さて、続けます。
実はこの検診の記事を書いてみようと思ったのには理由があります。
先程、少しインターネットで近藤誠医師の発言内容を確認しておりました。なんといっても僕は2冊程度立ち読みしただけですので。
その時にこんな記載を見つけました。
http://www5.ocn.ne.jp/~kmatsu/gan046.htm
引用
「有効性は世界中で概ね否定されています
それが証拠に富裕で健康に関心が深いアメリカですら肺ガン検診、胃ガン検診など殆どのガン検診の制度がありません。
肺ガン検診は結核が過去の病気となりつつあったので、検診従事者の失業対策として、肺ガン検診の有効性を否定した大規模試験の結果が出てから始められたものです。
企業や健保がガン検診に消極的なのは、肺ガン検診等への補助がうち切られたなど、ガン検診の無効性が認められつつあるからであり、企業や健保の意志に依るものではありません。
がんもどき理論の検証をする前に、検診をしたらどう良い事があるのかを検証する必要があります。世界中で効果がないと完全に証明されている肺ガン検診についてはこの作業は必須でしょう。
今日まで築き上げられてきた膨大な癌研究の知見とは何のことでしょうか?日本での数十人規模のデータのことでしょうか?海外からまともなデータと評価されていないことにはどう考えるのでしょうか?海外での数万人規模の複数の試験結果を無視しているのは暴論ではないのでしょうか?
検診推進の裏付けとなる理論は早期発見・早期治療と云うものですが、上に書いたように、この論理を裏付ける統計学的数字、ないしは数式もなければ、厳密な論理展開もありません。逆にそれを否定する統計学的数字はあるのです。
悪性度はさまざまであるといいながら、ほとんどのガンが大きくなるほど転移する・・・と一括りに云っている。近藤氏が2種類に分けているのに対し、推進派は全てはガンだ(ガンは一種)と云っているかのような理屈だ。
手術は無効、早期発見により命を救えないというのが海外での結果の現実です。癌検診の有効性を検証することは、その意味で不可能ですし不要です。観察的方法では有効性は評価出来ないと云うのが医学の常識の筈です。」
引用終わり。
これに関してきちんとした情報をもとに提供するためにどうすればよいかを考えてみました。
以前も紹介したと思いますが、検診だけでなくすべての検査を行うかどうかは、いろいろ考えなくてはなりません。
例えばHIVのスクリーニング検査があります。これの感度はも99%以上です。加えて特異度も99%以上です。こんな検査はほとんどありません。ちなみに感度というのは「陽性のものを陽性と診断できる力」であり、特異度は「陰性のものを陰性と判断できる力」です
ちなみに肺がん検診で胸部単純写真の感度は36~80%と幅があり、特異度は90%。胸部CTでは感度が90%で特異度が49~89%と報告されています。
胸部単純写真は見落としが多くて(大きくなるまでわからない)、胸部CTは癌じゃないのもひっかけるので偽陽性が多いということです。
それを考えるととんでもない検査です。そういうことで肺がん検診は打ち切りになりました(アメリカで)
それはさておき・・・有名な話ですが検査にはすべて検査前確率というものがあり、これが検査後の確立に大きく影響します。一般診療では検査前確率は僕たち医師が患者さんから情報を聞き出し、その結果としてそれぞれの病気がどの程度の可能性があるかと判断してきます。
ここでは検診、スクリーニングですので検査前確率は「有病率(病気の人の割合:日本でも10万人当たり○○人と出されています)」となります。ではもう一度HIV検査に戻ります。感度・特異度が極限までよい検査ですが、有病率によってこれだけ検査の意味に影響します。
有病率が1%程度でもあればよいのですが、有病率は0.01%と低いです(学生の皆さんに計算させているのは、有病率0.01%ですのでHIVを想定して出しております)
http://georgebest1969.cocolog-nifty.com/blog/files/hivtest.pdf
この記事では統計学的な有病率よりも高いことを想定していますが、仮に10倍あったら偽陽性率67%、陽性率33%になります。統計学通りだと下のようになります(これは特異度を99.9%に上げて計算しているので0.1%の時の陽性的中率が50%になっていますが、要するにこれより低くなります。
これが医療世界の常識であり、すべての医師は検査の意味を考えながら「検査前確率はどの程度と踏んで、この検査の結果でどう変わるのか」ということを考えるわけです。
すなわち検査前確率という意味での有病率が重要ということになります。
アメリカの話が出ていますので少し書きますが、アメリカは予防医療に力を注いでいる国ですが無駄もできるだけ省こうとしています。
アメリカの側が出している検診やスクリーニング検査の意味に関して統括しているのは「米国医療研究・品質調査局」のしたにある米国予防医療専門委員会(http://www.ahrq.gov/professionals/clinicians-providers/guidelines-recommendations/uspstfix.html)や米国指針情報センター(http://guideline.gov/)になります。
いつ、どのようにスクリーニングを、どのような人間が受けるかを示しています。
アメリカではすべての人が同じように検診を受けることは有病率の上で無駄であるという考えから、すべての人のルーチンの検診を推奨していないのは事実です。しかし、がんのリスクがある人を対象にスクリーニングをするのは重要だといっています。
そこのデータを示しているのがアメリカのすごいところで、日本はルーチンにやっている。それだけです。要は無駄が多いという話ですね。
ちょっとわかりやすいように例を挙げますと、前立腺がんにはPSAという簡便で感度・特異度もそこそこ良い(70%前後)検査があります。
さて、PSAという検査を何歳から行うか・・・。30歳の男性に行う人は医師じゃなくても考えないのではないかと思います。仮に30歳くらいの男性が「祖父が前立腺がんで亡くなってしまい、心配なので検査をしてほしい」といったとします。だとしても有病率が0に近い。
じゃぁ、何歳からやるかというと米国では75歳未満には推奨しないというのがでています。これはアメリカで55歳から74歳の男性を対象に検診の意義を調べ、早期診断はできたが、死亡率に有意差が出なかったというものが理由です。ヨーロッパでは50~74歳で、死亡率は若干低下したが1400人が検診を受けると1人前立腺がんの死亡が防げるという結果です(ヨーロッパの研究はNew England Journal of Medicine 2009で発表されています)
まぁ、75歳以上では有意義かもしれませんが…・まだそこら辺も不明というところですね。75歳以上になると寿命が近づいてくるので,全生存率の向上に寄与しなくなってきます。
それを意味するのは大腸がんの話です。大腸がんはどうですかと言えば平均的なリスクの人に関しては50歳から開始して75歳までと書かれています。76~85歳はルーチンに行わないように推奨され、86歳以上はスクリーニングを行わないように推奨する…と書かれています。ちなみにリスクを持たない患者は便潜血で、リスクのある人(1親等以内に大腸がんの患者がいるなど)は内視鏡検査を併用する・・・など検査まで書かれています。
他にもいろいろなことでいろいろながんのリスクなどを評価し、「この患者は検診を受けるメリットがあるが、患者は検診を受けるメリットがない」という評価をして、無駄なくやっているだけです。
決してアメリカはがん検診をおろそかにはしていません。
ちなみに肺がんに関しては無症状の患者に対して行うには根拠が少なすぎるとかかれており、推奨されていないのは事実ですが偽陽性率が多く…という記載もあり、検査の向上によっては検診も出てくるかもしれません。
なんといってもアメリカの死亡率1位の癌ですから。
胃がんに関してはアメリカの話を日本に持ってくること自体が間違いで、食塩摂取の多い日本。ピロリ菌も住み着いている人が多い日本。胃癌の発症率も高いですので、アメリカのように胃がんの少ない国(日本より有病率が低い。上を見たらわかりますが有病率の変化は検査結果に大きく影響します)の話を取り込むと失敗するかもしれません。
本当はルーチンに検査をするには「それだけの有病率がある」ことに加えて、検査の感度・特異度がよい(肺癌はどちらの検査でも感度 or 特異度が低いわけです)ことが条件です。
そして有病率は患者さんの年齢だけでなく、喫煙するかしないか、飲酒、職業・・・など様々な因子で決まってくるので、そこを踏まえた検診計画を作成するのは意味があるかもしれません。
そういうことで「患者の選択性」や「検査法の改善」で変わるかもしれません。もっというと治療技術の発展で、早期診断の意義が乏しくなれば検診の意義も薄れます。
まぁ、その辺をしっかり考える必要性はあると思います
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。
仕事には来ていますが、ヘモグロビン?が5以下で本日始めて輸血を行いました。
正直、厳しい状況です。
再生不良性貧血という病名も本当にそうなのか、以前入院し治療した病院で「公費」対象ということで付いたのではないかとも推測しております。
以前NHKで骨髄異型性症候群でアザシチジンの特集が放映され、主治医に相談を進めましたが、適応外とのことでした。何とかしてあげたい気持ちです。
よろしくお願い致します。
こんばんは、コメントありがとうございます
ご友人が再生不良性貧血という診断で、治療中ということですがおいくつくらいの方でしょうか?
再生不良性貧血と骨髄異形成症候群は骨髄不全(血液が作れなくなる病気)とは言いながらも、再生不良性貧血が「量の異常」であるのに対し、骨髄異形成症候群が「質の異常」であるという点で大きく異なります。
造血幹細胞という「血液のおおもと」が減っている(自己免疫などで)のと、不良品の血液が増えてしまい骨髄の中で壊してしまう病気との違いです。
アザシチジンはまさに「不良品ができる原因」である「がん抑制遺伝子のなどのメチル化」による影響を改善することができますが、量の問題であった場合は無効なだけでなく有害です。
主治医が再生不良性貧血という診断のもと治療を行っているのであれば、アザシチジンは適応外と判断するのは当然です。
しかし、効果がないということで再評価するというのは一つの方法です。ただ、世界的に骨髄異形成症候群に関しても免疫抑制療法は強い根拠のある治療です。
そのどちらにも効く治療が効果を発揮していないので再評価することは必要かもしれません。
ただ、実際に診ている主治医の先生が全般的なことを把握して治療法を選択されていると思うので、主治医の先生とよく相談されるようにお伝えください。
また、コメントいただければと存じます
現在免疫抑制とステロイド中心の治療と聞いております。
再生不良性貧血という病名もグレーという感じでの中の治療で友人としてはもどかしいです。
現在の主治医が判断したのではなく、都内に馬の何かを使っての治療で長期入院した際にその病名になったようです。
輸血を昨日1単位行って帰宅したようですが、「鉄」の排出が思うように行っていないため、必要量の5分の1程度を1ヶ月前から服用し始めましたが、腎機能の低下が著しいということで、輸血をしてさらに鉄が増えることを懸念しておりますし、主治医は輸血をすることで何かの作用で自己造血が促されれば・・・とも期待しているようですが、本人は他のものが入ることで、余計に造血をサボってしまわないか、など心配もあるようです。
本人は48歳で子どもが一人立ちする7年後を目標にがんばっております。55歳で移植が必要となった場合、体が持つかどうかの心配もあります。
適合するドナーは、親族外でいるようです。
主治医は60歳近い方で、年だから、田舎だからとは失礼になりますが、多くの医師に診断して頂きたいと考えています。
以前馬の何かを使っての治療での長期入院はNTT東日本関東HPでした。
1月にも行ってきたようですが、紹介状を持参したにもかかわらず、門前払い的な扱いだったようで・・・
血液専門の多くの先生方に診察を受けるチャンスを与えてあげたいと考え、昨夜も本人にそう話しはしたのですが・・・
長文失礼致しました。
よろしくお願い致します。
こんばんは、コメントありがとうございます
馬の何か…というのは馬の「ATG(抗胸腺細胞グロブリン)」です。40歳以上の再生不良性貧血ではATG+CyA(シクロスポリン:免疫抑制剤)で治療を行うのが一般的です。理由は40歳以上の再生不良性貧血の患者さんに関して免疫抑制療法と移植の奏効率がほぼ同じなのに対して、死亡率が移植のほうが高いからです。
そして兄弟(血縁)ドナーが得られれば良いのですが、得られない場合はリスクがさらに高くなるからです。
しかし、免疫抑制療法に反応しなかった場合や再発してきた場合は、骨髄移植は考慮します。もちろん患者さんの状態にもよりますが。
ちなみに馬のATGと現在使われているATG(うさぎ)ではウマのほうが効果があったような印象です。
NTT東日本関東病院は血液内科はしっかりしている病院ですが、なぜ診察を受けられなかったのかは・・・わかりません。
お一人で血液内科をされている先生であれば、それ以上積極的な治療は行いにくいと思いますが・・・。僕もそれ以上は状況がわからないので・・。
このあと軽く再生不良性貧血に関して記事を書いてみようかともいます
また、コメントいただければと存じます