博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『清平楽』その2

2020年04月30日 | 中国歴史ドラマ
『清平楽』第6~10話まで見ました。

仁宗の生母が李宸妃(李蘭恵)であることは民間にも知り渡り、更には劉太后が彼女を毒殺したという謡言が広がまります。仁宗は謡言を打ち消すため、太医に李宸妃の遺体を検査させ、毒殺でないことを証明させます。そして晏殊は長年仁宗の側で仕えながら実母のことを知らせなかったということで、地方に飛ばされます。この一件を収めるには誰かしらの責任を問う必要があるということでしょうね。

これで何とか一件落着と思いきや、今度は仁宗が郭皇后を後宮を取りまとめる器ではないと廃しようとしたことから、范仲淹らが反対運動を繰り広げます。それを何とか押さえ込み、呂夷簡ら重臣の意見を容れ、後任の皇后に才女として知られ、建国の功臣曹彬の孫ということで身分的にも申し分のない曹丹姝を入内させることに。


曹丹姝はドラマ的にもヒロインという位置づけになるようです。これまでも男装して范仲淹のもとで学問を修めたり、神仙趣味で女性に興味のない李植と結婚させられ、新婚初夜に三行半を書かせて実家に戻ったりと、ちょいちょい出番がありました。曹丹姝の方は以前から仁宗にぞっこんなのですが、仁宗の方は形ばかりの夫婦と割り切っており、新婚初夜に床を共にすることすらなく、彼女は失意の日々を送ります。

曹丹姝はそれでも懸命に皇后としての務めを果たそうとします。彼女は仁宗に、廃后となった後は宮中を追われていた郭氏を呼び戻して賢妃の地位を与え、苗心禾ら3人の妃嬪たちも昇格させるよう提案し、容れられます。


ところがこれに宰相の呂夷簡が反発。曹丹姝に政治的識見があると見るや、「皇后には章献太后(劉太后)の風がある」と警戒。劉太后は生前重臣たちから第二の武則天になるのでは?と警戒されていたのでした。郭浄妃(廃后の後の封号)は呂夷簡の意を受けた者により毒殺され、呂夷簡は苗心禾らの昇格に反対したのみならず、曹丹姝を弾劾します。


これにまたも范仲淹が反発。仁宗に「百官図」を献上し、呂夷簡が朋党を形成して我が物顔に振る舞っていると弾劾します。しかし仁宗は范仲淹の方を宮廷から退けて地方に飛ばす決断を下します。かわりに晏殊を都に呼び戻し……というあたりで次回へ。宮廷物であると同時に、晏殊・范仲淹な北宋仁宗朝を支えた名臣たちの物語でもあるという話の構図が見えてきました。
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『清平楽』その1

2020年04月25日 | 中国歴史ドラマ
『清平楽』の鑑賞を始めました。今回はTV版全69話予定のうち第1~5話まで。


北宋の仁宗を主役とする作品ということで、物語は即位から間もない天聖年間(1023~1032年)から始まります。主役の仁宗(趙禎)を演じるのは『琅琊榜』などでお馴染み王凱ですが、2話の途中まで青年役を挟んでいます。


まだ年少ということで劉太后(劉娥)の臨朝称制を受けています。しかし仁宗は叔父の八大王(趙元儼)から、実は仁宗の実母は劉太后ではなく、先帝真宗の墓を守る李蘭恵であると知らされます。ここから「狸猫換太子」の話……には行きません (^_^;) 劉太后は先帝にその識見を見込まれて仁宗の生母として政務を執ることを認められ、八大王はそんな劉太后に偏見を持ち、周囲からもちょっとおかしな人扱いされているといった具合に、従来の包青天物の設定を引っ繰り返したような感じになっています。

何とか実母と会おうとする仁宗ですが、群臣に阻まれ、せめて思い出の母の手作りの味と同じ味という蜜餞を求めれば、それが原因で果子店の梁家が破滅したことを知らされ、仁宗の苦悩は深まります。なお、この一件で若き日の韓琦と知り合うことになり、更に范仲淹、欧陽修、富弼といった具合に仁宗を支えることになる名臣たちが序盤から続々と登場。


なお、序盤で出番が多いのは、仁宗の学問の師替わりの立場の晏殊。中の人は『武林外伝』呂秀才役などでお馴染みの喻恩泰です。


伝説とは違って実母との対面がかなわないまま、彼女の病没を知らされる仁宗を支えようとするのは、仁宗の乳母の娘で幼馴染みの苗心禾。彼女は敢えて後宮に入り、仁宗の心の支えとなる道を選びます。

一方の劉太后にも死期が迫ります。仁宗は実母との対面がかなわなかった怒りは隠せないものの、一方で劉太后のことも理解できるようになっていきます。欧陽修が科挙で状元間違いなしとの評判ながら艶詞を書いていることを問題にし、別の者を状元としたり、彼女が敢えて天子の着るべき袞服で太廟での祭祀に臨もうとするのを認めたりと、その心にかなうような行動を取るようになります。そして彼女の葬儀の場で彼女を悪し様に罵る八大王を戒め……というあたりで次回へ。

古典文献からの引用を積極的に盛り込んできたり、袞服の件では細々とした礼制上の議論が展開されたりと、割と歯ごたえのある作品となっています(『陳情令』でお馴染み「明知不可為而為之」も出てきます)。今のところ流行りの宮廷物というよりは稀少な文人ドラマといった雰囲気になっており、その調子で最後まで突っ走ってくれることを願うばかりです。
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『陳情令』その10(完)

2020年04月20日 | 武侠ドラマ
『陳情令』第46~最終50話まで見ました。

これまで金光瑶を温若寒、金光善亡き後の「仙督」と奉ってきた玄門の徒の一同も、思思と碧草の告白によりその非道を知ることに。

魏無羨と藍忘機は、金光瑶が何かを隠しているらしい雲萍の観音廟へと潜入。そこで金光瑶が僧侶たちに何かを懸命に掘らせていますが、どういうわけか別々に隠されていたはずの首と胴体がつなげられた聶明玦の遺体を納める棺桶が発掘されたのでした……

そこへ藍㬢臣、金凌、江澄、聶明玦の刀霊に憑かれた温寧、藍思追らも駆けつけ、これまでの謎が明かされます。無羨は16年前になぜ剣を捨てて詭道術法を編み出したのか?金子軒の死の真相は?思追と温苑の関係は?そして金光瑶を一歩一歩追い詰める謎の人物の正体は……?

【総括】
ということで現在WOWOWで日本語版が放映中につき、ラストの詳細は省略。

昨年『長安二十四時』と同時期に中国で配信されていた本作。評価の方も『長安二十四時』と同程度に高評価を得ているということで、「え、なんで?」という感じだったのですが、実際に見てみると高評価にも納得。単なるBL古装ではありませんでした。

崖落ちで死んだはずの友と16年後に再会という第1~2話の展開は、当初は金庸『神雕侠侶』の楊過と小龍女の男&男版という印象でしたが、話が進んでいくと、魏無羨と藍忘機との関係は、グッドエンドルートに乗った金庸『笑傲江湖』の曲洋と劉正風という感じになっていきます。2人の関係に音楽が介在するのも、曲洋と劉正風のそれを連想させます。

原作者やドラマ制作スタッフがどこまで意識しているのかはわかりませんが、私の目からは、本作は非常に丁寧に作られた金庸作品のオマージュとして映りました。このあたりは、前に見た『青雲志』が『笑傲江湖』の単なるエピゴーネンにしかなっていなかったのと対照的です。また、チャイニーズゴシックホラーというか伝奇風味が最初から最後まで一貫して見られたのもポイントが高いです。イケメン推し、BLということで本作を敬遠している方々にも、是非騙されて見て欲しいと思います。
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『陳情令』その9

2020年04月15日 | 武侠ドラマ
『陳情令』第41~45話まで見ました。

他の玄門の徒と同様に清談会への出席のためということで金麟台へと足を踏み入れた莫玄羽こと魏無羨と藍忘機。


無羨は金氏の蔵宝室に隠されている聶明玦の首との「共情」により、聶明玦と金光瑶との出会い、作中でも触れられてきたこれまでの経過、そして聶明玦の最期を知ります。どうやら聶明玦の霊気を静めるために金光瑶が琴で演奏していた「清心音」が逆に命取りになり、聶明玦を走火入魔させたということのようです。しかし前回の暁星塵と薛洋の話といい、こういう長い回想シーンが二度三度と挿入されると、主人公の前の世代の回想を無理やりぶっ込んできた于正版『神雕侠侶』のトラウマが甦ってきます……

これはもう間違いないと、速攻で蔵宝室に乗り込む無羨らですが、当然の如く聶明玦の首は既に隠されてしまっています。おまけに、何やら夫の秘密を知って蔵宝室に軟禁されていた金光瑶夫人の秦愫は衆人環視の中で自害、莫玄羽=魏無羨の正体も暴かれてしまいます。

金麟台から逃亡した無羨は、藍曦臣&忘機兄弟により藍氏の「雲深不知処」に匿われます。そこで禁忌の書物を保管する禁室から、金光瑶が人の精神を狂わせる「乱魄抄」の楽譜を盗み出し、「清心音」に「乱魄抄」を織り交ぜて聶明玦に聞かせて走火入魔に導いたのではないかという結論に達します。

そこで乱葬崗で「傀儡」が大量に出現するなど異変が起こっているらしいということで、無羨と忘機は現場に急行します。乱葬崗では金凌、藍思追ら玄門の年少者たちが「傀儡」に捕らえられておりました。2人が駆けつけたタイミングで、江澄ら年少者の父兄たちも救出に到来。無羨に不審感を抱きつつも、ともに「傀儡」に対処し、乱葬崗からの脱出を図ります。ここでかつて姑蘇藍氏の弟子でありながら蘭陵金氏にすり寄って一門を独立させた蘇渉が、金光瑶・薛洋と結託しており、義城で今際の際の薛洋から陰虎符を奪取した「鬼面人」であることが明らかとなります。


そして藍思追も、実は16年前に一族とともに処刑されたはずの大梵山温氏の幼児温苑であるようなのですが……?

「傀儡」によって霊智を奪われた一行は、取り敢えず懐かしの雲夢「蓮花塢」に退避して回復に努めることになりますが、そこへ妓女の思思と、秦愫の母の侍女であったという碧草が到来。金光瑶が前宗主で父である金光善を死に追いやった事情と、秦愫が実は金光善の種であるという衝撃的な事実とが明かされ……というあたりで次回へ。

16年後になって回想シーンや過去の話があれこれ盛り込まれる一方で、無羨と忘機の友情というか交情も16年後の方がより丁寧に描かれている感じです。
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『陳情令』その8

2020年04月10日 | 武侠ドラマ
『陳情令』第36~40話まで見ました。

魏無羨と藍忘機は聶明玦の刀霊の導きに従い、蜀東の義城へ。ここらへんで死霊として操られていると思われた温寧が、実は生きたまま何者かによって「傀儡」化されていたことが判明。「神智」を取り戻して無羨と16年ぶりの再会を果たします。何となく死線を乗り越えてきたこのキャラ、意外としぶとい (^_^;)

霧が広がり住民が「傀儡」と化した義城で、無羨らは金凌や姑蘇藍氏の若者たちの一団と再会。みんなして荒れ果てた城内の中に閉じ込められます。ここで今まで思わせぶりに出てくるだけだった宋嵐と暁星塵が再登場……と思ったら、宋嵐は「傀儡」化しており、暁星塵の方は実はこれまた今まで思わせぶりに出てきただけの薛洋の変装でした。彼はどうやら温若寒に引き渡さずに隠し持っていた陰鉄の力で陰虎符を半分だけ復元した模様。

本物の暁星塵は既に遺体となっており、棺桶の中に封印されていたのでした。彼を慕う死霊の少女阿箐との「共情」(思念を読み取る力らしい)によって、無羨は過去にこの義城で何があったのかを知ることになります。


ということで10年前、盲目のふりをして道行く人から食べ物や金を騙り取る少女だった阿箐。ここで阿箐、暁星塵、薛洋との関わりが語られます。薛洋によって目を潰された宋嵐に自分の目を与え、盲目となった暁星塵は、阿箐と出会い、更には道端で倒れていた薛洋をうっかり助けてしまい、3人して義城で3年間共同生活を送ります。

この間に薛洋は目の見えない暁星塵を騙して義城の人々を「傀儡」と誤認させて殺させたりと彼を嬲っていましたが、そんな生活もたまたま宋嵐が義城を訪れたことで破綻。薛洋は例の如く暁星塵を騙して宋嵐に重傷を負わせて「傀儡」化、暁星塵自身はこれまで薛洋の悪事に荷担させられていたことを知り、絶望して自害。しかし薛洋は暁星塵の死を喜ぶどころか本気で悲しがり、ヤンデレっぷりを見せつけます。この回想シーンが割と長く、何となく于正版『神雕侠侶』の五絶のコイバナエピソードぶっ込みを連想させます。

で、時系列は現在に戻り、薛洋は無羨、忘機らに成敗されますが、彼の復元した陰虎符は「鬼面人」こと謎のマスクマンに奪取されてしまいます。そして聶明玦の首なし遺体を発見……

「鬼面人」の正体を察した無羨は、莫玄羽の名義で忘機とともに蘭陵金氏の居城金麟台へと臨みます。金麟台は金光瑶が新たな主人となっておりましたが、その夫人が何か秘密を知ってしまったようで……というところで次回へ。
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『陳情令』その7

2020年04月05日 | 武侠ドラマ
『陳情令』第31~35話まで見ました。

乱葬崗で新たな生活を始めた魏無羨&大梵山温氏の面々と四大世家側との住み分けが何となく成立し、このまま平穏な日々が続くのかと思いきや、蘭陵金氏の一族金子勲が無羨に「千瘡百孔」の悪詛をかけられたと、無羨&温寧を襲撃します。全く身に覚えのない無羨ですが、相手は聞く耳を持たず、温寧を「傀儡」化させて対抗。しかしそれが間違いのもとなのでした……


争いを止めに入ろうとした金子軒が温寧によって誤殺。悲報はその妻江厭離のもとにも届きます。一触即発の事態となり、温情・温寧ら大梵山温氏の面々は無羨を鍼で眠らせて金氏の居城金麟台へと出頭。自分たちが四大世家側に処刑されることでその責任を取ろうとしたのでした。

しかし四大世家側の怒りはそれで収まらず、かつての温氏の居城不夜天で夜な夜な無羨討伐の誓師大会が開催。眠りから覚めた無羨も現場に駆けつけ、両者の戦いが始まります。事の成り行きに不審を感じた藍忘機は無羨を止めようとしますが、無羨のほかに何者かが「陰虎符」を操ろうとしているようで、「陰虎符」が暴走、四大世家側の戦闘員を次々と「傀儡」化させ、そして姉弟子の厭離がその犠牲となります……


で、姉を殺されたことに怒った江澄の手により第1話の崖落ちへ。

それから16年後。時系列が第2話の途中に戻ります。忘機によって保護された無羨は、16年後の今になって陰虎符が絡んだ怪事件が頻発しているのを不審視し(陰虎符は16年前の「不夜天の戦い」の後に一旦破壊された模様)、全部で4片と思われた陰鉄が実は5片あり、その残り1片を持つ薛洋が陰虎符を復元しようと暗躍しているのではないかという結論に達します。ここらへんで16年後の金凌と再会したり、無羨があっさり正体を江澄に明かしたりしております。

で、2人は莫家荘で得た「剣霊」の導きに従い、西北の清河へと向かいます。清河聶氏では「不夜天の戦い」の後、宗主の聶明玦が急死し、武芸のできない弟の懐桑が宗主の座を継いでおりました。その聶氏代々の宗主の刀の墓が怪奇現象の源となっているのですが、どうやら聶明玦の死の背後に陰謀があり、彼の遺品である刀の霊がそのことを誰かに訴えかけようとしているようです。ということで16年後の世界でも伝奇風味が続きます。


おまけ。剣霊を鎮めようとして笛と琴を合奏する2人。音楽が絡む関係というと、武侠的には『笑傲江湖』の劉正風と曲洋を連想してしまいますが……
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2020年3月に読んだ本

2020年04月01日 | 読書メーター
日中関係史 1500年の交流から読むアジアの未来日中関係史 1500年の交流から読むアジアの未来感想
日本が中国に学んだ時代、中国が日本に学んだ時代、抗日の時代、再び中国が日本に学んだ時代、そして日中関係が悪化した現在という構成。中立性は意識されているようだが、やや日本側を贔屓しているというか、日本側の見解に拠っているかなという印象。近代の部分では、「シナ通」の活動や功罪について1節分程度割いても良かったのではないかと思う。中国の抗日ドラマについて触れている部分もあるが、このジャンルが映画において抗日戦争当時から存在していたことを失念しているのではないか。
読了日:03月06日 著者:エズラ・F・ヴォーゲル

木簡 古代からの便り木簡 古代からの便り感想
新聞連載をまとめたものということで取っつきやすい。木簡と紙の併用と用途の違い、木簡の様々な形状と機能、時期による書風の違い、保管と削り櫛の接合による現形の復元といった話題が面白い。多方面に行き届いた内容になっていると思う。
読了日:03月08日 著者:

ジャポニスム  流行としての「日本」 (講談社現代新書)ジャポニスム 流行としての「日本」 (講談社現代新書)感想
19世紀中頃から20世紀初頭にかけてモネやゴッホらの絵画に影響を与えたジャポニスム、その展開や影響の詳細を語る。絵画だけでなく扇子や団扇といった工芸品への注目、ジャポニスム愛好者に女性が多かったことの影響、ジャポニスムは単独の河川のようなものではなく、モダンアートなどと同様の当時の西洋画壇の海流のようなものであったこと、色彩・構図・線といった技法面での影響の詳細、そして日本画壇への環流など、総合的な概説となっている。
読了日:03月10日 著者:宮崎 克己

韓国 現地からの報告: セウォル号事件から文在寅政権まで (ちくま新書 (1483))韓国 現地からの報告: セウォル号事件から文在寅政権まで (ちくま新書 (1483))感想
セウォル号事件から映画『パラサイト』までの韓国あるいは日韓関係の時評を収める。韓国社会の問題点や日本人の目から見た違和感に触れつつも、韓国人の民主主義に対する思い入れ、真摯さが伝わってくる。韓国人が日本政府や日本の戦争犯罪に反発しつつも目の前の日本人を気遣う態度に触れたり、池上彰や武藤元駐韓大使の意見にツッコミを入れたりと、韓国社会・韓国人への最低限のリスペクトを持った上での論評になっているのがよい。(日本の韓国論に対して、こんな当然のことを特筆して褒めなければいけないのは悲しむべきことだが)
読了日:03月12日 著者:伊東 順子

中国と東部ユーラシアの歴史 (放送大学教材)中国と東部ユーラシアの歴史 (放送大学教材)感想
通常は隋唐時代の国際関係について用いられる「東部ユーラシア」概念を全時代的に押し出しているが、実際の所は魏晋南北朝までは「多元的」「多元化」、近現代は「中華民族」をキーワードとしている。「中国と東部ユーラシア」というよりは「中国と中華民族の歴史」といった方が中身としては近いような気もする。
読了日:03月15日 著者:佐川 英治,杉山 清彦

子どもたちに語る 日中二千年史 (ちくまプリマー新書 346)子どもたちに語る 日中二千年史 (ちくまプリマー新書 346)感想
ヴォーゲルのものとは対称的に前近代の日中関係の比重が大きい。寧波に関するものなど、著者が関わった研究が生かされた内容。近現代の部分についても、「暴支膺懲」という言葉がそもそも漢語から成る点など、日本人が現実の中国を忌み嫌いながらも古い中国には憧れを持ち、かつそのことを充分に自覚していないという矛盾をうまく突いている。
読了日:03月18日 著者:小島 毅

百年戦争-中世ヨーロッパ最後の戦い (中公新書 2582)百年戦争-中世ヨーロッパ最後の戦い (中公新書 2582)感想
イングランド王とフランス王との戦争として始まった百年戦争が、イングランド人とフランス人との戦争として終わるまでの過程を描く。「百年戦争」のネーミングをめぐる問題、英側による交渉ガードとしての性質が濃厚であったという仏王位継承問題、英仏の直接対決は意外に多くなく、「代理戦争」として展開されることが多かったという戦争の経過、ジャンヌ・ダルクの言動から見て取れる愛国主義といった話題を面白く読んだ。
読了日:03月21日 著者:佐藤 猛
草原の制覇: 大モンゴルまで (岩波新書)草原の制覇: 大モンゴルまで (岩波新書)感想
鮮卑からモンゴルまで、遊牧王朝の興亡を軸に「東方ユーラシア史」を描き出す。農耕・遊牧境界地帯、拓跋国家、沙陀系王朝、澶淵体制といった重要項目や近年の研究の成果を簡潔明快にまとめている。日本への密教の伝来や大元治下での朱子学の交流と高麗・日本への伝播など、文化面に目配りが効いているのも良い。欲を言えば、専著・類書があるとはいえ、秦漢時代の匈奴にも一章程度を割いて欲しかった気もするが。
読了日:03月23日 著者:古松 崇志

歴史総合パートナーズ 4 感染症と私たちの歴史・これから歴史総合パートナーズ 4 感染症と私たちの歴史・これから感想
「細菌による世界の統一」、「コレラの伝播こそが日本の開国」といった印象的なフレーズを使用しつつ古今東西の感染症の歴史を簡潔にまとめる。地名を冠した病名が差別的な感覚と表裏一体という指摘は、今まさにCOVID-19で問題になっていることである。インドや中国は人口規模が多いので、感染症による死者が多くても必ずしも人口動態に影響を及ぼさず、こうした問題が大きな研究課題になっているという点が気になるところだが…
読了日:03月24日 著者:飯島 渉

月の光 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)月の光 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)感想
前作よりは短い作品が多い印象。中国で隆盛のタイムスリップ物のパロディ「晋陽の雪」、時系列が実際の歴史とは逆方向に進んでいくという趣向の「金色昔日」の二篇を特に面白く読んだ。「晋陽の雪」は、王朝の滅亡を眼前にしてネットでのやりとりに没頭する人々が描かれているが、これは新型コロナウイルス禍を前にネットに没頭している我々の姿を連想させる。「金色昔日」の方も、ネットが廃れ、かつてグローバルにやりとりしていた頃のことが懐かしく回想されるのが印象的。
読了日:03月29日 著者:劉 慈欣
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