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編む植物図鑑⑨『ラフィア、ミョウガ』 高宮紀子

2017-11-10 10:42:32 | 高宮紀子
◆写真2  草ビロード(クバ・ヴェルベット)

2008年10月10日発行のART&CRAFT FORUM 50号に掲載した記事を改めて下記します。

編む植物図鑑⑨『ラフィア、ミョウガ』 高宮紀子

 ◆ラフィア:ヤシ科
 2008年の東京テキスタイル研究所のかごの夏期講習は素材を徹底研究してみようということでラフィアを取りあげました。輸入された素材でありながら園芸やラッピング用品として比較的簡単に手に入る素材です。そのままのベージュ色の他、いろいろな色に染めたものを売っています。以前は水に濡れたような光沢の防燃加工された柔らかいラフィアを見かけましたが、今は違う技術で処理しているのか、みかけなくなりました。

◆写真1

 写真1は造園会社が輸入したもので、硬い葉の端っこが少し残っていました。ラフィアはもともと接木の枝同士をぐるぐる巻いて繋げるために輸入されましたが、ラッピング用や織物、編み糸、刺繍糸にしてもいいということで、ラフィアを使った製品が作られるようになりました。日本にラフィアがいつ入ってきたのかはわかりませんが、大正時代から続く佐原市のイシイクラフトという会社で今も織物や刺繍製品が製造され、千葉県の指定伝統的工芸品になっています。
昔、ラフィアをまねた人工繊維の編み糸が販売されていて、私もバックを作ったことを覚えています。たくさん穴のあいたプラスチック板に刺繍のように通していく方法で作るのですが、その頃のものはいかにも人工といった感じでした。今ではペーパーラフィア(紙製)やラフィーという編み糸が売られています。どちらもラフィアのようです。

 さて、今度は本物の話、ラフィアというのはヤシ科です。ラフィアは属名で、20種類あります。その種は中央、南アメリカ、そしてマダガスカルに見られます。私が集めた資料には(疑わしいインターネット資料が含まれていますが)アフリカの他の地域にも生育しているようです。ラフィア属の中には葉の長さが20mに成長するのがあり、ヤシ科の中でも一番巨大な種と言われています。たいがいのヤシの木がそうであるように、葉、葉柄、実など全てが利用され、屋根材などの建築材、編み組み品、お酒や食料などを作ります。ラフィアの繊維をとるのはその中の数種。まだ開いていない若い葉のクチクラ層の薄い膜をとります。はがした時は透明で、日光に当てて乾燥するとクリーム色になるそうです。ややこしいのは東南アジアのBuriと呼ばれるCorypha属のヤシ。この木からも繊維がとれ、ラフィアと呼んでいます。

 日本では園芸用のラフィアの印象しかありませんが、同じ素材で作られたアフリカの民具が売られています。写真2は旧ザイールのクバ族が作ったテキスタイル、クバ・ヴェルベットと呼ばれるものです。これはラフィアで織られた地に細かく裂いたラフィアをパイル刺繍していったもの。全体を埋めるようにいろいろなパターンを刺繍しますが、この刺繍のパターンには意味があり、所有者の社会的な地位を表現していると言われています。以前に日本でも草ビロードと紹介され注目されました。もともと腰巻から発展したようですが、刺繍が施されたものはその技術の難しいものほど価値が高く、王座やベッドの上にかけられ、その権威を表したようです。

◆写真3

 写真3は織った地にラフィアの細かい房がついているもので、桑原せつ子氏が北欧のお土産として下さったもの。草ビロードと同じくラフィアで織った地に細いラフィアの束が付いていますが、刺繍と違って束を組織に通して絡めて留めています。ラフィアの房の微妙な色の違いが美しいものです。

◆写真4

 写真4はカメルーンのラフィアバッグです。細かく長方形に織ったものを二つにして側面を縫い、袋にしています。バッグの縁で端に残ったタテ材をしまつして、そのまま三つ編みの持ち手へと繋げています。このバックはシンプルなただの入れ物といったふうですが、同じバッグに特別な刺繍が施されたものがあることを知りました。写真5はその一つ。真ん中に房がどんとある、使いづらそうなバッグですが、この房は持つ人の格式を表しているようで、これらの特別なバッグについては研究者の井関和代氏が国立民族学博物館から出版されている『民族学』などで詳しく述べています。

◆写真5

◆写真6

 3日間の夏期講習(写真6)では、このようなラフィアをどのように扱えば、作品や製品になるだろうか、というテーマで実験と作品作りをしてもらいました。ラフィアにはどうしても民芸品のイメージがある、というUさんからの意見がありました。なるほど、世界の民芸品を売っている店に行くとたいがいラフィア製品があります。ですからどうしたら既存のイメージを打開できるかということも問題でした。
現代的なバスケタリーの作品でラフィアが主役の作品といえば、アメリカのエド ロスバックのラフィアを撚ったかごの形をした作品を思い出します。ラフィアで自立した立体ができることを知り感動しました。他には同じくアメリカのナンシー モアー ベスさんの小さなかごの作品に使われていたように思います。
京都の小西誠二さんはラフィアを使ったコイリングの作品を長い間ずっと作ってこられました。コイリングは芯材と巻き材の二種類を必要としますが、どれもラフィアで作っておられ、いつも作品キャプションにはラフィア100%とあります。最近、ついにマダガスカルにも足を運ばれたと聞きました。

◆写真7

私の場合、ラフィアといって唯一思い出すのは、写真7の作品の続編。写真の作品は籐を芯にしてとうもろこしの皮で巻いたのですが、次の作品をラフィアで作りました。でもその後続いていません。今度の夏期講習では自分のためにもラフィアに取り組みたかったのです。

 ラフィアは編み材として便利で、どんな編み方にも対応できますが、その自由な点が主役にしにくい、かえって抵抗のある素材の方が何かを発見するきっかけになるような気がします。何にでも使えるラフィアに対して“ラフィアでないとできない”ことを見つけるのは容易ではありませんが、ラフィアでこんなこともできる、という観点で探していくと、少しずつ道は開けるような気がします。一つの素材を改めて見直し、自分との関係を構築するのは作る上でもっとも楽しいことだと思います。講習では縄の発展したもの、既存の編み方をラフィアでトライしたものが並びました。

◆写真8

◆ミョウガ:ショウガ科
 今年の夏は亜熱帯なみの暑さが続きました。最近は涼しくなりましたが、私の庭のミョウガ(写真8)もそろそろ暑さにくたびれて、傾きかけています。先日繊維をとりました。この植物は、どこまでが繊維なのかはっきりしないのが特徴です。表面の皮を剥ぐと、ある程度の長さで剥げますが、どんどんたまねぎの皮のように剥けて最後は茎の真ん中が残ります。その真ん中も乾かすと丈夫な繊維の束になります。

◆写真9

今回は葉と茎の部分に分けて乾燥させました。そうすると二種類の性質のものが得られるからです。写真9は乾燥したもので、左の白いのが茎の繊維。右が葉です。茎の繊維は非常に細くても丈夫ですが、葉の方は耐久性がさほど無いものの、柔らかい縄になります。乾燥させた後、たいがいの場合は何か作ってしまいます。このまま素材のままで保存すると、どうしても虫の餌食になったり、葉先がもろくなってしまうからです。今年は縄にして『無人島ジュエリーシリーズ』を作っています。コンセプトは“超素朴”ですが、縄でできることや、その植物の繊維の性質をなるべく縄に残したいと思っています。

 アート&クラフトの『編む植物図鑑』のシリーズは2006年の10月から書き始めました。植物図鑑といえば、30年前に牧野富太郎著の植物図鑑を紹介され、その当時よく見ていました。今では既に分類や科、種名が違っているものがあるのですが、繊維植物の利用方法が少し載っていて重宝しました。
その頃から繊維植物の自分なりの図鑑がいつか作れたらと思い資料を集めてきました。織物の糸にする方法の資料はあるけれど、バスケタリーのように繊維の使い方が幅広い場合は、もっと個人的な体験に基づく知識が必要になってきます。研究所でかごのクラスを教えるようになって、どうしたら素材探しの面白さが伝わるだろうかと思い、見慣れた素材の加工方法を工夫したり、雑草などそれまで使われなかったものをかごの素材に用いるようにしました。また自分の創作活動で得られた植物に関する知識を、インターネットの自分のウエブサイト“かご・アイデアの器:バスケタリー”(http://www001.upp.so-net.ne.jp/basketry-idea/)の中の『かごの植物図鑑』で少しですが紹介しています。『かごの植物図鑑』ではそれぞれの植物に関する記事が独立しているのですが、それらの記事にエッセーを加えてつなげてみようと『編む植物図鑑』を書き始めました。読み物としての評価には自信がありませんが、これからもどこかで書き続けられたらと思っています。