今を生きる思想 福沢諭吉 最後の蘭学者 (講談社現代新書)の
感想洋学ではなく蘭学の徒、蘭学の継承者としての福沢の広範な思想・学問を解説。今まで行ったこともないはずのオランダを「第二の故郷」とまで言うのは微笑ましいが、福沢も蘭学者の多分に漏れず、中国への蔑視が見られたようである。最後に「脱亜論」と関連して、その発想の限界にも触れている。
読了日:04月01日 著者:
大久保 健晴
漢文を基礎から学ぶの
感想漢文の入門書として、訓点のある文だけではなく白文の状態で読むことを意識していること、特に返り点の返り方について、同様のことをくどいぐらいに何度も説明していることが特徴。第八章で白文の文章を読むことを目標に、二文字の熟語から五字の句まで、語句の状態で書き下す問題が豊富に盛り込まれているのもよい。ただ、高校の漢文の授業にも対応しているとはいっても、実際問題としては高校生には難しいように思うが……
読了日:04月03日 著者:
中川諭
改訂版中国小史 黄河の水 (角川文庫 白 70-1)の
感想有名な故事を中心に語る中国史。初版が出たのは戦前ということでさすがに古さは否めないが、政治史中心というわけでもなく、文化史の方面にも気を配っている。また小冊ながら近代史も意外と詳しい。とっかかり程度には今でもいけそうだし、変な本で中国史をわかった気になるよりはよっぽど良い。
読了日:04月05日 著者:
鳥山 喜一
(P[あ]2-1)光車よ、まわれ! (ポプラ文庫ピュアフル)の
感想とあるガイドブックで存在を知って以来長年探し求めていた小説。子ども向きということで書かれたようだが、地霊文字の設定や最後に明かされる「敵」の正体などに寓意が込められている。後味の良くないラストも良い。本書に存在を知った時分に読めばまた違った感想を抱いたかもしれない。
読了日:04月07日 著者:
天沢 退二郎
日本幻獣図説 (講談社学術文庫)の
感想江戸時代の瓦版、明治時代の絵入り新聞、はたまたミイラ、その絵はがきといった形で近世近代の図像から河童、人魚、天狗などの幻獣を探る。河童のような著名な幻獣もその姿形は必ずしも一定していなかった点や、特に明治に入ると中国など諸外国との関わりが出てくる点が興味深い。コロナ禍の中で注目されたアマビエ(正確にはアマビコ)についても、その名称や姿形など詳しい考証がある。
読了日:04月10日 著者:
湯本 豪一
歴史学の始まり ヘロドトスとトゥキュディデス (講談社学術文庫)の
感想本書は、歴史というジャンルがまだ存在しなかった時代に歴史学を打ち立てた人々の営みを描いたということになるだろうか。時に「嘘つき」とまで呼ばれるヘロドトスの叙述から現代の視点で読み取れること、そして史実の選択に慎重だったとされるトゥキュディデスが書かなかったことというアプローチの仕方が面白い。本書を読むと、これまで何度となくヘロドトスと比較されてきた司馬遷について、相互の時代状況や歴史叙述へのスタンスの類似性から、やはり比較の価値があると感じた。
読了日:04月16日 著者:
桜井 万里子
徳川家康と今川氏真 (朝日選書)の
感想徳川家康と今川氏真の60年以上にわたる交流。ないしは氏真を通して見た家康と徳川政権。60年以上といっても武田氏滅亡のあたりまでが中心で、その後は史料的な問題もあるようで駆け足である。(個人的には駆け足の部分に興味があったのだが)秀忠の女性家老と言うべき存在が氏真の妹の貞春尼であったことや、徳川家の格式確立に氏真とその一族、閨閥が大きく貢献し、没落したとはいっても名門としての格式が健在であったことなどを指摘している。
読了日:04月19日 著者:
黒田 基樹
中国の服飾史入門 古代から近現代までの
感想漢代など古い時代の一部の復元案に華夏(漢人)居住地域出土の服装と現在の自治区出土の服装を組み合わせたものがあるのが難。最後のコラムで長衫と旗袍のルーツを単に満洲族の服装とせずに、歴史的な多元的なルーツを求めているのが今風のアプローチということになるだろうか(その妥当性は知らない)
読了日:04月20日 著者:
劉永華
物語 チベットの歴史-天空の仏教国の1400年 (中公新書, 2748)の
感想一応古代から現代までを範囲としているが、ダライ・ラマ政権の成立以後が中心。古代の部分は正直わかりにくい。一見非合理に見える転生僧制度の意外な合理性が面白い。最近話題のダライ・ラマ6世や、13世の生涯についても詳しく触れている。現代中国のチベットの置かれた状況に関する記述を見てると、本邦の沖縄の置かれた状況を連想してしまうが…… 中国の西部大開発がアメリカの西部開拓に喩えられていたというのも、現代中国がアメリカの鏡であるという面からすると当を得ているのだろう。
読了日:04月22日 著者:
石濱 裕美子
キャプテン・クックの列聖――太平洋におけるヨーロッパ神話の生成の
感想ハワイ島上陸時に現地人によって神として崇められたとされてきたキャプテン・クック。しかし実際は現地の政治的情勢から首長に任命されたのみで、神格化されたのは死後のことである。生前から神として崇められたというのはヨーロッパ人が作った神話にすぎないという内容だが、巻末の訳者解題によると、本書の評価をめぐっては単純な肯定・否定ではとらえきれないようだ。当時の西欧人が現地で食人が行われていると見つつも、現地人の方も西欧人に食人の風習があると思い込んでいたといった、カニバリズムをめぐる行き違いも興味深い。
読了日:04月29日 著者:
ガナナート・オベーセーカラ