新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

神奈川県立がんセンターの麻酔事故:システムエラーかどうか?

2013-09-23 11:41:17 | 医療

こんにちは。

 

この1週間は夏休みということで、のんびりさせていただきました。

平日はディズニーランドやディズニーシーを楽しませていただきました。絶叫系は苦手だったのですが、妻に引きずられて乗ることになりました。うちの妻からは「そんなにぐったりしているように見えない」といわれましたが、個人的にはぐったりでした。

 

また、昨日は久しぶりに釣りに行きました。釣果はあまりありませんでしたが、日光浴+αという感じでのんびり過ごしておりました。

 

さて、本日は先ほど確認したコメントに次の記事の話が描かれておりました。

 

乳がん手術で脳障害 元麻酔科医に無罪判決

http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20130917152301266

(2013年9月17日) 【中日新聞】【夕刊】【その他】

 神奈川県立がんセンター(横浜市旭区)で2008年、乳がん手術を受けた40代の女性患者に医療ミスで脳障害などを負わせたとして、業務上過失傷害の罪に問われた当時の麻酔科医籾山幸紀被告(44)に、横浜地裁(毛利晴光裁判長)は17日、無罪判決(求刑罰金50万円)を言い渡した

 検察側は論告で「全身麻酔中の患者を常時監視する注意義務は初歩的なもので、過失は重大だ」と指摘。弁護側は、常時監視は麻酔科学会の指針で、目標にすぎないとして無罪を主張していた。

 起訴状によると、籾山被告は08年4月、女性患者の乳がん手術で、全身麻酔をした後に適切な管理をせずに放置、高次脳機能障害と手足のまひを負わせたとしている。

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元麻酔科医に無罪判決 横浜地裁

2013/9/17 11:37
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 神奈川県立がんセンター(横浜市旭区)で2008年、乳がん手術を受けた40代の女性患者に医療ミスで脳障害などを負わせたとして、業務上過失傷害罪に問われた当時の麻酔科医の男性被告(44)に、横浜地裁は17日、無罪判決(求刑罰金50万円)を言い渡した。

 判決理由で、毛利晴光裁判長は被告が全身麻酔の患者を常時監視する注意義務を怠った、との検察側主張について「国内の麻酔担当医が常時監視しているとは必ずしも言えない」と指摘。「不十分な捜査のまま起訴したという疑問がある」と述べた。

 弁護側は、常時監視は麻酔科学会の指針で、目標にすぎないとして無罪を主張していた。

 起訴状によると、被告は08年4月、女性患者の乳がん手術で、全身麻酔をした後に適切な引き継ぎをしないまま退室。麻酔器の管が外れたため約18分間にわたり酸素供給が止まり、患者に高次脳機能障害と手足のまひを負わせたとした。〔共同〕

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がん手術で医療事故、麻酔科医に無罪判決

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130917-OYT1T00411.htm 

 神奈川県立がんセンター(横浜市旭区)で2008年4月、乳がん手術を受けた女性患者の麻酔器具が外れて脳障害などの後遺症を負った医療事故を巡り、業務上過失傷害罪に問われた麻酔科医(44)に対し、横浜地裁は17日、無罪判決を言い渡した。

 

 毛利晴光裁判長は、言い渡しの後、「捜査が十分ではないのに起訴した疑いが残る。このような捜査処理がないことを望む」と検察側に注文をつけた。

 麻酔科医は女性に全身麻酔をかけた後、別の手術に立ち会うために手術室を退出。その後、酸素を送る管が外れたまま約18分間放置された結果、女性に脳障害や手足のまひなどの後遺症を負わせたとして起訴され、検察側は罰金50万円を求刑していた。

 判決では「麻酔科医は患者の状態が安定していることを確認して手術室を離れており、何かあったら連絡するよう看護師にも伝えていた」と指摘。「麻酔科医の行動に許容されない問題性があったとは言えない」とした。

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先程、コメントではこれは麻酔科医の責任ではないのか。そうでなければ担当医(麻酔の専門医ではなくて研修医とかのこと?)か看護師の責任ではないのか・・・ということでした。

単純に事実関係だけをみていると麻酔科医が現場を離れて、患者さんが心肺停止し、脳に重大な障害を負うことになったという話です。

 

僕がコメントを読んで、この記事を見て思ったことは3つあります。

まず、麻酔科医が常時いなくてはいけないということであれば、日本の手術件数は大幅に減るでしょうし、現実的には難しいだろうと思います。それを希望するのであれば、麻酔科医の数を大幅に増やす政策をとらなくてはならないでしょう。

恐らく、これを立件してしまうと多くの患者さんが手術を受けられずに死んでいくことになります。

そしてここで行われたことは一般的な病院で行われていることで、神奈川県立がんセンターが特別というわけではないです。そこが一つ目の問題点です。

 

2つ目に麻酔をかけているときは急変の可能性がありますので麻酔科医が必ずいますが、安定し始めたらうちの大学だと研修医の先生を残していなくなります。

ここで何かあればモニター(SpO2モニターやEtCO2モニターなど)でわかると思います。モニターがどうなっていたのか、確認していないのか…といわれると、それは大きな問題だと思いますがアラームはならなかったのだろうか?

2つ目の問題点はそこにあります。

もし、モニターで異常・・・例えばSpO2モニターだけではなく、全身麻酔であればEtCO2モニターがついているので、これが0になれば管がはずれているというのは医療従事者ならわかります。そのアラームが鳴らなかったのか。

例えば導入時に人工呼吸器に挿管チューブはついていませんので、導入時にピーピーなっていたら気になって仕方がありません。それゆえアラームはならないかもしれません。

僕も月1回くらいしか手術室にはいきませんが(骨髄採取のため)、EtCO2モニターでアラームが鳴っているところはみたことがないです。もしかすると食道挿管していないことの確認程度の存在で、最初しか見ていないものなのかもしれません。それが普通ならば今後こういうことを繰り返さないように注意するべきかもしれないと思います。

ただ、SpO2モニターはなっていただろうと思うのですが・・・。個人的には緩和ケアの患者さんたちをみているとSpO2 50%くらいまでは普通にお話していたりするので、心停止になったのが脳への障害のきっかけだと思いますが、心肺停止のきっかけは無呼吸が関連しているかもしれませんしね。

もしかすると機械の根元でとれていたということは死腔の増大につながるから・・・。

モニターのアラーム音などの関連が2つ目です。

 

3つ目はこういう場合にどこに責任が行くのか…ということです。

多分、起訴された麻酔科医は自分の仕事をこなしたのだと思います。かといって、オペ室担当の看護師さんやそこにいた医師たちが何か仕事をこなしていなかったのかといえばそうでもないような気がします。明らかな過失があれば、そこに行きつくと思うのですが・・・アラームがきちんとなっていれば、手術をしている医師だって気が付くでしょうし、誰かしら気が付くと思います

 

アラームとかならなくても僕なんかはよく

「血圧とかちょっと下がってきている。骨髄採取は脱血術みたいなものだから輸血を開始してください」

とか、余計なことを言ったりします。ちなみに、こんな余計なことを言えるのは骨髄採取術だからです。もし、普通の外科医が手術中にそんなことまで気にしていて、余計な血管を切ったり縛ったりしたら行けませんので、当然手術に集中されていると思います

 

それ故に「アラームがきちんとなっていたのだろうか」「麻酔科医が足りていないというのだろうか?」ということから、システムエラーの要素が大きいと思いますし、改善が必要だと思います。

 

その責任を1人に持っていくのはどうかと思いますし、僕が記事を読んで2~3分で考えられるような内容を医療事故を調査した方々も考えたはず・・・とも思います

以上3つの問題点を考えました。

 

皆様はいかがお考えになりましたでしょうか?

 

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

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それでは、また。

 

追伸:

最近、数件プライベートな情報を質問されている方がいらっしゃいますが、Blogのコメント欄ではお答えしかねます。理由はこのBlogで様々な人のご質問に答えられるのは自分の個人情報を限定させていただいているからです。

 

実名でBlogをされている先生の中には、Blogに意見を書いてそのことに関して病院に文句が言ったりということもあるようです。

 

また、医療関係の質問に関して相手の先生を悪く言うつもりはないですが、余計な衝突の原因にもなりかねませんのでプライベートな情報は伏せさせていただいております。

ご理解のほどをよろしくお願いいたします。

 

 

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7 コメント

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そうですね (アンフェタミン)
2013-10-07 22:36:14
>自滅さん
こんばんは、コメントありがとうございます

僕個人は「控訴断念」でよかったのではないかと思っていますが、患者さん側は納得いかないかもしれないので、それで終わりにせずにしっかり話し合えるとよいと思っています。

また、コメントいただければと存じます
返信する
控訴断念 (自滅)
2013-10-02 00:33:02
2ch見ていると読売新聞記事に検察が元麻酔医の控訴断念記事があり、元麻酔医の無罪が確定の事です。
返信する
Unknown (アンフェタミン)
2013-10-01 23:05:43
>自滅さん
こんばんは、コメントありがとうございます

末期がんだからではなく、その人の予後などを考えての対応になると思います。
正直に書きますと、乳癌の癌性心膜炎で心嚢水が貯留している状態に対して、心嚢穿刺をしたのは担当医が優しすぎたか、判断ミスか迷うところです。僕は多分しません。恐らく1,2週間で何をやっても亡くなると思いますので。

多分、できることを少しでも行って患者さんと家族の時間を作ってあげたいと思ったのが藪蛇になってしまったのではないでしょうか。

残念なケースだと思います。

医療裁判まで言っているかは不明ですが、時々聞く話では「それを(専門家の判断としては正しいけど、結果が悪い方に行ったケース)訴訟されたらみんな医師止めてしまうよ」というようなものもいまだにあるみたいですね。

難しいところですね

また、コメントいただければと存じます
返信する
医療裁判 (自滅)
2013-10-01 22:05:58
医師の皆さんのブログを見ていると2件医療問題があり、まず1件は、静岡産経新聞7月11(木)7時55分配信
今年1月清水市民病院で人工透析治療受けた直後に意識不明になり1ヶ月後に死亡した83歳男性患者の遺族が、清水市民病院の和解金二千万円を拒否した件と毎日新聞鳥取版13年8月2日長男(当時39歳)が細菌性髄膜炎で死亡したのは境港市内の診療所(閉鎖)が初診療に見逃したのが原因だとして、両親が診療所を相手した裁判で広島高裁は一審判決を取り消し診療所(側逆転勝訴判決をだしたとあり、細菌性髄膜炎を予期するのは難しい事でしたが、確かにこれを的確に診察するには豊富な医療知識がいりますからね難しいと思います。
返信する
民事訴訟 (自滅)
2013-10-01 05:35:56
MNS産経7月5日に石巻赤十字病院に乳ガンで入院していた50代女性の遺族が石巻赤十字病院に対して三千万円の損害賠償を裁判所に提訴した記事がありましたが、女性は末期癌の患者で呼吸困難で、その処置として心臓処置に問題があると裁判になったみたいですが、末期癌の場合はどうなんですか。
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難しいでしょうか? (アンフェタミン)
2013-09-23 22:33:14
>Unknownさん
こんばんは、コメントありがとうございます

もしかすると、モニターなどの記載がわかりにくかったでしょうか。
SpO2モニターというのは酸素と結合している赤血球の割合をモニターするものです。簡易的な呼吸のマーカーとされています。動脈の拍動と色で感知するものですが、結構使えます。

EtCO2モニターというのは二酸化炭素を感知するものですが、空気中の二酸化炭素と呼気中の二酸化炭素の濃度はかなり違うので、挿管時に肺の方に入っていることの確認に使えます。

救急の現場では炭酸水(ビールでもコーラでもよいのですが)を飲んでいると胃に入った場合でも二酸化炭素が検出されてしまいますが、通常の手術ではありえないものですので、確認に使えます。

読み直してわかりにくいかなと思ったのが、このあたりだったのですが、違いますでしょうか?

わかりにくかったところを教えていただけるとすごく参考になり助かります。

また、コメントいただければと存じます
返信する
Unknown (Unknown)
2013-09-23 21:16:34
?です
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