2008/6月下旬 錫杖岳・見張り塔からずっと
宿命
「見張り塔からずっと」
それは見張り塔からずっと、終始しなければならない。
その時の永さといったら気が遠くなるほどで、時に目眩を覚える。
宿命。それは、ただただ、塔の上から終始しなければならない事であった。
本峰フェ-ス末端のフリ-ル-ト「見張り塔からずっと」は、北沢フランケを望む北沢大滝から登攀が始まる。
1P・リ-ド
北沢大滝の左、階段状~ルンゼ。
どうやらこれがル-トミス。
2P目を伸ばすも手がかりのないスラブに行く手を阻まれ、そこからロワ-ダウン+懸垂下降。
不安
2P・リ-ド
少し戻ってカンテを乗り越え、北沢大滝の右岸を行く。
意外と支点は豊富。
3P・フォロ-
大滝上部のスラブ。
Ⅱ、Ⅲ級で簡単だが、支点はほとんどない。
4P・リ-ド
スラブを左上。中間支点なし。あと5になって漸く支点を発見。
5P・フォロ-
特徴のない緩傾斜スラブ。
6P・コンテ
緩い傾斜の草付きスラブを中央稜まで。
これから登るル-トの全容が見渡せる。
かなり立って見える。少々不安。道読みと確認も含めて小休止。
ロ-プを出したが、ここまではアプロ-チといっても過言ではない。
醍醐味
7P・コンテ
中央稜から沢筋をトラバ-ス。
8P・リ-ド
下部のルンゼをつめ上げ、大洞穴まで。
9P・リ-ド
このル-トの実質がここから始まる。
オリジナルは大洞穴に少し入ってから行くらしいが、少々濡れているので入り口左のカンテル-トをとる。
一段上がって少しカブったところにカムで支点がとれる。
上の隠れたカチを拾って、角度を殺した足裁きでそれを越え、時に甘めのホ-ルドも含めたフェ-スを行く。
この高度感。既にフォロ-が見えないので、やはり結構な角度があるのであろう。
ここで、一つ後悔。相棒のストッパ-を借りるのを忘れてしまったことに気付く。
しかたなく岩溝にスリングのコブを食い込ませ支点とする。
ほぼ中間にある松の木で支点とレストができる。
そこから上のクラックがこのピッチのハイライト。
カムで支点を得ながら、ハンドジャムやステミングでの登攀。
NPクライミングの醍醐味といったところか。
緑のテラスにあるハ-ケンと、岩でビレイ。
展望台
10P・リ-ド
核心とされるピッチ。
凹角を直上。チョックストン上にたてば右のフェ-スに外傾スタンス。ここをトラバ-スが正解だ。
左のクラックにカムで支点。一歩を踏みだす。
「いやあ、ここかあ。」思わず声が出る。
これは確かに技術的というよりは心理的に辛い。
何しろ支点が取れないので、ここで落ちれば、かなり左に振られ、壁に激突は免れない。
ようやく中間にあるクラックにストッパ-で支点は取れるが、決して信頼に足るものではない。
そこから左上するが、ここも甘めの外傾ホ-ルドに一時、行き詰まる。
普段の研鑽の賜物、忍耐とレストを繰り返し、この難局を乗り越える。
上部スラブに出たらチョット左にチョコンと突き出た展望台がある。
これが見張り塔。このル-ト名の由来なのであろう。支点は丁度そこにある。眺めが最高。
フォロ-を迎えて、小休止とする。
スラブ
「見張り塔からずっと」
時に見たくもない事象をも見守る他はない。
介入する術もなく無声映画を観るように、ただただ、そこから終始しなければならない。
そこに立つ哨兵は哀れだ。
11P・フォロ-
スラブを岩壁まで。ロ-プの流れによっては落石に注意が必要。
12P・リ-ド
ルンゼを一段上がれば、草付きルンゼ。途中の潅木でピッチを切る。
クライマックス
13P・フォロ-
最終ピッチ。
草付を詰めて、最後のフェ-ス。
最後のフェ-スはクラックにハンドとフットを捻じ込んでいく。
その先の青空に、その向こうの山並みが開ける。そして歓喜。
はたして終了点が錫杖岳の山頂。これほどのクライマックスは、そうない。
「見張り塔からずっと」
そこに、善や悪など意味があるはずもない。
見えるのは事実だけだ。
明と暗、光と影。クライマックスはいつも同じとは限らない。
見張り塔からずっと、いままでもこれからも。
sak