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ヌサ・トゥンガラの旅(5) 富田和子

2015-09-01 08:00:32 | 富田和子
1996年2月20日発行のART&CRAFT FORUM 3号に掲載した記事を改めて下記します。

 いよいよ旅の終盤、スンバ島へと渡った。スンバ島は、ティモール島と同様、かっては白壇の産地として栄えたが、乱伐のため衰退し、今では馬や水牛をジャワ島などに輸出するのが主な産業でしかない。石灰岩が隆起してできた島の土地は痩せていて、農作物もままならない。特に東部地域は西部地域に比べ人口も少なく、降雨量もわずかで非常に乾燥した気候である。そんな東部の村々でスンバ島のイカットは織られている。
 島ごとに特徴のある布が織られているインドネシアにおいても、スンバ島の布は最も独特である。まず目を引くのが具象絵画的な動物文、馬・鰐・猿・鹿・蛇・鶏・鳥・海老・亀・蛸・蠍など、身近に存在する様々な動物が登場している。それぞれ富や権力や強さ、生命力、色々な能力を象徴する文様である。そして表情豊かな人像文、更に他の島では見られない異質なものとして首架文がある。これは、今世紀初頭まで行われていたといわれる首狩りの風習によるもので、勝利のシンボルとして討ち取った相手の首を持ち帰り、村落内の広場にある木に架けて戦勝の儀式を行ったという。その首あるいは頭蓋骨の架かった首架台を文様としたものである。ヌサ・トゥンガラ東部の島々はオランダ植民地時代にキリスト教が普及したが、精霊崇拝や祖先崇拝や動物崇拝に基づくマラプ信仰は、今もなお人々の間に根強く残っていて、その特微がスンバ島の布には最も顕著に現れている。
現世だけではなく来世をも映し出すスンバ島のイカットは、自由で生き生きとした具象文様が、大きな布一面を埋め尽くしており、その力強さは見る者を圧倒する。
 ティモール島を早朝飛び立ち、プロペラ機で1時間余り、スンバ島の北に位置するワインガプーに到着。すぐにバスに乗り込んで村へと向かった。乾期のためか緑は少ない。
荒涼とした草原の中、東部の海岸沿いに島を南下する一本道がどこまでも続いている。
 ワインガプーから2時間半ほどの所に、かってはレンデ王国として権勢を誇ったレンデ村がある。村に入ると、高く突き出たとんがり屋根を持つ高床式の大きな家屋と巨石文化によるドルメン(墳墓)に迎えられる。ドルメンの石柱には、やはり動物や人の具象文様のレリーフが施されている。高床式の家の床下では女性が機織りをしていた。炎天下であっても床下は心地良い日陰を提供してくれる。どっしりとした家の柱と柱の間に太い竹を渡し、地機を固定している。輪状の経糸はクルクルと回る状態になっており、経糸全体を手前に引き寄せて緯糸を入れた後、上に押し上げて刀杼で勢い良く打ち込んでいく。織り手はからだ全体を使って機と一体になり、リズミカルに布を織っている。姿は見えなくとも家々からは、爽やかな機音が響いていた。(次号へ続く)            



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