文学は予言する (新潮選書)の
感想現実に存在する/した問題を活写することで結果として未来を予言する形となったディストピア小説など、小説の持つ力と魅力を紹介する本なのかと思いきや、(そういう内容も含まれているが、)アマンダ・ゴーマン問題で注目された詩、古典、国内外の翻訳小説の出版事情、翻訳論とそこから発展した言語論等々、話題は多岐に及んでおり、紹介される小説も国内外のもの様々である。各所での主張に頷きつつ、翻訳小説、国内の話題作、古典的な物など、何でもいいから取り敢えず小説が読みたくなってくる。
読了日:01月01日 著者:
鴻巣 友季子
大塩平八郎の乱-幕府を震撼させた武装蜂起の真相 (中公新書 2730)の
感想大塩の与力としての立場と草莽の知識人としての顔、大塩と門人たち、同じ与力の家、頼山陽ら知識人などとの様々な人間関係、大塩の三大功績の実相、大塩が何に憤懣を感じていたのか等々乱の背景を多方面から探り、乱そのものの展開と、彼の憤懣がなぜ乱という形へと飛躍することになったかという問題に切り込んでいく構成。大塩と同年の生まれでやはり自死することになった渡辺崋山の運命と合わせて考えると、両人とももう少し遅く生まれていれば……と思ってしまう。
読了日:01月03日 著者:
藪田 貫
一日三秋の
感想夢の中で笑い話を請う花二娘の伝説が色濃く残る河南延津。この地で白蛇伝を演じる三人の男女の役者の物語から話が始まり、更にその息子の世代へと話が移っていく。テーマも「伏線」も何もあったもんではないが、話に勢いがあり、とにかく読ませる。要するに様々な人生の悲哀が詰め込まれた小説ということになるだろうが、そんな陳腐な言葉でまとめたくないという気持ちにさせられる。
読了日:01月09日 著者:
劉 震雲
古代豪族 大神氏: ヤマト王権と三輪山祭祀 (ちくま新書 1703)の
感想オオタタネコ伝承で知られる大神氏。その著名な人物や氏族の発展の推移、同族とされる氏族、三輪山祭祀との関係などを追う。オオタタネコが他の氏族を系譜に組み入れる際に加上的に追加された神格であるという指摘が面白い。また、三輪山が大和朝廷の旧王朝の聖地ではなく、かといって大王家が祀っていたものを大神氏に移管されたものでもないことを、考古学と文献史学の両面から、いわゆる「二重証拠法」的手法で議論しているのが読みどころ。
読了日:01月11日 著者:
鈴木 正信
中国の神話 神々の誕生 (講談社学術文庫)の
感想オリエントなどの神話や日本神話なども参照して失われた中国神話を復元し、読み解くという趣向は白川静の『中国の神話』と同様だが、一つ目、一本足の伝承など柳田国男、折口信夫による日本の民俗学の成果を大きく取り上げているせいか、議論のスケールが妙に小さくなってしまっている感じがするのが残念。『山海経』を主要な資料としているのも賛否が分かれるところだろう。
読了日:01月14日 著者:
貝塚 茂樹
歴史学の作法の
感想最初の三章で歴史をいかに叙述するかという問題や史料批判など総論的な問題を論じ、以下の章で数量史、感性史など個別の動向を紹介・論評し、最後に著者が否定的に扱ってきた政治史に戻り、「おわりに」で初等・中等教育も含めた歴史教育の問題について言及するという構成はなかなか面白い。基本的な部分から近年の動向までかなり勉強になった。数量史やグローバル・ヒストリーに否定的な所を見ると、著者の理想とする歴史学のあり方は直接史料にあたり、人間の心の動きが見えるオーソドックスなもののようだ。
読了日:01月17日 著者:
池上 俊一
阪急電鉄殺人事件(祥伝社文庫に1-72) (祥伝社文庫 に 1-72)の
感想まあまあ面白かったが、看板に偽りありの作品。阪急電鉄は、最初の殺人が阪急の駅で起こり、被害者が阪急の宣伝部の社員というだけで大して関わりがない。小林一三についても同様。十津川警部シリーズということだが、前半はその大学の先輩の写真家が主役である。近現代史ミステリー的な作品だが、殺人事件自体の謎解きの要素は皆無。オチも終戦直後の東條英機に関係者の口封じのために資金を融通するような余裕があったかなど疑問がある。
読了日:01月19日 著者:
西村京太郎
ネット右翼になった父 (講談社現代新書)の
感想好奇心旺盛で中国に語学留学したりハングルを学ぶこともあった父。しかしそんな父がいつの頃からかネトウヨコンテンツに触れてネットスラングを口にするようになり……と、今問題になりつつある老親のネトウヨ化の体験記と思いきや、取材と思索の末に意外な結論にたどり着く。氷河期世代の父親論と評価すべき本。「ネトウヨ」化については、この人のお父さんの場合はそうだったにしろ、すべてが世代論で片付けられるのか?という疑問がある。また中国・韓国、特に韓国が反日感情を政治の道具にしているという著者自身の理解にかなり問題がある。
読了日:01月21日 著者:
鈴木 大介
地図と拳の
感想中国東北地方の架空都市李家鎮(後に仙桃城へと発展)を中心に、19世紀末から敗戦までの半世紀にわたる当地の歴史を描く群像劇。安彦良和の近代史物の活字化という印象も受けるが、同じ近代中国を舞台にしたサーガとして浅田次郎のシリーズより数段出来がいい。大躍進、文革、改革開放と、仙桃城をめぐる話の続きを読みたい気がする(仙桃城のモデルは撫順だろうか?)
読了日:01月25日 著者:
小川 哲
太古の奇想と超絶技巧 中国青銅器入門 (とんぼの本)の
感想器形、紋様、金文の、殷周時代の青銅礼器の三要素を豊富なカラー図版とともに解説した入門書。日本も含めた青銅器の鑑賞やコレクションについて比較的詳しい解説があるのもよい。金文の解説にやや気になるよがあるが(あと時期ごとの書体の変化の解説もあればなお良かった)、入門書としてお薦めできる内容である。著者の主張する金文の鋳造法の解説も図版がカラーになったこともあり、よりわかりやすいものになっている。
読了日:01月26日 著者:
山本 堯