2008/7月中旬 谷川・幽ノ沢中央ルンゼ
輝き
それぞれに身に纏う輝きというものがある。
決して目に見えない「雰囲気」という実体なき確信がある。
得手不得手や鍛錬に裏打ちされた自信というのとはまた違うナニかであるらしい。
「地球に愛されし者」
今回のパ-トナ-、Sさんの偽らざる真の姿を追う。
幽ノ沢・中央ルンゼ。
天気は谷川らしく、麓は晴天、谷はどんよりといった具合。
何より、梅雨の真っ只中この天候は好条件といえよう。
Sさんといく山は、天候で悩まされることがまずない。早くも実力発揮といったところか。
幽ノ沢は取り付までのアプロ-チに一抹の不安があったが、何とかナメ・草付・雪渓をつないで、中央ルンゼへ。
すらりと一直線に伸びた快適なスラブ上に大ハングが顕著ですぐにそれとわかる。
発見
下部スラブは快適。
下の小ハング下でロ-プを結ぶ。小ハングはホ-ルドが甘く、決して簡単でない。
それから2ピッチほどは快適なスラブ。
4ピッチ目、次第に急傾斜となるスラブは支点も少なく脆い。
ガイドではハング下でピッチ切とあったのでそれと思われる残置ピトン二つでビレイ。
しかし、そこはハングから滴る雫が酷く、さかぼう全身びしょ濡れ。
それを見ていたSさんが少し手前のカンテにピトン発見。ビレイ。
さかぼうも何とかそこまでクライムダウンで雫地獄からの脱却。
冷えと震えで、体はおろか気持ちまでも消沈。愛されない者というのはこんなものか。
しかし、実はこれが今回のタ-ニングポイント。
はじめにビレイしたところからだとカンテに上がるのはチョット嫌な感じ。
そしてそのスラブを上がりすぎると大ハング直下で行き詰まり。懸垂跡も見える。
Sさんのチョイスが大正解。ウ-ム。Sさん、グッジョブっす。
定石
次のピッチが核心。
核心はカンテから直上。ヌメヌメで嫌な感じのリッジを行けば突き当たりにフェ-ス。
フェ-スにはハ-ケンとボルトの連打。これが人工部分かと納得。
意外と岩の凹凸があるので、フリ-でも何とかなりそうな気もするが、手前ピッチで意気消沈したこともあり、 なおさらホ-ルドは甘く岩もびしょびしょなので定石通りにアブミを出す。5手ほど右上。
そこから凹角に入るがここが予想以上に悪い。アブミ乗越し後に支点がなく、 これまた甘めの濡れ濡れホ-ルドに、なかば半べそをかきながら(笑)凹角出口の支点にたどり着く。
「いやぁ。フォロ-でヨカッタ-」とSさん。愛されるってこういうことなのかもしれない。
あとは濡れたフェ-スを慎重に行けば、心温まるⅢ級ピッチが残るのみ。
確信
石畳から中央壁の頭、堅炭尾根へは1時間ほど。
急な尾根道のボトボト歩きが少々堪える。
とはいえ、奇石岩峰を眺めながら、次の登攀を夢見るのも面白い。
幽ノ沢は喧騒と離れ、静かに登攀を楽しめる明るい谷。
いずれまた、再訪をしたい。
実際、私自身もなんとなく、というかは確かに感じてもいた。
いくつかのエピソ-ドに実体なき確信は、僅かながらに輝きを放っていた。
”地球に愛されし者”
それでも決して偶然ではない実力と人柄が、そうさせているのは違いない。
sak