今の小学生は、その半分が「愛着障害」だと言っても、過言ではない、と私は考えています。「愛着障害」の子どもは、愛着が安定していませんし、エリクソン流に申し上げれば、根源的信頼感がものすごく弱いわけですから、自分に価値があることも知らず(知らされず)に、ガラクタ扱いですし、それはまた、子どもがガラクタ扱いされていることの反映なんですけれども、母親はじめ、人に対しても、世間に対しても、「どうせ、当てにならない」と感じる度合いが深いわけですね。
どうして、日本は、こんなに「愛着障害」だらけなのか?、
それは、すでに繰り返しご指摘している通り、日本の親たちが、低賃金、長時間労働、不安定な非正規雇用、長い通勤時間、などのために、子どもの目の前から奪われていることが非常に多いからです。こういう状況下では、親が3次保育まで準備しても、結局は、ネグレクトになりますし、心理的虐待をしているのも同然なんですね。
これでも十分深刻なんですが、一番深刻なのは、親が子どもを毎日、刻々と、傷つけているのに、その自覚がないケースです。これは心理をそれほど学んでこなかった教員にも、親たちにも、なかなか理解してもらえない点なんですね。一見「親は子どものために一生懸命だ」と見えますし、親本人も、「できるだけのことはしている」と意識の上では考えている場合が少なくないからです。それでも、心理の立場から、母親に対す心理教育と心理的支援の必要性を言い続ければ、「学校現場に対する無理解」、あるいは、「親の努力に対する無理解」と誤解される場合が少なくありません。
私の言わせれば、理解が出来てないのは、お母さんであり、教員の方ですね。ゴメンナサイね。無理解なのは、無意識の恐ろしさに対する無理解です。
無意識って、どういうことでしょうか? 無意識は、自分では意識できないことですから、意識的なコントロールがきかないし、コントロールがきかない事さえ、気が付かない場合が多い、という事です。
1番深刻なのは、母親自身が子どもの頃に、大切にされなかったり、ひどい育てられ方をされたり、イジメや虐待の中でむごい育てられた方をしているケースです。既にカウンセリングを受けて、心理的な課題が解決していればいいですけれども、解決していない事の方が、遥かに多いです。解決していない場合、恐ろしい事が、毎日、刻々と、起こることになります。それは、” 母親が、意識の中で、我が子を大切にしようと思えば思うほど、無意識の中では、我が子を深く傷付けている” 、という事が、起きてくるからです。にわかには信じがたいことかもしれません。私も、渡辺久子先生のお話を聴くまでは、文献を読むだけでは、実感が持てませんでしたからね。でも、渡辺久子先生が、ご自分の臨床事例の、母と子のことをお話しくださったので、「ガッテン」となりました。これを、「虐待の世代間連鎖」、「赤ちゃん部屋のオバケ」などと呼ばれます。虐待と言うと、手を挙げたり、蹴ったり、タバコの火を押し付けたり、風呂に沈めたり、あるいは、レイプしたり、と本当にヒドイ事例を考えると思います。あるいは、食事も与えず、親は外で遊びほうけている、という酷いケースですね。日本でもそういうケースは、残念ですが少なくないんですね。でも、一番多いのは、三食を与え、小ざっぱりした服装も身に着けさせ、学校にもやっている、外から見れば、親は親なりの務めを果たしているように見えるケースです。それでも、親が「仕事だから…」と言って、子どもと向かい合って、心と心を通わせる温もりのある時間を持たない、罪滅ぼし的に、お休みの日にだけは、レジャーランドに連れ出したり、お小遣いやプレゼントをしたりするケース、あるいは、忙しさにかまけて、子どもと接する時には、「宿題やんなさい」、「ゲームをいつまでもやってんじゃぁないわよ」などと言って、子どもとの時間が、禁止の言葉と命令する言葉を言う時間になっていたり、あるいは、我が子が80点をテストでとっても、残りの20点の方を取り上げて、「もうちょっとガンバんなさい」などと、子どもを否定する言葉を投げかける時間になっている、というケースです。そして、この禁止・命令・否定をいつの間にか口にしていて、それとは気付かないし、気付いても、止められないケースですね。前段のひどいケースはもちろん、後段のケースも、子どもにとってもむごたらしいケースなわけで、子どもにも、親にも、心理的支援が必要なケースです。
対策はあるのか?
労働環境を北欧・オランダ並みに、週35時間以下、同一労働同一賃金同一福利厚生にするとともに、残業させる企業にこそ、罰金・罰則を課す、厳罰化の法的整備をしなくてはならないでしょう。それとともに、あまりにも心の傷付のある子どもが多すぎるので、今のような知育中心なのに、知育さえ世界にもとるような日本の学校教育制度を、子どもと教員の関係そのものから問い直し、看護師、保育士、ソーシャルワーカー、臨床心理士、を正規職員として学校現場に入れていく必要があるでしょう。管理職も、教員でない人(看護師、保育士、ソーシャルワーカー、臨床心理士)が、半分以上を占める体制にする必要があるでしょうね。