2003/8中旬 剱岳・八ツ峰(Cフェ-ス、Aフェ-ス)
暑中お見舞い
~暑中お見舞い申し上げます~
いつぞやは大変お世話になりました
その後、私はしぶとくも何とか生き長らえております
このたびは、先日の山旅のご報告をさせていただきます
晴れ渡る青空に突き出る岩峰
なぜそれほどにあの場所が好きなのか
そしてそこを行くのか
うまくはいえないけれど真に楽しいのだから仕方がない
誰がなんと言おうと
そんな衝動はもはや抑えることはできずに私の頭の中を占拠する
それが真実の自分なのであろうと想う
道半ば、仰ぎ見た丸山東壁でそんなことを思った次第です
鮮烈
それは鮮烈なる連なりであったかといえば意外とそうではなく、だんだんとそれが近づいてきた、そんな感覚の出逢いでした
視界が開けた雪渓を地味に、地味に登していくのですからそのように感じたのでしょう
整列する峰を端から数えるとA・B・C・Dと、とても行儀がよろしくて思わず微笑んでしまうほど
みなさまに於かれましても同様に思われる事、請け合いです
ただし、内気な二番目の峰だけは、近くで覗き込まなければ望めません
そんな峰峰の性質を垣間見るにつけ、今以上に好感を持つのは言うまでもありません
喜び
愛着を感じつつもようやくここまでたどり着いた安堵を飲み込み身支度をしたならそろそろと登攀と相成ります
天気も上々、少し塗れた岩にもめげずこの日和になったことを素直に喜ぼう
それは私の普段の行いが・・・。などとは決して言うまい、語るまい。
誰の責任でもなければ、誰のお蔭でもない
この爽快な一日に痛快なる峰峰。
登攀の評点を語ること同様、私情を挟むのは野暮なことのように感じてならないのは私だけではないはずです
ハイライト
次第に高度は増し、Cフェ-ス、4ピッチ目のハイライトは磨かれたリッジのトラバ-ス
ここをどう越えていくかがまた楽しげなもので、まあ決して上品とはいえませんが私などは「うひゃうひゃ」言いながらズリズリと体を上げ後はホ-ルド頼りで参ります
このあたりは、なんとも爽快なピッチです
これが済めば終了点もすぐそこ
あとは明瞭な踏み跡を暫く下り、5・6のコルへと懸垂45m
5・6のコルは、一仕事終えた壁ヤにとってちょうどいい一服の場所となっています
私たちもこの場所で口々に今の登攀を語り、笑い、次の一本に期待を寄せてまた笑うのでした
ときを忘れ
「ときを忘れるとき」
大人になればなるほど失ってしまったようにも感じます
いつの間にやら夕日に染まった少年時代を思い出すように Aフェ-スの登りに取り掛かります
出だしの1ピッチ目、カンテからハング右を越えていくのが核心です
時をも忘れ、一心に次の一手を探します
この程よい緊張感がたまりません
みなさまにも、是非、手を触れ楽しんでもらいたいものです
名残
天候も陽の射す日和となり、ますますフリクションが利いてきて残りのピッチは爽快な登攀を楽ませていただきました
カシラからは視界の広がった長次郎雪渓の眺めを堪能し懸垂で5・6コルへと下降します
コルでは装備を解きながらの語りはまたも笑顔で満たされます
ザレガレの斜面を下り、雪渓をおもいおもいに下っていくと次第に冷気のガスに包まれ、寂しげになるとともに
先ほどまでの充実感が一転、名残惜しさに変わっていくようでした
恋しさ
恋しさを一言で表現するならば「渇望」となりましょうか
人の渇きは欲望にも似て非なるもの
本来、心に渇きを覚える動物などいないのですから
私などは渇きと欲望に飢える俗人といえるのでしょう
山恋しさに、里恋しさ、人恋しさ
さまざまな生活にさまざまな渇き
渇ききる前に、擦り切れる前に真実の自分を探さなければ夜は明けない
生意気ながらもそのように思えてなりません
下山は最高の天気に恵まれて。
sak