acc-j茨城 山岳会日記

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奥只見・袖沢北沢~丸山岳~メルガ股沢下降

2024年09月17日 12時10分17秒 | 山行速報(沢)

-丸山岳-

私にとって、丸山岳とは何か

「好き」だけで語るなら、もっと素敵な場所はいくらでもあるだろう
けれども、それだけではない何かがある

知る人ぞ知る名山という称号
路が無いという高揚感
そして、あの頂

山という妖に憑かれし者に宿る感情とでもいうのだろうか

 

2024/9/3-5 奥只見・袖沢北沢~丸山岳~メルガ股沢下降


一路、北へ
これからの山旅を想い、開放的な気分に浸れるひと時だ

午前二時
シルバーラインを走り抜け、トンネルを抜けるとそこは奥只見ダム
奥只見エコパークの駐車場で車中泊
実に静かで瞬時に記憶が朧気となる

五時起床
のはずが、寝袋にくるまり15分ほどウダウダと過ごす
独りの山は、こういった自由がちょっと幸せ

とはいってもあまりのんびりしていられない
手早く整え、朝食は歩きながら食べることにした

下り基調の舗装路を軽快に行く
大鳥ダムへの道を分け、奥只見ダム下で只見川を渡り最初のトンネルを抜ける



「結界を抜けて、山へ」
そんな気分にさせてくれるシチュエーションがいい

平坦な道を淡々と行けば、南沢を分ける
その先、二度目に森を行く途中で沢型が横切る
これを袖沢に向かって下ると対岸に北沢の出合

北沢は袖沢に比べれば小さな流れ
しばらくは平凡な川原を行く



途中のゴルジュは膝上程度で容易
この後に出てくる2mほどの滝は釜が大きく、右岸を巻く

3段15mは右岸を巻くが、傾斜の強い草付きをトラバースするので要注意
灌木に手が届けばあとは強引に登れる

沢床へ戻るとき50cmほどズリ落ち、左ひざを強か打ち付ける
しばらく悶絶

多少の出血があったもののテープで止血
痛みは残るが骨に異常はなく、歩行はできそう
とかく、独りの山はこういう小さなトラブルが致命的になりかねない


-自由の代償-

ここは想像的かつ自由の、美しくも厳しい輝きに満ちている
輝きと渡り合う歓び、そして代償
本能がこれこそ本物だと言っている


この先、10m以下の滝が続く
いずれも沢ヤなら一見して何処をどう行くか、見当もつくだろう
1000mあたりで幕場を求められるが、明日の行程を考慮して先を急ぐ

10m幅広滝は水流左からシャワーを浴びて中段まで
そこから右へトラバース
先ほどの教訓も含めて、空身で中段まで登り荷揚げとした
水量が多い場合は、巻きとなるだろう

生憎の曇天にシャワーを浴びてチョット寒い
今宵の献立も頭をよぎるが、体を温めるために遡行に専念する

5m前後の滝を思い思いに越えていき1435mの二俣
少し進んだ1450mの右岸イタドリ台地を整地して幕とする

このあたりまで来ると、流れも細く流木も少ない
やはり焚火のない夜は、侘しい

一杯やって食事をとったら、もはや不貞寝のごとく睡眠不足の解消を決め込む

明けて翌朝は青空が広がる
だいぶ距離を稼いでいたので、今日は余裕をもって取り組める
左膝の痛みは軽快していないが、幸い悪化もしていない
滑りも強いので不用意な転倒はしないよう意識的にゆっくりと一歩一歩踏みしめる



詰めは様々登られているようだが、本流と思われる方へ進む
視界が開けてきたと思ったら、ガスが垂れ込めてくる
山頂での景観が如何ばかりかと気も沈むが、こればかりは運だろう

やがて水流もわずかとなって源頭の草付き
右の笹と灌木を使って乗り上げると笹藪漕ぎ
ほどなく尾根に乗って尾根を緩やかに登っていく
15分ほど藪を漕げば丸山岳南東峰の草原に至る



南東峰から丸山岳へはまた少し藪を漕ぐ
そうこうしている間にガスも晴れてきて青空が広がる

山頂からは山波のうねりが広がる
その頂を指呼しながらやはり会津朝日岳へ稜線が目を引く




-辿り着いた場所-

初めて丸山岳を目指したのは25年前
当時2歳だった息子の口癖は「だっこ」「ぶぅーぶ」だったのだが、社会人となった今では「メンドクセぇ」が口癖だ
そんな現実だけど、まあ苦笑い程度で過ごせるのだからおそらく今も昔も幸せなのだと思う

あの時ここに至ることはなかったけど、季節や登路を変えて五度目の丸山岳
私にとって丸山岳とはいったい何か

想いを馳せて山谷を繋ぐ
そして辿り着いたこの場所
また来ることができるだろうか


丸山岳を後に西へ
薄い踏み後もしばらくで不明慮となる
尾根を歩いて右は大幽西ノ沢、左は北沢
会津朝日岳への稜線を右に分け、村杉岳への尾根に入ったら右へと下る
わずかの下りでメルガ股沢の沢型に出る

このあたりは、地形図だけなら不安な場面だが、GPSを使えば心理的負担も少ない
GPSといいwebの情報量といい、あの頃とは環境が違う
勿論、それらを使わないという選択肢もあるのだけれど、俗世に浸かり切った身にはもはや後戻りなどできないのも事実だ


メルガ股沢は4か所ほど懸垂下降
概ね、捨て縄が残置されている
しかし、不安なものもあるので自前の捨て縄は用意したほうがいいだろう
また滑りが強いので下降には十分注意したい

1100mほどから幕場適地が散見される
この先を急ぐという選択肢もあったのだが、痛めた膝を言い訳にして左岸台地の物件で幕とした

付近に流木も少なく、昨夜に続いて焚火なしの一夜
実を付けたミズがたくさん採れるので、宵の膳に

明るいうちから一献
ミズは油炒めとたたきにしていただく
持参したつまみも加えれば、充分満足のお品書き
そして流輝の大吟醸


-夜空の流輝-

谷を映すように流れる夜空
その流れに星が輝く
夜空の流輝で一献

幻想的な夜であった

最終日は袖沢乗越を越えて、帰路に就く
昨夜も雨はなかったし、袖沢の渡渉も問題はないだろう
ほかに難所もないので気は楽だ
このあたりは既知の情報があるというありがたさ

とはいえ、1100mから袖沢乗越の支沢までは距離もある
滑りも強いので確実に歩を進める
淡々と行けば2時間ちょっと
ゴルジュ状の先の左岸から5mほどの滝で出会う

慎重にこの滝を越えればあとは細い流れを詰めるだけ
最後は落ち葉の斜面を登り尾根に乗る

少し下った鞍部のブナに切付を見る
その昔、ここは生活の場であった証である

-袖沢乗越-

南会津に興味を持ちはじめた頃から気になっていたことがあった
それは、白戸川への尾根越えル-ト、袖沢乗越だ
日本登山大系の記録を読むにつれ、想像ばかりが広がった

想像の世界をこの目で確かめる
誰にでもあると思う
そういう思いを巡らすこと



そこからは落ち葉の急斜面を下って、沢型へと進む
すると仕入沢上部の7m滝上に出る

ルート取りによってはこの滝をうまく巻き下ることもできるようだが、捨て縄もあるので懸垂下降
よく見るとフィックスも張ってあるのだが、なんとも不安を覚えるロープなので要注意

ここから上部の滝場をクライムダウンでやり過ごし、中流部からは平凡となる
下流部に至っても細い流れに草が覆いかぶさり、終盤までボサ沢の様相
ついに流れが開けることなく袖沢に合流する

-九月の蝉-

山に想いを募らせる

地図を読み、想像する
そこへ至る自分の姿を想像する
そして何をすべきか想像する

私が初めて想像的登山に取り組んだのが丸山岳だった
「初恋の山」
それが、私にとっての丸山岳なのだと思う

時代は変わっても
自身が変わっても
あのときの胸の高鳴りは変わらない

結界を抜ければ明日が待っている

時に「初恋」を想いながら、ほろ苦い現実を生きる
嘆きながらも、存外満たされていることを知る
この先どうなるかなんて分らないけど、このくらいが丁度いいのかもしれないな、とも思うのだ

辿り着いた場所
蝉が一匹、九月の空に向かって鳴いていた

丸山岳(左)、梵天岳(右)遠望

 

sak


 



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