1999/11/下旬 南房総・烏場山
遅く起きた朝は穏やかな天気の 低山日和だった。
「どっか行こうか?」そんな言葉が自然と出てきた。
私の頭には言ったそばから、南房総の烏場山があった。
烏場山への山道は「花嫁街道」とも呼ばれ、千葉県でも1・2を争う 人気のコ-スであるらしい。
防寒具と弁当、ガイドブックをザックに詰め込んで、自宅から2時間。
家族3人、登山口に立つ。
暗い林の中、岩上に”靴下”が・・・
程なく歩くと、急登となる。
しかし、それも10分ほどで終わってしまう。
林の中に平坦な山道が続く。
岩に”靴下”が干してある。
持主が取りにこない以上、誰が片づけるのだろうか?
はたまた、こんな暗い植林でなぜ干し物をするのか?
さらに、靴下を忘れ裸足で帰った?用意万端、予備靴下があった?
だいたい、水気のないここでなぜ靴下が濡れたのか?
謎は深まるばかり・・・。
「花嫁も、近寄りがたし、岩上の、靴下だけは、見て見ないふり」。
房総の山々と太平洋
第一展望台に立つ。
随分高い所まで来たことを実感すると同時に山間から太平洋が望める。
この頃から「どうやって花嫁は嫁いだか?」という話題が持ち上がる。
花嫁行列を成して、角隠しなぞ頭にのせて歩いた説と
最低、身の回り品を携えて、身一つで嫁いだ説。
夫婦共々、後者と推察。
「なんだか夢がないねぇ」と妻は笑う。私も笑う。
迫力のマテバシイ純木樹林
第二展望台を下ると迫力の天然劇場 と出会える。
マテバシイの純木樹林がそれである。
株立ちのマテバシイのみで形成された林は密集した枝の為、見通しが利かず、 石を投げると跳ね返りそうなほどであった。
そんな林をじっくり眺めながらゆっくりゆっくり歩を進める。
石を抱く「経文石」
さくさく歩くとお次は「経文石」 に着く。
木に抱かれた石がある。いつしか自然に出来上がった造形なのだろう。
それにしても期待していた以上に見所が多い。この先には「自害水」なる意味深な水場もあるようだ。
しかし、「自害水」なる所は水も涸れており、通過するだけとなる。
この水場の名の由来となるエピソ-ドを悲しげに作り上げ盛り上がる私達。
本当のことは未だ知り得ないが、山登り共々そんな会話が妙に楽しい。
快適な休憩場所
見晴に出た。
ベンチ、展望、日だまり・・・最高の休憩スポットである。
本日のランチは「おにぎり」。日帰り登山の定番メニュ-である。
気持ちの良いここでゆっくり1時間の休憩。
私は寝転がり空を眺め、息子はワケも分からずはしゃいでいる。 妻といえばその息子に振り回されて大変なようだ。
烏場山山頂の花嫁さん
烏場山はそこから10分ほどで着いた。
山頂には花嫁が三つ指たてている石像があった。
私も三つ指たてて記念撮影。
そう言えばここはもう「花嫁街道」でななく「花園山ハイキングコ-ス」なのだ。
千手観音のようなマテバシイ
下山路は緩やかな花園山ハイキングコ-スを 着実に下っていく。
思わず歌でも口ずさみたくなる山道だ。
♪「あるぅひ、森の中、くまさんに、であ~った。」
みんなで歌い始めた、その時。ある疑問が涌いてきた。
なぜ、くまさんはお嬢さんに「御逃げなさい」と告げたのか?
その考察で、またもや喧喧諤諤。討論会ハイクと相成る。
結局は
その熊は心やさしい熊で恐くはなかったのだが、 この森には自分以外にとてつもなく恐い動物が多い為 心配になり、「御逃げなさい」といったものの、 逃げていったお嬢さんがイヤリングを落としたことに気づいたやさしい熊は、 お嬢さんを追いかけて「御待ちなさい」と声をかける事となった。
という考察が 一番妥当なスト-リ-だろうということになった。
海より先に山が暮れる
辺りが薄暗くなってきた。この時期 さすがに暗くなるのが早いのだ。
したがって残念ながら黒滝は通過するだけとした。
思いがけずに出発し、思いがけずに暮れていく。
今日はなんにもない一日だった。
日々の焦りも嘆きも喧燥も忘れ、邪念のカケラもない、逍遥。
なんにもない、想い出深き、素晴らしい冬の日だった。
sak