新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

がん検診は必要か?

2013-04-06 12:37:59 | 医学系

さて、続けます。

 

実はこの検診の記事を書いてみようと思ったのには理由があります。

先程、少しインターネットで近藤誠医師の発言内容を確認しておりました。なんといっても僕は2冊程度立ち読みしただけですので。

 

その時にこんな記載を見つけました。

http://www5.ocn.ne.jp/~kmatsu/gan046.htm

引用

有効性は世界中で概ね否定されています
それが証拠に富裕で健康に関心が深いアメリカですら肺ガン検診、胃ガン検診など殆どのガン検診の制度がありません

肺ガン検診は結核が過去の病気となりつつあったので、検診従事者の失業対策として、肺ガン検診の有効性を否定した大規模試験の結果が出てから始められたものです。

企業や健保がガン検診に消極的なのは、肺ガン検診等への補助がうち切られたなど、ガン検診の無効性が認められつつあるからであり、企業や健保の意志に依るものではありません。

がんもどき理論の検証をする前に、検診をしたらどう良い事があるのかを検証する必要があります。世界中で効果がないと完全に証明されている肺ガン検診についてはこの作業は必須でしょう。

今日まで築き上げられてきた膨大な癌研究の知見とは何のことでしょうか?日本での数十人規模のデータのことでしょうか?海外からまともなデータと評価されていないことにはどう考えるのでしょうか?海外での数万人規模の複数の試験結果を無視しているのは暴論ではないのでしょうか?

検診推進の裏付けとなる理論は早期発見・早期治療と云うものですが、上に書いたように、この論理を裏付ける統計学的数字、ないしは数式もなければ、厳密な論理展開もありません。逆にそれを否定する統計学的数字はあるのです。

悪性度はさまざまであるといいながら、ほとんどのガンが大きくなるほど転移する・・・と一括りに云っている。近藤氏が2種類に分けているのに対し、推進派は全てはガンだ(ガンは一種)と云っているかのような理屈だ。
手術は無効、早期発見により命を救えないというのが海外での結果の現実です。癌検診の有効性を検証することは、その意味で不可能ですし不要です。観察的方法では有効性は評価出来ないと云うのが医学の常識の筈です。」

引用終わり。

 

これに関してきちんとした情報をもとに提供するためにどうすればよいかを考えてみました。

 

以前も紹介したと思いますが、検診だけでなくすべての検査を行うかどうかは、いろいろ考えなくてはなりません

例えばHIVのスクリーニング検査があります。これの感度はも99%以上です。加えて特異度も99%以上です。こんな検査はほとんどありません。ちなみに感度というのは「陽性のものを陽性と診断できる力」であり、特異度は「陰性のものを陰性と判断できる力」です

ちなみに肺がん検診で胸部単純写真の感度は36~80%と幅があり、特異度は90%。胸部CTでは感度が90%で特異度が49~89%と報告されています。

胸部単純写真は見落としが多くて(大きくなるまでわからない)、胸部CTは癌じゃないのもひっかけるので偽陽性が多いということです。

それを考えるととんでもない検査です。そういうことで肺がん検診は打ち切りになりました(アメリカで)

 

それはさておき・・・有名な話ですが検査にはすべて検査前確率というものがあり、これが検査後の確立に大きく影響します。一般診療では検査前確率は僕たち医師が患者さんから情報を聞き出し、その結果としてそれぞれの病気がどの程度の可能性があるかと判断してきます。

ここでは検診、スクリーニングですので検査前確率は「有病率(病気の人の割合:日本でも10万人当たり○○人と出されています)」となります。ではもう一度HIV検査に戻ります。感度・特異度が極限までよい検査ですが、有病率によってこれだけ検査の意味に影響します。

 

有病率が1%程度でもあればよいのですが、有病率は0.01%と低いです(学生の皆さんに計算させているのは、有病率0.01%ですのでHIVを想定して出しております)

http://georgebest1969.cocolog-nifty.com/blog/files/hivtest.pdf

この記事では統計学的な有病率よりも高いことを想定していますが、仮に10倍あったら偽陽性率67%、陽性率33%になります。統計学通りだと下のようになります(これは特異度を99.9%に上げて計算しているので0.1%の時の陽性的中率が50%になっていますが、要するにこれより低くなります

これが医療世界の常識であり、すべての医師は検査の意味を考えながら「検査前確率はどの程度と踏んで、この検査の結果でどう変わるのか」ということを考えるわけです。

 

すなわち検査前確率という意味での有病率が重要ということになります。

 

アメリカの話が出ていますので少し書きますが、アメリカは予防医療に力を注いでいる国ですが無駄もできるだけ省こうとしています

アメリカの側が出している検診やスクリーニング検査の意味に関して統括しているのは「米国医療研究・品質調査局」のしたにある米国予防医療専門委員会(http://www.ahrq.gov/professionals/clinicians-providers/guidelines-recommendations/uspstfix.html)や米国指針情報センター(http://guideline.gov/)になります。

いつ、どのようにスクリーニングを、どのような人間が受けるかを示しています。

アメリカではすべての人が同じように検診を受けることは有病率の上で無駄であるという考えから、すべての人のルーチンの検診を推奨していないのは事実です。しかし、がんのリスクがある人を対象にスクリーニングをするのは重要だといっています。

そこのデータを示しているのがアメリカのすごいところで、日本はルーチンにやっている。それだけです。要は無駄が多いという話ですね。

 

ちょっとわかりやすいように例を挙げますと、前立腺がんにはPSAという簡便で感度・特異度もそこそこ良い(70%前後)検査があります

さて、PSAという検査を何歳から行うか・・・。30歳の男性に行う人は医師じゃなくても考えないのではないかと思います。仮に30歳くらいの男性が「祖父が前立腺がんで亡くなってしまい、心配なので検査をしてほしい」といったとします。だとしても有病率が0に近い。

じゃぁ、何歳からやるかというと米国では75歳未満には推奨しないというのがでています。これはアメリカで55歳から74歳の男性を対象に検診の意義を調べ、早期診断はできたが、死亡率に有意差が出なかったというものが理由です。ヨーロッパでは50~74歳で、死亡率は若干低下したが1400人が検診を受けると1人前立腺がんの死亡が防げるという結果です(ヨーロッパの研究はNew England Journal of Medicine 2009で発表されています)

まぁ、75歳以上では有意義かもしれませんが…・まだそこら辺も不明というところですね。75歳以上になると寿命が近づいてくるので,全生存率の向上に寄与しなくなってきます

 

それを意味するのは大腸がんの話です。大腸がんはどうですかと言えば平均的なリスクの人に関しては50歳から開始して75歳までと書かれています。76~85歳はルーチンに行わないように推奨され、86歳以上はスクリーニングを行わないように推奨する…と書かれています。ちなみにリスクを持たない患者は便潜血で、リスクのある人(1親等以内に大腸がんの患者がいるなど)は内視鏡検査を併用する・・・など検査まで書かれています。

他にもいろいろなことでいろいろながんのリスクなどを評価し、「この患者は検診を受けるメリットがあるが、患者は検診を受けるメリットがない」という評価をして、無駄なくやっているだけです。

 

決してアメリカはがん検診をおろそかにはしていません。

ちなみに肺がんに関しては無症状の患者に対して行うには根拠が少なすぎるとかかれており、推奨されていないのは事実ですが偽陽性率が多く…という記載もあり、検査の向上によっては検診も出てくるかもしれません。

なんといってもアメリカの死亡率1位の癌ですから。

 

胃がんに関してはアメリカの話を日本に持ってくること自体が間違いで、食塩摂取の多い日本。ピロリ菌も住み着いている人が多い日本。胃癌の発症率も高いですので、アメリカのように胃がんの少ない国(日本より有病率が低い。上を見たらわかりますが有病率の変化は検査結果に大きく影響します)の話を取り込むと失敗するかもしれません。

 

本当はルーチンに検査をするには「それだけの有病率がある」ことに加えて、検査の感度・特異度がよい(肺癌はどちらの検査でも感度 or 特異度が低いわけです)ことが条件です。

そして有病率は患者さんの年齢だけでなく、喫煙するかしないか、飲酒、職業・・・など様々な因子で決まってくるので、そこを踏まえた検診計画を作成するのは意味があるかもしれません。

 

そういうことで「患者の選択性」や「検査法の改善」で変わるかもしれません。もっというと治療技術の発展で、早期診断の意義が乏しくなれば検診の意義も薄れます

 

まぁ、その辺をしっかり考える必要性はあると思います

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

腫瘍の多様性に関して(近藤医師の話の続き)

2013-04-06 11:00:55 | 医療

こんにちは

 

当直明けで先ほど帰ってきました。単科当直(まぁ、総合内科として複数診療科ですけど)のわりにいつも患者が来るので「何か持っているでしょう」と言われております。

まぁ、断らないというのも患者が増える要因ですが今回は1人救急部に振りました(というか、3次救急に…と言ったら、当然うちの救急部に話が来たみたいです)。流石に1人でやると患者さんの予後に影響しそうだったのと、同時にもう一つ救急車受けていたので対応不能だったというのがあります。

研修医もいない、看護師さんと2人で対応するには厳しい。まぁ、2人くらい研修医が来ていれば別ですが・・・。

 

さて、本日は先日書いた「近藤誠医師」の話の続きみたいなものです。

「がん」と「がんもどき」を分けるデータがないことが根拠かな?

「がん」と「がんもどき」を区別する方法がなく、抗癌剤が効きにくい腫瘍がある。しかし、がんもどきは大きくなるにつれて悪性度を増さないのか…ということです。

最新の知見というほど最新でもなくて…かなり前な気がしますが、がん幹細胞というものがあって、それらは増えていくに従い新しい遺伝子の異常を積みかさねて多様性を持つといいます。

○はがん幹細胞でゆっくり増えます。基本的にがん幹細胞はゆっくり増えるものです。例え白血病幹細胞であっても

① ○→

② ○○○◎→

③ ○○○○○○◎◎▽→

④ ○○○○○○○○○◎◎◎◎▽▽×→

⑤ ○○○○○○○○○◎◎◎◎▽▽×××××××××

とかですね。×という状態の遺伝子異常が加わった場合(想定はがん遺伝子といわれる増殖促進させるもの)は一気に加速します

 

まず、がんが発生するというのは「がん抑制遺伝子」など「増殖を制御する」「遺伝子に異常が発生したら自殺する」などの機能に障害が生じ、さらに免疫から逃れる性質まで持ったということになります。

がんは毎日発生していますが、通常免疫なりなんなりでつぶされていて認識されていないだけです。

 

これだけであれば、近藤医師が言うようにゆっくりしか増えません。ここでゆっくりですが増えている間に次の異常が入ります。だって、異常を改善する機能を失った細胞が増え続けているんですから、そこからよくなるなんてことはありません。昨日かいた「免疫抑制剤などで一時的に腫瘍をつぶす能力が低下した」ためにおこるタイプは別ですが。

 

これを繰り返していくうちに「増殖スイッチ」の異常をきたしたりします。そこで性質が変わり増殖速度が上がります。

 

さらに増える速度が速まると異常が急速に蓄積し、さらに多様性が増していきます。そうこうしているうちに癌が転移能をを持って転移するということになります。

 

ちなみに有名な話ですが「メラノーマ(悪性黒色腫)」は転移しやすい癌の一つですし、基底細胞癌は基本的に転移しないがんと言われています。元の細胞でそういう性質はある程度推測できるのです(ちなみに乳癌なども高率に転移します。あとは早期発見しにくい癌は気が付いたら転移していた…というタイプですね)。

しかし、何事も100%はない話です。一般的に絶対ないと言われている状況下で骨髄にがんが転移している人も経験しました。

 

そのため、「がんもどき」・・・が「がんもどき」であり続ける根拠というのが乏しいというのが実感です。

 

まぁ、ただの参考意見です。ただ、たぶん一般の腫瘍を対象にしている医師(外国含む)はこのような考え方で動いているはずです。NatureやScienceなどでも調べたらこの辺の話は山のように出てきます。

 

僕は唯一の真理を言えるほど自信家ではありませんので、近藤先生の理論が間違っていると言い切るつもりはないです。「がん」と「がんもどき」があるのかもしれません。しかし、現在生じている「がん」は遺伝子の異常が蓄積されていっていることもわかっていますし、それが「がんもどき」と言っている状況から進行しているともいえないです。

そのうえで自分で選択するというのが大事だと思います。

 

ただ、治療をしないで待つというのは結構勇気がいります。患者さんもですが、医師も勇気がいります。

 

今では治療介入することも多くなった「濾胞性リンパ腫」という「低悪性度」のがんがあります。これの基本スタンスは昔は「様子を見ながら進行してくるのを待ち、リンパ腫のために症状が出てきたら治療をする」というものです。今でも一部の患者さんではそういう選択をします。

待っているわけですが、急速に大きくなって来たり、中等度悪性度のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の形質に変化していたりします。

ちなみにこの濾胞性リンパ腫は「自殺させないよ」という遺伝子だけがおかしくなっているので、増殖速度は変わらずにゆっくり増えてくるのですが、そこに増殖促進の遺伝子異常が入ったら一気に増えてくるという感じです。

 

リンパ腫はまだ抗癌剤による治療効果が期待でき、あとからでも取り返しが効くのがわかっているのでこういう選択もできますが、一般的な抗癌剤が効かない腫瘍の場合、僕は自分自身「待つ」という選択肢はできません

家族でも同じですね。

 

参考意見として書きましたが、そんなところです。

後で検診に関しても書いてみようと思います

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「がん」と「がんもどき」を分けるデータがないことが根拠かな?

2013-04-04 23:16:41 | 医療

こんばんは

 

今日は少し早く帰って来れました。おかげでいつもは木曜日はパソコンは絶対に開かない(0時近くなので独身時代と違いパソコンを開くよりは、夫婦の会話をと・・・)のですが、今日は開いてしまっております。

 

さて、昨日より鳥インフルエンザ話が再燃してきていますね。今のところは大丈夫だと思いますが、人に感染するような形になれば大流行します(過去に誰も感染していないので)ので対策は練らないとダメですね。

 中国で鳥インフルエンザ(H7N9型)の感染者が相次いでいる問題で、国立感染症研究所は4日、中国疾病対策予防センター(中国CDC)から培養したウイルス株を入手する方針を明らかにした。ワクチン製造が可能になるほか、動物実験や薬剤の効果の確認に役立てる。

 中国CDCへウイルスの分配を要望し、既に承諾を得たという。最初に感染が判明した上海市の2人と安徽省の1人のうち、いずれかのウイルス株になる見込み。今後、感染の拡大や継続性が判明した場合、ワクチンの製造に着手する。

 感染研によると、中国CDCの分析で、今回のウイルスにはインフルエンザ治療薬のタミフルとリレンザの効果が期待できるという。【渡辺諒、藤野基文】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

さて、実は今日のメインはこの話ではなく、先ほど書いたコメントからです。

 

近藤誠医師の関係記事(出版するのは良いのだけど・・・:近藤誠医師へお願い)のコメントで「なぜ、近藤誠医師の考えに反論するのか、素人にわかるように理由を書いてほしい」といただきました。僕はそこで次のようにコメントをお返ししました。

----------------------------------------

これまでのコメントでも同じように読んでから反論しろと言われましたので、読みました。ただ、本屋で立ち読み(医師としては2回も3回も繰り返して読む内容ではなかったので)ですませてしまいました。

なので細かい内容を覚えていないのですが、基本的にはデータがあまり出てきていないのはメジャーな悪性腫瘍では膵臓癌くらいです。
マイナーなものは根拠はほとんどありません。根拠を出せるような検討ができませんので

ただ、医師は「この患者さんがこの治験・臨床研究のグループに当てはまるか」というのを考え、患者さんにメリットがあるという評価をした時に「毒」である抗癌剤治療を行います。

現在の医療に関しては「個別化」の方向に進んでいます。昔ほど適当ではないです(昔はむしろそういった情報はなかったのですが、最近はがん細胞の特徴に合わせて抗癌剤を使用したりします)。

それ故に腫瘍内科医の調べる範囲、把握すること、治療の個々の患者さんへのあてはめや・・当然ながら知識も多くなってきました。

全ての患者さんに抗癌剤治療が有効なわけではありません。有効な人と有効でない人を分けることがまだできていない…というのが現実です。

例えば、僕の専門である悪性リンパ腫の中の最も多い「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」は放置すれば数か月で命に係わる「中等度悪性度リンパ腫(aggressive lymphoma)」です。これのあるリスク分類(R-IPI)でぉlow riskはR-CHOP療法で90%の5年生存率があります。予後がいいですね…と言いながら、10%の人は亡くなっています。10%の人を別に見極めるための知識がまだ不足しており、そういう人たちにはやるべきではないと言える(後で修正しましたが、延命効果があるのでやらなくてはだめです)と思います。

今、これを分けるためのデータを僕も探していまして、論文を作成しようとしているところです。

同じようなことがすべての腫瘍で起きています。現時点ではすべての人には当てはまらないが、多くの人で有益に出るものを「標準治療」としているものが多いです。

一方でがんもどきなどもあるのかもしれませんが、放置すれば死んでしまう「がん」と放置してもなくならない「がんもどき(近藤先生の言葉で言うと)」を区別する手段もないのです。

それがあれば、僕らは治療をしなくてよくなります。治療が必要でない人と、必要な人を見分けられれば治療が必要な患者さんのために時間を集中することができます。

基本的に「悪性腫瘍」か「良性腫瘍」かは分けられても、病理医(顕微鏡で診断を付ける)が悪性腫瘍といったものを「がんもどきだから治療しない」などと言える医師はいないと思います。根拠がないのですから。

僕のできる説明はこの程度ですが、よろしいでしょうか。あとは個々のケースで異なると思います。

----------------------------------------

こんなコメントです。

 

一番のポイントは「がん」と「がんもどき」をどこで区別するのか。

例えばですね、ここでは書きませんでしたが関節リウマチなどで使用するメソトレキサート(MTX)という薬があります。これで希にMTX関連リンパ腫と言われるような「EBV」というウイルスが関連したリンパ腫があります。

これはMTXという免疫抑制剤のために起きているので、やめて放置すると治ることがあります。それ故、こういうものでは様子を見たりします。

 

しかし、一般的には「悪性腫瘍」と病理医の先生が診断した場合は「がん」であって、「がんもどき」ではないです。「がんもどき」と言えるようなマーカー(例えば、発生したけどこれ以上は大きくならない。絶対に転移しない)があればよいのですが、絶対を言えるようなものはないです。

それ故に抗癌剤の効きにくい腫瘍は「早期発見」の手段を開発したりしています。手術も放射線治療も局所療法ですので、それは重要なことです。転移していたらこれらの出番はないですので。

 

転移してしまってから「あぁ、これはがんもどきではなく、がんだったのか」といっても話にならない

 

ですので、近藤先生の話を確実にするのであれば、大きさの割に転移しなかったものと転移したもので何が違うのかは調べていくべきです(ただ、転移した人の場合は無駄な手術になるか、剖検かになりますね)。そのうえで前向き(患者を治療せずに放置するという治験)にやってみるしか根拠はできないと思いますが・・・(しかし、人体実験のようなことになってしまうのでできないと思いますが)

 

仮にです・・・遠い将来に次のようなことができるとしましょう(今は、全くそんな情報はないと思ってください)

転移の少ない『がんもどき』の可能性がありますが、可能性として20%程度の人は早期治療ができずに死んでしまいます。80%のひとは早期に治療をしようとしまいと、腫瘤による圧迫などの症状が出始めたら治療する・・・で間に合います

できたとしても、こんな話になると思います

100%ができるのであれば、苦労はしませんので。まぁ、それが確立されることは僕も祈っていますが。

 

逆に標準治療とされている抗癌剤も効果は限定的です。

よく抗癌剤が効く我々の血液領域などは少なくとも延命(腫瘍の増大速度が速いですからね)、よければ完治に持ち込めます。

この治療の効果を100%予測する因子もないです

 

コメントでは悪性リンパ腫を題にしましたが、今回は慢性骨髄性白血病です。

慢性骨髄性白血病でこの1,2年の報告で「治療開始後3か月の治療効果」がその後の状況を予測すると言われています(まぁ、昔も言われていたのが薬がよくなり、検査もよくなりで情報が増えた)。本当に様々な報告が出てきておりますが、これらの結果を受けて欧米も日本もガイドラインを切り替える方向に動いています。

それでも100%ではないです。

 

この薬で100%治りますと治療効果を予測できる因子、逆にこれでは効かないという治療効果を悪いほうに予測する因子、様々なものが報告されていっています

 

これが現在の医療ですが、神様ではないので、すべてを予測することはできません

 

他の癌種に関してはもっとシビアで「抗癌剤の治療効果を予測する因子」というものを解析するのが大変です。白血病などは腫瘍細胞が簡単に取れますが、他の腫瘍では手術で取らなくてはいけません。

それだけ解析は遅れています。

 

個々人に関してできるだけ当てはめるように動いていますが、血液腫瘍ほど進んではいないです。

 

それゆえに多くの人が書かれているような「治療しなければよかった」という状況も発生しています。血液領域とは異なり「延命 or ・・・」ということが多いので。しかし、治療効果がある程度認められているものが標準治療となっています。ただし、QOLの低下と治療効果の兼ね合いを予測することも難しい…ということでしょうか。

 

ただ、治療をしないほうがよいという根拠も全くないのですよね。あとは患者さんの選択だと思います。そこから先は医師と患者さんとがはあしあって決めることで、一般論になるはずがないです

 

だって、どちらにせよ根拠がないのだから。

 

明日は後輩から頼まれて、また当直しま~す

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本版NIH:勤務する医師や科学者はどこから集めてくるの?

2013-04-03 22:39:04 | 医療

こんばんは

 

先日、待っていた実験試薬が届きました。試薬の量が思ったより少なかったので、何とかケチってできないかと思いましたが…うまくいかず(汗

検討した結果、一番問題がありそうなのは試薬をケチったところ・・・ということで、今日は試薬を普通の量で、しかもovernightしてやっております。

 

その間に何とか論文作成をしていますが、なかなか難しいですよね。

 

さて、今日は気になる記事をひとつ紹介します。

 

 

 政府は2日、最先端医療の技術革新を進める司令塔として「日本版NIH」を創設する方向で本格的な検討に入った。

 政府の医療関係の研究開発予算を一元的に取り扱う組織で、医療関係の企業と協力し、研究開発成果を早期の新薬開発や医療機器の実用化などにつなげる。政府は、経済再生に向けて6月にまとめる新成長戦略に創設方針を明記し、関連法を整備したうえで、2014年度中の設置を目指す。

 医療分野に関しては、政府内で基礎研究を文部科学省、臨床応用を厚生労働省、産業育成を経済産業省が担っているが、連携不足との指摘もある。政府は医療関係の研究開発予算を一元的に扱うことで、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った再生医療の進歩や、医療機器開発の国際競争力を強化することにつながると判断した。革新的ながん治療薬や小児疾患の医薬品、医療機器の開発を重点的に支援するなど、国家戦略として定めた目標を達成しやすい環境を整えることもできるとみている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

まぁ、この問題だけではなくて基本的に横の連携があまりないのが日本の省庁の特徴のような気がしますが・・・。

 

NIH(アメリカ国立衛生研究所)はアメリカだけでなく、いろいろな国に影響を与えていると思いますが3分の1は科学者や医師と言われています。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%9B%BD%E7%AB%8B%E8%A1%9B%E7%94%9F%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%89%80

 

とりあえず「省庁」の連携を進める、もしくはそれを超えるための枠組みということなのかもしれませんが、NIHと同等の研究所が作れるとは思えないのですが・・・(汗

 

同等でなくても…ある程度のと言われても、そこに勤務する医師や科学者はどこから集めてくるのやら・・・(汗

 

そう考えています。

 

僕の杞憂ですかね?

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また

 

 

 

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

院内暴力:たぶん、医師看護師だったら、もっと多いのでは?

2013-04-01 23:25:04 | 医療

追加でこちらも紹介します。

 

 【小林舞子】患者や家族から病院内で暴力や暴言を受けた医師や看護師らは4割に上る。こんな調査結果を、私立大学病院でつくる医療安全の連絡会議が29日発表した。診療に影響が出る恐れもあり、各大学で対応マニュアルをつくるなど対策を検討する。

 調査は東京慈恵会医科大や東京女子医大など都内11病院の全職員が対象。約8割の2万2859人が回答した。44%が「過去1年に何らかの暴言や暴力を受けた」と回答した。暴言は42%、暴力が15%、セクシュアル・ハラスメントが14%だった。院内暴力への対応で、25%の医師らが「我慢した」という。

 医療者側にも要因があったとの回答は46%あり、内訳は「説明や確認の不足」(19%)「長い待ち時間」(15・5%)だった。夜間救急の待ち時間が長く「受付の事務員がノートパソコンを投げつけられた」「医師が松葉杖で殴られた」といった事例があるという。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

たぶん、医師や看護師に限ると割合はもっと増えるのではないかと思います。

 

僕のしっている限りでは、立場の弱い医療従事者ほど何か言われているような気がします。

 

ちなみに僕はむかし緊急入院してきた患者さんに「お前のような若造に診させられるか」と言われたので、「では主治医を交代します」と言って、すっと交代しましたw

その当時、前線は僕が一番上でやっていたので、「本当に誰が診るの?」と思っていたら、転院していかれました。その方は他の病院(都内の某有名病院)でも似たようなことをしたみたいですが…まぁ、知りません。

 

自分で言うのもなんですが、僕は性格が多分優しいほうなので「できるだけ患者さんや家族の要望に応えよう」というスタンスですが、わけのわからない言いがかりつけられた時はしっかりということを言います。こういうタイプはあまり言われることもないのでしょうけど、じっと我慢するタイプの人はかなり言われてしまうのではないかと心配してみていたりします。

 

ちなみに、外来が遅れてしまったとき(急性白血病の転院先を探しながら外来をしていて、3時間ほど遅れた)、直謝りしながら外来を続けましたが、その時にはどれだけ患者さんに怒鳴られても仕方がない。こちらの都合で、患者さんの時間を無駄にしてしまっているから」と思っていました。ですので、腹を立てるどころか・・・申し訳ないとしか思いません。たぶん、こういうのは言いがかりとは思っていないと思いますが、誠心誠意で対応しても自分が優先されないと怒る人もいます。

モンスターペイシェントへの対応:管理権ねぇ

ただ、政治家や医師会の偉い人が「医師は不足していない」ようなことを言われると「人手が足りなくて、状況によっては患者さんが困っている大学病院があり、市中病院もある。その状況を分かっているのか!」と腹を立てたりします。

 

まぁ、わかっていないような人ばかり上に行くから現場が困るのでしょうけどね 

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

がんになった医師の記事を見て思うこと

2013-04-01 22:51:58 | Weblog

こんばんは

 

いよいよ新年度が始まりましたね。うちの大学病院はようやく息を吹き返したというところでしょうか?

実際はそうでもないのでしょうけど。

 

今日は主に血液学会の詳録の投稿の準備や、倫理委員会への書類の提出準備などを行っておりました。一応、2本オーラルで申し込みましたが、採択してもらえるか・・・?

 

さて、本日は一番気になったのがこの記事なので、紹介します。

 

「誰にも言っていませんが、余命は1年もないでしょう」と自らの余命を語るのは、神戸市「新須磨リハビリテーション病院」院長の神代尚芳医師(67)。これまで約200人のがん患者を看取ってきたという神代医師。そんな彼が今、末期の肺がんに侵されているという。

がんが見つかったのは、昨年5月のこと。手術は、親友の医師により7月に行われた。だが現在、神代医師は抗癌剤や放射線治療などの治療を行なっていないという。「『大細胞型』のがんは抗がん剤が効きにくく、放射線治療も効果がないんです。だから、もう対応のしようがない。飲んでいるのも胃腸薬ぐらいです。もちろん、自分がこれまで患者に言ってきたことと違うことをするわけにはいかないという思いもあります」

これまで彼は患者への治療を必要最小限にとどめてきた。それは延命ではなく“自分らしい人生”を送ることに重点を置いた治療だった。神代医師によると、今の医療はやるべき治療を行なっていない一方で、やり過ぎだと思うことも多いという。「もちろん何でも放置すればいいというわけではないですよ。でも手遅れなのに手術を重ね、辛い治療を続けることで“最期の時間”を犠牲にしている人も多いんです

そんな彼が20年間に渡り提唱してきたのが『完成期医療福祉』という考え方だ。「『死ぬことはこの世から消えてしまうこと』だと考えると耐えられないほど恐ろしい。でも『死は人生を完成させるもの』と思えば、怖くなくなる。つまり充実した最期をもって人生を完成させるということです。そのためには、管理された病院で死ぬのではなく、自宅などの自由でいられる場所で最期をすごす必要があるんです

患者のために人生を捧げてきた神代医師の考える“人生の完成”。それは、独居老人が自宅に戻って充実した最期を迎えるにはどうすればいいのかどんなサポートが必要なのかという答えを見つけることだった。「幸か不幸か、私はがんになりました。だから自らが実験台となり、それらを見極めたいと思うようになりました」

しかし、今年2月に脳への転移が発覚。“独居闘病生活”の試みは、断念せざるをえなくなったという。理想と現実の間で揺れ動く神代医師は、しみじみとこう語る。「今回、私は2度の手術をしましたが、これでよかったのかなと思うこともあります。でもそれは最期にならないと誰にもわかりません。医者といっても神や仏じゃなく、人間ですから。何がよかったかなんて最期までわからない。そんなもんです

そんな神代医師を支えているのは、家族の存在だ。妻の実津子さん(58)がこう振り返る。「今回の独居をいちばん反対したのは、27歳になるひとり娘でした。『なんで最期なのにパパと一緒にいられないの!最期はパパと一緒にいたい』と強く反対したんです。主人は子煩悩でしたからね。その言葉も心に響いたようです」

夫を元気づけようと、実津子さんは日本舞踏の仕事を辞め、夫の介護に専念することを決意。神代医師はいま、妻の作ってくれる手料理を何よりの楽しみにしているという。実津子が続ける。「普段は毎日料理をつくるのなんて疲れると思うはずですけど、今は不思議と楽しいんです。体調がいいときは一緒にお酒も飲んだりするんですよ。もちろん、ほんの少しですけど(笑)。こんな生活は、病院だとできないでしょうね」

神代医師は『いざとなっても救急車を呼ぶな』と実津子さんに言い聞かせているという。実津子さんは、笑顔でこう語る。「実は24時間ずっと主人が家にいる生活なんて、結婚して30年で初めてのことなんです。がんになったのは残念ですが、その反面、いま初めて主人がいつも家にいる。娘にすれば『パパがいる』生活なんです。きっと神様が最期に幸せな時間を与えてくださったんじゃないでしょうか。そう思うようにしています」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

治療しないと語る理由は、根拠に基づいた治療法がないからです。ちなみに僕も摘出できる範囲ならともかく、効く抗癌剤がないのに抗癌剤をやるのは意味がないですし、放射線治療はあくまで局所療法ですのでそれができるなら手術もできるでしょう。

 

あとはこの記事で書かれているように、病院ではなく自宅で家族に看取られて死ぬような形が僕もよいと思っています。僕は本当の急変でいきなり心停止したような患者以外、緩和ケアの態勢に入った患者さんを今のところは「家族が死に目に会えない」ようなことはしていませんが、運が悪いと死に目にあえないこともあります。

 緩和ケアの調整をして、家に帰った患者さんがその夜に急変してお亡くなりになられたこともあります。まぁ、あれは○○科に入院中に、なぜか「やり慣れていないという」向こうの主治医の要望で僕が調整していたのですが。

 

 

僕は治療を行うことで延命につながるのであれば、家族や本人の希望があれば行うべきだと思っています。当たり前ですが。

逆に延命の見込みもないのに治療をする医師がいるとは思いたくはないですけど、これはわかりません。

 

ちなみにたまたま本日、ある患者さんのカルテを開きました。その患者さんは数年前に来た「急性白血病」の患者さんです。80歳でした。

この患者さんは確かに白血球は多く、若干の貧血はありましたが増殖速度は遅く、好中球数も数千の範囲で保たれていました。僕はこの患者さんに関しては治療をしないという選択を勧めました。

80歳以上の急性骨髄性白血病に対する標準治療というものは確立されていませんし、欧米での研究では8週間で半数ほどの患者が死亡するというものがBloodに掲載されていました。まぁ、それでもやるべきだという結論でしたが。

普通の急性白血病であれば何もしなければ1か月くらいですので、治療に入るのも方法かもしれませんが、この人は出血傾向もなく(血小板が10万前後)で好中球も保たれている。おそらくMDS/MPN(骨髄異形成症候群/骨髄増殖性腫瘍)の白血化なのだと思いますが、治療に入れば2か月以内で亡くなる可能性が高く、何もしなければ数か月は生きられる可能性が高い

 

それを示したうえで、患者さんとご家族に選択してもらったという状況です。

 

僕らも「良い方法」があれば、もちろん踏み込みますが「やらないほうがベター」ということもあるにはあります。

 

そして「家で死ぬことができるサポート体制」を作ることが、今は本当に難しい。共働きの家庭が増えたこともあり、家での介護が困難で、介護をすると決めると裕福な家以外は生活が傾くという。

実際に「介護をしたら、家が成り立たないから」という理由で、家に帰れる状況であっても転院を希望されるご家族(親を引き受けるわけにはいかないというつらい選択)もいらっしゃいます。

 

この状況をどう変えるか・・・。互いに支えあうためには福祉などを働く環境として、かなり充実させることも大事だと思います。今までも書いてきましたが、医療や福祉、教育というのは国の根幹であり、経済発展のために多くの方が働ける(後ろを気にせずに)ようにするためには必要なことです。

 

最後に「家に24時間ずっといるのは結婚して30年で初めて」と言われないように、家庭と医療現場を両立できるようなそういう制度を望みます。

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

http://blog.with2.net/link.php?602868

人気ブログランキングへ←応援よろしくお願いします

なかのひと

blogram投票ボタン

それでは、また。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする