皿まで食う

　はなは、体調が戻ってから、これまで以上に食い物に貪欲だ。一日中、朝から何も食べていないといった調子で威勢よく鳴いている。お付きの父さんから魚缶の皿を奪い取ったら、皿の端を噛んだり、手を皿に突っ込んだりの大騒ぎ。
　はなは、もともと慎重派だが、１８歳になった今年の春ころから、脚力にいくぶん自信をなくしたのか、高さ７０ｃｍの食卓テーブルに跳び上がらなくなった。階段の登り降りの足取りが慎重になった。さらに、夏ごろからトイレの使い方や食事の仕方に異変が起きた。
　弁護するのではないが、はなは、生まれてこの方、礼儀作法を心得た、どちらかといえば気品ある?ネコだ。トイレの粗相なんて一度だってなかった。そんな、はなの身の上にも、とうとう認知能力の低下が始まったのだ。
　そして、１２月初め、恐れていた事態がやってきた。はなは、まったく食欲をなくした。とくに原因がないとすれば老衰ということだろう、とあきらめムードがただよった。ところが、はなは、強靭な生命力で周囲の憶測をみごとにくつがえした。
　はなは、今晩も皿をなめるどころか、皿まで食いそうな勢いだ。

　婆猫の背骨にさわる冬の夜　猫士

（2022.12.26）