永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(127)

2008年08月05日 | Weblog
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【蓬生(よもぎう)】の巻  その(2)

 何とか残っています女房達が、「受領どもで、風流な建物を好む者が、お屋敷をお手放し下さらぬかと、つてを求めて申し入れて参りますので、ここからお移りなさることをお考え下さいまし、とても辛抱しかねます」と申し上げますが、末摘花は

「あないみじや。人の聞き思はむこともあり。生ける世に、しか名残なきわざはいかがせむ。かく恐ろしげに荒れ果てぬれど、親の御影とまりたる心地するふるき住処と思ふに、なぐさみてこそあれ、とうち泣きつつ、思しもかけず」
――なんとひどいことを。世間の外聞や思惑もあります。私が生きている限り、そんな昔を忘れるようなことがどうしてできましょう。このように恐ろしいまでに荒れ果ててはいても、父宮の面影の残っている心地のする昔ながらの住処とおもえばこそ、心が落ち着いていられますのに、とお泣きになりながらも、家を売るなど問題にされません――

 お道具なども、古風ながら持ち慣れたもので昔風できちんとしておりますのを、半可通の骨董いじりが、それを欲しがって申し入れてきます。貧しい暮らしを侮ってのことでありました。女房達は、「これも仕方がないではありませんか、暮らしに困っては伝来の家宝を手放すのも世の常のことですから」と目の前の差し迫った暮らしを凌ごうとするときにも、

「見よと思ひてこそ、しおかせ給ひけめ。などてか軽々しき人の家の飾りとはなさむ。亡き人の御本意違はむがあはれなること」
――父上が私に使うようにとお思いになって、作らせてお置きになった品でしょうに、どうして軽い身分の人の家の飾りになどできましょう。亡き御方のお心に背くのは、相済まぬことです――

と、おっしゃって、一切お許しにならないのでした。ほんのちょっとしたついでにも訪れる人のいないお身の上です。ただ、御兄の禅師の君だけが、京に出て来られた時だけ、覗かれる程度で、このお屋敷を何とか繕うほどの財などございません。

◆写真 蓬(よもぎ)

ではまた。


源氏物語を読んできて(貴族の生活と財政・給与)

2008年08月05日 | Weblog
◆貴族の給与
 
 貴族の動産として上げられるものは、身分地位に与えられる俸禄、荘園からの収入、そして代々相続している家具什器や宝物の類である。
 
 律令制度における給与はそれぞれ細かく体系化されていた。ここでは省略。

○【位田(いでん)】
  位に対して与えられた田であるが、田租は収める
○【位封(いふ)】
  位に対して与えられる封戸(ふこ)。
  封戸とは、正丁(せいてい・21歳~60歳の男子)4人と中男(ちゅうな
  ん・17歳~20歳の男子)1人をもって1戸とし、封戸として与えられた戸
  が、本来国に納めるべき租庸調仕丁、すなわち、米、絹、布の類、労働力を与
  える給与である。
○【職分田(しきぶんでん)】
  職に対して与えられる田で、位田と異なり、祖を納めなくてよく、自家経営を
  原則とした。
○【御封(みふ)】
 封戸(ふこ)の尊敬語が御封である。
 内親王は親王の半分。

 この時代の物語の中では、皇太后と中宮は同じ御封であるが、藤壺は中宮から出家して太上天皇に準ずる女院になったとき、弘徴殿大后を越えたことになる。
同様のことは女御と更衣についても言える。桐壺の更衣は四位五位相当に当たる。死後三位を贈られたが、桐壺帝は女御にしてやれなかったことを悔いている。給与面でも扱いが違っていたのである。