2008/1月中旬 八ヶ岳西面・ショルダ-右リッジ
少数派
午前五時。
しんと張り詰めた空気。
一筋の明かりを闇に投じる。
本日の第一歩を踏み出す。
サクリと軽い音。
これが今の自分の全てである。
八ヶ岳・赤岳の北峰からさらに北。ショルダ-といわれるピ-クがある。
その峰から派生するリッジは5本。その一番右がショルダ-右リッジである。
南八つにあって5本の派生尾根といえば想像に困難ではないが、そのル-トは 一見に複雑であり、また隣に人気の 赤岳主稜が存在する不運もあってか、訪れるパ-ティ-は、主稜と比べて 明らかに少数派となる。
回想
実は以前、このショルダ-右に取り付いたことがあった。
<山行の回想>
下部岩壁の一番低いところを登るらしいので、おそらくここでマチガイは無いであろう。 支点の捜索をするとどうにか一枚ハ-ケンを見つけることができた。 一枚打ち足し、見上げると凹角を斜上するラインが見えてきた。
1ピッチ、リ-ド
スタンスは脆く、ホ-ルドは外傾で雪がつまっている。そして追い討ちをかけるように支点が無い。 ようやくハ-ケンを一枚打ってテンション。掃除とハ-ケン探索で時間は過ぎていく。 試行錯誤を繰り返すもその後は一進一退を繰り返す。
すでに時間は二時を過ぎており、時間切れ敗退を決断した。
基部左のルンゼから岩壁上に出る方法もあるらしく、 なるほど、ル-トとしてすっきりはしないものの、傾斜はそれほどでもない。 もっとも今回取り付いた真ん中ル-トも登られてはいるはずで、正面からここを貫けて行きたいという理想も感じてはいる。
以前の記憶を辿りながら文三郎尾根から取り付き目指す。
「じゃ、いきますか」と声をかけると、パ-トナ-は無言で頷いた。
登攀
尾根から急下降。右ルンゼを渡り、尾根を乗り越す。左ルンゼは主稜からの落石が多い。急いで渡る。
下部岩壁。
以前の取り付きは上からのチリが酷いのでさらに左のルンゼを目指す。
一段、フリ-でフェ-スを登るが、想像以上に安定しない。初っ端から見通しが甘かった。 セルフをとってここからロ-プを出す。
ロ-プを下に垂らし、まずはフォロ-を迎える。
1ピッチ・ルンゼをダブルバイルで行く。一箇所、岩の露出した2mの垂壁。
2ピッチ・ルンゼ~尾根へ右上。
3ピッチ・尾根を乗り越しトラバ-ス。岩壁下。
4ピッチ・一段上がって、雪がつまってしまって心もとないホ-ルドで次の一歩が出ない。なんとかツァッケ一本の立ち込みで対処。
5ピッチ・ガバのリッジ。とはいえ、雪と氷の掃除は欠かせず、ホールドスタンスの探索に時間は掛かる。
6ピッチ・小岩塔を乗り越し雪稜
7ピッチ・ガバのリッジ。思い切って断崖に身を乗り出す。
8ピッチ・傾斜も落ちてなんて事の無いリッジ。~終了点
縮図
ショルダ-右は総じて雪と氷に覆われたスタンス・ホ-ルドの掃除、また支点探しに従事した。
午後三時。
陽は傾きつつ、黄金の雪原に針葉樹の影がひときわ長く突き刺さっていた。
これからの美濃戸口までの長旅を憂いつつ、地蔵尾根ではシリセ-ドに興じる。
いっときの充実にあっという間の快楽。
そして最後に残るのは、長い長い現実。
一日は一生の縮図なり。
結局は、一歩一歩地道に歩む時間が一番長い。
sak