永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(141)

2008年08月26日 | Weblog
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【関屋(せきや)】の巻  その(2)

 時は九月末の頃合いでしたので、紅葉の色も濃く薄くが混じり合い、霜枯れの草のむらむらと見え渡るところに、関屋からさっと現れた源氏のご一行の旅姿は、
「いろいろの襖(あを)のつきづきしき縫物、括り染めのさまも、さるかたにをかしう見ゆ」
――色さまざまの狩襖(かりあを=表は布で、裏は絹の狩衣)に、調和良くほどこした刺繍や、絞り染めの様子も、旅支度が趣深く眺められます――

 源氏は御簾の中から、常陸の介一行の中に、昔の小君で今は右衛門の佐(えもんのすけ)を見つけられ、呼び寄せられて、
「きょうの御関迎へは、え思ひ捨て給はじ、など宣ふ。」
――今日こうして逢坂の関まで迎えにきた私の心を、あの人もおろそかには、おもわれますまい、と仰せになります――

 源氏のほんの一通りの言づてですが、空蝉も昔を思い出して感慨深く、
「行くと来とせきとめがたき涙をや絶えぬ清水と人は見るらむ」
――行きも帰りも止めどもなく湧く私の涙を、こんこんと絶えぬこの関の清水とあなたはご覧になるでしょう――

 これは、独り言なので、源氏は私の心の底などとてもご存知にはなるまいと思えば、まことにはかなく思われるのでした。

「石山より出でて給ふ御迎へに、右衛門の佐参れり……」
――源氏が石山寺からお帰りになる日のお迎えに、右衛門の佐が京から参上し、(先日は石山へお供も申さず、常陸の介と一緒に上洛してしまったお詫びなど申し上げます)――

 この右衛門の佐という人は、空蝉の弟(小君)であった頃は、源氏からも目を掛けられて、傍近くで可愛がられ、五位に叙せられるまで、何かと源氏に引き立てられておりましたのに、思いがけぬあの源氏の騒ぎが起こった頃には、世の思惑を気にして、常陸の介と一緒に下ってしまっていたのでした。

ではまた。



源氏物語を読んできて(源氏物語絵巻・復元模写・関屋)

2008年08月26日 | Weblog
復元模写・関屋、加藤純子制作 

 現存する絵巻の中で、唯一の風景画。光源氏と空蝉の牛車行列が、雄大な山河を背景に細やかに描き出されていた。剥落が特に激しく復元は困難を極めた。僅かにのこる紅葉の痕跡を顕微鏡で調べると、紅葉の微妙な彩りの変化を表現するために、平安の絵師が驚くべき技を駆使していたことが判明した。

左の女車の辺りが常陸の介一行。右が源氏の一行。

◆写真と参考 NHK出版より