周縁の三国志 非漢族にとっての三国時代 (東方選書 60)の
感想三国志の中の非漢族といえば、正直なところ烏桓とか孔明の南征の所で出て来る孟獲、そして邪馬台国ぐらいしか印象に無かったのだが、鮮卑、山越、クシャン(大月氏)等々掘り起こせば色々出て来るものである。特に孔明が鮮卑の軻比能との連携を企図したとか、高句麗と孫呉が関係を有したとか、遠方の国と勢力が結びついてるのが面白い所。
読了日:06月05日 著者:
関尾史郎
史記の再発見の
感想今まで同じ汲古から出ていたものとは異なり、論集というよりは一般書に近い作り。藤田氏のこれまでの『史記』研究の総まとめ、総決算的な書。これまでと違って五帝本紀、夏本紀から分析の対象としており、それぞれの時代の『史記』の記述や関連の発見を細かくまとめてくれているので参照価値が高い。出来れば選書レーベルで、1/2か1/3程度の値段で出してくれれば言うことがなかったが……
読了日:06月07日 著者:
藤田 勝久
ローマ帝国と西アジア 前3~7世紀 (岩波講座 世界歴史 第3巻)の
感想従来「地中海世界」の括りで古代ギリシア史とセットで扱われがちだった古代ローマ史を、古代ギリシア史と切り離して西アジアとの関係を重点的に見ていこうという試みだと思うが、ローマ史はローマ史、西アジア史は西アジア史といった調子で、南川論文と井上論文以外はいまひとつうまくいってないような印象を受ける。巻末の井上コラムにあるように、西部ユーラシア史の試みはこれからということだろうか。西アジアに限らなければ、同時代のギリシア、女性、キリスト教徒などローマ帝国の中の他者の視点が意識されていて面白い。
読了日:06月09日 著者:
荒川 正晴,大黒 俊二,小川 幸司,木畑 洋一,冨谷 至,中野 聡,永原 陽子,林 佳世子,弘末 雅士,安村 直己,吉澤 誠一郎
B-29の昭和史 ――爆撃機と空襲をめぐる日本の近現代 (ちくま新書 1730)の
感想B29に限らず、日本による中国の空襲を米軍の日本列島空襲と対比するなど、広く空襲を対象としている。B29についても、その開発・誕生から歌謡、模型、特攻の搭乗員、空襲に遭った人の所感、しばしば「美しい」と評された機体のフォルム、「火垂るの墓」に代表される戦後のエンタメなど話題が幅広い。あまり語られない、民間人による墜落したB29の搭乗員の扱いや、日本軍の搭乗員も国内での墜落時に巻き添えのような形で手荒い扱いを受けたというのが興味深い。
読了日:06月11日 著者:
若林 宣
神さまと神はどう違うのか? (ちくまプリマー新書 429)の
感想表題の信仰上の「神さま」と哲学上の「神」との違いからはじまって、存在の哲学の話、そして最後に信仰の話に帰着していく。話が途中でわからなくなっても、最後の第七章でもう一度仕切り直しをしてくれる作りになっている。本書を読むことで、プラトンの『パイドン』やスピノザの『エチカ』、そして巻末の読書案内で紹介されている『意識と本質』が読みたくなってくるから、哲学の入門書としては成功しているのだろう。
読了日:06月13日 著者:
上枝 美典
ヴァーチャル日本語 役割語の謎 (岩波現代文庫 学術 466)の
感想役割語、すなわち日本語会話(文)のステレオタイプに関する議論。博士、田舎者、関西人、お嬢様、異国人等々漫画に見られるキャラクターの言葉遣いを取っかかりとして、それらのルーツを江戸、明治の読み物や小説にまで辿っていき、それぞれの役割語成立の背景を探る。更にはそれらと対比的な標準語がヒーローの言葉遣いであることを明らかにする。外国語に役割語のようなものが存在するかどうかかが気になるところだが。
読了日:06月15日 著者:
金水 敏
言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか (中公新書 2756)の
感想単なる擬音と思われたオノマトペも、音像徴の使い分けにより「大きい」「小さい」などのニュアンスを表すことができる。そのことにより、集団によって同じ現象に対するオノマトペが異なっても、何となくでもニュアンスを感じとることができるという指摘や、単語は多くオノマトペを基礎として生み出されたという指摘が興味深い。また、人間は必ずしも論理的とはいえないアブダクション推論によって言語を生み出し、発展させてきたのではないかという推定は、とにかく論理的でさえあればいいという昨今の風潮に対する逆説的な議論となっていて面白い。
読了日:06月19日 著者:
今井 むつみ,秋田 喜美
歴史学研究法 (ちくま学芸文庫 イ-62-1)の
感想「太平記は史学に益なし」というわけではなく、太平記のような文献も陳述的史料以外の用途では有用という議論は誠に以てその通りと言うほかない(この発想をわからない人は今もって多いが)。ただ、今となっては全体の4分の1ほどを占める松沢裕作氏の解説の方が有用かもしれない。
読了日:06月20日 著者:
今井 登志喜
コレモ日本語アルカ?: 異人のことばが生まれるとき (岩波現代文庫 学術 467)の
感想文庫化を機に再読。先月文庫化された『ヴァーチャル日本語』第六章の発展版的な内容で、手法も共通している。日本人主導の満洲ピジンが、中国の抗日ドラマなどに見られる「鬼子ピジン」の形成に影響を与えたという議論は何度読んでも衝撃的で、日本人への「ブーメラン」となっている感がある。ただ『ヘタリア』のそれは新しい展開というよりは作者がただただ先行作品の言葉遣いに無頓着で不勉強なだけではないか?著者の言う『鋼の錬金術師』での「巧みな処理」と比較すると、そう感じる。
読了日:06月22日 著者:
金水 敏
世界史とは何か: 「歴史実践」のために (岩波新書, 新赤版 1919)の
感想「現在と過去との対話」として歴史の授業を展開するための考え方を、授業の実践例を交えつつ解説した本ということになるだろうか。「多様な意見がありますね」という締めで終わらせがち、「対話ができるようにするために、まず知識を身につける」という固定観念など、この種の授業にありがちなワナも話題に取り上げている。遠い地域の異なる時代の歴史をどう身近な問題として理解していくかというアプローチも盛り込まれているので、歴史総合の良きヒント集になりそう。
読了日:06月25日 著者:
小川 幸司
紛争地の歩き方 ――現場で考える和解への道 (ちくま新書 1721)の
感想東南アジアを中心に世界の紛争地での様々な和解のありようを見ていく。和解後も黒人と白人が交じり合わない南アフリカ、民主化と経済成長で和解後の不満を抑え込むインドネシアといったように、逆説的な事例が目立つ。そうしたありようから、我々が韓国人や中国人と歴史認識問題で和解するには、あるいは中国人が香港人と和解するとしたらどのような方法を採ればいいのかといったことを考えさせられた。
読了日:06月27日 著者:
上杉 勇司
東アジアの後宮 (アジア遊学)の
感想保科論文では漢代の後宮が厳密な男子禁制ではなかったということとそれに関連して後宮での宦官の位置づけを問う。この議論が妥当だとすれば、東海林論文での日本の後宮が比較的自由で開放的だったという評価も多少変化するだろうか?毛立平論文の清朝の妃嬪の昇進・降格の議論は宮廷ドラマの鑑賞に役立ちそう。清朝と比べて明朝の後宮は皇后の廃位や寵姫がのさばったりということが頻繁に起こったという話には笑ってしまったが。朝鮮や日本の後宮についてもかなり充実しているが、江戸の大奥についてはもう1章程度欲しかったところ。
読了日:06月30日 著者: