ここは、ちょっと前までポロトコタンと言われたところ。子ども時代から何度も訪れているアイヌの集落。学生のころ、ポロト湖のほとりで観光客相手に清涼飲料水売りのアルバイトをしたことがある。そのとき、学校の所在地に住む顔見知りの学生にばったり出くわした。千五百キロも離れたこんな辺鄙なところで‥‥と呆然とした面持ちで見つめ合った記憶がある。
名前も施設も施設内の職員の姿かたちも、何もかも変わった。湖の雰囲気さえ、昨日はあいにく小雨模様だったのに明るかった。施設内の展示物は大半が古いものだったが、古臭くなかった。現代作家の制作になる、蕨手文を施した作品もたくさん陳列されていた。チセ(住居)は建物の芯にコンクリートが塗り込まれたように頑丈そうだった。内部はもちろん明るく、動物や魚類を燻したにおいもしなかった。
窓の外には森との境界に立てられた祭壇が見えたが、そこにはすでに祭りの名残は感じられなかった。アイヌはもうここにはいないのかもしれない。多くは自分の国に帰ったのだ。(2020.9.2)
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