未来技術の光と影。
SIYOU’s Chronicle




NVIDIAのカンファレンスに参加した。
NVIDIA GTC Japan 2017

アルファ碁」の活躍で脚光を浴びているディープラーニング

だが、世間一般では、まだまだその実力が正しく認識されていないようだ。

人口知能」や「深層学習」を、単なるバズワードととして捕え、軽視している者が多いようである。

「あれは研究室レベルでやっていること。実業務に適用出来るようなものではないし、その必要もない。」

「既に顧客業務のノウハウをロジックで組み込んだシステムを提供している。それと、何が違うのか?」と。

AIを取り巻く環境は、今正に、全く違う次元に突入した所だとの感覚がある。

ちゃんと説得出来ないので、情報収集を始めた。「AI・人口知能EXPO」を、ちょっと廻ったぐらいでは、何も伝わって来ない。

手始めに「最強囲碁AI、アルファ碁解体新書」を読んだ。これ、解り易い。ディープラーニング関連の最新技術の様相が掴める。

次に、「ディープラーニングがわかる数学入門」を読んでいる。これ、全てを理解できなくとも、なぜ、ディープラーニングに強力なGPUパワーが必要なのかが、感覚的に掴める。

NHKの教養番組などで、初心者向けの解説を聞いており、最近のディープラーニング関連の記事を追っているならば、この2冊でざっくりと下地が出来る。

もっと、専門的な内容に触れたい。

前から、NVIDIA関連のセミナーに参加したいと思っていたので、調べてみたら、丁度冒頭のカンファレンスの開催を知った。

行くしかない。幸い、仕事がひと段落したばかりだ。

ヒルトン東京お台場。

思っていたより盛況だ。いや、予想以上だ。正直、これほどとは思っていなかった。

初日は「INCEPTION AI スタートアップ サミット」に参加。

NVIDIAが支援しているAIスタートアップ企業70社から選抜された19社が、一般参加者に向けて、自社の技術、ソリューションをプレゼンテーションする。AIが果たして、ビジネスの現場にどれくらい入り込んでいるのか。その片鱗が伺える。

そして、2日目の朝一に、ジェンスン・フアンCEOによる基調講演。開始時間の40分前ぐらいに会場に着いたが、既に長蛇の列。かなり早い段階で満席になっている。

昨日にも増して、盛況ぶりに驚く。やはり、動くべくして動いてる者は、ちゃんと居るのだ。と。

これは勝機などでは決してなく、知らずにやり過ごしてしまえば、かなりの遅れを取ることになる。と、焦りを感じた。


現在のAIを取り巻く状況は、世の中にリレーショナルデータベースが登場した頃に似ていると、感じている。

既に、ISAMなどにより、高速なキー検索が出来ている。理論は立派なようだが、果たして実用に足りるのだろうか。

無理にそんなものを使わなくとも、今のままで十分である。

そう思っているうちにハードウェアの処理能力が追い付き、DB2ORACLEが製品化され、10年ほど遅れてMicrosoftがSQLServerをリリース。

今や、どんなに小さなシステムであっても、リレーショナル以外のデータベースを使うことはない。そこに、「このシステムにはリレーショナルデーターベースが必要なのか?」と、一瞬たりとも考えが及ぶような隙はない。

ディープラーニングに代表されるAI技術もそうなるであろう。

「そんな、大げさなものは必要ない。」と、思われているような局面でも、ごく普通に使われるようになるはずだ。

もはや、AIを使っているとの認識すらなくなるであろう。ウィザードに問われるままに、やりたいことを選択し、入出力データの種類や条件に答えれば、抽象化されたネットワーク図が作成され、後はGUIで詳細を調整し、プロパティを調整する。

サンプルデータを与えてやれば、ネットワークの階層やノード数など、クラウド上のメタAIが、適切なモデルを構築してくれる。教師データすら適当に探して、いやきっと、適切な量の適切なデータをジェネレートし、学習までしてくれるであろう。


基調講演で発表された「NVIDIA TITAN V

そのスペックが発表された。従来モデルの9倍の性能とのことだが、イマイチピンと来ない。

調べてみた。

地球シミュレータ

2002年から2004年にかけて、世界一の座を堅持した日本制のスパコンだ。

600億円という巨費が投じられ、維持費だけでも年間50億円。

おおよそ1m四方で高さ2mの筐体640台が、50mX60mのシミュレータ棟に納められ、専用の冷却棟も付随する。
(地球シミュレータ開発史)


処理能力は35 TFLOPS

5億円と6年間で185億円のレンタル費をかけて更新された第2世代は、2009年6月に、122 TFLOPSを叩き出している。

それから8年余り。発表された『TITAN V』の処理能力は、110 TFLOPS。

誇らし気に語るフアンCEOの手に握られているそれは、3000ドルで提供されると言う。

この数値だけで単純比較出来ないのは承知の上だが、ちょっと前まではスパコンを使用しなければ出来なかった研究が、大学の研究室、個人のレベルでも可能になった。

現段階ではまだ、ディープラーニングの研究には試行錯誤の要素が大きい。

どんな問題を解決するには、どんなモデルが有効なのか。

膨大なデータでモデルを学習させるのに3ヵ月かかっていたものが、10倍の効率であれば9日で可能だ。1年間に4回しか出来なかった動作確認テストを、40回試す事が出来る。価格が下がれば占有して自分の理論を検証出来る研究者も増える。

そうして、爆発的にAIの進歩が加速する。

現時点で有用な結果がいくつも出ており、既に商品化されている。


富士通の数値風洞が1位を獲得した1994年11月。上位10位の中に日本勢は5台入っている。だが、ここ数年のランキングでは、トップの座は中国に奪われている。

もはや、国内の他社の動向のみ伺って、何もせずに座している場合ではない。

まずは現状に触れてみて、迫り来る脅威を体感する必要があるであろう。

P.S.
人工知能について総括的な知識を得たいのであれば、人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるものを著した日本ディープラーニング協会理事長、東京大学大学院工学系研究科、松尾豊特任准教授が、上下600ページからなる書籍を、来年春に刊行予定だそうだ。乞うご期待!!

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