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【蓬生(よもぎう)】の巻 その(6)
冬にむかうある日、御兄の禅師がお立ち寄りになって、源氏が故桐壺院の御為の御八講を厳めしくも盛大になさったことを話されます。末摘花は、本当にこれだけのご縁だったのだと、ようやくお考えになるようになったとき、大貳の北の方が突然訪ねて来ました。
「例はさしも睦びぬを、誘ひ立てむの心にて、たてまつるべき御装束など調じて、よき車に乗りて、面持ち気色ほこりかに思ひなげなるさまして、……」
――普段はさして親しくもしておりませんのに、末摘花を誘って太宰にと思う下心に、お着せするお召し物を用意して、立派な車に乗り、顔つきはいかにも誇らしそうに、満足しきったようにして、(前触れもなく走らせてきて、門を開けさせますが、左右とも扉がぐらぐらして、よろけ倒れるのを男どもが大騒ぎをして、それでもどうにか開けてぶしつけにも、南面に車を寄せます)――
末摘花は大貳風情の身分にふさわしからぬ不作法千万とお思いになるのでした。
その頃、侍従には、この大貳の北の方の甥が通ってきておりました。大貳の北の方は、この侍従も連れて行くことを願おうと迎えにきたのでした。
この北の方は、表面はしんみりと、けれど夫の昇進にうれしさを隠せず、
「故宮おはせし時、おのれをば面伏せなりと思し棄てたりしかば、疎々しきやうになりそめにしかど、年頃も何かは。……」
――故父君がいらっしゃった頃は、私のことを受領なんぞの妻になり下がりましたのを、不真面目な女と寄せ付けてもくださらなかったことから、自然に疎遠になっておりましたが、今でも私の方からは疎遠とは思ってもおりませんのに、(あなたは偉そうに思い上がっておいでで、源氏の大将がお通いになっていらっしゃるとか、ご運勢の良いことと、こちらはご遠慮していたのです。でも世の中の移り変わりは定めないものでございますね。ものの数にも入らぬ身分の者はかえって気楽なもの。あなた様の今のお身の上を思うと、心配でなりません、などと話されますが、姫君は打ち解けたご返事もなさらないのでした。)――
ではまた。
【蓬生(よもぎう)】の巻 その(6)
冬にむかうある日、御兄の禅師がお立ち寄りになって、源氏が故桐壺院の御為の御八講を厳めしくも盛大になさったことを話されます。末摘花は、本当にこれだけのご縁だったのだと、ようやくお考えになるようになったとき、大貳の北の方が突然訪ねて来ました。
「例はさしも睦びぬを、誘ひ立てむの心にて、たてまつるべき御装束など調じて、よき車に乗りて、面持ち気色ほこりかに思ひなげなるさまして、……」
――普段はさして親しくもしておりませんのに、末摘花を誘って太宰にと思う下心に、お着せするお召し物を用意して、立派な車に乗り、顔つきはいかにも誇らしそうに、満足しきったようにして、(前触れもなく走らせてきて、門を開けさせますが、左右とも扉がぐらぐらして、よろけ倒れるのを男どもが大騒ぎをして、それでもどうにか開けてぶしつけにも、南面に車を寄せます)――
末摘花は大貳風情の身分にふさわしからぬ不作法千万とお思いになるのでした。
その頃、侍従には、この大貳の北の方の甥が通ってきておりました。大貳の北の方は、この侍従も連れて行くことを願おうと迎えにきたのでした。
この北の方は、表面はしんみりと、けれど夫の昇進にうれしさを隠せず、
「故宮おはせし時、おのれをば面伏せなりと思し棄てたりしかば、疎々しきやうになりそめにしかど、年頃も何かは。……」
――故父君がいらっしゃった頃は、私のことを受領なんぞの妻になり下がりましたのを、不真面目な女と寄せ付けてもくださらなかったことから、自然に疎遠になっておりましたが、今でも私の方からは疎遠とは思ってもおりませんのに、(あなたは偉そうに思い上がっておいでで、源氏の大将がお通いになっていらっしゃるとか、ご運勢の良いことと、こちらはご遠慮していたのです。でも世の中の移り変わりは定めないものでございますね。ものの数にも入らぬ身分の者はかえって気楽なもの。あなた様の今のお身の上を思うと、心配でなりません、などと話されますが、姫君は打ち解けたご返事もなさらないのでした。)――
ではまた。