博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2025年1月に読んだ本

2025年02月01日 | 読書メーター
近代日本の中国学: その光と影 (アジア遊学 299)近代日本の中国学: その光と影 (アジア遊学 299)感想
近代中国と関わった漢学者ないしは「支那学」者、画家、探検家、ジャーナリストと五つの区分に分けた論集で、「支那通」に割かれた部分は最後の第Ⅴ部ぐらいであるが、その実全編を通して当時の中国学の裏面とともに学者と「支那通」との相克がテーマになっているように思う。2000年代からこの方、中国学では研究者も専門に引きこもっているのではなく現実の中国を知らなければという空気が強くなっているが、戦前から同じようなことを繰り返しているのかもしれない。
読了日:01月02日 著者:朱琳,渡辺健哉

世界は説話にみちている 東アジア説話文学論世界は説話にみちている 東アジア説話文学論感想
説話学というより説話を題材にした図像に対する図像学的な議論が多い。対象とする地域も東アジアに限らず、特に第Ⅲ部は釈迦の母の摩耶の授乳とマリアの授乳を比較したりイソップ物語の東アジアへの伝来を扱ったりと世界規模になっている。第6章の鬼に関する議論は『怪異から妖怪へ』の鬼の章と併せ読むと面白い。こちらは仏教医学へと思わぬ方向への展望が示されている。『三国志平話』冒頭の裁判説話と本邦の幸若舞曲などとの距離が近いという指摘も面白い。
読了日:01月04日 著者:小峯 和明

824人の四次元事件簿 : 「清明上河図」密碼(なぞとき)第1冊824人の四次元事件簿 : 「清明上河図」密碼(なぞとき)第1冊感想
ドラマ版が良かったので取り敢えず第1巻をと思って手に取ったが、ドラマ版が原作のエッセンスを汲み取ってうまく話を組み立てているのがわかった。原作もミステリーとしての面白さはあるものの、ドラマ版の方に軍配を揚げたい。翻訳としては台詞の文体などに問題があり、AIに翻訳させたのかと思ってしまう。はっきり言って商業出版できたのが不思議なレベル。物語の方はぶつ切りで終わってます。原作は全6巻構成のようなので、2巻でワンセットということかもしれないが。
読了日:01月07日 著者:冶 文彪

新編 書論の文化史新編 書論の文化史感想
書作品自体ではなく歴代の書論でたどる、少し変わったアプローチ(だと思う)の書道史。関連する書作品の図版やその訳文が豊富なのも良い。第14章の、「菩薩処胎経」が六朝の墨跡を伝える資料として近代の日中の文人たちから珍重され、高く評価されながらも、六朝の資料も含んだ敦煌文献が発見された途端に顧みられなくなったという話を興味深く読んだ。ただ、著者には申し訳ないが第一部の内容は同意できない部分が多く、ない方がよいのではないかと思う。
読了日:01月09日 著者:松宮貴之

西遊記事変 (ハヤカワ・ミステリ)西遊記事変 (ハヤカワ・ミステリ)感想
西天取経の旅に出た玄奘一行に八十一難が課されることになり、李長庚こと太白金星は道門代表として釈門代表の観音菩薩とともにその企画立案を担当することになるが、諸方面の横槍もあり計画通りに事が運ばず、次から次へと予想外のトラブルに見舞われることに…… 『西遊記』の舞台裏というか八百長西遊記、「八百長三国志」こと陳舜臣『秘本三国志』の西遊記版という趣き。著者の『西遊記』の読み込みぶりが伝わってきて『西遊記』ファンも大満足なのではないか。それとともに官界や大企業で生きていく機微、世知辛さも伝わってくる。
読了日:01月11日 著者:馬伯庸

近代日本の中国認識 ――徳川期儒学から東亜協同体論まで (ちくま学芸文庫マ-58-1)近代日本の中国認識 ――徳川期儒学から東亜協同体論まで (ちくま学芸文庫マ-58-1)感想
江戸中期から日中戦争期までの中国認識の変遷を概観する。中国認識はアジア認識、西洋認識、ひいては自国認識の問題とも深く関係することに気付かされる。本書で指摘されている、日清戦争以来の中国を軽蔑することで中国を理解したつもりになるというのは、現在まで引き継がれている悪弊であろう。山東出兵を背景に、吉野作造によるもし日本が中国から自国民の保護を口実に攻め込まれたらどう思うか?という問いかけや、日本の民族主義を誇るなら中国の民族主義も正当に評価せよという三木清の言葉も、現在の中国理解に通じる考え方である。
読了日:01月15日 著者:松本 三之介

遊牧王朝興亡史 モンゴル高原の5000年 (講談社選書メチエ)遊牧王朝興亡史 モンゴル高原の5000年 (講談社選書メチエ)感想
遊牧のはじまり、騎乗の開始から匈奴の民族構成(西ユーラシア人も含まれていたとのこと)、遊牧民と鉄、近年「天子単于~」の銘文を有する瓦当が出土したことで話題になった龍城、これまた最近話題になった鐙の使用開始等々、著者の専門の(だと思う)モンゴル時代のことよりも古い時代に関する内容を興味深く読んだ。柔然、ウイグルなど類書であまり取り上げられていない勢力についても紙幅を割いている。考古学の視点から探る遊牧王朝史の良書。
読了日:01月19日 著者:白石典之

孝経 儒教の歴史二千年の旅 (岩波新書 新赤版 2050)孝経 儒教の歴史二千年の旅 (岩波新書 新赤版 2050)感想
新書にありがちなサブタイトルとメインタイトルを逆にすべき例。『孝経』を中心にして見る儒学学術史であり、儒学経典史といった趣。最後の章で鄭注に沿った経文全文の翻訳があるほかは『孝経』の内容そのものはあまり問題にしていないが面白い。今文・古文の対立の図式は清末の政治・学術状況を漢代に投影したものであるとか、鄭玄と王粛の学術上の位置づけの話、特に王粛の議論が意外と穏当であり、だからこそ漢代以来の礼制を受け継ぐ南朝で受け入れられたとか、孔伝が実は『管子』を多く利用しているといった指摘が刺激的。

読了日:01月21日 著者:橋本 秀美

恋する仏教 アジア諸国の文学を育てた教え (集英社新書)恋する仏教 アジア諸国の文学を育てた教え (集英社新書)感想
アジアの文学と仏教の関係に注目。日本と中国はともかくインド、韓国、ベトナムも取り上げているのは珍しいのではないか。作品と仏教、あるいは出典とされるものの結びつけが強引かなという箇所があるのが玉に瑕。しかし日本人の本来の心情が反映されているとされがちな『万葉集』にも仏教的な要素が見て取れるという指摘は面白い。また、インドの説話で最後を仏教的な教訓で締めくくっていればどんなことを語っても許されるというのは、中国で抗日ドラマの体裁を取っていれば多少の無茶は許されるというのを連想させる。
読了日:01月22日 著者:石井 公成

歴史的に考えること──過去と対話し、未来をつくる (岩波ジュニア新書 994)歴史的に考えること──過去と対話し、未来をつくる (岩波ジュニア新書 994)感想
中国・韓国との徴用工・従軍慰安婦問題など歴史認識に関わる問題、あるいは「処理水」問題など現代の問題、沖縄の置かれた立場、ウクライナ戦争などを、「さかのぼる」「比較する」「往還する」の3つの手法により歴史的経緯や事実を概観しつつ、日本政府の対応や我々日本人の態度が適切なものであったのかを検討する。こういうのも「役に立つ」歴史学のひとつのあり方だろう。本書では昨今話題の「台湾有事」については触れられていないが、これは本書の手法を踏まえたうえでの読者に残された宿題ということだろう。
読了日:01月24日 著者:宇田川 幸大

ユダヤ人の歴史 古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで (中公新書)ユダヤ人の歴史 古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで (中公新書)感想
高校世界史では古代と近代のシオニズム以降しか取り上げられないユダヤ人の歴史を通史として提示する。著者は近現代史専門ということだが、「選民思想」「一神教」の解説など、その他の時代についてもしっかりした内容となっている。ユダヤ人が常に組み合わさる相手を求めていたこと、そしてそのことが時としてユダヤ人に対する偏見や迫害につながるという構造、ユダヤ人が宗教集団などではなく「ネーション」として意識されるようになったのはシオニズム以降であるといったことを興味深く読んだ。
読了日:01月27日 著者:鶴見太郎

東アジア現代史 (ちくま新書 1839)東アジア現代史 (ちくま新書 1839)感想
「現代史」とあるが、19世紀の「西洋の衝撃」以後の近代史の内容も扱う。個別の内容には食い足りない部分もあるが、触れなければいけない事項は一通り揃っており、日本も含めた東アジア地域の近現代史を概観し、歴史認識問題、台湾問題などについて考えるうえでの土台とするには充分だろう。歴史認識問題は通史部分で経過を押さえるほか、終盤で改めて議論されている。各国の人口問題や格差問題にも紙幅を割いているのが特徴か。
読了日:01月28日 著者:家近 亮子

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最近見てるドラマ(2025年1月)

2025年01月09日 | 読書メーター
『大奉打更人』
お調子者のクズ系リーマン楊淩は架空世界大奉に転生し、しがない捕快の許七安となり、いきなり投獄されている所で目を覚ます。どうやら同居の叔父が任務中のミスで罪に問われたことから連座で投獄されたようだが…… ということで年末年始期待の新作ですが、漢詩の暗誦で名声を得るとか『慶余年』の焼き直しのような話が続きます。男主が加わる組織「打更人」が銅鑼→銀鑼→金鑼の階級制になっており、最上級の金鑼が全部で12人という設定はどう見ても聖闘士星矢ですし。ヤンキー版『慶余年』という感じです。テンポだけはやたらいいので、その程度のお話だと思って見るのがいいのかもしれません。『永夜星河』とともに頭を空っぽにして見れる作品です。

『私たちの東京ストーリー』
20年ほど前に好評を博した中国人留学生のドキュメンタリーが企画のベースで、ドキュンタリーと同様に大富が制作に関わっているということでTverで見てみることに。時は1989年、大学生の林凜は日本留学のチャンスを国歌から与えられ、日本語がまったくわからないまま来日し、まずは大学受験資格取得をめざして日本語学校に通うことに……という筋ですが、中国人留学生が粗大ゴミのテレビを勝手に拾って帰るのは違法じゃないと言い出したり、1989年の話のはずなのに東京メトロの案内版が映ってたりと毎回のようにツッコミ所があります (^_^;) 残留孤児の子孫が反グレ化していたり留学生の不法滞在問題を扱ったりと深刻な話題も随所に盛り込まれている作品なんですが、それとともにテレビの件など日本人が違和感を持ちそうな描写がしれっと出てくるのも見所かもしれません。
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2024年12月に読んだ本

2025年01月01日 | 読書メーター
少年の君 (新潮文庫 シ 44-1)少年の君 (新潮文庫 シ 44-1)感想
タイトルから青春小説だと思って読み進めていたら、気がついたらサスペンスになっていたという、ある意味不思議な小説。いじめのような社会問題も取り上げられていて凄惨な展開ではあるものの、これまで日本で翻訳されてきた中国小説と比べると、それほど強い政治性は感じられない。こういうものが翻訳されるようになってきたということで受け手の側の日本も変わってきたのかなと感じさせられた。
読了日:12月01日 著者:玖月晞

盗墓筆記2 青銅の神樹盗墓筆記2 青銅の神樹感想
三叔の行方や阿寧の身元、悶油瓶の謎など、1巻から引っ張った気になる要素は放置したままにして新たな冒険へ。1巻とおんなじような話が続くのかと思いきや意外性のあるラストだった。今回は1巻のように「帛書の拓本」など、パッと見レベルではおかしな要素はない。
読了日:12月03日 著者:南派 三叔

現代日本人の法意識 (講談社現代新書 2758)現代日本人の法意識 (講談社現代新書 2758)感想
離婚の際に立場の弱い女性が不利益を被りがちなことや、一旦成立したきまりをとにかく絶対視する態度、冤罪が発生しやすい構造、司法やマスコミが政権と癒着しやすいこと、日本で未だに死刑が廃止されず、肯定視されがちなこと等々、裁判や法制にかかわる諸問題の根底には日本人に近代的法意識が欠如しているという問題があり、それは法律や制度は近代化したものの、法意識が江戸時代の感覚を多分に引きずっていることによるものだという内容。司法に興味はなくても社会・政治問題に関心のある向きは一読すべき。
読了日:12月08日 著者:瀬木 比呂志

〈ロシア〉が変えた江戸時代: 世界認識の転換と近代の序章 (歴史文化ライブラリー 613)〈ロシア〉が変えた江戸時代: 世界認識の転換と近代の序章 (歴史文化ライブラリー 613)感想
ラクスマン来航以来のロシアとの接触が江戸日本の地理認識や文明観を変えたという議論。西洋世界に対する認知がそれまでは暦のための天文学程度にしか利用されていなかった科学・技術の重要性に対する認識を生じさせ、それらを生み出せなかった中国に対する蔑視や文明国が未開の地域を支配するという植民地主義的な見方を内面化させることとなった。また武士たちの蘭学の興味は外国への脅威への対応の模索と表裏一体であった。江戸幕府の意外な外交・危機対処能力とともに日本の近代化が持つ危うさや歪みを考えさせられる内容となっている。
読了日:12月10日 著者:岩﨑 奈緒子

四字熟語で始める漢文入門 (ちくまプリマー新書 473)四字熟語で始める漢文入門 (ちくまプリマー新書 473)感想
細かいアラはありそうだが、漢文入門として取っつきがよい。関係する文献の一部分、一文だけ取り上げているのもミソで、全体を通して読もうとする気にさせてくれる。四字熟語の出典は書名だけでなく篇名まで挙げてくれるとなお良かったが。
読了日:12月12日 著者:円満字 二郎

中国目録学 (ちくま学芸文庫シ-47-1)中国目録学 (ちくま学芸文庫シ-47-1)感想
特に本編はそう長くはない文章ながら目録学の基本的な流れに加えて、営利出版と非営利出版との傾向の違い、印刷術の発明によって最初に印刷に賦された書物の種類、朝鮮で活版が盛行した事情といった話題、そして蔵書家のあり方や類書、輯佚、校勘など関連する事項の解説などが詰め込まれており、目録学を中心として様々なことに目配りがきいた本となっている。
読了日:12月13日 著者:清水 茂

教員不足──誰が子どもを支えるのか (岩波新書 新赤版 2041)教員不足──誰が子どもを支えるのか (岩波新書 新赤版 2041)感想
小泉時代の行政改革と第一次安倍政権時の教員免許更新制の導入により悪化した公立学校の教員不足。妊娠や病気など何らかの事情により欠員が出れば同じ校内の教員に皺寄せが行きがちとなるが、その実態は文科省等の統計からは見えない。そして教員の激務ぶりが知られるにつれ就職の選択肢として教員が敬遠されるようになり、ますます状況が悪化する。現場からの生々しい報告もあるが、メインは教員不足が発生する構造の分析が中心。参考事例としてのアメリカの教員不足の状況も興味深い。 
読了日:12月15日 著者:佐久間 亜紀

日本の漢字 (岩波新書 新赤版 991)日本の漢字 (岩波新書 新赤版 991)感想
日本独自の漢字・異体字・読みなど歴代の漢字の諸相、幽霊文字、地名などの形で特定の地域で使われている漢字、自衛隊、学生運動、メディアなど特定の文脈での漢字の略記、映画の字幕の事情、作家が生み出した漢字等々、日本の漢字使用の状況総ざらい的な内容となっている。中国や韓国など漢字文化圏に属する外国との比較がなされているのもよい。
読了日:12月17日 著者:笹原 宏之

三体0【ゼロ】 球状閃電三体0【ゼロ】 球状閃電感想
『三体』の前日譚ということだが、終盤の衝撃的というか唐突な展開にはこれで本当に『三体』とつながるの?という感じ(これについては一応「訳者あとがき」に説明がある)。面白いと思ったのは、球電に伴って発生する怪奇現象の種明かし。夢というかロマンを感じる。若い女性の描き方は相変わらずだなと思ったが。
読了日:12月20日 著者:劉 慈欣

死者の結婚 (法蔵館文庫)死者の結婚 (法蔵館文庫)感想
死者を擬制的・象徴的に結婚させることで供養するというムカサリ絵馬などの風習が古くからのものというわけでもなく、意外と現代的なものであるという議論が面白い。沖縄や中国の冥婚など、類似(するように見える)の風習との比較も行っているが、アフリカでの亡霊結婚が結婚の一形態と評価出来るのと比べて東アジアのそれはあくまで葬祭儀礼であるという話には納得。文庫版で追加された補論はそれはそれでいいという内容だが、死霊婚と直接関係するものではなく場違い感を抱いた。

読了日:12月22日 著者:櫻井義秀

「史料学」講義: 歴史は何から分かるのだろう「史料学」講義: 歴史は何から分かるのだろう感想
日本史に関するもののみとなるが、歴史学において史料にはどんなものがあるのかというより、どういうものが史料になるのかを議論した本ということになるだろうか。この種の本には珍しく文字史料に関する議論の比重が比較的低く、絵画史料や考古学史料を含めたフィールドの史料に関する議論が占める比重が高い。今時の概説ということでジェンダーについても言及されている。史料の文字情報だけでなく物情報、伝来情報、機能情報についても議論している点は昨今の中国簡牘学の論調と共通している。
読了日:12月24日 著者:小島 道裕

ヤンキーと地元 (単行本)ヤンキーと地元 (単行本)感想
沖縄のゴーパチに集うヤンキーたちの生活誌。『ハマータウンの夜郎ども』の日本版・沖縄版というか『ちむどんどん』のにーにーの世界というかそんな感じ。参与観察で出会ったヤンキーたちの暮らしぶりや彼らとの会話が中心なので、もう少し分析的な話も読みたかった気がする。安田峰俊のルポと雰囲気が似ている。安田氏の場合は社会学を意識しているわけではないと思うが、取り上げられる人々の世界観が共通しているからだろうか。
読了日:12月27日 著者:打越 正行

怪異から妖怪へ怪異から妖怪へ感想
「怪異」「神」「妖怪」といったキーワードに対する概説と、「鬼」「天狗」「河童」など個別の妖怪についての議論からなる二部構成。今回はそれぞれもともと祥瑞などの怪異だったものが時を経て妖怪と見なされるようになった経緯に着目。化野燐による怪異や妖怪は本当に怖いものなのか?という問いかけ、そして京極夏彦による妖怪をチョコレート、怪異を菓子に例えた議論が面白い。
読了日:12月29日 著者:大江 篤,久禮 旦雄,化野 燐,榎村 寛之,佐々木 聡,久留島 元,木場 貴俊,村上 紀夫,佐野 誠子,南郷 晃子,笹方 政紀,陳 宣聿,京極 夏彦

熱狂する明代 中国「四大奇書」の誕生 (角川選書 675)熱狂する明代 中国「四大奇書」の誕生 (角川選書 675)感想
白話小説を軸にして見る明代史。モンゴル時代に白話文が書記言語となった経緯から、明代にかけて知識人を中心に人々が「楽しみのための読書」を受容するようになり、知識人を書き手として四大奇書を中心とする白話小説が出版される過程を描く。平民の気質を持った激情的な明朝皇帝、清代以後ネガティブに評価された明代の学問、武官的な資質を備えた明朝の文官と文官的な資質を備えた明朝の武官、目的は手段を正当化すると信じた胡宗憲や張居正ら等々、様々な面で明代史の再評価を行っている。
読了日:12月30日 著者:小松 謙
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2024年11月に読んだ本

2024年12月01日 | 読書メーター
盗墓筆記1 地下迷宮と七つの棺/怒れる海に眠る墓盗墓筆記1 地下迷宮と七つの棺/怒れる海に眠る墓感想
帛書の拓本をとるなど一部意味のわからない記述が出てくる(翻訳ではなく原著自体に問題があるらしい)のがたまに瑕だが、伝説上の人物汪蔵海など独自の考古的世界観による冒険小説と思えば楽しめる。本巻収録の第1部、第2部の両方ともあとを引くような締め方になっているのも映画なんかではよくあるといえばよくあるパターン。
読了日:11月03日 著者:南派 三叔

現代を生きる日本史 (岩波現代文庫 学術457)現代を生きる日本史 (岩波現代文庫 学術457)感想
縄文時代の歴史は「日本史」なのか?という問いからはじまり、日本史の中の暴力を問題にしたり、民衆のふるまいや鉄火起請、闘茶などの風俗習慣を取り上げたりと少し変わった日本史講座。本書を読むと武士という存在がかなり異様に見えてくる。また闘茶の席で参加者が平等な立場で楽しめるように工夫がこらされたという話も面白い。「現代」の視点で歴史を見るとはこういうことなのかと気付かされる本。
読了日:11月04日 著者:須田 努,清水 克行

若草物語 (新潮文庫 オ 1-1)若草物語 (新潮文庫 オ 1-1)感想
今回の新訳で改めて読み直してみて本当に美しい物語だなと思った。比べるのはナンだが、同じ時期の南部を舞台にした『風と共に去りぬ』と落差がありすぎる。ジョーがプラムフィールドを「お墓みたいに陽気な場所」と評しているのには笑ってしまったが。
読了日:11月07日 著者:ルイーザ・メイ・オルコット

中国ミステリー探訪 千年の事件簿から (潮文庫)中国ミステリー探訪 千年の事件簿から (潮文庫)感想
六朝志怪小説から唐代伝奇、三言二拍、公案小説などを経て新中国成立あたりまでの中国のミステリーの系譜を辿る。ミステリーもほかの伝統文芸と同様、先行作品による典故の積み重ねで成立している。近代になると西洋のミステリーの翻訳も行われるが、ホームズの翻訳などは日本よりも早かったという。しかし武侠小説まで扱ったなら現代の古龍作品も扱ってほしかった。末尾の21世紀の程小青・孫了紅誕生の予言は実現しているが、著者は亡くなる前にそれを知っていたのだろうか?
読了日:11月09日 著者:井波 律子

南北戦争英雄伝-分断のアメリカを戦った男たち (中公新書ラクレ, 825)南北戦争英雄伝-分断のアメリカを戦った男たち (中公新書ラクレ, 825)感想
南北戦争対比列伝、ないしは南北戦争名将珍将列伝といった趣。もともと軍人ではなく民間で発明家稼業をしていたバーンサイドなど、個々の将軍・提督たちの列伝はもちろん面白いのだが、リンカーンが当時周囲からどのような大統領だと思われていたのかとか、アメリカ連合国が成り立ちからして分権的であったとか、歴史的な意義についてもちゃんと解説しているのがよい。しかしシャーマンが配下に食糧の現地調達をさせ、民間人からの略奪も辞さなかったというのは中国史でもよく見るやり方で、こういうのを果たして「総力戦」と呼ぶのかという疑問も。
読了日:11月11日 著者:小川 寛大

日本漢字全史 (ちくま新書 1825)日本漢字全史 (ちくま新書 1825)感想
漢字伝来からJIS漢字まで、漢字の字形、字音、(特に日本での)字義、漢語、漢文等の文体、訓読、部首、仮名、印刷、辞書等々の変化や展開をたどる。通常あまり詳しく触れられない唐音や唐話についても詳しい。教科書・便覧的な使い方もできそう。近現代、特に戦後の状況が駆け足気味なのは少々残念だが、それでも要点はちゃんと押さえてある。
読了日:11月14日 著者:沖森 卓也
『孫子』の読書史 「解答のない兵法」の魅力 (講談社学術文庫)『孫子』の読書史 「解答のない兵法」の魅力 (講談社学術文庫)感想
第Ⅰ部では銀雀山漢簡本の位置づけ、伝統中国や日本での『孫子』の扱いの変化、西洋での翻訳の問題と『孫子』に対する問題意識の変化等々読みどころとなる論点が多い。本書によって『孫子』だけでなく漢籍そのものに対する理解も深まるだろう。第Ⅱ部の「作品世界を読む」でも『群書治要』での摘録や西夏語訳など、ほかの『孫子』本ではまず取り上げられないテキストを紹介している。
読了日:11月20日 著者:平田 昌司

ルポ アフリカに進出する日本の新宗教 増補新版 (ちくま文庫う-48-1)ルポ アフリカに進出する日本の新宗教 増補新版 (ちくま文庫う-48-1)感想
世界中のカルト団体が進出し、受け入れられているアフリカ諸国の実相を描き出す。宗教に対する我々とアフリカ人(こうまとめると主語が大きすぎるかもしれないが)との感覚の違いに驚かされる。真摯な態度で真理を求めるかと思えば団体から支給される奨学金目当てで入信するなど、ただ現世利益を求めるだけという態度も見られる。また、統一協会にしても国の経済水準が違えば対応が異なり、霊感商法や多額の献金など日本で起こるようなトラブルは起こらないというのも印象的だった。
読了日:11月22日 著者:上野 庸平

ロベスピエール:民主主義を信じた「独裁者」ロベスピエール:民主主義を信じた「独裁者」感想
ロベスピエールの生涯と思想。どちらかというと彼の事跡よりは著述や演説などからその思想をたどることの方が主となっている。ルソーに対する思い入れや女性の権利に対する見方などはなかなか面白い。副題にもあるようなロベスピエールが独裁者だったかという問いには本書は否定的である。サン・ジュストのようなシンパが存在しなければ政治家としてかなり違った生涯を送ったのではないかと思わせられる。また、時代背景としてフランス革命期には様々な陰謀論やデマが飛び交いっていたというのは、何やら昨今の政治状況とも重なるように思われる。
読了日:11月26日 著者:髙山 裕二

赤毛のアン論 八つの扉 (文春新書)赤毛のアン論 八つの扉 (文春新書)感想
少女小説と思われがちだが、実はその範疇を超えるものであるという『赤毛のアン』。日本初という全訳者による『赤毛のアン』の文化的、文学的、歴史的、政治的背景に関する解説。正直『赤毛のアン』を読んでないとしんどい内容で、これを読んでアンに興味を持つというものではないように思う。最終章で触れられている翻訳の経緯や苦労は、デジタルデータベース黎明期の話もあったりしてなかなか面白い。
読了日:11月28日 著者:松本 侑子

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2024年10月に読んだ本

2024年11月01日 | 読書メーター
/>検察官の遺言 (ハヤカワ・ミステリ文庫)検察官の遺言 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
『バッド・キッズ』の作者による官場ミステリー。弁護士による交友関係のもつれかと思われた殺人事件。しかし背後関係を探っていくうちに十数年前の不可解な事件に辿り着き……という筋。中国では力がある者のみが義や侠を実行することができる。さもなくば自分や身内が破滅に追い込まれるという話を思い起こさせるような展開が続く。何かモデルなった事件があるのかと思いきや、解説によると周永康事件を意識して書かれたとのこと。
読了日:10月01日 著者:紫金陳

桃源亭へようこそ 中国料理店店主・陶展文の事件簿 (徳間文庫)桃源亭へようこそ 中国料理店店主・陶展文の事件簿 (徳間文庫)感想
神戸を舞台にした在日華人連作ミステリー。本作収録のむ諸篇では陶展文の料理人、拳法家、漢方医という盛りに盛った設定がいまひとつ生かされていないのではという気もしないではない。戦時中の台湾人に対する扱いが鍵となる「軌跡は消えず」、歴史や考古ネタ満載の「王直の財宝」(水中考古学の話題もあり!)を面白く読んだ。最後の一篇は陶展文が登場しない別物の作品だが、戦争を挟んだ時期の華人社会の模様が描かれていてこれも面白い。
読了日:10月02日 著者:陳舜臣

創価学会 現代日本の模倣国家 (講談社選書メチエ 811)創価学会 現代日本の模倣国家 (講談社選書メチエ 811)感想
「模倣国家」としての創価学会、牧口・戸田・池田の三代の会長の事跡、学会における女性の扱いと彼女たちが果たした役割等々話題は多岐にのぼるが、最も印象的なのは会員に読書に試験、そして丸暗記を含めた学習が求められることである。特に読書は『人間革命』など学会の出版物だけでなく、『三国志』や『巌窟王』など池田大作の愛読書についても求められることがあるらしく、他の宗教団体と比べても出色ではないかと思う。思わぬ形で読書と学習の効用を思い知らされた。その他生々しい参与観察の成果も読みどころ。
読了日:10月05日 著者:レヴィ・マクローリン

198Xのファミコン狂騒曲198Xのファミコン狂騒曲感想
ファミ通元編集長東府屋ファミ坊の回顧録。話としては編集長から編集人に昇格したあたりまででアスキーを辞めてアクセラを立ちあげる話はなし。組織としては長らくファミ通独自の編集部を持てなかったこと、雑誌としては後発で売り上げに苦しんだ話や、元職も含めて他誌の編集者から雑誌作りの技術を学んだこと、後発ゆえに一般誌にあってゲーム雑誌にはない要素を取り入れていったことなどが印象的。『オホーツクに消ゆ』など、自身が関わったゲーム制作の話の占める比重が思ったより多い。後任の編集長浜村氏の回顧録も読んでみたい。
読了日:10月07日 著者:塩崎剛三

犬は「びよ」と鳴いていた: 日本語は擬音語・擬態語が面白い (光文社新書 56)犬は「びよ」と鳴いていた: 日本語は擬音語・擬態語が面白い (光文社新書 56)感想
日本語の擬音語・擬態語の変遷。前半では多くの表現が消えていったようで、その実形を変えつつ現代まで生き残ったものも多いという議論が展開される。あとは「チウき殺す」→「突き殺す」、「モウぎう」→『蒙求』といったように、動物の鳴き声などを掛詞として使用する例も多かったとのこと。これは忘れられた伝統として今こそ日本語表現に復興させるべきではないかと思う。タイトルにある犬の鳴き声「びよ」が「わん」へと変遷していった背景として、野犬と飼い犬の鳴き声の違いを挙げているのは面白い。
読了日:10月09日 著者:山口 仲美

愛と欲望のナチズム (講談社学術文庫 2838)愛と欲望のナチズム (講談社学術文庫 2838)感想
旧来の健全な道徳を標榜しつつも、ゲルマン民族の「健康的な肉体」をアピールし、「産めよ殖やせよ」を推進せざるを得ないという都合から、夫婦以外の形も含めた男女の性的関係を肯定せざるを得ないという矛盾を抱えていたナチ政権下の性をめぐるあれこれ。街中にヌード誌が氾濫し、前線の兵士が女性を求めるのと同時に銃後の女性たちも行きずりの相手を求め、少女も含めた青少年の性的非行も横行していた。同じ同盟国側ながら同時代の日本国内の状況と随分違うが、あるいは日本でも知られていないだけでそういう動きが見られたのだろうか?
読了日:10月12日 著者:田野 大輔

中国の思想 (ちくま学芸文庫ム-14-1)中国の思想 (ちくま学芸文庫ム-14-1)感想
先秦から新中国成立までの中国思想史の展開をわかりやすい語り口で辿る。諸子の成立年代をとかく引き下げがちだったり、『周礼』『左伝』を前漢末の儒者の創作としたりと、先秦の部分に関してはさすがに古さが目立つが、それでも『孟子』の性善説と『荀子』の性悪説を対比し、人性論において実は根本的な対立はないのではないかという疑問を提示したり、名家には論理的錯誤を利用して説を立てるのに強い関心があり、彼らのそうした詭弁的な側面が他の学派からの反論を招いたのではないかとする点など、なかなか面白い評価が多い。
読了日:10月14日 著者:村山 吉廣

ゼロからの著作権──学校・社会・SNSの情報ルール (岩波ジュニア新書 990)ゼロからの著作権──学校・社会・SNSの情報ルール (岩波ジュニア新書 990)感想
中高生が手に取るという想定からか、教員が授業で作文を読み上げる行為や、図工の時間に作った粘土細工に手を加えて出展する行為に問題はないか?クラスのみんなで作詩作曲した歌をネットにアップする際の注意点は?他人の文章を引用する際のルールは?など学校生活に即した問題が多く取り上げられている。ただ、本の表紙をネットにアップすることについては昔講演で専門家からまったく逆の見解を聞いたのだが……
読了日:10月15日 著者:宮武 久佳

加耶/任那―古代朝鮮に倭の拠点はあったか (中公新書 2828)加耶/任那―古代朝鮮に倭の拠点はあったか (中公新書 2828)感想
加耶ないしは任那について、戦前の学説から近年の見解までよく整理されていると思う。『日本書紀』分注に引かれる百済三書の史料的性格についての議論や、いわゆる任那日本府が倭国の統制下にはない、独立的な性格を持った現地で土着した反百済・親加耶の倭系の人々の総称であり、百済の倭系官僚の裏返しのような存在で、その捉え方は倭国と百済とで相違があったという議論を面白く読んだ。これは言い換えれば倭と加耶、百済間のマージナルな存在であり、後の時代の倭寇のマージナル性とも通じるのではないか。
読了日:10月23日 著者:仁藤 敦史

就職氷河期世代-データで読み解く所得・家族形成・格差 (中公新書 2825)就職氷河期世代-データで読み解く所得・家族形成・格差 (中公新書 2825)感想
統計から読み解く氷河期世代の就職状況と経済、家族。氷河期世代として色々身につまされる指摘や論点が満載だが、印象に残ったのは氷河期世代もさることながら、その直後のポスト氷河期世代も当時「売り手市場」などと言われながらも実は就職状況は氷河期前半と同水準だったということと、世間的な論調とは逆に氷河期世代以降の女性の高学歴化が少子化に影響を与えたという事実は読み取れず、むしろ高卒女性より大卒女性の方が結婚と出産をする可能性が高くなっていること、また直前の段階ジュニア世代より子どもの数が多いという指摘である。
読了日:10月24日 著者:近藤 絢子

女たちの平安後期―紫式部から源平までの200年 (中公新書 2829)女たちの平安後期―紫式部から源平までの200年 (中公新書 2829)感想
道長の時代から承久の乱あたりまで。道長の前後から登場する女院を軸に、彼女たちのサロンに出入りした女房歌人、斎王、天皇の乳母など、前著に引き続き女性たちの動きや彼女たちのもとに集積された荘園などの財、人材を辿る。その絡みで女院たちに仕えた武人貴族の動きや、武士の起こり問題についても言及がある。女性を中心に見ていくと、政治にしろ人間関係にろ平安時代の見え方が随分変わってくるんだなと感じる。
読了日:10月27日 著者:榎村 寛之

出雲神話 (講談社学術文庫)出雲神話 (講談社学術文庫)感想
出雲と大和を対立する勢力として見ないというのが新鮮。国譲り神話が出雲国内の状況の反映で、元々の伝承は大社の鎮座縁起であるというのも面白い。ただ、出雲が「宗教王国」であるというの議論はいまひとつピンと来ないが、あの時代の倭に中国でいえば三国志に出てくる張魯の五斗米道のような勢力があったのだろうか?また神話上で不本意な書かれ方を押しつけられたアメノホヒの後裔を称する出雲国造氏らはそれで納得したのだろうか?
読了日:10月28日 著者:松前 健

風呂と愛国: 「清潔な国民」はいかに生まれたか (NHK出版新書 729)風呂と愛国: 「清潔な国民」はいかに生まれたか (NHK出版新書 729)感想
江戸時代の入浴習慣が近代になってから西洋的な「清潔」の観念から評価されるようになり、外国人と比較のうえで「日本人は入浴好きである」と国民性と結びつけられ、修身の授業や家庭教育を通じて子どもたちやアイヌ、沖縄といった外地の人々にも入浴習慣を徹底するに至る過程を描く。戦前・戦中までは清潔さが国家によって押しつけられたということになりそうだが、昨今は逆に精神的不潔さというか悪どさのようなものが押しつけられがちに見えるのが何とも皮肉なことである。
読了日:10月30日 著者:川端 美季

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2024年9月に読んだ本

2024年10月01日 | 読書メーター
安田峰俊『中国ぎらいのための中国史』についてはこちらにレビューを書きました。

紫禁城の至宝を救え: 日中戦争惨禍から美術品を守った学芸員たち紫禁城の至宝を救え: 日中戦争惨禍から美術品を守った学芸員たち感想日中戦争を承けての北京から上海、そこから更に武漢、重慶、楽山、宝鶏などへの故宮の文物の疎開作業と関係者について。特に当時の故宮博物院院長にして古文字学者としても著名な馬衡や、後に台湾に渡ることになる荘厳、那志良らの生涯について詳述している。日本軍の爆撃以外にも現地での思わぬトラブル、船や自動車などの運搬上の問題、関係人員や文物を避難させた土地の地元民による問題、避難所での湿気や害虫の存在、火災の危険性、日本軍に見つかりやすい目立つ屋根といった、関係者が見舞われた様々な苦難を描き出す。読了日:09月01日 著者:アダム・ブルックス

出世と恋愛 近代文学で読む男と女 (講談社現代新書)出世と恋愛 近代文学で読む男と女 (講談社現代新書)感想日本近代文学に見える男と女のすれ違い。『三四郎』『金色夜叉』『友情』『野菊の墓』『不如帰』『真珠夫人』など有名作品が中心。印象づけられるのは身勝手さや鈍感さにより、女性と向き合わない近代の男たちの姿、そしてそんな男たちと作者の都合により翻弄される女性たちの姿である。山本有三は時代が変わったということで戦後は『路傍の石』の続きを書こうとしなかったということだが、こちらも取り上げられてる小説の男たちには感情移入できそうにない。と言いつつ『真珠夫人』など、読んでみたい気にさせられる作品もあったが。読了日:09月02日 著者:斎藤 美奈子

笑いで歴史学を変える方法 歴史初心者からアカデミアまで (星海社新書 306)笑いで歴史学を変える方法 歴史初心者からアカデミアまで (星海社新書 306)感想「笑い」を基調とした歴史学雑誌で有名になった著者による歴史学本。タイトルにある「笑い」による歴史学よりは、大学教員の仕事、学会の業務、学会誌の査読など、その前提となるアカデミズムとしての歴史学回りの話が読みどころ。アマチュアが歴史家として活動する方法も紹介されているので、歴史学に限らず人文系の分野で何かしら学術に関することで関わりたいアマチュアは参考になることが多いのではないかと思う。「笑い」については、決して賛同はしないが、著者の「やじ」に対する偏愛ぶりは伝わる。読了日:09月04日 著者:池田 さなえ

成瀬は信じた道をいく成瀬は信じた道をいく感想大学生となり、地元の観光大使にもなった成瀬。ノリは前作と変わらず楽しいが、前作の登場人物が島崎以外はあまり絡んでこず、寂しい気も。観光大使の相方篠原は母世代と同じく成瀬と長い付き合いになるんだろうか?成瀬の話は今回でひとまず幕ということになりそうだが、彼女が就職(あるいは進学後)どうマイペースを保ちながら地元愛を貫徹していくのか気になる。読了日:09月05日 著者:宮島 未奈

増補 日本霊異記の世界 (角川ソフィア文庫)増補 日本霊異記の世界 (角川ソフィア文庫)感想記紀神話と『今昔物語集』など中世説話をつなぐ存在として『日本霊異記』を読み解く。一連の動物報恩譚から、動物の恩返しを語る説話が日本人の心の優しさを示すというような言説を否定し、そういったものが現れてくるのは仏教の伝来や流布によるものであると再三にわたって論じている。また、討債鬼説話など、中国の説話の影響を受けたものも結構存在するようだ。『今昔物語集』なんかと比べると影が薄い文献だが、手軽な形での訳本が読みたくなってくる。読了日:09月07日 著者:三浦 佑之

ことばの危機 大学入試改革・教育政策を問う (集英社新書)ことばの危機 大学入試改革・教育政策を問う (集英社新書)感想特に国語科の学習指導要領の改定と大学入試改革を承けての東大文学部の教員による議論。ネットでもよく取り沙汰される読解力の定義の問題、『論語』から孔子の対人配慮が読み取れるという議論、昨今流行りの古典の複合問題が、複合的な材料を用いるということ自体が目的化しているという批判、文学とそうでないものとを区別したがる人は文学が怖いのではないかという指摘など、話題は多岐に渡っている。一時期話題になった古典不要論とも通じそうな議論もある。論理や実用にこだわる向きには一読されたい。読了日:09月08日 著者:阿部 公彦,沼野 充義,納富 信留,大西 克也,安藤 宏,東京大学文学部広報委員会

沖縄について私たちが知っておきたいこと (ちくまプリマー新書 457)沖縄について私たちが知っておきたいこと (ちくまプリマー新書 457)感想沖縄の近現代史や基地問題など、「構造的差別」につながるトピックをわかりやすく簡潔にまとめている。沖縄が米軍基地に経済的に依存しているといったよまあるデマについても反論がなされている。明治期には尖閣諸島も含めた宮古・八重島が切り離し可能な領土とされていたこと、終戦交渉時には沖縄全体が日本の「固有本土」とされていなかったことについてや、最後の対談では沖縄好きの本土人によるコロニアリズムの問題についても言及されている。読了日:09月09日 著者:高橋 哲哉

歴史学はこう考える (ちくま新書 1815)歴史学はこう考える (ちくま新書 1815)感想著者の専門である日本近代史を中心として、著者の論文、あるいは政治史・経済史・社会史の一定の定評のある論文を素材に、論文の書かれ方、読み方を解説することで、歴史研究とはどういう営みなのかを説く。それに付随して史料批判の実際、時代区分の問題などについても言及している。とにかく具体的なので、従来の歴史学入門や史学概論が雲を掴むような話でよくわからないという人にも有用かもしれない。歴史はともすると「使えてしまう」危険な存在、文書館を利用するのは研究者だけではないという話が印象に残った。読了日:09月12日 著者:松沢 裕作

中国文学の歴史 元明清の白話文学 (東方選書63)中国文学の歴史 元明清の白話文学 (東方選書63)感想金元の曲や元の雑劇から元明の白話小説が生まれ、四大奇書が白話を用いつつも知識人によって洗練され、『紅楼夢』の段階で近代文学を受け入れる素地が整うまでの展開を描く。小説などの文章の引用を織り交ぜつつ、四大奇書をはじめとする当時の代表的な作品の新しさと魅力、そしてその時々の出版文化などについても解説している。『三国』『水滸伝』や『金瓶梅』の背景にある政治性の話が面白い。読了日:09月15日 著者:小松謙

張騫 シルクロードの開拓者 (講談社学術文庫)張騫 シルクロードの開拓者 (講談社学術文庫)感想張騫の生涯だけでなく、広くその後人たちの事跡や漢の西域経営についてまとめる。著者がNHKの『シルクロード』のチーフディレクターということで、所々で現地の体験についても触れられるが、本編よりそちらの方がおもしろい。後人たちについては烏孫公主、解憂公主など女性たちの活躍についても紹介されている。
読了日:09月20日 著者:田川 純三

『韓非子』入門『韓非子』入門感想入門書として面白みもないかわりにそう変なことも書いていない。割とオーソドックスな概説だと思う。著者の特色が現れているのは終章の秦以後の法思想の展開、中国の律令が儒家思想を法源とするに至るまでを述べた部分ということになるか。読了日:09月21日 著者:渡邉義浩

レコンキスタ―「スペイン」を生んだ中世800年の戦争と平和 (中公新書, 2820)レコンキスタ―「スペイン」を生んだ中世800年の戦争と平和 (中公新書, 2820)感想実は19世紀にスペインの国民統合のために創られた神話だというレコンキスタ。その実情はといえば、キリスト教徒、ムスリムといった宗教勢力ごとにまとまっているわけでもなく、それぞれ内部で対立を繰り返し、ムスリム勢力がキリスト教勢力と同盟を結び、エル・シッドのようにキリスト教徒がムスリム勢力に仕えるというのもしばしば見られた。よく言われるこの地域での信仰の寛容さはといえば、これも寛容とも言えるし不寛容とも言えるといった具合。期待した大航海時代に絡めた記述はないこともないという程度。読了日:09月23日 著者:黒田 祐我

女の氏名誕生 ――人名へのこだわりはいかにして生まれたのか (ちくま新書 1818)女の氏名誕生 ――人名へのこだわりはいかにして生まれたのか (ちくま新書 1818)感想『氏名の誕生』の姉妹編で、前著で描ききれなかった女性の氏名について。「お」のつく名前と近代の「~子」との関係、表記の揺れ社会的身分の変化に伴う改名、苗字をつけないものとされていた女性の名前、そして近代以後の氏名政策と氏名の混乱のはじまりといった話題を扱う。しかし実際のところ、本書は女性の氏名にとどまらず、男性の氏名も含めた印鑑の問題、近代以後の漢字表記の問題、姓名判断の流行など、幅広い内容を扱っている。漢字表記の問題に関心のある向きも読んで損はないだろう。読了日:09月28日 著者:尾脇 秀和
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2024年8月に読んだ本

2024年09月01日 | 読書メーター
その悩み、古典が解決します。その悩み、古典が解決します。感想
自己啓発本の体裁をとった古典入門(でいいんですよね?)参照されている古典は江戸時代のものというのが珍しいかもしれない。西鶴、近松、『雨月物語』といったメジャー名作品もあるかと思えば本草書もあり。作品は時によって作者の意図を超えた所に面白さがあるだとか、古典の世界は先行作品を踏まえてなんぼだとか、文学・古典理解に資するような解説もある。
読了日:08月01日 著者:菱岡憲司

日ソ戦争-帝国日本最後の戦い (中公新書 2798)日ソ戦争-帝国日本最後の戦い (中公新書 2798)感想
8/8のソ連参戦から9月上旬までのソ連との戦争について。満洲の状況だけでなく南樺太や千島列島の状況にも紙幅を割いている。日本側の満洲からの引き上げの苦労ばかり語られがちだが、ソ連軍は軍紀は緩かったが情報業務を重視したとか、日本側が中国人に対しては身に覚えがあったので報復を警戒していたが、ソ連に対しては全く警戒していなかったこと、満洲国の崩壊が日本の敗北と直結していたことが国家としての本質を示しているという指摘、シベリア抑留でのソ連兵の「恩義」を感じさせる話などを面白く読んだ。
読了日:08月03日 著者:麻田 雅文

読めない文字に挑んだ人々: ヒエログリフ解読1600年史読めない文字に挑んだ人々: ヒエログリフ解読1600年史感想
前半がヒエログリフなど古代エジプト文字の基礎知識、後半が古代ギリシア・ローマから現代までの研究者列伝という構成。シャンポリオン以前の古代・中世の学者もコプト語との関係に注目するなど、後につながる研究をしていたりしてなかなかバカにしたものではないと感じる。また近世以後の西欧の学者に中国語の研究もしている人が目立つ(ほかならぬシャンポリオンもそうである)。ギーニュは中国文明起源説で知られるが、フン=匈奴同一説も提唱していたことは本書によってはじめて知った。
読了日:08月05日 著者:宮川 創

講義 宗教の「戦争」論: 不殺生と殺人肯定の論理講義 宗教の「戦争」論: 不殺生と殺人肯定の論理感想
世界の宗教は戦争、そしてその前提となる不殺生戒についてどのように議論してきたかをそれぞれの専門家が講義する。総じて当初教義レベルでは殺人を禁じ、戦争には否定的だが、国家とつながりを持つことで戦争を正当化するようになるという流れはおおむね共通しているようだ。徹底的な不殺生を説くジャイナ教が戦争については微妙な態度を採っていること、正教会の教権と俗権の一致の伝統がウクライナ戦争での教会の態度に影響を及ぼしていること、儒教の正戦論が戦前・戦中の日本の戦争観に大きな影響を与えているといったあたりが注目ポイント。
読了日:08月07日 著者:

成瀬は天下を取りにいく成瀬は天下を取りにいく感想
変人優等生・成瀬と凡人の島崎、あるいはぬっきーとの友情物語プラスアルファという感じ。取り敢えず予想とは少し違う話だった。タクローをめぐる話など、成瀬たちの親世代の大人の物語も盛り込まれてるのもよい。個人的に私もその世代なんで、むしろそっちの方に感情移入したぐらい。氷河期世代の読者だとそういう人も多いのではないか?
読了日:08月08日 著者:宮島 未奈

中国共産党vsフェミニズム (ちくま新書 1812)中国共産党vsフェミニズム (ちくま新書 1812)感想
一読して、中国共産党がフェミニズムを槍玉に挙げているというより、習近平政権が社会運動全体を警戒しており、その中にフェミニズムも含まれているだけのことではないかという印象を抱いた(無論それはそれで問題なのだが)。最後の天安門事件の指導者王丹が性加害で告発されたことを取り上げ、彼を含む民連が家父長制的な感覚を持っているということでは共産党と何ら変わりないという指摘は興味深く読んだ。近年中国ドラマでは現代劇も時代劇もフェミニズムが底流にある作品が主流となっているが、それについて全く言及されていないのも不満。
読了日:08月09日 著者:中澤 穣

ヨーロッパ近世史 (ちくま新書 1811)ヨーロッパ近世史 (ちくま新書 1811)感想
複合国家論(あるいは複合君主政論)から見るヨーロッパ近世史。従来中央集権敵性格が強いとされてきたスペインやフランスも実は複合国家としての性質を備えていたこと、複合国家が王権や議会を統合の紐帯とし、その過程で各国でユダヤ人やカトリック教徒などの異分子を排除してきたこと、アメリカ合衆国も州を単位とした複合国家であるといった指摘が面白い。そして各国とも複合国家としての性質を現在も引き継いでおり、それがEUをめぐる問題など現在の欧州地域の問題にも影響しているのである。
読了日:08月12日 著者:岩井 淳

モノからみた中国古代文化 衣食住行から科学芸術まで (東方学術翻訳叢書)モノからみた中国古代文化 衣食住行から科学芸術まで (東方学術翻訳叢書)感想
先秦時代から明清時代までの中国社会生活史、工業史のよい概説。農業、食、服装、建築、家具等々の各方面についての知識と考古学的発見がまとめられている。古文字の解説など所々にアラが見えるものの、春秋時代の餛飩の出土例が存在するとか、胡服の実際、東西の古代の車馬には繋駕法に大きな違いがあること、中国で船の舵が発意されたのは漢代であること、金縷玉衣はあくまで棺の一種であって衣服ではないといった知識が得られる。
読了日:08月19日 著者:孫機

世界の歴史〈10〉フランス革命とナポレオン (中公文庫)世界の歴史〈10〉フランス革命とナポレオン (中公文庫)感想
革命の前段階から革命の展開、そしてナポレオンの登場から退場までをバランスよくまとめている。フランス革命が世界に与えた影響、日本への影響についても紙幅を割いている。革命にはフランス革命的要素とナポレオン的要素とがあり、日本の場合は明治維新以来ナポレオン的要素が先行し、フランス革命的要素は後から着いてくる形になったという。新中国に対する展望があるのも面白い。
読了日:08月20日 著者:桑原 武夫

アメリカ革命-独立戦争から憲法制定、民主主義の拡大まで (中公新書 2817)アメリカ革命-独立戦争から憲法制定、民主主義の拡大まで (中公新書 2817)感想
独立革命時に13州側にも英国王に愛着を抱く人が大半であったこと、「代表なくして課税なし」の実相、異論百出して「妥協の産物」として制定された連邦憲法、それが一旦世に出ると制定会議で異論を唱えた者も憲法を擁護したり拠り所としたこと、建国初期から「帝国」の様相を呈していた合衆国など、最新の研究に沿って独立の前後から南北戦争の頃までのアメリカについて新しい気付きを与えてくれる。
読了日:08月22日 著者:上村 剛

妖怪を名づける: 鬼魅の名は (607) (歴史文化ライブラリー 607)妖怪を名づける: 鬼魅の名は (607) (歴史文化ライブラリー 607)感想
江戸時代の妖怪の(認知と命名の)急増は、江戸幕府がそれまでの政府と違って危機管理としての怪異には関知しないという方針を採ったことや怪異が知的好奇心の対象となったことが影響し、とりわけ俳人が大きな役割を担ったことを指摘する。松尾芭蕉や西鶴、蕪村ら著名な俳人も妖怪の命名に関わり、芭蕉をモデルとしたと見られる妖怪も存在するという。怪異論として意外背生のある議論になっているが、俳諧論としても意外であることだろう。江戸時代の俳諧を研究している人の評価も聞きたいところ。
読了日:08月24日 著者:香川 雅信

物語フランス革命: バスチ-ユ陥落からナポレオン戴冠まで (中公新書 1963)物語フランス革命: バスチ-ユ陥落からナポレオン戴冠まで (中公新書 1963)感想
フランス革命の背景、展開、ポイントなどを要領よくまとめている。改革派の国王だったルイ16世、「合法性の人」ロベスピエールといった革命の主役たちに新たな光を当て、特にルイ16世に対しては肯定的再評価を行っている。テロワーニュ・ド・メリクール、ロラン夫人、王妹エリザベトといった、今まで知られていなかった人々も含めて女性たちの動きや役割を重点的に紹介しているのも特徴。もちろん日本の明治維新との対比や、革命の日本への影響についても触れられている。
読了日:08月26日 著者:安達 正勝

王の逃亡:フランス革命を変えた夏王の逃亡:フランス革命を変えた夏感想
フランス革命の展開に決定的な影響を与えたヴァレンヌ逃亡事件の経過と、関係者の述懐、諸派の議員たちや国民の反応、その後の展開を追う。逃亡の失敗により、国王に対する国民の敬愛や信頼が失われ、また国王の存在を前提としていた革命後の政治体制や憲法のあり方に疑念が突き付けられ、フランスは君主制から共和制へと向かうことになる。その様子も丁寧に描き出している。真に問うべきは国王がなぜ逃亡に失敗したかではなく、なぜあわや成功しそうになったかであるという視点が面白い。
読了日:08月29日 著者:ティモシー・タケット

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2024年7月に読んだ本

2024年08月01日 | 読書メーター
古墳と埴輪 (岩波新書 新赤版 2020)古墳と埴輪 (岩波新書 新赤版 2020)感想
古代中国の墓制・葬制の影響という観点から、日本の古墳の時期的な変化と、古墳・埴輪から見出せる葬送儀礼、他界観を議論。キーワードは死者の魂が鳥の先導する船に乗って他界に行くという「天鳥船信仰」ということになるだろうか。中国の影響に関する結びつけがやや安直な気がしないでもないが、古墳建造と王権に関する議論は同時期に出た『王墓の謎』よりは説得力がある。
読了日:07月02日 著者:和田 晴吾

草の根の中国: 村落ガバナンスと資源循環草の根の中国: 村落ガバナンスと資源循環感想
『中国農村の現在』の元になった論集ということで読む。こちらは特に特定の農村を対象として農村のガバナンスに焦点を当てる。自分たちの住む地域の問題について自力更生を図るというのは当たり前のことだという気もするが、インドなんかと比較するとそうではないらしい。道路建設と比べて村の廟の再建については自力更生度が上がるという指摘も面白い。基本的に選挙が存在しないことが、中国農村の個性(ユニークさと言ってしまってもいいだろう)を形作っているということが本書を通して見えてくる。
読了日:07月10日 著者:田原 史起

中国古代軍事制度の総合的研究中国古代軍事制度の総合的研究感想
科研費論集の再版。日本では政治的事情から軍事史研究が手薄と言われることもあるが、本書の研究動向編によると、身近に軍事と接しているはずの韓国でも同様の状況なのだという。論文編では戦車、個別の戦役・戦争、軍功・将軍号といった官制に関わる問題りほか、軍礼についても対象となっている。軍の規模や軍構成と絡める形で戦国秦の戦役についてまとめた宮宅論文、対匈奴・南越戦と比較の上で漢と古朝鮮の戦争について論じた金論文を面白く読んだ。
読了日:07月11日 著者:

沈黙の中世史 ――感情史から見るヨーロッパ (ちくま新書 1805)沈黙の中世史 ――感情史から見るヨーロッパ (ちくま新書 1805)感想
キリスト教、教会や修道院との関係を中心として、西欧中世の沈黙のあり方、そして女性たちが沈黙を破っていくさまを追う。沈黙を破るといっても、その背景、沈黙の破り方は様々なようである。感情史とはどういうものかと思って本書を手に取ったが、文学作品を割と史料として積極的に使っているなという印象。
読了日:07月13日 著者:後藤 里菜

始皇帝の戦争と将軍たち 秦の中華統一を支えた近臣軍団 (朝日新書)始皇帝の戦争と将軍たち 秦の中華統一を支えた近臣軍団 (朝日新書)感想
始皇帝による十年戦争(中国統一戦争)と戦争に従軍した将軍たち、そして六国と李牧など六国の将軍たちの状況と事跡を、岳麓秦簡など近年発見されたものも含めて様々な史料から丹念に読み解く。岳麓秦簡の『算数書』など意外な史料からも戦争に関する記述を見逃さず有効に利用しているのが魅力。始皇帝の近臣集団を漢の高祖集団と比較しているのも面白い。『キングダム』のファンが知りたそうな情報も多く盛り込まれており、ファンには大満足の内容ではないかと思う。
読了日:07月15日 著者:鶴間 和幸

地中海世界の歴史3 白熱する人間たちの都市 エーゲ海とギリシアの文明 (講談社選書メチエ)地中海世界の歴史3 白熱する人間たちの都市 エーゲ海とギリシアの文明 (講談社選書メチエ)感想
前巻ではペルシア側の視点から見たペルシア戦争を今巻ではギリシア側の立場から見る。近年オリエントの文明の影響を強く受けたと評価されるギリシア文化だが、その関係性や立場は中国文明の影響を強く受けた日本と似通っているという。そして否定的に評価されがちなスパルタの気風について、女性は子どもさえ産んでしまえば放縦でも許されたとか、市民の間に貧富の対立が生じるのを恐れていたのではないかとか、アテナイとは対称的に海外に積極的に領土を求めようとしなかったといったような意外な評価が展開されている。
読了日:07月17日 著者:本村 凌二

日本人 (ちくま学芸文庫 ヤ-2-2)日本人 (ちくま学芸文庫 ヤ-2-2)感想
柳田国男とその門下による、民俗学の立場からの日本論。日本民俗学で話題になるようなことは一通り簡単にまとられている感じで、民俗学の簡易便覧のような趣がある。意外なところでは日本語で漢語が多く用いられていることの問題といった言語学に属するようなトピックも盛り込まれている。ただ、本書のテーマであるらしい「大勢順応の国民性」はどこの国でもありそうな問題なので、日本民俗学というよりは比較民族学とか文化人類学、社会学などの分野で普遍性の問題として考えるべきではないかと思うが。
読了日:07月20日 著者:柳田 國男

吾妻鏡-鎌倉幕府「正史」の虚実 (中公新書, 2814)吾妻鏡-鎌倉幕府「正史」の虚実 (中公新書, 2814)感想
古記録と歴史叙述という相反する性質を具有し、更に頼朝と各世代の北条氏の頭領を称揚し、その正統性を主張するという構想を持ちつつも、そのために曲筆を重ねることで結果として義経をはじめとする敗者の動きや心情も詳述することで豊かな文学的彩りを添えることになったと述べる。このことは『左伝』や『史記』『三国志』など中国の史書との類似性を想起させる。著者は歴史畑ではなく文学畑のようたが、文学研究からの視点が存分に生かされた吾妻鏡論となっている。
読了日:07月22日 著者:藪本 勝治

モンゴル帝国 草原のダイナミズムと女たち (講談社現代新書)モンゴル帝国 草原のダイナミズムと女たち (講談社現代新書)感想
ジェンダー史の視点から見るモンゴル帝国史。失礼ながらこの著者もこういう切り口から書くのねと思いつつ興味本位で読んだ。「大元ウルスは実質的にコンギラート王朝である」といったような視点が面白い。チンギスの母ウゲルンやフビライ兄弟の母・ソルカクタニ・ベキを高く評価しているのはともかく、とかく悪く言われがちなトゥレゲネ・ガトンを再評価しているのが特徴か。マンドハイなど、他書ではあまり触れられてなさそうなフビライ以降の女性たちの活動についても詳しい。
読了日:07月24日 著者:楊 海英

東アジアの死生学・応用倫理へ東アジアの死生学・応用倫理へ感想
中国古代宗教史を専攻してきた著者による生命倫理・死生学論。この分野の中国や台湾の主要な論者、研究を欧米・日本のそれと対比する形で紹介し、議論するという形を採るが、議論そのものよりは中国・台湾での末期癌の告知や臨終の場所といった終末医療に関係する医療慣行の紹介が興味深い。それらと儒教などとの影響関係についても議論されている。一応著者の元々の専攻の中国古代宗教史とは別立てということになっているようだが、関係の古文献の記述もその都度紹介されている。
読了日:07月29日 著者:池澤優

古代アメリカ文明 マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像 (講談社現代新書 2729)古代アメリカ文明 マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像 (講談社現代新書 2729)感想
中南米のマヤ、アステカ、インカ文明の概要のほか、ナスカの地上絵については文字の問題とひっくるめて1章を立てている。マヤやインカを「帝国」と評価することの問題、鉄器や文字のないことが文明の発達が遅れていることを意味しないという議論が面白い。エジプトのそれとは役割や形態が異なるマヤのピラミッド、ナスカの地上絵の制作方法と制作目的についても言及されている。
読了日:07月31日 著者:青山 和夫,井上 幸孝,坂井 正人,大平 秀一
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2024年6月に読んだ本

2024年07月01日 | 読書メーター
頼山陽──詩魂と史眼 (岩波新書 新赤版 2016)頼山陽──詩魂と史眼 (岩波新書 新赤版 2016)感想
頼山陽の生涯と漢詩、『日本外史』など、その作品について。弱年の頃の脱藩騒動によって廃嫡されたこと、廃嫡された後に神辺に移っても現地での生活に満足できずに京都に移ることになり、支援者と関係が悪化したこと、書籍を集めるよりは書画を収集するのに熱心で、そのために門人とトラブルを起こしたことなどを見ると、はたから見るとかなり困った人だったようである。作品論については『日本外史』の執筆の際に『史記』や『左伝』の筆法や描写を参照したことなどが触れられている。全般的に山陽の漢詩の紹介が多い。
読了日:06月01日 著者:揖斐 高

印綬が創った天下秩序: 漢王朝の統治と世界観印綬が創った天下秩序: 漢王朝の統治と世界観感想
印綬制度から見る漢代の官制と行政機構、そして国際秩序。正直なところ印綬でここまで話が広がるとき思わず、面白く読んだ。漢代において周制は単に儒学的観点からいたずらに理想化されていたのではなく、統治の安定のための権威づけとして「漢の伝統」とともにうまく活用されていたという話や、公印が周代の青銅器に相当する役割を担っていたという話が個人的にポイントだった。
読了日:06月03日 著者:阿部 幸信

戦国ブリテン アングロサクソン七王国の王たち (集英社新書)戦国ブリテン アングロサクソン七王国の王たち (集英社新書)感想
イングランド七王国時代の覇王たちの物語。覇王の事跡は晋の文公など中国の春秋時代の覇者たちを思わせるところがあり、またイングランドにも「春秋の筆法」めいたものがあったようである。タイトルは『戦国ブリテン』よりも『春秋ブリテン』の方がふさわしい気がする。内容自体は本書の著者による『イングランド王国前史』と重なる部分が多い
読了日:06月04日 著者:桜井 俊彰

日本の動物絵画史 (NHK出版新書 713)日本の動物絵画史 (NHK出版新書 713)感想
ユーモラスな、あるいはかわいい動物絵画の系譜。鳥獣戯画のルーツを発掘によって得られた「落書き」から見出したり、江戸時代の漫画的な虎の目付きのルーツを中世の禅画に見出すといった分析が面白い。こういった古代からのいとなみが「ちいかわ」などに繋がっているのかもしれない。しかし著者の言うように西洋流の芸術では動物を描くことが低く見られたとすると、中国で活躍した西洋人画家郎世寧が西洋の画風による動物絵画を多く残しているのはどういう位置づけになるのだろう?

読了日:06月06日 著者:金子 信久

最終講義 挑戦の果て (角川ソフィア文庫)最終講義 挑戦の果て (角川ソフィア文庫)感想
最終講義というのは何かひとつ専門に関係するテーマを定めて講演を行うというものだと思っていたが、本書を見ると案外これまでの半生であるとか研究者としての来し方であるとか「自分語り」に終始しているものが多い。その中にあって京大人文研の甲骨の来歴や中国の研究者の評価を行う貝塚茂樹、慶應SFCのあり方に苦言を呈する江藤淳、今日の米中関係を予見した中嶋嶺雄の章なとどを面白く読んだ。
読了日:06月09日 著者:桑原 武夫,貝塚 茂樹,清水 幾太郎,遠山 啓,芦原 義信,家永 三郎,猪木 正道,梅棹 忠夫,江藤 淳,木田 元,加藤 周一,中嶋 嶺雄,日野原 重明

闇の中国語入門 (ちくま新書 1798)闇の中国語入門 (ちくま新書 1798)感想
「闇」というよりはネガティブ中国語入門といった趣。本書で取り上げられている単語には「内卷」「躺平」など近年の流行語もあるが、実の所現地の大学で使われている留学生用の語学の教科書に普通に出てくるものもある。単語や例文そのものよりは著者によるその社会的背景の解説が読みどころ。流行歌の歌詞や中国版Yahoo!知恵袋の「知乎」からの引用が面白い。
読了日:06月11日 著者:楊 駿驍

馮道 (法蔵館文庫)馮道 (法蔵館文庫)感想
中公文庫版からの再読。「夷狄」の契丹を含む五朝八姓十一君に仕えたということで乱世にあって無節操、恥知らずの代表格と見なされてきた馮道再評価の書。乱世にあって人民をまもるという意志があったことや九経木版印刷の開始といった彼の功績とともに、六朝以来の貴族の没落・衰退を個別の人物のありさまによって示し、当時の節度使の幕僚がいわば影の内閣を構成していたといった指摘をするなど、中世の終わりという時代性を意識した記述となっているのが読みどころ。
読了日:06月13日 著者:礪波 護

恐竜大陸 中国 (角川新書)恐竜大陸 中国 (角川新書)感想
恐竜や化石そのものより化石をめぐる人間模様の方を面白く読んだ。(特に戦前・戦中の)研究者の武勇伝、近年の若手研究者とネットとの親縁性、化石の発見に農民が多く関わってきたこと、化石の盗掘、研究機関がブラックマーケットとの取り引きを厭わないこと、それに対する出土地などの情報が失われるなどの学術的批判、海外からのコンプライアンスをめぐる批判など、多くの事項が青銅器や竹簡など中国の出土文献をめぐる事項や問題と共通していることに驚かされる。その他、中国語ピンイン表記をめぐる不都合など恐竜の学名をめぐる問題も面白い 
読了日:06月14日 著者:安田 峰俊

アッシリア 人類最古の帝国 (ちくま新書 1800)アッシリア 人類最古の帝国 (ちくま新書 1800)感想
古代オリエントの専制君主による軍事大国という程度のイメージしかなかったアッシリア。本書は出土した粘土板による文書類、図像、遺跡などの史資料を駆使して国家の興りから帝国化、サルゴン2世、アッシュルバニパルなど最盛期の王の治世、そして滅亡後に残された記憶までを描き出す。思いのほか詳しいことまでわかるものだと驚かされる。卜占に関する文書が多い点は殷周王朝を連想させる。母后サムラマトがセミラミスとして欧米でも伝承されているというのは面白い。
読了日:06月17日 著者:山田 重郎

アーリヤ人の誕生 新インド学入門 (講談社学術文庫)アーリヤ人の誕生 新インド学入門 (講談社学術文庫)感想
西欧での言語学の成立、あるいはインド・ヨーロッパ語族、「アーリヤ人」概念、「アーリヤ人侵入」説の誕生の経緯について。ダーウィンが言語学から影響を受けていたということや、考古学の立場から「アーリヤ人侵入」説に疑問を死すのに「言語学の暴虐」が持ち出されたという点を面白く読んだ。第Ⅴ章で展開されるインド学がテキスト偏重という問題や、補章で言及される固有名詞のカタカナ表記の問題などは中国学でもかなりの程度あてはまるのではないか。
読了日:06月19日 著者:長田 俊樹

広東語の世界-香港、華南が育んだグローバル中国語 (中公新書, 2808)広東語の世界-香港、華南が育んだグローバル中国語 (中公新書, 2808)感想
街角の表記、香港映画やポップスの歌詞などを利用しつつ広東語の歴史と特徴を探る。実は広東語話者が世界に広がっていることはスペイン語やポルトガル語の広がりを連想させる。また広東語が抱える問題としてローマ字表記が一定していない点や言文一致ではない点を挙げる。ただ言文不一致であることにより、却って広東語が北京語と同様に「話す・聞く・読む・書く」のすべてを達成できているという。広東語に触れることで、北京語や中国語全体の評価が変わってきそうである。
読了日:06月21日 著者:飯田 真紀

文房具の考古学: 東アジアの文字文化史 (599) (歴史文化ライブラリー)文房具の考古学: 東アジアの文字文化史 (599) (歴史文化ライブラリー)感想
いわゆる文房四宝だけでなく、広く文字使用のはじまりや書写行為そのものを対象としており、「文房具の考古学」というより「書写の考古学」と題した方が良さそうな内容。地域も中国と日本だけでなく、著者の専門らしい朝鮮半島の状況も大きく取り上げている。また、実験考古学的な試みもある。本書で大きく問題としているのは、文字、あるいは文房具(らしきもの)の登場・導入と普及とは異なるということである。これは書写行為にまつわるものだけでなく、たとえば鉄製兵器などの登場と普及についても同じことが言えるだろう。
読了日:06月26日 著者:山本 孝文

百年の孤独 (新潮文庫 カ 24-2)百年の孤独 (新潮文庫 カ 24-2)感想
南米のマコンドという未開地に入植したブエンディア一族の六世代にわたる物語。壮大なサーガとか人間の業を描いた 物語のようなものを予想していたが、実際読んでみたらひたすら下世話で突拍子のない話ばかりが続く、一種のファンタジーだった。序盤はとっつきにくいが、世界観というかノリに慣れてきたらそれが快感になる。そんな物語。
読了日:06月30日 著者:ガブリエル・ガルシア=マルケス
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2024年5月に読んだ本

2024年06月01日 | 読書メーター
後期日中戦争 華北戦線 太平洋戦争下の中国戦線2 (角川新書)後期日中戦争 華北戦線 太平洋戦争下の中国戦線2 (角川新書)感想
河北では八路軍との戦い、山東では毒ガス・細菌兵器の投入、河南では蒋介石による黄河決壊のような人災も含めた災害、山西では閻錫山の動向という具合に華北の省ごとの特色を強調した構成となっている。ただ、特に細菌戦については日本軍側の記録の有無がネックになっているようだ。本書終盤では8/15以後も戦闘が継続したことが触れられている。閻錫山と残留日本兵側との関係の実相は、あるいは現地の解放のために戦ったと信じられている東南アジアの残留日本兵の実態をも示唆するのではないか?
読了日:05月04日 著者:広中 一成

地中海世界の歴史2 沈黙する神々の帝国 アッシリアとペルシア (講談社選書メチエ 802)地中海世界の歴史2 沈黙する神々の帝国 アッシリアとペルシア (講談社選書メチエ 802)感想
アッシリア、アケメネス朝ペルシアなどメソポタミアを支配した大帝国の興亡。今巻のテーマは一神教、アルファベット、貨幣の発明ということになると思うが、多神教から一神教を求める動きと多数の文字を擁するヒエログリフからアルファベットが生まれる動きを関連したものと見ているのは面白い。今回ペルシア戦争についても触れられているが、ペルシア戦争は次巻でもギリシア人の視点から取り上げられるようだ。
読了日:05月07日 著者:本村 凌二

派閥の中国政治―毛沢東から習近平まで―派閥の中国政治―毛沢東から習近平まで―感想
民国期の国民党・中共から現在まで、林彪集団、石油閥、上海閥などの派閥を軸に中国の政治史を辿る。自他ともに対比される習近平と毛沢東だが、毛沢東が鄧小平ともども派閥に対して超然的な態度を取ったのに対し、習近平は江沢民ともども派閥に依存した指導者であるという。また日本の自民党など各国の派閥との比較も行っており、国政選挙がないという点では日本などとは派閥の形成やそのあり方が違っているが、派閥を単位とした党内の競争が党内の多様性を高め、危機への対応力が高まり、政権の持続に寄与するなど共通点も存在するようだ。
読了日:05月09日 著者:李 昊

初学者のための中国書道史入門 (文芸社セレクション)初学者のための中国書道史入門 (文芸社セレクション)感想
時代ごとに動向、主要な書家と作品、そして「双鉤填墨」「蚕頭燕尾」のような基本的な用語を解説。書道通史というよりは書道史に関する便覧的な使い方ができる作りになっている(ただ、図版はほとんどないが)。ハンディなので手元に置いておけば便利かもしれない。
読了日:05月11日 著者:中山 不動

哲学史入門II: デカルトからカント、ヘーゲルまで (2) (NHK出版新書 719)哲学史入門II: デカルトからカント、ヘーゲルまで (2) (NHK出版新書 719)感想
今巻は近世・近代編。一読してわかったような気になる度は前巻より上がっているような気がする。「我思うゆえに我あり」は順番が逆という話や、大陸の合理論とイギリスの経験論、あるいはフィヒテ→シェリング→ヘーゲルの順番のような現在の哲学史の枠組みが最初から所与のものというわけではなかったという話を面白く読んだ。哲学から科学がどう芽生えたかという話も盛り込まれている。
読了日:05月13日 著者:上野 修,戸田 剛文,御子柴 善之,大河内 泰樹,山本 貴光,吉川 浩満

隠された聖徳太子 ――近現代日本の偽史とオカルト文化 (ちくま新書 1794)隠された聖徳太子 ――近現代日本の偽史とオカルト文化 (ちくま新書 1794)感想
近現代における偽史言説としての聖徳太子論というか、特に前半は聖徳太子が間接的にしか絡まず、ほとんど秦氏とユダヤ人、景教論となっている。梅原猛『隠された十字架』(これは本書のタイトルの由来にもなっているであろう)や山岸凉子『日出処の天子』も俎上に挙げられている。聖徳太子にまつわる偽史言説がアカデミズムによる通説を批判しつつもアカデミズムの権威に寄りかかることによって成立するという指摘は、漢字の字源説など他の分野についてもあてはまるだろう。
読了日:05月15日 著者:オリオン・クラウタウ

秦帝国と封泥 社会を支えた伝送システム秦帝国と封泥 社会を支えた伝送システム感想
谷論文は封泥についてのわかりやすい概説になっている。鶴間論文は従来36郡とされていた秦の郡の変遷を時期ごとに追い、それとの関連で始皇帝の巡行についても俎上に挙げている。もっとも面白く読んだのは髙村論文2編である。「始皇帝の手足の指の先」では地方で史官になりたがらない人々が多くいたという所から秦帝国の滅亡に議論が及ぶ。「官印は誰が捺したのか」は県令・県丞の印は書記官が捺印することもままあったのではないかという議論は、現代の文書類の捺印を想起させるよい議論。
読了日:05月16日 著者:谷 豊信,瀨川敬也,籾山 明,青木俊介,高村武幸,鶴間和幸,松村一徳

王墓の謎 (講談社現代新書 2745)王墓の謎 (講談社現代新書 2745)感想
比較考古学の観点から世界の王墓の果たした役割や造営の経緯などを議論する。威信財経済学の考え方や王墓が築かれなかった社会も検討対象とするという方針、エジプトと中国の始皇陵の葬送複合体の設計プランが一致するといった指摘などは面白い。しかし当時の人々がある種の原罪意識によって自ら進んで過酷な王墓の造営に参加したのではないかという想定など、所々疑問に思いつつ読んだ。
読了日:05月18日 著者:河野 一隆

臨済録のことば 禅の語録を読む (講談社学術文庫 2818)臨済録のことば 禅の語録を読む (講談社学術文庫 2818)感想
「麻三斤」「柏樹子」など、今では意味不明なやりとりという意味での「禅問答」とされているものも、唐代にまでさかのぼると哲学を感じさせるような脈絡があったのだということと、それが宋代になると哲学的な脈絡を読み取る態度を「死句」と否定し、本来の脈絡と切り離して「活句」に仕立て上げたという話が面白い。禅問答に対するイメージが変わりそう。
読了日:05月20日 著者:小川 隆

台湾のデモクラシー-メディア、選挙、アメリカ (中公新書, 2803)台湾のデモクラシー-メディア、選挙、アメリカ (中公新書, 2803)感想
政治的な意図もあってか日本との関係ばかりが取り沙汰されがちな台湾論だが、本書はアメリカ政治学の専門家がアメリカ(文化)の影響という視点から台湾の民主主義を論じている点に特色がある。また在米華人の動向やSNSを通じた中国の影響にもかなりの紙幅を割いている。台湾国内で、苦慮しつつも原住民や客家の、特に言語面での多様性をできる限り認めようとしているのは、中国に対して台湾の独自性を訴える都合上そうせざるを得ないという面もあるのではないかと思うが。
読了日:05月24日 著者:渡辺 将人

中国の信仰世界と道教: 神・仏・仙人 (598)中国の信仰世界と道教: 神・仏・仙人 (598)感想
『風俗通義』などの記述を手がかりにしつつ古代から現代までの民間信仰の中の神仙の変遷を追う。内容的にはかなり雑多だが、孫悟空の設定の変遷、日本に持ち込まれた道教や民間信仰の神々、『封神演義』の信仰に与えた影響、地域ごとの信仰される神仙や廟の建築様式の違い、イエスやムハンマドなど民間信仰の世界観の中に取り込まれた外国の宗教の始祖たち、儒仏道の神仙とジェンダー、海外で信仰される神仙等々興味深い話題が多い。
読了日:05月26日 著者:二階堂 善弘

台湾老卓遊 台湾レトロテーブルゲーム図鑑台湾老卓遊 台湾レトロテーブルゲーム図鑑感想
ボードゲーム、カードゲームなど、台湾の様々なテーブルゲームとその歴史を紹介。モノポリーをローカライズした大富翁のように海外のゲームを持ち込んだものもあれば、陞官図のように前近代中国に起源のあるものもあり、台湾オリジナルのヒット作もあれば、映画やドラマ、アイドル、日本の漫画などのキャラクター物もありと、様々なゲームが系統立てて紹介されている。印刷されているメッセージやデザインからは当時の時代性をうかがうこともできる。ボードの図版も豊富で、本書を読めばいくつも遊んでみたいゲームが出てくることだろう。
読了日:05月27日 著者:陳介宇,陳芝婷

元朝秘史―チンギス・カンの一級史料 (中公新書, 2804)元朝秘史―チンギス・カンの一級史料 (中公新書, 2804)感想
モンゴル帝国史の基礎文献『元朝秘史』の概要と読みどころ、そしてその記述に関連して近年の発掘や研究の成果を紹介する。序章が『元朝秘史』の解題、本編がその内容、終章が考古学の成果による補足という構成。神出鬼没のジャムカの活躍ぶりなどを見ると、『元朝秘史』は歴史書というより歴史物語集、説話集という印象を強く受ける。
読了日:05月29日 著者:白石 典之
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