令和2年10月10日(土)
蚯蚓鳴く : ミミズ鳴く
秋の庭、何の虫とも判らず道端等の土中から「ジーッ」と
鳴く声が聞こえてくることがある。
実は螻蛄(けら)の鳴く声であるが、それを蚯蚓が鳴いて
いるものと取り違えたのである。実際には蚯蚓は鳴かない
が、それを蚯蚓が鳴くと感じるのはたとえ事実と違っても
趣がある。
螻蛄(おけら)
俳人の夏井いつきさんの著書「絶滅寸前季語辞典」の中に
「蚯蚓鳴く」があり、紹介したい。
「静かな秋の夜、耳を澄ませているとジーッという音が聞
こえる。この螻蛄(けら)の鳴き声を蚯蚓鳴くと言ったと
いうのが定説。蚯蚓は鳴かない」
一般人(私ヤギ爺も知らなかった)にこんな季語が在ると
話すと、えーっと驚かれるが、俳句の世界においては、今
のところ絶滅の心配はないぐらい使われている季語である。
ならば、なぜこれを絶滅寸前季語としてノミネートするか
というと、つい先日、路面電車の中でこんな会話を耳にした
所為である。電車の後部座席にいる客は、私の他には小学校
の1,2年生ぐらいの男の子3人と女の子1人のグループ。
彼らは、頭をくっつけて子供雑誌の付録らしき「魚類図鑑」
を覗き込んでいる。「ねえ、これってミミズで釣れるんやっ
て」と男の子の一人が、何かを指した。その指がどんな魚を
指していたのかは分からないが、私は通路腰越しにニコニコ
と彼らの様子を眺めて居た。と、そのうちの一人が顔を上げ
「ネー、ミミズって何処に居るん、釣具屋さんで買うんじゃ
なくて、何処にいったらタダで取れるん」と残りの3人に問
いかけた、他の子供達は一瞬考えこんだ。最初に口を開いた
眼鏡の男の子は何と、こんな発言をした。「何かの木の皮を
剥いたらおるんよ」 すると一番体格のいい男の子が「たぶ
んそうやったと思う」と賛成し、残った女の子も「うちのお
婆ちゃんちに木がいっぱいあるから、今度行ったら探して
あげる」と約束までしてしまうではないか。
「マジですかあ」と、目を点にしている間に彼らは
手に持っ
た手提げカバン振り回しながら「ネー、みんな塾の宿題やっ
とるん?」と言いながらバタバタと降りて行った。
コンピューターを使って上手にお絵かきが出来、携帯電話で
バンバン、メールが送れる子供達は、それは凄いのだろうが
一度でいいから俳句の国の扉を開けてごらん。
私達が、豊な季語の森に住んでいる事や、深い季語の海を
泳いでいる事が判るはずだよ、」
(夏井いつき著:絶滅寸前季語辞典、蚯蚓鳴くより引用)
今日の1句
ミミズ鳴くぼくだってとべるかな 八塚 大輝
この句は、2008年「夏休み句集を作ろうコンテスト、
最優秀句集「ばくだんていきあつ」より。当時小学校3年
生の作者が、初めて蚯蚓鳴くという季語に出会い素直な思
いでつぶやいた句だ。(夏井いつき、評)