博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『青雲志』その6

2016年10月30日 | 武侠ドラマ
『青雲志』第26~30話まで見ました。

師門「青雲門」と「鬼王宗」との間で二重スパイ状態に置かれてしまった蕭逸才ですが、密かに玉陽子と手を組み、碧瑶を拉致。彼女が玉陽子の人質になったところまでは察した張小凡と林驚羽は、「定海山荘」内で彼女を捜索しますが、その過程で山荘内の地下に幽閉されている本物の荘主・司徒逍を発見。どうやら玉陽子は司徒逍の老父の客人として山荘内に這い入り込み、荘主の地位を乗っ取ったという立場のようです。ここでありし日の司徒逍と、今も侍女として山荘内に暮らす雲舒との悲恋が語られますが、雲舒が海族の娘で、言葉を発さないというあたり、何となく人魚姫みたいだなと。

そして小凡らが碧瑶と司徒逍を助け出し、玉陽子から山荘を取り戻させます。ここで碧瑶は、かつて草廟村近くで自分を助けたのが小凡であることを確認。司徒氏の法宝で第二の天書を探す鍵となる「定海珠」も発見されますが、玉陽子に奪われてしまい、碧瑶も再び人質に。

海上の中空に磔状態になった彼女を小凡が救い出そうとした時に、二人とも第二の天書の中に入り込み、天書の力と、自分の生命を擲った雲舒の力により、玉陽子を再び追い払います。しかし第二の天書が碧瑶の手に帰したことで、小凡は蕭逸才から鬼王宗と結託しているのではないかと疑われ、彼女から天書を取り戻すよう命じられます。また、碧瑶の方も鬼王宗幹部の青龍大哥こと青龍使と幽姨こと幽姫から、小凡とはもう近づかないように諭され、それに反発して単独行動を採ったところ、「万毒門」の秦無炎に追われ……


自分が(心ならずそうなったとは言え)魔教と結託しているのに、弟弟子を魔教と結託しているのではないかと責める蕭逸才さん…… 玉陽子と結んで碧瑶を拉致した件では、青龍使からも林驚羽からも不信視されますが、それぞれにもっともらしい言い訳をしてピンチを切り抜けています (^_^;)
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『青雲志』その5

2016年10月24日 | 武侠ドラマ
『青雲志』第21~25話まで見ました。

「万蝠古窟」の心臓部「滴血堂」まで辿り着いた張小凡と碧瑶ですが、ここは「獣神」(ファンタジーに出てくる邪神の類のようです)が封印されている場所で、かつて「煉血堂」の先人・黒心老人がその獣神を復活させようとして、その恋人で「合歓派」の先人・金鈴夫人に阻止され、ともに息絶えたという因縁の場所なのでした。小凡らを追ってきた「鬼王宗」の神医・鬼先生は、小凡を犠牲に捧げて獣神の復活を図りますが、その際に黒心老人の残留思念が獣神と対抗し、また地上では万蝠古窟の番人の役割を担っていた衛老城主が自らの命を賭して獣神の復活を阻止。そして小凡の方も、碧瑶が咄嗟に彼の体内に黒心老人の残したお宝「天書」の武功を注ぎ込み、救出に成功します。

渝都城の一件が落ち着いた後、亡くなった老城主の外孫である曾書書が新城主となり、陸雪琪が青雲山に帰還するのと入れ替わりに、掌門の直弟子・蕭逸才が到来。小凡・林驚羽と三人で、第二の天書の捜索に赴くことになります。獣神復活の鍵となる天書は全部で五部存在し、小凡は他の天書の力で、体内に注ぎ込まれた天書の武功を取り除けるのではないかと期待します。彼の体内には、青雲門の武功と、入門前に草廟村で天音閣の普智から注ぎ込まれた武功、そして天書の武功の三種の武功が混在して互いに攻撃し合い、身体の不調をきたすようになっていたのでした。

一方、蕭逸才は長年煉血堂など魔教各派に潜入して諜報活動を担当していましたが、鬼王宗の主・鬼王に尻尾をつかまれ、獣身化を促す(要するに満月の夜に狼男のようになる)「獣神の血」を飲まされ、二重スパイのような立場に追い込まれておりました。

途中で狐妖の義兄弟・六尾と小七と出会ったりしながら、一行は定海山荘に到着。荘主の玉陽子は、かつては魔教に属する「長生堂」の主でしたが、現在は正派とも魔教とも距離を取っていると称しています。渝都編で登場した合歓派の金瓶児と同じような立場にある模様。しかしこの玉陽子、どうも腹に一物ある人物のようで、驚羽は定海山荘に第二の天書が隠されているのではないかと推測します。そして碧瑶や野狗も山荘に姿を現しますが……

渝都編で登場した阿相、そして狐妖の兄弟の絡みで登場する普空と、天音閣の関係者が師門の指示で小凡に目を掛けているところを見ると、序盤で今際の際の普智から勝手に弟子認定され、武功を注ぎ込まれたこと、そしておそらくは「噬血珠」を託されたこともバレバレですよね?その噬血珠、元来は今回出て来た黒心老人の法宝だったということで、彼の恋人・金鈴夫人の法宝「金鈴」と互いに呼応し合うようです。その金鈴は碧瑶のものとなりましたが……
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『青雲志』その4

2016年10月19日 | 武侠ドラマ
『青雲志』第16~20話まで見ました。

渝都城内に蔓延する毒の薬草となる「崖燕草」を探すため、空桑山へと入った張小凡ですが、山中は「毒神」率いる「万毒門」の巣窟となっており、救出に来た碧瑶ともども万毒門の一党に追われて断崖絶壁からダイブ。本作で初めての崖落ちですが、落ちた先でひっそりと「天帝冥石」を守り暮らす観星崖崖主(崖主という呼称も凄い…)に救われます。


一昔前のJRPGを思わせるデザインの「天帝冥石」。

小凡らの持ち帰った崖燕草により小環らの容態が回復。しかし小凡らの留守中に、中秋節の演劇で集めた募金と曾書書の治水工事の図面が盗難に遭い、顔烈の捜査により、書書の従兄でライバルの李洵が犯人と判明。彼は盗んだのは図面だけだと主張しますが、衛老城主は有無を言わさず彼を城内から追放。


実は募金盗難の一件は顔烈が仕組んだことで、老城主の忠実な配下と見せかけた彼の正体は、万毒門の一番弟子「毒公子」こと秦無炎なのでした。彼の目的は老城主を操り、渝都城を手中に収めること。そのためには後継者候補である李洵や書書が邪魔だという次第。

その書書ら「青雲門」の一行も、魔教に属する「鬼王宗」の碧瑶らと結託したということで、顔烈=秦無炎に操られた老城主や城内の民衆よって城内から退去を求められます。小凡らは碧瑶や「合歓派」の金瓶児と連携し、地下道から城主府に侵入し、老城主を救出し、顔烈=秦無炎を追い詰めます。

しかし秦無炎はなおも抵抗を試み、城主府の地下に隠されていた「煉血堂」の地下宮殿跡「万蝠古窟」の封印を解き、内部へと逃亡。万蝠古窟には煉血堂の主である黒心老人が残したお宝が隠されているようです。小凡らも万蝠古窟へと入りますが……

この渝都編の見所は、作中で陸雪琪で指摘している通り、青雲山では周りから愚鈍と見られていた小凡が意外な頭の良さとか行動力を示すようになってきている点と、碧瑶との仲の接近ですね。碧瑶は万蝠古窟で小凡と二人きりになった時、幼少の頃に煉血堂の年老大に追われて母親とともに逃亡し、草廟村付近の洞窟に隠れた際、母親が体の弱った碧瑶を助けるため、自分の肉を割いて自分に食べさせ、それが母親の直接の死因になったというトラウマを小凡に告白します。彼女はその後昏倒していた自分を助けたのは林驚羽だと思い込んでいますが、果たして……?
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『青雲志』その3

2016年10月13日 | 武侠ドラマ
『青雲志』第11~15話まで見ました。

渝都に到着した張小凡と曾書書ですが、前後して書書の従兄で「焚香谷」の門徒の李洵も到着。書書の外祖父の衛老城主は、2人の外孫のうち、どちらかに城主の座を譲る意向のようです。そして近辺の空桑山を調査していた林驚羽と陸雪琪も合流。

「青雲門」「焚香谷」のほか、正派では「天音閣」の門徒、魔教では、もと「合歓派」で、魔教から足抜けして錦綉坊を経営し、老城主のお気に入りとなっている金瓶児、そんな彼女に「鬼王宗」の傘下となるよう強要する碧瑶と、渝都はそれぞれの思惑を秘めた正派と魔教の徒が入り乱れる地となっています。

渝都では空桑山から流れる水の汚染が問題となっており、「青雲門」の一同は、水質汚染に魔教の一派「万毒門」が関わっているのではないかと調査を進めます。一方で書書は折り合いの悪い従兄李洵と、後継の城主の座を巡って張り合い、それぞれ水質汚染改善のために治水計画に取り組むことに。

書書は治水工事の資金を捻出しようと、中秋節にチャリティで演劇を披露。しかしその集めた募金と治水工事の地図が何者かに盗まれるという事件が発生します。更に老城主の友人・周一仙の孫娘である小環が毒によって昏睡し、老城主も慢性の毒に冒されていたことが判明。それぞれ「合歓派」出身ということを隠して活動していた金瓶児が怪しいということになり、渝都城内の防衛と警察を司る顔烈によって捕縛されますが、その顔烈が実は……という所で次回へ。

今回の見所は中秋節の演劇。書書が母親から聞いた昔話を脚色して上演したとのことですが、青雲門を仮名にした「蒼雲門」という門派出身の弟子が魔教に所属する女性と恋仲になるというストーリーで、明らかに何らかの事実を踏まえていますよね?と (^_^;) そして本来ヒロインを演じるはずが、碧瑶の従者の野狗に攫われてしまった小環ですが、彼女がその野狗を「あんた将来小凡に付き従うことになるよ?」と、不吉な予言をしているのも気になるところです。
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『青雲志』その2

2016年10月08日 | 武侠ドラマ
『青雲志』第6~10話まで見ました。

「青雲門」の七脈(七つの支部)の有望若手による「七脈会武」(天下一武道会みたいなアレだと思って下さい)が開催。我らが張小凡は有望でも何でもないわけですが、大竹峰はそもそも弟子の数が少ないということで、彼も師父・田不易から出場を認められます。

で、小凡くんは最初のくじ引きで一回戦の不戦勝枠を得たうえに、二回戦以後も自らの法宝の力で勝ち進んでいきます。小凡の法宝というのは、彼が偶然に得た「焼火棍」(竈の火かき棒)の先端に、草廟村で普智に託された「噬血珠」が嵌まったもの。その「焼火棍」から、小凡の実力以上の禍々しい力が発揮される様子を見て、青雲門の門徒たちは小凡が「旁門左道の徒」ではないかと言い立てます。「焼火棍」(というより「噬血珠」)が何やら呪いのアイテムのような様相を呈してきましたが……

そして準決勝。青雲門で唯一の女流・小竹峰の筆頭弟子で、対戦相手はこれまでも交流の会った陸雪琪。対戦中に「噬血珠」の力により、二人とも小凡の心魔(心の闇)が作りだした世界、村人たちが「煉血堂」の手の者によって皆殺しにされる前日の草廟村に閉じ込められてしまいます。雪琪の力もあって何とか脱出を果たしますが、二人とも負傷によって試合続行不可能となり、「七脈会武」は打ち切りに。

そして小凡が「旁門左道の徒」、すなわち魔教の手の者であるかどうかは、掌門や田不易を含めた七脈の首座たちの裁定に持ち越されます。結果、「焼火棍」は持ち主に取り付き、その生命を吸い取って力に替える「血煉之物」ではあるが、小凡がこれを得たのは偶然によるものであり、彼は魔教の徒ではないと判断が下されます。どうやら本当に外そうとしても外せない呪いの装備の類であったようです。

田不易の力添えもあって体力を回復した小凡は、「七脈会武」の準決勝まで勝ち進んだ他の三人、雪琪と草廟村以来の幼馴染みの林驚羽、親友の曾書書とともに、青雲門の至宝のひとつ「九儀鼎」から武功を授かります。そしてそれぞれ青雲山から下山しての腕試しの旅が許可されることに。


小凡ら「七脈会武」の四強たち。

書書とともに、彼の母方の祖父がいるという渝都へと旅立つ小凡ですが、一方、青雲門では、掌門道玄の筆頭弟子で、魔教に潜伏して諜報活動をしていた蕭逸才が、魔教の一派「鬼王宗」の主の鬼王(前回登場した碧瑶の父親に当たります)に「獣神之血」を飲まされ、狼男のように徐々に獣化していくことに。,b>このドラマでも熊人間さんみたいなのが登場することになるんでしょうか。そして驚羽の師父・蒼松も魔教と関わりがあるようですが?

ということで、ホグワーツのような門派教育機関、天下一武道会、自分だけのアイテム、心の闇と、玄幻物のデフォルトが出揃ってきた感じです。そして本作では終盤近くで、やはり玄幻のデフォルトである闇落ちもきっちり出てくる模様 (^_^;)
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『青雲志』その1

2016年10月03日 | 武侠ドラマ
『青雲志』第1~5話まで見ました。いま中国エンタメで流行りの「玄幻物」ということになりますが、原作はその「玄幻」の草分け的存在のネット小説『誅仙』となります。ドラマ版についても『誅仙青雲志』という呼称もある模様。

物語は主人公・張小凡と林驚羽の幼馴染みが暮らす草廟村から始まります。村が突然魔教の一派「煉血堂」の手の者に襲撃され、生き残った2人。小凡は2人を助けた「天音閣」の普智に宝玉「噬血珠」を託され、普智の最後の弟子に指名されますが、普智はその事実と「噬血珠」の存在を誰にも明かさないよう言い渡し、絶命します。

そして2人は事態を知って駆けつけた「青雲門」の人々に助けられ、それぞれ入門。ただし驚羽がその身に秘める非凡な資質を評価され、「青雲門」七脈のうち有力派閥の「龍首峰」に弟子入りし、めきめきと頭角を現していくのに対し、小凡は至って平凡な資質しか持っていないということで、最弱派閥の「大竹峰」に配属され、五年経っても法術ひとつマスターできず、師匠の田不易に呆れられてばかりです。


小凡と、その姉弟子で田不易の娘の霊児と、ペットの霊獣小灰。動物のCGも飛躍的に進歩してますw 小凡を演じるのは、『古剣奇譚』で「360度死角なしのイケメン」と話題になった李易峰。


師匠の田不易。『宝蓮灯』の猪八戒役でお馴染みの謝寧。本作では他にもお馴染みの顔がちらほら……

その小凡が、6人の兄弟子や、「風回峰」の首座の息子でノリが軽い曾書書、女流の「小竹峰」の弟子でお堅いイメージの陸雪琪といった兄弟弟子に囲まれて学園生活みたいな修業の日々を送るわけですが、玄幻物の修業というと、どうしても中華版『ハリー・ポッター』みたいなノリになるんですね……

で、姉弟子の霊児が「煉血堂」の舵手年老大に攫われ、青雲山では斉昊や林驚羽・陸雪琪といった実力ある弟子を選抜して捜索隊を結成。実力不足ということで選抜から漏れた小凡は、曾書書とともにこっそりその捜索隊に加わることに。途中で年老大が母親の仇だという謎の少女碧瑶が一向に加わります。


碧瑶を演じるのは、『花千骨』や『後宮の涙』でお馴染み趙麗頴。

彼女の協力もあり、小凡と驚羽の幼馴染みコンビが年老大を打ち破り、麗児を無事に救出したものの、碧瑶がやはり魔教の一派らしい「鬼王宗」の主・鬼王の娘であることが明らかとなり……というあたりで次回へ。

この手のドラマはVFXがショボいとそれだけで幻滅してしまいがちですし、従来の玄幻はこの点がネックだったりしたのですが、本作に関してはVFXについては及第点に達しているようです。

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2016年9月に読んだ本

2016年10月01日 | 読書メーター
406138595X">安全保障入門 (星海社新書)安全保障入門 (星海社新書)感想
集団的自衛権や自衛隊の文官統制といった時事的な話題も盛り込み、地政学に対して平和学もちゃんと紹介するといった具合に、網羅的かつ比較的片寄りのない入門書になっていると思う。中国に関して、日中両国がお互いを戦後レジームや現在の国際秩序に対する挑戦者と非難し合う関係にあるという指摘が印象的。
読了日:9月2日 著者:石動竜仁

ペリー来航 - 日本・琉球をゆるがした412日間 (中公新書)ペリー来航 - 日本・琉球をゆるがした412日間 (中公新書)感想
浦賀に先立つ琉球来航(第2章)と、ペリー来航を庶民がどう受け取ったかという話(第5・6章)を面白く読んだ。特に日米修好条約とは別に琉球王国がアメリカと琉米修好通商条約を結んでいたことは、昨今の沖縄をめぐる情勢を考えると、重要な事項になるかもしれない。
読了日:9月2日 著者:西川武臣

鄭成功―南海を支配した一族 (世界史リブレット人)鄭成功―南海を支配した一族 (世界史リブレット人)感想
鄭芝龍の時代からの鄭氏政権の興亡、南明諸政権との関わり、天地会の結成や『国性爺合戦』など、鄭成功に関するトピックをコンパクトにまとめている。金庸『鹿鼎記』でおなじみ陳永華(陳近南)についても詳しく触れられている。鄭成功の同母弟次郎左衛門には、福松(鄭森・鄭成功)とは違って漢名はなかったのだろうか。鄭芝龍と田川氏の子供たちは「マージナル・マン」的な倭寇の末裔として興味深い存在である。
読了日:9月2日 著者:奈良修一

【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)感想
本書で印象に残ったのは、本題より第4章-6の難民の話。「あってはならないこと」と断りを入れつつ、中東各国の少数民族が難民化することで、彼らの犠牲と引き替えに、結果的にこの地域の少数民族問題が解決に向かっていると指摘している。日本でもシリアなどからの難民に対して否定的な意見が目立つが、こういう「現実」をどう考えるのか聞いてみたい。また、我々は「ゲルマン民族の大移動」に匹敵するような難民の流入を経験しているのではないかと思った。
読了日:9月5日 著者:池内恵

ケマル・アタテュルク―トルコ国民の父 (世界史リブレット人)ケマル・アタテュルク―トルコ国民の父 (世界史リブレット人)感想
トルコ共和国成立後の文字改革などの近代化の詳細のほか、祖国解放運動以来の戦友・同志を次々と切り捨てていく独裁者としての側面も描く。個人的に興味深かったのは、即位前のメフメト6世と懇意であったということと、ローザンヌ条約締結後にギリシアとの和平が成立した際に、イスメト首相とギリシアのヴェニゼロス首相との間に信頼関係が成立し、ヴェニゼロスがイスメトをノーベル平和賞候補として推薦したという話。中公新書の『物語近現代ギリシャの歴史』では、ヴェニゼロスがひたすらトルコにしてやられた話しか載っていなかったと思うが。
読了日:9月6日 著者:設楽國廣

大元帥と皇族軍人 大正・昭和編 (歴史文化ライブラリー)大元帥と皇族軍人 大正・昭和編 (歴史文化ライブラリー)感想
「大元帥と皇族軍人」とあるが、皇族軍人よりは大元帥、特に昭和天皇の動向の比重の方が重い。また、尾張徳川家の徳川義親や、東条英機との対立で知られる前田利為といった華族軍人についても取り上げる。皇族軍人については伏見宮博恭王や閑院宮載仁親王が「老害」化していたこと、また敗戦後に戦犯となってもおかしくない立場であったのに、おそらくは昭和天皇の身代わりとして収監された梨本宮守正王以外は赦免されたことなどを指摘する。
読了日:9月8日 著者:小田部雄次

古墳の古代史: 東アジアのなかの日本 (ちくま新書)古墳の古代史: 東アジアのなかの日本 (ちくま新書)感想
日本の古墳を中国・朝鮮のそれと比較して、その特色を見出そうという趣旨。中国で王墓を築く風習が衰退するのと対応するかのように、朝鮮・日本で大型墳墓の発達が始まるという対応関係は面白い。日本の古墳が墳丘にこだわるが、陵園の存在が見出せない、副葬品として日常生活用品が乏しいといった点は、中国あるいは朝鮮から、儒教的な祭祀を(少なくとも積極的に)取り入れなかったということを示しているのではないか。
読了日:9月10日 著者:森下章司

日本国民であるために: 民主主義を考える四つの問い (新潮選書)日本国民であるために: 民主主義を考える四つの問い (新潮選書)感想
改憲論などの問題に現状維持を求める、「右」でもなく「左」でもない「自称中立」のための政治思想論。九条をめぐって、「右」にも「左」にも本書が指摘するようなジレンマが存在することについては同意だが、日本国憲法制定をめぐる「事実問題」については、佐々木案も含めれば二度「自主憲法」制定のチャンスがあったことなど、色々言いたいことはある。また、交戦権を欠くので日本の主権が不完全ということなら、共和制を採用するかわりに軍隊を残すという選択肢もあったのではないだろうか。
読了日:9月12日 著者:互盛央

学術書を書く学術書を書く感想
京都大学学術出版会の「中の人」による著書だが、正直なところその提言は学術書と一般書の中間、学生や一般向けの概説書とか選書などにあてはめるべきものが多い。再校時に修正箇所が1文字でも存在するページが全体の3分の1を越えると追加料金が発生する印刷所も存在するとか、「すぐに直せる」「いつでも直せる」は禁句といった、耳に痛い提言も盛り込まれてはいるが…
読了日:9月15日 著者:鈴木哲也,高瀬桃子

シベリア出兵 - 近代日本の忘れられた七年戦争 (中公新書)シベリア出兵 - 近代日本の忘れられた七年戦争 (中公新書)感想
高校世界史では第一次世界大戦のついでとして、日本史では米騒動とセットで語られがちなシベリア出兵。しかしその詳細を見ていくと、「バスに乗り遅れるな」とばかりに諸国と共同出兵しながら、政治と軍事の対立といった内部の事情に足を引っ張られて撤兵の時期をずるずると逃し、シベリア撤兵のために満洲へと兵を増派するといった、一見しただけでは訳の分からない事態に陥ったり、「犠牲者の死を無駄にしないため」と、手ぶらでの撤兵を決断できなかったりと、現在の「教訓」になりそうな事柄が見えてくる。
読了日:9月19日 著者:麻田雅文

落日の豊臣政権: 秀吉の憂鬱、不穏な京都 (歴史文化ライブラリー)落日の豊臣政権: 秀吉の憂鬱、不穏な京都 (歴史文化ライブラリー)感想
文禄年間、豊臣秀次の死や文禄の大地震の前後の京都の世相というか雰囲気を写しだそうという試み。秀次一族が処刑された後、方形二層のピラミッド状の塚が造られたということだが、これに聚楽第・方広寺大仏殿と合わせると、当時の京はかなり異様な雰囲気を醸し出していたのではないかと思う。
読了日:9月19日 著者:河内将芳

麻雀の誕生麻雀の誕生感想
麻雀の中国での源流、アメリカでのブームと規格化、日本での受容と紹介など、委細を尽くした解説となっている。「筒子」「索子」「万子」のデザインがすべて銭に由来すること、夏目漱石『満韓ところどころ』の、現地での麻雀遊びに関するものとされる記述が、実は今で言う麻雀ではないのではないかというツッコミなどが個人的な読みどころ。
読了日:9月21日 著者:大谷通順

真田信之 父の知略に勝った決断力 (PHP新書)真田信之 父の知略に勝った決断力 (PHP新書)感想
信之の前半生、「犬伏の別れ」(本書によると「天明の別れ」が正しいのではないかということだが)までの歩みは昌幸・信繁とほぼ共通しているので、読みどころとしてはそれ以降、特に第五章以降となる。信之配下にも大坂方となる昌幸・信繁を支援したり内通した者がいたこと、真田領のキリシタンの存在、終盤の、松代・沼田それぞれの跡目相続の話を面白く読んだ。
読了日:9月24日 著者:平山優

オリエント世界はなぜ崩壊したか: 異形化する「イスラム」と忘れられた「共存」の叡智 (新潮選書)オリエント世界はなぜ崩壊したか: 異形化する「イスラム」と忘れられた「共存」の叡智 (新潮選書)感想
「寛容」をキーワードにイスラム以前から現代までのオリエント史を通覧。前後して同じく新潮選書から出た池内恵『サイクス=ピコ協定百年の呪縛』を読む前提となる知識が提供されてている。概説としても問題提起としてもこちらの方がわかりやすい。
読了日:9月28日 著者:宮田律
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