伝に努めたり、征服地に自分の名を冠した都市名を着けるといったことが息子に受け継がれたなど、息子の先蹤としての事跡が目立つ。
読了日:03月19日 著者:澤田 典子

『史記』はいかにして編まれたか: 蘇秦・張儀・孟嘗君列伝の成立 (プリミエ・コレクション 135)『史記』はいかにして編まれたか: 蘇秦・張儀・孟嘗君列伝の成立 (プリミエ・コレクション 135)感想
蘇秦列伝、孟嘗君列伝、張儀列伝の分析を通して、蘇秦・張儀と合従連衡策が結びつけられたのが武帝期まで下ること、司馬遷の編纂意図に沿わない材料であってもなるべく保存しようとしたことなどを議論する。本書に言うように、戦国の「縦横家」の活躍が前漢時代のそれの投影であり、司馬遷自身が彼らと交流があったとすれば、『史記』の編纂を越えて彼らの活躍を前提とした戦国史、あるいは彼らの存在が意識されていなかった前漢史認識も問題になってくるのではないか。そういった文脈で今後の研究の可能性を提示した書と言えるだろう。
読了日:03月21日 著者:斎藤 賢

歴史のなかの貨幣 銅銭がつないだ東アジア (岩波新書 新赤版 2057)歴史のなかの貨幣 銅銭がつないだ東アジア (岩波新書 新赤版 2057)感想
貨幣が必ずしも額面通りの価値で流通しなかった時代の話。中国銭が中国本土や日本以外にもベトナムで流通していたということや、ピカピカの貨幣より青錆の見える古色がかった銅銭が日本で珍重されたこと、南宋時代の紙幣の流通が日本への宋銭の渡来に関係したこと、日本で銅銭が大仏などの材料として用いられたことなどが印象に残った。中国王朝が基層社会での少額の通貨の十分な流通を重視したことは、あるいは現代中国で100元札以上の紙幣が存在しないことと関係しているかもしれない。
読了日:03月23日 著者:黒田 明伸

史学の近代中国  顧頡剛と胡適・傅斯年の思想と行動史学の近代中国  顧頡剛と胡適・傅斯年の思想と行動感想
第2章で議論されている胡適と顧頡剛が崔述を「再発見」したことと顧のいわゆる加上説が日本の影響によるものとは必ずしも言えないのではないかという点が一番の注目ポイントか。従来一緒くたに扱われがちだった顧頡剛と傅斯年の関係を再検証しているのも読み所。一方で顧・胡・傅の三者に注目すると言いつつも、当時の古史や考古学の学術史をこの3人だけで語りきれるはずもなく、第6章で郭沫若が唯物史観に依拠したことについて、従来のように否定的に扱っていない点も評価できる。
読了日:03月27日 著者:竹元 規人

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最近見てるドラマ(2025年3月)

2025年03月10日 | 中華時代劇
『五福臨門』
先月の時点ではイマイチみたいなことを書きましたが、中盤からジャンルが突然ラブコメから公案物に変わり、グッと面白くなってきました (^_^;) 公案物といっても近年流行りの時代ミステリーとは異なり、『棠陰比事』あたりを下敷きにしているようで、かつ1つの事件で割かれるのが1、2話程度ということもあり、素材のよさがそのまま生きてる感じです。しかも年長組3人が出張っていた前半に対し、後半は年少組の2人が主役となっています。

『掌心』
劉詩詩の復帰作第2弾。武則天をモデルとした女帝の時代、地方の循吏が陰謀により冤罪で処刑された御史案。その御史案に巻き込まれた女性たちの生き残りが集結し、事件の真相と黒幕の正体を探りつつ復讐を図るというストーリー。劉詩詩演じる葉平安が今で言う精神科医という設定がちょっと面白いです。そこに賎民出身の官吏の元少城が絡んできて時に反目し合いつつも共通の目的のために協力し…… という展開。同じ時期を舞台にした『風起洛陽』にシスターフッドの要素を加えたという感じの作品です。周星馳の養女の徐嬌演じる伍顕児(史実の上官婉児に相当)が何とも魅力的です。

『我是刑警』
1995年東北。当地の派出所副所長・高建設の差配で大学に進学し、民警から刑警に転じた秦川は、着任早々地元の鉱山に運び込まれた給与支払い用の現金強奪事件の捜査に加わることになる。複数人の犯行グループが現金保管庫を警備していた警官や家族計11人を殺害して逃亡したという凶悪事件だが、犯行グループは4年前の高建設殺害事件にも関与しており…… ということで昨年末の話題作で、于和偉主演の刑事物です。そのうち丁勇岱や富大龍も出てくるようです。まだまだ出だししか見ていませんが、公安内部の人間関係とか犯人と家族との関係など、それぞれの人間模様がしっかり描かれた作品のようです。

『只此江湖夢』
容疏狂は目覚めた時には砂漠で鬼谷盟に囚われの身となっていたが、そこを使い手の艶少に救出され、2人彼女の家らしい御馳山荘に向かうことになるが、彼女は記憶も武功も失っており、更に2人は実は幼なじみのようなのだが…… ということで1話30~35分かける24話の武侠コメディと思って舐めてたらアクションシーンは意外と力が入ってますw 女主の宣璐も『陳情令』の江厭離とも『掌心』の陸丹心とも違うキャラクターを好演してます。
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2025年2月に読んだ本

2025年03月01日 | 読書メーター
ダーウィンの呪い (講談社現代新書 2727)ダーウィンの呪い (講談社現代新書 2727)感想
ダーウィンの進化論、進化学から遺伝学、そしてそれらの闇の側面としての優生学の展開をたどる。自然科学としての進化論と社会進化論との関係に興味があって読んだが、社会進化論についても言及されていたものの、優生学の母胎になったということで進化論そのもの、あるいはダーウィンその人の発想にも問題の芽があったことを知る。科学は価値中立的でも科学を扱う人間は果たしてどうだろう?ということを考えさせられる。
読了日:02月01日 著者:千葉 聡

大地からの中国史 史料に語らせよう (東方選書64)大地からの中国史 史料に語らせよう (東方選書64)感想
農業史の概説ということだが、作物の品種改良から農機具の問題、食物、養蚕と被服、そして肥料と思ったより話題が広範。議論に関係して特定の文章の引用関係など、意外にも文献学に関係するような議論もある。こういうことは何を研究するにしてもつきまとう問題ということだろう。カブラなどアブラナ科の作物の時代ごとの描かれ方に注目したりなど図像学的なアプローチもあり、また著者の前著『妻と娘の唐宋時代』と同様、小説も史料として積極的に使用しており、小説を史料とする際のよい手本となる。
読了日:02月06日 著者:大澤正昭

イスラームからお金を考える (ちくまプリマー新書 476)イスラームからお金を考える (ちくまプリマー新書 476)感想
イスラーム圏で行われてきたムダーラバという商売、投資の方法、そしてそれを応用した無利子銀行など、資本主義経済のアンチテーゼとしてイスラーム経済を解説していく。どこかで見たような方法だなと思ったら、終盤で西欧もイスラーム経済の発想を取り入れていたことや、本邦の頼母子講がムダーラバの発想に類似していることが指摘される。「国家の体制や社会が異なる」なんてことは言わず、我々とは違う経済のあり方にも注目していくべきと思わせられる。
読了日:02月07日 著者:長岡 慎介

民族がわかれば中国がわかる-帝国化する大国の実像 (中公新書ラクレ, 832)民族がわかれば中国がわかる-帝国化する大国の実像 (中公新書ラクレ, 832)感想
近年動向が注目されるチベット族やウイグル族だけでなく、朝鮮族や日本人になじみのない回族やチワン族、更に漢族内のグループである客家や、中国の民族の総体とも言うべき中華民族も取り上げている。かつての漢人八旗なども含まれているという満族のあり方からは民族の内実の曖昧さがうかがえる。回族について漢人と回民の共存・反目の歴史を取り上げるなど、歴史性に着目するのは本書の特徴だろう。客家について巷間言われてることに実は根拠が薄いということや、民族服との絡みで漢服ブームについても取り上げられている。
読了日:02月12日 著者:安田 峰俊

漢字はこうして始まった: 族徽(ぞくき)の世界 (ハヤカワ新書)漢字はこうして始まった: 族徽(ぞくき)の世界 (ハヤカワ新書)感想
商標などの意匠としても使われることがある青銅器の族徽から殷周時代の文化や文字の展開をたどるという趣旨。メインの章が設問形式になっているのが楽しい。序章と終章の総論、章と章の間のコラムも読み応えがある。ただ、族徽の形や成り立ちからその氏族の職掌を探るというのは、著者が批判する白川文字学のあり方、古文字の字形や成り立ちから中国古代の文化を探るというのと方法として変わらないのではないかと思うが……
読了日:02月13日 著者:落合 淳思

同志少女よ、敵を撃て (ハヤカワ文庫JA)同志少女よ、敵を撃て (ハヤカワ文庫JA)感想
『戦争は女の顔をしていない』の個別のエピソードを深掘りしたような話だなと思ったら最後にオチが着いていた。クリミア併合など布石となる事件があったとはいえ、原著がウクライナ戦争以前に書かれていたというのには驚かされる。それで著者も苦労したようだが。
読了日:02月15日 著者:逢坂 冬馬

異教のローマ ミトラス教とその時代 (講談社選書メチエ)異教のローマ ミトラス教とその時代 (講談社選書メチエ)感想
「背教者」ユリアヌスが信仰したことでも知られるミトラス教。「はしがき」を読むとミトラス教研究の第一人者であるキュモンの学説の検討を中心にミトラス教の実像に迫るのかと思いきや、それももちろんあるのだが、ミトラス教やキリスト教も含めたローマ帝国の神々、宗教について検討した本だった。しかし考古史料も駆使しつつミトラス教が東方のミトラス神の信仰を承けつつローマで誕生したこと、主要な信者の身分、教義など、随分細かい所まで検討が可能なのだなと感心した。
読了日:02月17日 著者:井上 文則

倭寇とは何か:中華を揺さぶる「海賊」の正体 (新潮選書)倭寇とは何か:中華を揺さぶる「海賊」の正体 (新潮選書)感想
倭寇そのものに関する議論もあるが、どちらかというと倭寇が出没した時代以後の海の視点からの中国史というか、倭寇概念、倭寇性に着目した中国史という感じ。「倭寇」の「倭」の部分に着目したら前期倭寇と後期倭寇との区分はナンセンスだが、「寇」の部分に着目すると区分する意味が出てくるという話や、洋務運動から辛亥革命までの四象限の図式などは面白い。ちょっと議論が無理やり気味かなと思いつつも康有為や孫文の出身地、香港と台湾という地点など倭寇との符合に注目する所などはグイグイ読まされてしまった。
読了日:02月21日 著者:岡本 隆司

近代日本の対中国感情-なぜ民衆は嫌悪していったか (中公新書, 2842)近代日本の対中国感情-なぜ民衆は嫌悪していったか (中公新書, 2842)感想
日清戦争前夜から日中戦争の頃までの対中感情の推移を、特に子ども向けの雑誌の記事やイラストを中心にたどる。同時代の中国(人)に対して一貫して侮蔑や嫌悪、憎悪の感情が見い出せる反面、孔子や関羽など古典世界の偉人は一貫してリスペクトされているという、現実世界と古典世界との対応の乖離は、著者も指摘するように現代でもそう変わらない。「しかしよくもまあ」と当時の表現の数々に呆れるとともに、このことに対する反省なくして今の中国(人)の諸問題を批判するのは態度として不当ではないかと感じさせられた。
読了日:02月23日 著者:金山 泰志
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最近見てるドラマ(2025年2月)

2025年02月10日 | 読書メーター
『国色芳華』
『珠簾玉幕』『蜀錦人家』に続く唐代文化細腕繁盛記シリーズ第三弾。こちらは楊紫&李現主演。三作それぞれビジュアルにこだわりがありますが、本作が一番映像が綺麗ですね。内容は夫と義父母に愛想を尽かした牡丹こと何惟芳が離縁し、皇帝お気に入りの貪官・蒋長揚をスポンサーとし、気の合う女性たちと牡丹専門の花屋を開くという話です。で、仲間には自分と同じく夫に虐げられた者あり、義侠心に富んだ女侠あり、そして前二作と同じく崔十九のようなライバル的存在もありといった感じです。前二作ではいまいち弱かったシスターフッドを強調した展開となりそうです。

『異人之下之決戦!碧遊村』
哪都通の地区責任者の廖忠が臨時工の陳朶によって殺害され、本社では臨時工そのものの扱いが問題に。張楚嵐は同じく臨時工の扱いの馮宝宝、そして他地区の臨時工たちとともに陳朶の行方を追って碧遊村まで辿り着く。村では村長の馬仙洪以下、異人速成機で培養されたらしい異人たち手ぐすねを引いて待ち構えており…… 『異人之下』の続編というか番外編のような位置づけ。雰囲気もコメディタッチな前作からスリラー調に変わってます。本社に馮宝宝の身元を探られたくない張楚嵐が、同情の余地のありそうな陳朶と戦わざるを得ないという展開は深みがありそうなのですが、全13話の短編ということで掘り起こす前に話が終わってしまったという感じ。

『五福臨門』
母1人、娘5人の雌虎一家と恐れられてる酈家が范家に嫁いだ二娘を頼って洛陽から開封にお引っ越し。開封では新婦の方が相当額の婚資を用意する必要があるということで、金策のために一家で茶店を開くことにするが、范家の姻戚で三娘を目の敵とする名門の柴安も茶店の向かいに酒楼を構え…… ということで久々の于正プロデュース作。コメディということですが、人情喜劇ということなのか笑いのキレはイマイチ……
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2025年1月に読んだ本

2025年02月01日 | 読書メーター
近代日本の中国学: その光と影 (アジア遊学 299)近代日本の中国学: その光と影 (アジア遊学 299)感想
近代中国と関わった漢学者ないしは「支那学」者、画家、探検家、ジャーナリストと五つの区分に分けた論集で、「支那通」に割かれた部分は最後の第Ⅴ部ぐらいであるが、その実全編を通して当時の中国学の裏面とともに学者と「支那通」との相克がテーマになっているように思う。2000年代からこの方、中国学では研究者も専門に引きこもっているのではなく現実の中国を知らなければという空気が強くなっているが、戦前から同じようなことを繰り返しているのかもしれない。
読了日:01月02日 著者:朱琳,渡辺健哉

世界は説話にみちている 東アジア説話文学論世界は説話にみちている 東アジア説話文学論感想
説話学というより説話を題材にした図像に対する図像学的な議論が多い。対象とする地域も東アジアに限らず、特に第Ⅲ部は釈迦の母の摩耶の授乳とマリアの授乳を比較したりイソップ物語の東アジアへの伝来を扱ったりと世界規模になっている。第6章の鬼に関する議論は『怪異から妖怪へ』の鬼の章と併せ読むと面白い。こちらは仏教医学へと思わぬ方向への展望が示されている。『三国志平話』冒頭の裁判説話と本邦の幸若舞曲などとの距離が近いという指摘も面白い。
読了日:01月04日 著者:小峯 和明

824人の四次元事件簿 : 「清明上河図」密碼(なぞとき)第1冊824人の四次元事件簿 : 「清明上河図」密碼(なぞとき)第1冊感想
ドラマ版が良かったので取り敢えず第1巻をと思って手に取ったが、ドラマ版が原作のエッセンスを汲み取ってうまく話を組み立てているのがわかった。原作もミステリーとしての面白さはあるものの、ドラマ版の方に軍配を揚げたい。翻訳としては台詞の文体などに問題があり、AIに翻訳させたのかと思ってしまう。はっきり言って商業出版できたのが不思議なレベル。物語の方はぶつ切りで終わってます。原作は全6巻構成のようなので、2巻でワンセットということかもしれないが。
読了日:01月07日 著者:冶 文彪

新編 書論の文化史新編 書論の文化史感想
書作品自体ではなく歴代の書論でたどる、少し変わったアプローチ(だと思う)の書道史。関連する書作品の図版やその訳文が豊富なのも良い。第14章の、「菩薩処胎経」が六朝の墨跡を伝える資料として近代の日中の文人たちから珍重され、高く評価されながらも、六朝の資料も含んだ敦煌文献が発見された途端に顧みられなくなったという話を興味深く読んだ。ただ、著者には申し訳ないが第一部の内容は同意できない部分が多く、ない方がよいのではないかと思う。
読了日:01月09日 著者:松宮貴之

西遊記事変 (ハヤカワ・ミステリ)西遊記事変 (ハヤカワ・ミステリ)感想
西天取経の旅に出た玄奘一行に八十一難が課されることになり、李長庚こと太白金星は道門代表として釈門代表の観音菩薩とともにその企画立案を担当することになるが、諸方面の横槍もあり計画通りに事が運ばず、次から次へと予想外のトラブルに見舞われることに…… 『西遊記』の舞台裏というか八百長西遊記、「八百長三国志」こと陳舜臣『秘本三国志』の西遊記版という趣き。著者の『西遊記』の読み込みぶりが伝わってきて『西遊記』ファンも大満足なのではないか。それとともに官界や大企業で生きていく機微、世知辛さも伝わってくる。
読了日:01月11日 著者:馬伯庸

近代日本の中国認識 ――徳川期儒学から東亜協同体論まで (ちくま学芸文庫マ-58-1)近代日本の中国認識 ――徳川期儒学から東亜協同体論まで (ちくま学芸文庫マ-58-1)感想
江戸中期から日中戦争期までの中国認識の変遷を概観する。中国認識はアジア認識、西洋認識、ひいては自国認識の問題とも深く関係することに気付かされる。本書で指摘されている、日清戦争以来の中国を軽蔑することで中国を理解したつもりになるというのは、現在まで引き継がれている悪弊であろう。山東出兵を背景に、吉野作造によるもし日本が中国から自国民の保護を口実に攻め込まれたらどう思うか?という問いかけや、日本の民族主義を誇るなら中国の民族主義も正当に評価せよという三木清の言葉も、現在の中国理解に通じる考え方である。
読了日:01月15日 著者:松本 三之介

遊牧王朝興亡史 モンゴル高原の5000年 (講談社選書メチエ)遊牧王朝興亡史 モンゴル高原の5000年 (講談社選書メチエ)感想
遊牧のはじまり、騎乗の開始から匈奴の民族構成(西ユーラシア人も含まれていたとのこと)、遊牧民と鉄、近年「天子単于~」の銘文を有する瓦当が出土したことで話題になった龍城、これまた最近話題になった鐙の使用開始等々、著者の専門の(だと思う)モンゴル時代のことよりも古い時代に関する内容を興味深く読んだ。柔然、ウイグルなど類書であまり取り上げられていない勢力についても紙幅を割いている。考古学の視点から探る遊牧王朝史の良書。
読了日:01月19日 著者:白石典之

孝経 儒教の歴史二千年の旅 (岩波新書 新赤版 2050)孝経 儒教の歴史二千年の旅 (岩波新書 新赤版 2050)感想
新書にありがちなサブタイトルとメインタイトルを逆にすべき例。『孝経』を中心にして見る儒学学術史であり、儒学経典史といった趣。最後の章で鄭注に沿った経文全文の翻訳があるほかは『孝経』の内容そのものはあまり問題にしていないが面白い。今文・古文の対立の図式は清末の政治・学術状況を漢代に投影したものであるとか、鄭玄と王粛の学術上の位置づけの話、特に王粛の議論が意外と穏当であり、だからこそ漢代以来の礼制を受け継ぐ南朝で受け入れられたとか、孔伝が実は『管子』を多く利用しているといった指摘が刺激的。

読了日:01月21日 著者:橋本 秀美

恋する仏教 アジア諸国の文学を育てた教え (集英社新書)恋する仏教 アジア諸国の文学を育てた教え (集英社新書)感想
アジアの文学と仏教の関係に注目。日本と中国はともかくインド、韓国、ベトナムも取り上げているのは珍しいのではないか。作品と仏教、あるいは出典とされるものの結びつけが強引かなという箇所があるのが玉に瑕。しかし日本人の本来の心情が反映されているとされがちな『万葉集』にも仏教的な要素が見て取れるという指摘は面白い。また、インドの説話で最後を仏教的な教訓で締めくくっていればどんなことを語っても許されるというのは、中国で抗日ドラマの体裁を取っていれば多少の無茶は許されるというのを連想させる。
読了日:01月22日 著者:石井 公成

歴史的に考えること──過去と対話し、未来をつくる (岩波ジュニア新書 994)歴史的に考えること──過去と対話し、未来をつくる (岩波ジュニア新書 994)感想
中国・韓国との徴用工・従軍慰安婦問題など歴史認識に関わる問題、あるいは「処理水」問題など現代の問題、沖縄の置かれた立場、ウクライナ戦争などを、「さかのぼる」「比較する」「往還する」の3つの手法により歴史的経緯や事実を概観しつつ、日本政府の対応や我々日本人の態度が適切なものであったのかを検討する。こういうのも「役に立つ」歴史学のひとつのあり方だろう。本書では昨今話題の「台湾有事」については触れられていないが、これは本書の手法を踏まえたうえでの読者に残された宿題ということだろう。
読了日:01月24日 著者:宇田川 幸大

ユダヤ人の歴史 古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで (中公新書)ユダヤ人の歴史 古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで (中公新書)感想
高校世界史では古代と近代のシオニズム以降しか取り上げられないユダヤ人の歴史を通史として提示する。著者は近現代史専門ということだが、「選民思想」「一神教」の解説など、その他の時代についてもしっかりした内容となっている。ユダヤ人が常に組み合わさる相手を求めていたこと、そしてそのことが時としてユダヤ人に対する偏見や迫害につながるという構造、ユダヤ人が宗教集団などではなく「ネーション」として意識されるようになったのはシオニズム以降であるといったことを興味深く読んだ。
読了日:01月27日 著者:鶴見太郎

東アジア現代史 (ちくま新書 1839)東アジア現代史 (ちくま新書 1839)感想
「現代史」とあるが、19世紀の「西洋の衝撃」以後の近代史の内容も扱う。個別の内容には食い足りない部分もあるが、触れなければいけない事項は一通り揃っており、日本も含めた東アジア地域の近現代史を概観し、歴史認識問題、台湾問題などについて考えるうえでの土台とするには充分だろう。歴史認識問題は通史部分で経過を押さえるほか、終盤で改めて議論されている。各国の人口問題や格差問題にも紙幅を割いているのが特徴か。
読了日:01月28日 著者:家近 亮子

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