◆高宮紀子(ケント紙)
◆大国魂神社(府中)の晦日市の様子
2001年4月1日発行のART&CRAFT FORUM 20号に掲載した記事を改めて下記します。
民具のかご・作品としてのかご(6)
『かごの素材』 高宮紀子
民具のかご・作品としてのかご(6)
『かごの素材』 高宮紀子
日本のかごの伝統的な素材というと、まず思いつくのは竹です。1枚目の写真は、府中の大国魂神社で行われていた晦日市のかご屋さんの風景です。撮ったのは、10年ぐらい前になりますが、臼や杵など、いろいろな生活道具や神棚、みき口などを売っていました。写真のかご屋さんもその一つで、ムツメ組みやザル編みなど、いろいろなかごがありましたが、ほとんどが竹製のかごです。使われている材をよく見ますと、緑色の竹の外皮がついていたり、中の白っぽい材だったり、その巾や薄さもさまざまです。同じ素材からこんなにかごができるというのは、それだけ竹がいろいろな材に加工できるということが関係しています。かごを作る竹にはいろいろな種類がありますが、そのまま使う笹類以外はたいてい割って使います。竹は縦方向に割れやすい性質を持っていますので、切れ目を入れてさくと、細いものなら手で割ることができます。その後、外側の皮つきの材と中側の材の間を何枚かに割っていきます。こうして、弾力のある、まっすぐな薄い材を得ることができるのです。ただし、均一な材にするためには熟練が必要ですが。 竹はご存知の通り、かごを作るばかりではありません。縄や紙にしたり、建築にも使われます。竹と人間の結びつきは深く広いわけですが、それを支える竹を扱う加工9の方法も多様です。
伝統的に使われてきた素材を、今では当たり前のように使っていますが、最初の時点ではどの種類が編めるのか、またどんな加工ができるのか、わからなかったわけですから、いろいろと試された時間があったと思います。そしてこれは、造形の作品作りにおいても同じです。
竹のように割って、あるいはさいて細い材にするという加工作業は他の素材にも適用することができます。いろいろなツルを半分に割って、かごの口の補強材にしたり、巻く材に使ったりします。ツルだけでなく、ビニール管や発泡スチロール製の紐もさくことができます。平面的な素材の樹皮も薄く剥れるものがあります。厚く使いにくい樹皮も薄くなって柔らかくなり、曲げやすいものになります。元の素材の色や質感はほぼ同じで、その柔軟性が変わってきます。
2枚目の写真の作品は今年制作したもので、ケント紙でできています。紙は厚口のもので、もともとの厚みが1ミリあります。そのまま組むと、組む途中で表面にしわが出てしまいます。そこで、他の薄い紙で作ってみたのですが、あまり思ったようにはいきませんでした。適当な厚みも必要だったのです。そこで、最初に使った厚口のケント紙を半分にさいて薄くしました。さくと紙の層がぴったり切れないで、いつもどちらかに、少しずつ付いて残るのですが、それがかえって面白く感じ、表にして使いました。薄くなったおかげで、思ったカーブになったわけですが、素材も自分なりのものになった、という気がしました。
話は戻りますが、かごの伝統的な素材としてもう一つあげたいのはワラです。ワラはリサイクルという面で、すぐれた循環システムを確立していました。お米を採った後、刈り取ったワラを余すところなく使って、いろいろな生活用具を作り、使命が終われば、畑の肥やしとして土に戻されるというわけです。ワラとその使い方の流れを図にかいたならば、一つの素材をめぐる昔の生活がそのまま読み取れることと思います。
私は近くの農園でかご作りに使えそうな植物を少しずつ育てています。昔の生活におけるワラほど、自分との関係は深くはありませんが、自分で育ててみると、ワラと同じように、余すところなく使いたくなる気持ちになってきます。たとえ、朽ちても畑の肥やしになればという気持ちも同じです。今のところ、作品まではいきませんが、いろいろな植物を試したい、という興味の方が強いようです。しかし、その畑で最強の主役は雑草です。
以前、クラスの生徒さんに雑草を集めてきて下さい、と頼んだことがあります。思いのほか、いろいろな雑草が集まり、持ちよった草やそれを採った時の話で盛りあがりました。それぞれの草で縄をなうことで、繊維の強い種類があることもわかり、その後、お互いの草を交換して、それぞれの草の特徴を活かすコイリングのかごへとつながったのですが、その時の生徒さんのいきいきとした様子が忘れられません。かごの素材が何か特別な植物であるという考えから解放され、雑草と呼んでいた身近な植物を観察するようになったということ、そして素材を集めるという作業も「作る」ということであると体験してもらえたのではないかと思います。残念ながら完成したかごを見ることはできませんでしたが、それぞれ違うかごができたと思います。
作る人と素材との関係はその結びつきが個別なほど、面白い作品ができるように思います。素材をみつける手段や時間にも新しい作品が誕生するチャンスが潜んでいるような気がします。