博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『天盛長歌』その5

2018年10月28日 | 中華時代劇
『天盛長歌』第25~30話まで見ました。


長年辺境で軍務に従事していた七皇子寧斉が都に帰還。五皇子趙王の時も思いましたけど、弟のはずなのにヒゲを生やしてると途端に年上感が出ますよね…… この七皇子、実母王才人の親分格である常貴妃所生の二皇子燕王寧昇やら、自分の召還を提案したということで恩人的立場にある鳳知微と良好な関係を保とうと腐心しますが、知微の護衛の顧南衣にまで機嫌を取ろうとしてあからさまにウザがられているのに草w

一方、我らが寧弈は重臣の姚英らと連携して閔国公常遠の告発のための仕込みに励んでいましたが、告発の当事者としてあてにしていた林任奇が海賊陳紹によって殺害されたという一報が現地閔海から都に寄せられます。その陳紹、どうやらワケありのようで、お尋ね者の身となっているところを都に忍び込み、朝廷の大官たちと接触を図ります。

そしてこの陳紹案で常氏一党を追い詰めるため、寧弈は敢えて御史台の長官に志願します。本来こういう事件捜査に当たるべき刑部尚書の彭沛は二皇子燕王の、ひいては常氏一党の子分のような立場で、常氏に不利な行動をしそうな陳紹の抹殺を図っている模様。しかしどういう事情でかはわかりませんが、天盛王朝では皇族が御史台の長官になると儲君になれないという不文律があるということなのですが……

そして彭沛らの妨害を排除し、寧弈は陳紹との接見に成功。陳紹はもともと閔国公常遠の統治する閔海の良民でしたが、常遠の悪政の結果海賊に身を落とし、更には閔国政府と結託し、裏の仕事に手を染めるようになります。で、閔国のお目付役的な役目として中央から派遣されていた林任奇を常遠の言うがままに抹殺したもの、彼が常遠の告発を進めていたことを知って後悔し、彼の悪行の証拠を携えて都まで逃亡したという次第でした。それを知らされた天盛帝は激怒し、常遠を都に召喚することになりますが、ここで金獅国の使者が到来したということで、この話は一旦ここで沙汰止み。

金獅国というのは北方の騎馬遊牧民の国であるらしく、600年続いた大成王朝の時代には、天盛はこの金獅国や大悦国とともにその外藩だか属国だかというポジションにあったようです。その使者となったのはこの金獅国の王族の赫連錚と重臣の占壁。占壁はもともと大悦国の出身で、今は亡き寧弈の生母の灔妃雅楽と幼馴染みであったとのこと。


で、この燕王が占壁と雅楽との関係を利用して寧弈を陥れようと、またぞろ碌でもないことを画策しはじめます。太子哥哥寧川の死後、こういう役回りが燕王に継承された模様。燕王は兄弟の中では知謀に優れているという設定のようですが、正直知謀のレベルは長兄と五十歩百歩ではないかという気がします……

燕王はまず寧弈のふりをして占壁と接触。彼を唆して自分の侍臣を父皇の監視役だと偽って殺害させ、殺人の罪で占壁が収監されるよう仕込みます。この投獄された占壁を寧弈や天盛鼎が接触。ここで18年前に常氏一党に仕組まれて占壁が天盛の都に忍び込み、恋い焦がれていた雅楽と密会を図り、それが露見したのが彼女が死に追い込まれた原因らしいという事情や、天盛鼎と寧弈の体調がシンクロしているのは、彼女が密かに2人に仕込んだ「双生蠱」という蠱毒の効果であるということが明らかにされます。『媚者無疆』で何でも蠱毒で解決していたのを思い出すと、このドラマでも蠱毒なのかと思ってしまうのですが……

獄中の占壁は燕王と二度目の接見を果たした後、自縊して果てたという報告が寄せられ、それを知った赫連錚が自国の使節を殺されたと激怒。燕王は父皇に、実は寧弈は占壁と雅楽の不義によって生まれた子で、その事実を隠すために寧弈が占壁を殺害したと告発。しかも占壁と雅楽の出身である大悦国の日落族は腕に部族の紋章のアザがある、寧弈の腕を確かめよと指摘したところ、果たして寧弈の腕にアザが…… しかしこれは鳳知微が燕王の手下と化した韶寧公主に家族を人質に取られるような形で脅され、寧弈に密かに怪しいお薬を飲ませた結果だったのです。知微が朝堂の燕王や群臣にも密かに薬を仕込んだ茶を飲ませたところ、やはり腕にアザが現れ、燕王の陰謀が露見というところで次回へ。

何かこのドラマ、出てくる陰謀や計略のレベルが尽くショボく、知謀値50を超える人間がいない世界の物語なのかという気がしてきたのですが……
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『天盛長歌』その4

2018年10月22日 | 中華時代劇
『天盛長歌』第19~24話まで見ました。

魏知こと鳳知微が「擢英巻」を読み解き、「血浮屠」の件を告発しようとした瞬間に、「血浮屠」残党の頭目である馬夫たちが乱入して一同を襲撃。寧弈が傷を負うものの、襲撃はあっさり鎮圧。そして皇太子寧川が長年密かに「血浮屠」の残党を養い、政敵の抹殺に利用してきたことが露見し、東宮に幽閉されることになります。一方の知微は天盛帝寧世征にその才能が認められ、側近として出仕することに。

皇太子が少数の「殺人部隊」を抱え込み、自分に批判的な人々を抹殺してきたと言えば、昨今報道を賑わせているサウジアラビアのムハンマド皇太子によるジャーナリスト殺害事件を連想してしまいますが、このドラマの制作・放映はこの事件より前のことなので、もちろん寧川の描写に参考にできたはずがありません。またもや中国歴史ドラマが世間の動きや事件を先取りしてしまった事例ということになるでしょうか。

幽閉以来ヤケとなり、東宮で酒浸りの日々を送る寧川。寧弈に一矢報いようと、母方の叔父にあたる常海が動き出します。まず常海が街中で知微の目の付く所で、青溟書院で彼女が出会った馬夫を彷彿とさせる下人・長吉をいじめ、彼女が長吉を庇って自分のもとに引き取り、随従にするように画策。そして長吉を通じて、寧弈への皇帝の賜酒に毒を仕込ませ、毒殺を図ります。

しかし寧弈は賜酒を宗正寺で監禁されていた頃からの随従・霍老三に与え、彼が死亡したことから陰謀がバレバレに…… で、常海が太子に累を及ぼさないよう自首するとか言い出します。常海ひょっとしてバカなの?もう後がない寧川とか、年若いその同母妹の韶寧公主が軽挙妄動するのはしかたないと思いますが、政治的な経験が豊富という立ち位置の常海が素でバカなのは演出的にかなりまずいと思うのですが……

賜酒の件は父皇の耳にも入り、更に以前から8年前の三皇子処断の件は寧川の陰謀ではないかと疑っていたところ、顧衍らによって確証がもたらされ、名誉回復がなされます。かつ寧川が18年前に寧弈の功績をかすめ取るような形で顧衡と大成王朝の九皇子を討ち取って太子の地位を得たことが露見し、いよいよ太子の地位を廃され、皇族用の監獄と言うべき宗正寺へと送られます。

しかし寧川は常海の支持を得て性懲りもなく謀反を決意…… しかし造反を察知した天盛帝は寧弈と顧衍を鎮圧に差し向けます。ここで唯一の身寄りである兄を説得しようと韶寧公主が造反の現場の承明殿へと駆けつけます。それを知った天盛帝は韶寧を傷つけてはならんという勅命を鳳知微に託します。三皇子の仇である寧川を殺る気満々の寧弈を前に、敢えて寧川の人質に取られる知微ですが、寧弈は弩で知微の足を狙い、動揺した隙に配下に寧川を射殺させます。中華時代劇の名物「人質なんて気にしない」が炸裂w

常海は生きて捕らえられますが、知微の伯父秋尚奇ら多くの臣下が助命嘆願の奏牒を寄せる中、彼を処断してしまいたい天盛帝は、敢えて彼を憎む寧弈に常海を審問させます。寧弈は造反に関わりのない常海の本家筋閔国公常遠に罪をかぶせるような発言をし、常海が激高して彼に刃を向けたところで自ら殺害。もちろん天盛帝もこういうことになるとわかってて彼に任せたわけで、ここでこのドラマの「きたないなさすが」タイムがやってまいりましたw そして彼の深謀遠慮によって体よく始末されてしまった常海の後任として、知微が長年辺境を守ってきた七皇子寧斉の召還を提案。この提案も天盛帝の仕込みです。

一方、寧川の仇として寧弈を狙う韶寧公主は、知微を人質に取ったということで彼を魏知府へとおびき寄せ…… ここまで展開が極めて遅いことが本作の唯一の不満点だったのですが、ようやく話が大きく動き出しました。
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『天盛長歌』その3

2018年10月15日 | 中華時代劇
『天盛長歌』第13~18話まで見ました。

うっかり巫蠱事件に関わりを持ってしまい、五皇子趙王の刺客集団に襲撃される魏知こと鳳知微ですが、そこへ突如現れた謎のイケメン剣士・顧南衣に助けられます。


無茶苦茶強いけど喋る言葉は片言で性格的に融通が利かないというあたりは、『琅琊榜』の飛流を彷彿とさせます。というか飛流が成長したらこんな感じになるだろうというキャラクターですね。以後知微と行動をともにし、二人して青溟書院に潜り込み、学生たちと暮らすことになります。

当の趙王は巫蠱で太子を呪ったということで東宮に連行。更に巫蠱で使用した人形に父皇への呪詛の文句が発見され、「それはオレじゃない!」と必死に弁解する趙王ですが、太子が「ならワシへの呪詛は身に覚えがあるということだな!!」とぶち切れてるのにクソワロタw まあこの巫蠱自体が趙王を陥れるために太子の仕掛けたワナなんですけどね。しかし天盛帝への呪詛は太子ではなく、辛子硯の仕込みなのでした。

巫蠱のことは天盛帝の耳にも入り、太子は父皇の意を承けて巫蠱の人形を用意した巫師に扮して趙王に接見し、彼から太子に成り代わろうとしたという本音を聞き出します。そして趙王は巫師の「中の人」の正体を知って絶望し、毒杯を仰いで死亡…… しかし天盛帝はこれによって、8年前にやはり巫蠱の罪によって三皇子が死んだのは太子の陰謀であったことを悟るのでした。これと前後して天盛帝と寧弈が親子揃って夢遊病にかかります。


倪大紅演じる天盛帝。二人は以心伝心でお互いの身体の不調がシンクロしてしまう体質のようなのですが、太子は寧弈に贈ったはずの「無寐」の毒が仕込まれた指輪が父皇お付きの太監・趙淵の手にあることが夢遊病の原因と察知して露骨に焦り出し、何とか指輪を自分の手に取り戻そうと画策します。「無寐」の毒は最初に夢遊病の症状が現れた後、やがて死に至るということですが…… 天盛帝は身体の不調を承け、太子を監国に、寧弈を学生が「天子の門生」と位置づけられる国家の学校・青溟書院の執掌に任命します。


その青溟書院で学生生活を送る鳳知微ですが、態度のデカいいまひとりの男装の麗人と遭遇。その正体は天盛帝の娘である韶寧公主なのでした。知微はその公主に絡まれた学院の下働きの馬夫を助けたことから仲良くなるのですが、その馬夫の父親ら下働きの一党が実はカンフーマスターというか、密かに太子に匿われている「血浮屠」の残党であることをうっかり知ってしまい、彼らに追われる身に……

知微は取り敢えず馴染みの蘭香院に逃げ込みますが、そこにも事情を知った太子が追っ手を派遣し、彼女を救うために馬夫や珠茵が犠牲となります…… 知微は「血浮屠」の残党たちのリーダーである馬夫の父親に捕らえられますが、知微が大成王朝の残党の関係者らしいことを察知して密かに解放。

一方、天盛帝は自ら青溟書院に出向き、学生に一人ずつ難題を問うて有為の人材を登用しようとします。太子はまたぞろこの機会に手下を刺客に仕立てて自分を襲わせ、罪を寧弈に押っつけようとしょーもない画策をしております。で、学生たちが難題を記した「擢英巻」に軒並みノックアウトされる中、辛子硯が解答者として鳳知微を呼び寄せ……というところで次回へ。
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『天盛長歌』その2

2018年10月09日 | 中華時代劇
『天盛長歌』第7~12話まで見ました。

黒覆面姿の寧弈一党は官兵の手から鳳知微を救出しますが、秋明纓と鳳皓は捕らえられてしまいます。その際に寧弈が官兵との戦いの中で傷を負わされてしまいますが、たまたま楚王府にやって来ていた父帝の使者にはしれっと「血浮屠にやられた」なんて説明しています (^_^;)

官兵を派遣し、秋明纓と鳳皓を捕らえたのは太子とその岳父の閔国公常海で、秋尚奇にも事前に知らされ、心ならずも見て見ぬ振りをすることになったのでした。太子に与している顧衍は、秋明纓が兄嫁(兄である顧衡の妻)ということで、もし彼女を救い出せたら寧弈に仕えてもよいと誓います。

そして水面下の動きを経て秋明纓と鳳皓が解放され、秋府で鳳知微と再会することになりますが、秋明纓はなぜか知微との義絶を宣言。どうやら彼女の出生がこれに絡んでいるようなのですが……


どこかで見た……というよりは『琅琊榜』をご覧になった方には中の人はよくご存知の秋明纓。

知微は義絶のショックと帰る場所を失ったことから秋府を飛び出し、義姉妹となった珠茵を頼って蘭香院に転がり込み、初めは妓女として、後には男装して魏知と名乗り、小二として働くようになります。珠茵はもともと三皇子派の高官の娘で、三皇子の許嫁であったようなのですが、父親と三皇子の死後は妓女となり、辛子硯や出所した寧弈のサポート役をつとめております。

その三皇子、巫蠱の罪を着せられて処刑されたようなのですが、8年前に父帝より「血浮屠」の調査を命じられた際に、太子が密かに「血浮屠」の残党を保護して自分と敵対する政敵を彼らに暗殺させているのを嗅ぎつけてしまい、そのことを察した太子に濡れ衣を着せられたのではないかと寧弈と辛子硯は推測します。しかしそのことを父帝に告げられるはずもなく、父帝に命じられた「血浮屠」の捜査の進捗を問われても「皇子無能」を繰り返すほかありません……


太子御近影。この太子、自分の与党であるはずの二皇子燕王と五皇子趙王に対しても疑心を抱くようになります。特に趙王が太子のために汚れ仕事を押しつけられてきたことを不満に思い、それをタネに自分を脅すような言動をし始めたということで、三皇子と同様に巫蠱の罪を着せようと辛子硯と図ります。


蘭香院での接待の最中に趙王のもとに「太子殿下」と話しかける神鳥が舞い降ります。そして辛子硯が趙王に神鳥の飼い主である怪しげな巫師を紹介。いや、この時点で何かおかしいと怪しめよと… で、この巫師から巫蠱に使うっぽい人形を手渡され、更に男装して蘭香院で働いている鳳知微がその悪事の片棒を担がされそうになりますが……
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2018年9月に読んだ本

2018年10月01日 | 読書メーター
徳政令 なぜ借金は返さなければならないのか (講談社現代新書)徳政令 なぜ借金は返さなければならないのか (講談社現代新書)感想
「借金棒引き」の徳政令がなぜ誰からも忌み嫌われるものになったのかを追ったものだが、その議論の過程で、謡曲「自然居士」に見られる法と法のぶつかり合い、室町幕府の幕府法がいかに優位性を獲得していったか、そして頼母子講や親しい人の間での借金など、身近なところで徳政令がいかに人々の信頼関係を破壊したかなど、当時の政治・法・経済・思想・社会生活など、話題が広範に及び、室町時代の総合的な社会経済史としても読めるものになっている。
読了日:09月03日 著者:早島 大祐

春秋戦国 (歴史新書)春秋戦国 (歴史新書)感想
コンパクトにまとまった春秋・戦国時代の解説本。戦争、人物、関連の故事成語、社会、文化、思想などが手軽に理解できる作りになっているが、おそらく年表の年代比定も含めて多くの研究を参照して書かれたはずで、主要なものだけでも参照した研究を挙げるべきだった。具体的には、東遷の部分で清華簡『繋年』を参照して算出した年代にその旨説明がない点などに疑問を感じる。
読了日:09月06日 著者:渡邉 義浩

中国法制史中国法制史感想
清代のみを対象としたものだが、中国の法制というか、更に範囲を広げた近世中国の社会規範・社会生活の面にまで広げてその特色や問題点をうまくすくい上げているのではないかと思う。印象に残ったのは、最初の紳士の人口に締める割合の話、秘密結社の合図の恣意性の話、法治=普遍性、人治
=恣意性という前提をまず疑うという視点である。
読了日:09月08日 著者:寺田 浩明

初期仏教――ブッダの思想をたどる (岩波新書)初期仏教――ブッダの思想をたどる (岩波新書)感想
バラモン教の生天信仰が威信経済を支えていたところを、仏教では出家者や教団への贈与を推進し、それを経済活動、一種のクラウドファンディングと評価したり、「転輪王経」によって王権の正統性として血筋以外に王のしかるべき務めを求めたという話、死後の世界を信じない世界と罪人必罰・監視社会との関係性の話などを面白く読んだ。
読了日:09月10日 著者:馬場 紀寿

天皇の歴史9 天皇と宗教 (講談社学術文庫)天皇の歴史9 天皇と宗教 (講談社学術文庫)感想
天皇と大嘗祭などの祭祀、(主に仏教の)信仰、葬儀などを、前近代と近現代の二部構成で、古代から平成の世まで通覧する。神道のような信仰や神仏習合は日本独自のものと言えるか、宗教とされなかった神道、神仏分離で果たして皇室・皇族は仏教と切り離されたか、そして文庫版あとがきに見える明仁天皇と宮中祭祀の問題など、面白い論点が多く盛り込まれている。
読了日:09月14日 著者:小倉 慈司,山口 輝臣
文字渦
文字渦感想
「本歌」にあたるであろう中島敦の「文字禍」では、文字の誕生と文字に振り回される人間のありさまをネガティブに描いていたと思うのだが、本書所収の諸篇では逆に文字への耽溺や文字のひとり歩きをポジティブに描いている感じ。表題作の「文字渦」など、「漢字文化」のあり方をひと通り踏まえたうえでそれがエンタメに昇華されているのも面白い。「誤字」の総ルビ状態には面食らったが…
読了日:09月18日 著者:円城 塔

歴史総合パートナーズ 1 歴史を歴史家から取り戻せ! ―史的な思考法―歴史総合パートナーズ 1 歴史を歴史家から取り戻せ! ―史的な思考法―感想
歴史学を専門に研究する「歴史家」の発想を端的にまとめながら、それに対する違和感も提示し、特に若い読者に「史的な思考法」を提示する。昨今報道などでも問われがちな「fact(事実)」に対して「incident(出来事)」を歴史の構成要素とすることを提案したり、人物研究を忌避する態度を「歴史好きを歴史嫌いにする歴史学」と批判したりと、小冊ながら読みどころとなる論点が多い。
読了日:09月19日 著者:上田 信

中国経済講義-統計の信頼性から成長のゆくえまで (中公新書 2506)中国経済講義-統計の信頼性から成長のゆくえまで (中公新書 2506)感想
前半では中国の経済指標の信頼性やそこから何が見えてくるかを議論する。後半では山寨企業に関して、コピー製品の横行がイノベーションを促したり、そして権威主義的な政府に対して民間経済が常にルールの裏をかこうとし、なし崩し的に自分たちのやり方をルール化させてきたといったような事例を紹介し、中国経済に関してこれまでネガティブに作用すると思われてきた事項が、実はポジティブに作用してきたのではないかとする。中国経済に対して新しい視点が得られる書となっている。
読了日:09月22日 著者:梶谷 懐

貨幣が語る-ローマ帝国史-権力と図像の千年 (中公新書)貨幣が語る-ローマ帝国史-権力と図像の千年 (中公新書)感想
独裁者と見られることを恐れて造幣者が自己宣伝を恐れた共和政期、それが次第に存命者の顕彰がなされるようになり、帝政期には図案に描かれた皇帝の家族から帝位継承の問題や願望を見出すことができ、更には属州の自治の問題や、ローマ皇帝の神格化とイエスの神格化との関連のような宗教信仰の問題が読み取れるといった具合に、古代ローマの貨幣の図像・銘文からどのようなことが見出せるかをまとめている。同時代の出土資料から読み解く歴史の面白さが感じ取れる好著。
読了日:09月24日 著者:比佐 篤

生きづらい明治社会――不安と競争の時代 (岩波ジュニア新書)生きづらい明治社会――不安と競争の時代 (岩波ジュニア新書)感想
「頑張れば必ず報われる」「貧しいのは自分の努力が足りないせい」という「通俗道徳のわな」に支配された世の中として明治社会を描き出す。その一方で暴動の参加などで人々が敢えて通俗道徳に逆らって見せるのも、結局は通俗道徳を強化することにつながるという視点も面白い(江戸時代の江戸っ子の「粋」な生き方というのもこういうものだったかもしれない)。この通俗道徳は本書に指摘されている通り現代の世の中にも生きているが、明治時代とは違って「立身出世」の希望が現実的な夢とならなくなった今の世で明治の教訓をどう生かせるだろうか?
読了日:09月26日 著者:松沢 裕作


世界史のなかの文化大革命 (平凡社新書 891)世界史のなかの文化大革命 (平凡社新書 891)感想
文革をインドネシアでの9・30事件による華人華僑迫害・反共キャンペーン・中国との断交の余波によるものとし、また日本も含めた世界中に広がった「1968革命」のはじまりと位置づける。前半部は特に「世界史のなかの9・30事件」と言った方がよいかもしれない。文革を敢えて中国国内史として完結させない視点が新しい。
読了日:09月29日 著者:馬場 公彦

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