博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『興亡の世界史05 シルクロードと唐帝国』その2

2007年02月27日 | 世界史書籍
森安孝夫『興亡の世界史05 シルクロードと唐帝国』(講談社、2007年2月)

というわけで今回は本編の内容についてです。中華主義的な見方を極力排して唐の建国や安史の乱を見ていくとこういうことになるのかと思いつつ読み進めていきました。隋・唐が鮮卑系の王朝であるという点はこの本のようにくどいぐらい強調して丁度良いぐらいかもしれませんね。

しかし序章・あとがきのみならず、本編でも以下のように森安氏のルサンチマンらしきものが見え隠れするのが何とも……(^^;)

○反シルクロード史観に異議ありッ!

近年中央アジア史やイスラム史の立場から、シルクロードによる東西貿易はほとんど実体を伴わないものであったとしてシルクロードの意義を抹殺するような見解が提出されていますが、シルクロード商業の実態を示す史料がたくさん存在するとしてこれに反論。またイスラム側からのみの視点で中央アジア史を見ることにも疑問を呈しています。

何かいろんな方面に喧嘩を売っておりますなあ(^^;) 実を言うと「シルクロードなんて実体のない怪しげなもんだ」という話は私も昔イスラム史の先生の講義で聞いたことがありますが、こうした声によっぽど悔しい思いをされていたんでしょうか……

○日本のソグド人研究は最先端を進んでいるはずなのに、欧米の研究者は日本人の研究をほとんど参照していないッ!

森安氏は「最先端の水準さえ保っていればいつかは報われるであろう」なんて書いてますが、これからはもう英語か中国語で論文を発表するしかないんでしょう……

以下は本書で面白いと感じた小ネタです。

○ソグド人は匈奴のことをフンと呼んでいた。
○ソグド人集団は『三国志』にも顔を出していた。
○751年のタラス河畔の戦い以前、8世紀の第1四半世紀には既にソグド本土で紙が流通していた。
○安禄山の禄山はソグド語の「ロフシャン」の音写で「明るい」の意。
……「米禄山」という同名の胡人が存在したとのこと。「安禄山の名はアレクサンドロスの音写」というのは俗説だったようです。そもそも安禄山の安姓は出身地の安国(ブハラ)にちなむもので、しかも母が再婚した際に康姓から改姓したとのことですしね。
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『封神榜』その5

2007年02月25日 | 中国古典小説ドラマ
『封神榜』第29~32話まで見ました。

西岐に派遣した張桂芳や九龍島の四聖の敗北に激怒した聞仲は遂に親征を決意。しかし西岐には哪三兄弟や楊戩・黄天化・雷震子ら闡教の門徒が集い、殷軍を苦戦に追い込みます。これに対して申公豹は金鰲島の十仙や峨眉山の趙公明といった截教の大仙を援軍に差し向けますが、闡教の方からも元始天尊の直弟子である九仙が差し向けられ、金鰲島の十仙の敷いた十絶陣を次々と破っていき、趙公明も敗死してしまいます。

爺さんばかり出すのが鬱陶しくなったのか、闡教の十二大仙は九人に端折られ、以前から登場していた南極仙翁や雷震子の師である雲中子がメンバーに入っています。十絶陣破りのシーンもそのうちの半分ほどが端折られてしまってますね。やっぱり戦闘シーンが大幅に省略されてしまいました(-_-;)

さて、男装して姜子牙や武王の侍衛になっていた子嫻ですが、姜子牙の命令で唐突に武王に正体を明かすことになり、武王とラブラブ状態となって二人で十絶陣の一つ・紅沙陣を破りに行きます。子嫻が女性であることがバレて一波乱あるのかと思いきや、拍子抜けするほどあっさり武王らに受け入れられてしまいます。また申公豹から武王を誘惑するよう銘じられていたはずの鳳来は出番すらなくうっちゃられてしまってます。この辺りの展開がどうもグダグダですなあ……
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『興亡の世界史05 シルクロードと唐帝国』その1

2007年02月23日 | 世界史書籍
森安孝夫『興亡の世界史05 シルクロードと唐帝国』(講談社、2007年2月)

この巻ではソグド人を軸にシルクロードを舞台にした交易や唐・突厥といった帝国の興亡を追う、という内容のはずですが、まず「序章 本当の『自虐史観』とは何か」で、今までの日本人の世界史の知識は西洋史と中国史に偏りすぎていたと批判します。そしてこの状況を改めるには高校の世界史の指導要領と教科書、そして世界史教員の認識を変えていく必要があるとします。

そしてあとがきでも昨年の世界史未履修問題について触れ、
「ほとんどの大学生にとっては、高校の世界史が『一生もの』になる。だから『世界史必修』には大きな意義がある。しかし、現在のように肥大化した世界史教科書を高校生に押しつけるのはもはや無理である。教科書はもっとスリム化し、一方で少なくとも総合大学の入試に簡単な世界史問題を出すべきである。教科書をスリム化するには、西洋史を大幅に削減すればよい。現代の日本人にとって、ギリシアの思想家やルネサンスの芸術家たちの名前を細かく覚えたり、フランス革命を日単位で暗記したりする必要などない。逆にこれまで軽視されてきた近隣の朝鮮・北アジア・東南アジアの歴史と遊牧騎馬民族の動向などについては、やや記述を増やしてはどうか。」(本書361頁)
と提言します。

何か高校の世界史履修の実態について少し誤解があるようなのでフォローしておきます。まず言葉尻をとらえるようでアレですが、今の高校生の多くは世界史をちゃんと履修していても「ギリシアの思想家やルネサンスの芸術家たちの名前を細かく覚えたり、フランス革命を日単位で暗記したり」していません。というのは、そもそも高校世界史には古代から現代まで万遍なく詳細に学ぶ4単位の「世界史B」と、近現代史を重点的に学ぶ2単位の「世界史A」の2科目に別れており、このどちらかを高校在学中に履修することになっています。

で、世界史を受験科目にする生徒はBの方を履修し、それ以外の生徒は大体時間数の少なくて済むAの方を履修することになるわけですが、まず理系で社会を受験する必要のある生徒は大体地理Bを履修します。(地理と日本史も受験用のBと一般教養用のAに分かれています。)文系の生徒でも世界史よりは日本史を受験科目にする生徒が多いので、(参考までにセンター試験の受験者数をご覧下さい。地理B・世界史B・日本史Bの受験者がここ数年それぞれ12万人・10万人・15万人前後で、割合に直せば2.4:2:3ぐらいになります。世界史Bの受験者はこの3科目の中で最も少ないのです。)高校生の多くが世界史Aの方を履修することになるわけです。

世界史Aの教科書では古代・中世をごくごく簡単にすっ飛ばしてしまい、ルネサンスあたりから少しずつ記述が詳しくなります。そして19世紀末の帝国主義の開始あたりから記述が世界史B並みに詳しくなり、ここら辺から現在までの歴史が全体の半分近くを占めています。また、東西交渉史を割と詳しく扱っているのもこの科目の特徴です。(ただしふた昔ほど前の認識で書かれているので、著者が批判するように「オアシスの道(絹の道)」なんて記述があったりするのですが……)教科書も(世界史Bと比較しての話ですが)随分とスリムになっています。

しかしそれでも一年間で教科書を全部やる余裕は無いので、だいたいは前半分を飛ばして帝国主義の開始あたりからゆっくり時間をかけて指導していくことになるわけです。だから本書の「ギリシアの思想家やルネサンスの芸術家たちの名前を細かく覚えたり、フランス革命を日単位で暗記したり」の部分は「条約の名称を細かく覚えたり、第二次世界大戦の戦況を一ヶ月単位で暗記したり」とでも改めた方が良いと思われます(^^;)

しかし世界史教員の認識が変われば、教科書にはそれなりに詳しく載っているわけですし、「やっぱり東西交渉史もやっておこうか」ということになると思うので、世界史教員に意識変革を呼びかける著者の方針自体は間違ってはいないと思います。

長くなりましたので、本編の内容についてはまた次回……
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ジョン・ウー監督『赤壁』

2007年02月21日 | ニュース
「ジョン・ウー映画『赤壁』に趙薇、張震も出演決定」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070220-00000015-scn-ent

ジョン・ウー監督の映画『赤壁』ですが、既に発表されていた 周潤発・梁朝偉・林志玲に加え、 張震 ・ 趙薇・ 胡軍・張豊毅も出演するとのこと。この映画、続報が出るたんびにキャストがどんどん豪華になっていきますね。

周潤発が周瑜、梁朝偉が諸葛亮、張豊毅が曹操を演じるとのことですが、張豊毅の曹操は見たいような見たくないような…… しかし彼が『大清風雲』で毎度毎度大玉児にしてやられるドルゴンを好演していたことから考えると、周瑜や黄蓋、龐統らにしてやられる赤壁の戦いの頃の曹操というのは意外とマッチしているのかもしれませんが(^^;) 

個人的には胡軍がどの武将を演じるのかが気になります。趙薇は大喬・小喬のどちらかでしょうか。『墨攻』の范冰冰のように取って付けたようなオリジナルキャラクターの役柄を押っつけられそうな気もしますけど……
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かちこみって……

2007年02月20日 | 映画
ドニー・イェン、ニコラス・ツェー主演の『龍虎門』ですが、4/14より全国ロードショーが開始されるとのこと。公式サイトも既にオープンしています。

で、気になる邦題は『かちこみ!ドラゴン・タイガー・ゲート』だそうです。「かちこみ」とかまた訳の分からんフレーズがついてますね(-_-;) これなら以前ネタにした『タイガー&ドラゴン』の方がまだ良かったよ……
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『図説中国文明史2 殷周 文明の原点』

2007年02月20日 | 中国学書籍
『図説中国文明史2 殷周 文明の原点』(創元社、2007年2月)

このシリーズは最初に出た第4巻『秦漢 雄偉なる文明』、前回刊行された第1巻『先史 文明への胎動』と上古史関係の巻のみチェックしていますが、単なる図録にとどまらず解説文の内容もかなり詳細なものになってますね。

また所々に挿入されているコラムは日本語版翻訳者による書き下ろしで、大抵は元の中文版の刊行後に発見された遺跡や歴史上の故事の紹介だったりするのですが、この第2巻では殷代甲骨文の編集技術とか、秦の兵馬俑はユニット生産によって生み出された大量生産品だとか、なかなか読ませる内容のものが多いです。

実はこの巻、元の中文版も持っているのですが、結局日本語版も買ってしまいました(^^;)
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『封神榜』その4

2007年02月19日 | 中国古典小説ドラマ
『封神榜』第25~28話まで見ました。

すんません、『碧血剣』を見終わる直前に『封神榜』下部が届いてしまったので、『包青天』はまたもや後回しです……

殷から西岐へと逃れてきた比干の娘・子嫻は男装して正体を隠し、姜子牙の弟子兼侍衛に取り立てられます。一方、彼女の道連れとなった鳳来(その正体は申公豹の手下の妖怪)は武王の侍女として仕えることになり、スパイとして西岐の機密情報を申公豹に伝えたり、武王を誘惑しようとしたりと大忙しです。しかし肝心の武王は彼女達と初めて出会った時に子嫻との恋愛フラグが立ってしまった模様(^^;)

その鳳来のボス・申公豹は西岐に潜入して武王に不満を持つ弟の胡安を味方に付けようとしたり、こちらも三面六臂の大活躍です。 

このパートでは文王の死と武王の即位、張桂芳や九龍島四聖ら殷の武将・神仙の侵攻、そして姜子牙が元始天尊から封神榜を授かり、岐山に封神台を築くまでの話を扱ってます。何か下部に入ってから展開が早くなったような気がしますね。特に戦闘シーンの展開が早いです。この調子で残りのバトルもちゃっちゃと片付けられていくんでしょうか……
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『大漢風』第19~20話

2007年02月18日 | ドラマ『大漢風』
結局第18話のレビューでの予想は大ハズレでした(^^;)

項羽は范増らの懇願によって章邯の降伏を受け入れます。一方秦兵に捕らえられた虞姫は侍女の君児と離ればなれになって咸陽の阿房宮に送られ、胡亥に手籠めにされる寸前に、その胡亥が趙高によって殺されてしまいます。趙高は子嬰を第三代の君主として即位させますが、その趙高も子嬰らによって誅殺されてしまいます。これで李斯・胡亥・趙高の三バカトリオが全員逝ってしまいました……

その間に劉邦の軍が咸陽に迫り、子嬰は劉邦への降伏を決意します。胡亥が殺されてから阿房宮の一室に閉じこめられていたらしい虞姫は劉邦迫るの報を聞くと、「あのケダモノに捕まるわけにはいかない」と、逃亡を図ります。

劉邦は玉座に座って部下から「万歳、万歳、万万歳!」と拝礼を受けたりしてはや関中王気取りですが、呂雉も夜中にこっそり玉座に腰を下ろして一人悦に入ります。そして張良がそれをうっかり目撃してしまい、呂雉が政治に関して相当の野心を抱いているのを知って驚愕するという所で今回は幕引きです。何かえらい引きでしたけど、この分だと次回かその次あたりが鴻門の会の話になりますね。
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『碧血剣』その6(完)

2007年02月18日 | 武侠ドラマ
碧血剣』第26~30話まで見ました。

このパートでは明朝の滅亡、李自成軍の堕落、そして袁承志と玉真子によるラストバトルまでじっくりと見せてくれます。特に紫禁城を舞台に繰り広げられる明軍と李自成軍との攻防は見応えアリです。

ただ、最終話は展開を端折りすぎですね(^^;) 黄真が穆人清から華山派掌門の地位を譲られるシーンなんかが削られたりしているので、原作を読んでない人はそもそもなぜ華山派の面々が華山に集まったのかとかがよくわからないんじゃないかと。

張紀中監督の次回作は『鹿鼎記』ですが、『鹿鼎記』では『碧血剣』で活躍した阿九や何守らが再登場します。こちらの方でも孫菲菲や蕭淑慎に演じてもらいたいというのはムリな願いでしょうか(^^;)
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『喪男の哲学史』

2007年02月16日 | 世界史書籍
本田透『喪男の哲学史』(講談社、2006年12月)

哲学の歴史はモテない男たちによる葛藤の歴史だった!哲学史を「モテる、モテない」で読み解いた大胆にも程がある入門書です(^^;) (ちなみにタイトルにある「喪男」(モダン)とはモテない男、もしくはモテたくない男の意だそうです。)

しかし内容の方は以前に読んだ『エピソードで読む西洋哲学史』よりも更にわかりやすくなっております。「イエスは、神の国は脳内にあると主張した」とか、「デカルトの二元論は最終兵器彼女が登場しない『最終兵器彼女』の世界」とか、「ニーチェの言う超人とは、この世界をたったひとつの舞台として自分自身に萌え続けろという俺萌え宣言だった」とか、ぶっちゃけすぎる解説のオンパレードです。

本書も『エピソード~』と同様に哲学者の思想とともにその人生を面白おかしく取り上げているのですが、『エピソード~』の方は哲学者の人生とその思想とのつながりがいまいちよくわからない憾みがありました。しかしこちらでは哲学者の思想と人生、いかに女性にモテなかったか、あるいはなぜ自らモテることをを拒否するようになったか、が直結していたのだということが(何でもかんでもモテに結びつけることの当否はさておくとして)明確になっています。

読んでいて時折、そういう理解でいいのかどうか不安になることもありましたが、人類の歴史を階級闘争の歴史ということにしてしまった階級闘争史観がアリならこういのもアリだろうと思いました(^^;)

取り敢えずこれから人に哲学の良い入門書は無いかと聞かれたら、そっとこの本を薦めることにします。
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