2006/4月下旬 鹿島槍ヶ岳・東尾根(中退)
同流
不意の降雪。雪面に爪先を蹴りこめば表層は音も無く谷へと落ちていく。
強風に雪が舞い上がる地吹雪。裸眼を晒すにはチト辛くゴ-グルを取り出す。 春山の荒天はまさに「山をナメちゃあいけないよ」ってな具合である。
そうして俺はつぶやくのだ。「春山ってイイヨねえ」と。
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入山日、平日にも関わらず先行アリ。恩恵にあずかりサクサク進む。
二時間半ほどで先行パ-ティ-に追いつく。トレ-スのお礼とともに我々が先行となる。
ひと登りで一の沢の頭。稜線はここから随分と様相をかえ、リッジとなっている。
途中、先ほどのパ-ティ-の一人がラッセルの協力を申し出てくれた。 しかも驚くべきスピ-ド。そんな彼のザックには「同流-DRU-」の文字。
同流の底力、とくと拝見いたしました。
携帯
二の沢の頭でシバラク風に吹かれる。
今日は第二岩峰までというプランもあった。 が、今日の雪の状態でオ-ルラッセル。しかも強風のコンディションではとても行く気になれない。
そうと決まればココにくつろぎの居室が出来上がる。 あとは水を作りながらのんびり過すのだが、やはり気になる明日の天気。
そしてなんと便利なもので携帯電話で山頂の天気予報や天気図が見られる。
稜線や山頂はほとんどつながるのだから、携帯電話には少々ウンザリさせられることのほうが多いのではあるが、 いやはや便利なものである。
肝心の天気は「晴れときどき雪」天気図は太平洋上の低気圧が離れ、移動性高気圧が列島を西から被う状況であったため
「ときどき雪」は一時雨雲が通過するものの”回復傾向”と読んだ。
撤退
朝は三時五時。同流Pが10分程度の先行となった。
昨夜は冷えたことと風が断続的に吹いていたこともあって雪の状態がいい。 アイゼンが程よく効いてサクサク進める。
雪壁を繰り返し第一岩峰。このころから雪がちらつき始める。これが「ときどき雪」か。
さらに雪壁をグイグイ上がり岩の露出した雪壁をトラバ-スすると第二岩峰。
この頃から降雪は激しくなり、雪面に爪先を蹴りこめば表層は音も無く谷へと落ちていく。
強風に雪が舞い上がる地吹雪。裸眼を晒すにはチト辛くゴ-グルを取り出す。 春山の荒天はまさに「山をナメちゃあいけないよ」ってな具合である。
第二岩峰はこのル-トの核心であり、ほぼ唯一の岩稜登攀の部分である。
階段を上がって突き当たるチムニ-が四級とされるが、アイゼンの前爪を乗せる部分も明確で程よいホ-ルドも あり、問題はない。
フォロ-を迎えて雪稜をもう1ピッチ伸ばそうとリ-ド交代。 視界も無く見えるはずの同流Pはすでにガスの向こう。
パ-トナ-の姿が見えなくなろうかというそのとき、突然、人影が増えた。
いくらか視界が効いてきたのかなと思ったのもつかの間、会話から同流が撤退を決め、下山にかかったコトを知った。 この先尚、視界は悪く、雪面とガスの見分けが付かないほどであるらしい。そしてこの強風。
この先の雪稜も難所が無いとはいえ、これでは危険である。
また、20cmほどの降雪もあり、帰りのラッセル協業化による省力など考えても我々も合わせて撤退がベストである。
リベンジ
第二岩峰を懸垂下降し雪の急傾斜をサクサク降りて右にトラバ-スで第一岩峰。 懸垂したいところではあったけど、支点が無いので見覚えのある潅木にアタリをつけてクライムダウン。
そこから稜線につかず離れずで幕場に戻ると同時に今までに輪をかけて猛風が吹き荒れる。
今頃、上にいたなら飛ばされてるかなという確信と安堵。難儀しつつも撤収を済ませたら長居する必要は無い。
下山は尚強まる風に辟易としながらも空を見上げれば青空と積雲。
高度を下げ、風も弱まれば陽だまりスノ-ハイクの様相となる。
程よくついた傾斜を探しながらシリセ-ドに興じれば、にわかに口元も緩む。
「春山ってイイヨねえ」
このたびの山行は、「撤退」に終わった。
とはいえ、第二岩峰は登れたし、程よい充実感と満足感。
未踏部分はとなりの天狗尾根と被るし、そのとき頂まで詰めればいいかな、という気持ちである。
だから下山後、パ-トナ-から「リベンジしますか?」と問われた時にモチロン俺はこう答えた。
「もう、イイヨねえ」と。
sak