多発性骨髄腫の記事を書き始める前にびっくりしたこと。
急性白血病と同じですが、多発性骨髄腫も過去に記事にしていなかった(汗
骨髄腫の患者さんやご家族の相談はかなりコメントでやりとりした記憶があるのですが、どこの記事で受けていたのだろう・・・(?)
多発性骨髄腫も現在、どんどん治療が新しくなっている分野です。
もともと2006年にボルテゾミブが発売されるまでは自家末梢血幹細胞移植以外の方法では「延命」すらできないとされていました。治療の目的はQOLの維持・・・。
そんな多発性骨髄腫の治療が一変したのはボルテゾミブが発売され、サリドマイドが2008年か2009年くらいに国内で使えるようになり(個人輸入はしていましたが)、レナリドミドが2010年くらいから使えるようになり・・・です。
それから10年ちょっと・・・
今ではボルテゾミブもレナリドミドも初発の患者さんから治療に使えるようになり、多発性骨髄腫の治療の両輪のような位置付けにあります。
この2つの薬をさらに発展させた薬剤としてプロテアソーム阻害剤のカルフィルゾミブ、イキサゾミブ、IMidsとしてポマリドミドが使えるようになりました。
加えてボルテゾミブにもレナリドミドにも合わせられる抗CD38抗体(ダラツムマブ)、レナリドミドと合わせる抗SLAMF7抗体(エロツズマブ)、ボルテゾミブと併用して使うHDAC阻害剤であるパノビノスタットなどがあります(何も忘れてないよね・・・存在を忘れている薬はないはず)。
ということで、骨髄腫の治療はどんどん発展していっています。ここではまだ完治できない病気として説明していきますが、将来は治せる病気になっているかもしれません。
それでは少し説明文を書いていきます。
Vさんは貧血と骨痛を主訴に近医を受診され、総蛋白が多かったことなど、いくつかの要素から血液の病気を疑われて、当科に紹介となりました。
初診時の血液検査では白血球が5000/µl、ヘモグロビンが9.0g/dl、血小板は20万/µlと貧血の状態でした。他にアルブミンという物質が3.6 g/dlと少し減り気味で、IgGという数値が550 mg/dl、IgAという数値は2500 mg/dl、IgMは20 mg/dlとIgAの上昇と他の2つの数値の低下が認められました。
(IgAが上昇しただけならまだわかりませんが、正常免疫グロブリンが低下していれば、骨髄腫の可能性が高いです。過去に成人で診断した原発性免疫不全の方がいましたが)
この段階でいくつかの病気の可能性が高くなり、それを調べるための血液検査と骨髄の検査を行いました。
血液検査では1種類の免疫グロブリンが体の中で大量に作られていること、すなわちMタンパクがあることを示す検査結果が出ました。
また、骨髄の検査では形質細胞の数が25%と増えていました。その形質細胞には異形なもの、多核のものなど異常な細胞を多く認めました。それらを特殊な検査(フローサイトメトリー)で確認しますと、CD19というアンテナは陰性、CD56陽性で、免疫グロブリンのκ鎖に偏りのある腫瘍細胞集団を認めました。
腫瘍であるということはこのκとλという部分は通常1:1から1:2程度ですが、今は99:1になっています。これはκというアンテナを持つ形質細胞が腫瘍性に増殖したため、このような偏りができています。
上記の結果から「多発性骨髄腫」という病気と診断しました。
多発性骨髄腫は形質細胞の悪性腫瘍で、骨髄という骨の中にある造血工場で「腫瘤」を作りながら増えてきます。この腫瘍は骨を溶かしながら増えるため、骨が痛くなったり、弱くなった骨が骨折したりします。溶けた骨が多くなると、骨のカルシウムが血液中に流れ込み、吐き気や意識障害、高度の脱水から腎臓を悪くしたりします(高カルシウム血症)。また、貧血が起きたり、腎臓が悪く(腎不全)なったりします(CRABと言ったりします)。
他にもこの腫瘍細胞がつくるタンパク質が心臓や皮膚、腸などについて悪さをする「アミロイドーシス」というものが起きたり、正常な免疫グロブリンが作れなくなることで肺炎などが増えたりします(液性免疫不全ではウイルスなどのほか肺炎球菌などの細菌感染が増えます。基本的に液性免疫不全では呼吸器感染症:肺炎などが増えると言われます)。
この病気の評価は先ほどの「貧血などの有無」、「ベータ2ミクログロブリン(B2MG)」やアルブミンというタンパク質の量、染色体異常と言われるものなどで評価をします。
現在は貧血と低線量CTで骨の数カ所に病変を認めます。腎機能障害はなく、高カルシウム血症もないことはわかっています。アミロイドーシスを疑わせる所見もありません。
B2MGは3.7 mg/Lでアルブミンは3.6g/dlでした。LDHは正常より少し高く、染色体異常は高リスクの染色体異常はありませんでした。
これらからISSという分類でも、R-ISSという分類でもII期と診断できます。
Vさん:それはどういうことでしょうか?
II期というのは中間リスクという話です。どちらのリスク分類にしても調べれば生存期間や5年生存率などが書かれています。しかし、Vさんは今から治療を受ける方ですので、話が随分変わってきています。
Vさん:それはどういうことでしょうか?
細かい説明は行いませんが、多発性骨髄腫の治療は今どんどん進んできている状況です。先ほどのリスク分類は「骨髄腫のタイプ」として参考にはしていますが、ISSは今の標準治療薬であるボルテゾミブやレナリドミドがない時代の分類です。R-ISSはボルテゾミブなどが出てからのものですが、今出てきている新規薬剤のことを考えれば、参考として考えていただきたいと思っています。
(ISSもR-ISSも腫瘍の性質を反映するものとして参考にしますが、治療がどんどん良くなってきているので、生存期間などはあてにしないという意味です)
Vさん:医療が進歩しているので、私がそれを調べてショックを受ける必要はないと言いたいのですね?
はい。あくまでVさんはVさんの治療経過がありますので、インターネットなどの情報に惑わされすぎず、一緒に治療をしていきましょう。
その治療についてですが、多発性骨髄腫は完治を目指す疾患ではなく、良い状態を作り出し、それをできるだけ長く維持する「共存」を目的とした治療を行います。
そのため症状がない患者さんには治療をすぐに開始せずに、様子を見るのが一般的です。
Vさんは現在貧血や骨痛などの症状がありますので、治療の適応があります。
治療に関してですが、今ではボルテゾミブとレナリドミドという2つの薬剤を使用して治療を行います。
ボルテゾミブは注射薬で通院の頻度が少し多くなります。
副作用として血小板という数値が下がったり、痺れなどが出たりする(神経障害)ことがあります(というか、多い)。それ以外にも心臓や肺の障害(稀ですが)が起きたり、抵抗力が低下してウイルスなどに感染しやすくなったりします(帯状疱疹など)。B型肝炎に感染した既往がある人は、それが再燃することもあります。
レナリドミドは飲み薬で通院の回数は少なくて済みます。ただ、血液の数値が全般的に低下しやすいこと、それによる感染症が起きることがあります。他に血栓症が起きることや、アレルギーで皮疹や発熱が起きることがあります(免疫調整薬だからかもしれませんが)。
Vさん:どちらの薬がいいですか?
どちらも良い薬ですので、絶対にこっちとは言いません。ただ、腎臓にダメージがある場合はレナリドミドではなく、ボルテゾミブを使用します(レナリドミドは腎排泄、ボルテゾミブは腎不全の影響を受けない)。通院が大変なお年寄りであれば、レナリドミドを使用するかもしれません(少なくともQOLが上昇するまでは)。他は患者さんと話をしてになりますが、初回をボルテゾミブで治療を行い、その後の維持療法をレナリドミドという患者さんもいます。
Vさん:わかりました。ありがとうございます。
こんな感じでしょうか。多分、どんどん進歩している分野なので、説明が古くなってしまうかもしれません。
ただ、ベースは変わらないと思いますので、患者さんやご家族の役に立てば嬉しく思います。
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。
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それでは、また。
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