2010.7/17 790回
四十六帖 【椎本(しひがもと)の巻】 その(9)
「宰相の中将、その秋、中納言になり給ひぬ。いとどにほひまさり給ふ。世のいとなみに添へても、思すこと多かり」
――宰相の中将(薫)は、この秋中納言におなりになりました。いっそうご立派になられ、公務も多忙を極めていらっしゃるものの、胸のわだかまりが晴れることがなくお悩みは多いのでした――
「いかなる事と、いぶせく思ひ渡りし年頃よりも、心苦しうて過ぎ給ひにけむいにしへざまの思ひやらるるに、罪軽くなり給ふばかり、行ひもせまほしくなむ。かの老人をばあはれなる者に思ひ置きて、いちじるきさまならず、とかくまぎらはしつつ、心よせとぶらひ給ふ」
――(自分の出生のことが)いったいどういうことなのかと不審を持っていました年月の長さよりも
さて、薫が久しく宇治にご無沙汰申されていましたのを思い出されて、にわかにお出かけになりました。七月のことです。都ではまだそれほど感じられない秋の気配がそこここに見られ、二月にお尋ねした頃をなつかしく思い出しています。
「音羽の山近く、風の音もいと冷やかに、槇の山辺もわづかに色づきて、(……)宮はまいて、例よりも待ちよろこび聞こえ給ひて、この度は心細げなる物語、いと多く申し給ふ」
――(宇治の)音羽山の近くでは風も冷やかに吹いていt、槇の山辺の木々も色づいています。八の宮は薫の来訪をいつも以上にお喜びになって、この度はなおのことご不安の心持を申し上げるのでした――
「亡からむ後、この君たちをさるべきもののたよりにもとぶらひ、思ひ棄てぬものに数まへ給へ」
――(八の宮は)私が亡くなりました後、この姫たちを何かのついでにも訪れて、お見棄てなさらぬ人の中にお数えください――
と、常にご心配の、その方向にお話を持っていかれるのでした。
◆宰相の中将、その秋、中納言に=すでに「竹河の巻」で中納言である
では、7/19に。
四十六帖 【椎本(しひがもと)の巻】 その(9)
「宰相の中将、その秋、中納言になり給ひぬ。いとどにほひまさり給ふ。世のいとなみに添へても、思すこと多かり」
――宰相の中将(薫)は、この秋中納言におなりになりました。いっそうご立派になられ、公務も多忙を極めていらっしゃるものの、胸のわだかまりが晴れることがなくお悩みは多いのでした――
「いかなる事と、いぶせく思ひ渡りし年頃よりも、心苦しうて過ぎ給ひにけむいにしへざまの思ひやらるるに、罪軽くなり給ふばかり、行ひもせまほしくなむ。かの老人をばあはれなる者に思ひ置きて、いちじるきさまならず、とかくまぎらはしつつ、心よせとぶらひ給ふ」
――(自分の出生のことが)いったいどういうことなのかと不審を持っていました年月の長さよりも
さて、薫が久しく宇治にご無沙汰申されていましたのを思い出されて、にわかにお出かけになりました。七月のことです。都ではまだそれほど感じられない秋の気配がそこここに見られ、二月にお尋ねした頃をなつかしく思い出しています。
「音羽の山近く、風の音もいと冷やかに、槇の山辺もわづかに色づきて、(……)宮はまいて、例よりも待ちよろこび聞こえ給ひて、この度は心細げなる物語、いと多く申し給ふ」
――(宇治の)音羽山の近くでは風も冷やかに吹いていt、槇の山辺の木々も色づいています。八の宮は薫の来訪をいつも以上にお喜びになって、この度はなおのことご不安の心持を申し上げるのでした――
「亡からむ後、この君たちをさるべきもののたよりにもとぶらひ、思ひ棄てぬものに数まへ給へ」
――(八の宮は)私が亡くなりました後、この姫たちを何かのついでにも訪れて、お見棄てなさらぬ人の中にお数えください――
と、常にご心配の、その方向にお話を持っていかれるのでした。
◆宰相の中将、その秋、中納言に=すでに「竹河の巻」で中納言である
では、7/19に。