犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

韓国便り~消えたピマコル

2010-10-06 23:04:32 | 韓国便り(帰任以後)
 韓国の食の楽しみはB級グルメ。

 かつて,市庁は教保文庫裏に,魅力的な小料理屋がひしめいていました。道端にサバやサワラを炭火焼きしている店。雨が降ると賑わうピンデットク(とマッコルリ)の店,プルコギとオジンオポックムという二種類のメニューだけしかないのに行列ができていた店…。

 この魅力的な一画は「ピマッコル」。しかし,ついにピマコッルも再開発の波に飲まれ,店はすべて立ち退きを迫られ,すでに更地になってしまいました。それを写真に収めていらっしゃった高木さんからその惨状を見せられて,思わず涙が出ました。

 チョンノからインサドン方面に至る道も,いまや再開発のための立ち退きが進められています。すでに引っ越して無人になった店にはベニヤ板が打ちつけられ,そこには強引な立ち退き要求の不当性を訴える文言がなぐり書きしてありました。

 龍山の再開発で,籠城した市民と警官多数が焼死した事件が起こったとき,一時的に再開発のスピードが落ちたそうですが,最近は再び勢いを取り戻しているようです。

 さて,出張二日目の夜は,このところ定番となった淑大入口の豚肉の店,サンデポ。

 私にとっては二日連続で豚肉となりました。今回は,日本から同行してきた別の出張者,会社の駐在員,韓国人の女性メンバー3人の計6人です。こういう構成だと,やはり韓国人に払わせるわけにはいかない。そうなるとあまり高い店にはいきたくない。必然的にメニューは豚になります。

 韓国人女性たちは,いずれもこの店に行くのが初めて。ドラム缶式のテーブル,土間という昔懐かしい店構えに驚いていました。この店は排煙装置がなく,上着を煙・匂いから守るために黒いポリブクロが支給されます。そして,6人だというのに,一つのテーブルに座らされる。テーブルとテーブルの間隔も狭い。

「こんなテーブルのお店,初めて来ました。ドラマではよく見るけれど」

と女性職員。きっと,こんな庶民的な店などにはいかない,いい家柄のお嬢さんなのでしょう。

 われわれが頼んだのは,サムギョプサルとテグマクチャン。

「店は汚いけれど,肉はいいですね」と別の女性職員。

灰皿を頼むと,

「うちの店はね,床が灰皿なの」

という,うれしい返事。

 肉が尽きたところで,カブリサルを追加注文します。カブリサルはモクサル(首)とドゥンシム(背)の間の肉。

 しばらくすると店は満員になり,店員は注文とりとサービングに大忙し。野菜,ニンニク,タレなどの消費性食材はセルフサービス。店の中央に設置された台に,自分で取りにいきます。

 女性のうち二人はお酒がいける口なので,緑色のビンがどんどん空いていく。結局7~8本頼みました。

 仕上げは,思い出の弁当。これについては以前書いたことがあります。(→リンク


 これだけ飲み食いして,会計は総額9万ウォン。うれしいことです。

 店をでたところで,女性メンバーの一人が

「そういえば,うちの会社,二次会をしないですよね」

犬「えっ,そんなことないでしょう」

女「でも,連れて行ってもらったことありませんけど」

犬「じゃ,行こか」

 地下鉄駅の方角に歩いていくと,大通りから脇に入る道に,ソジュバン(焼酎房)らしき明かりがいくつか見えたので,その暗い路地に入っていきました。路地の終わりのほうに,「ナクチ」の赤い看板がある。

「あそこにしよう」

 日本からの出張者は韓国がまだ3回目で,韓国最辛のナクチポックム(タコ炒め)の洗礼を受けていないはず。

 狭い階段を上って店に入ると,客は一人もいない。店のおばさんが,3人でテレビを見ていました。

「オソオセヨー」

 そういえば…。

 最近,ナクチやムノ(イイダコ)の頭部から,基準値の十数倍のカドミウムが検出された,というニュースが流れたという話しを,前日聞いたことを思い出しました。カドミウムはイタイイタイ病の原因とされ,前立腺ガンを誘発するともいわれる有毒重金属です。

(ま,唐辛子とアルコールで殺菌すりゃ大丈夫だろう)

 酔っぱらい特有の楽観的な考え方でナクチポックムを注文しました。頼んだ酒は,いまや流行遅れかもしれないけれど,「五十歳酒」。ペクセジュ(百歳酒)と焼酎を薬罐にどぼどぼと注ぎこんで作る,韓国式カクテルです。

「おっ,辛いですね」

 辛いものは好きという出張者も,ナクチの辛さには驚いたようです。私はといえば,すでに相当酔っぱらっていて,味もよくわからなければ,会話の内容も覚えていないので,以下省略。

 これらの廉価で魅力的な一画に再開発の波が及ばないことを切に祈ります。

 タクシーに乗り,よせばいいのにホテル近くのいきつけのバーに入りました。M資金(モンゴルの山から金が出るという投資話)詐欺団が摘発されたという話を,ママさんに伝えなければと思ったからです。ところが,ママさん,最近はモンゴルの話はどこへやら,株にはまっているとのこと。

「私,才能あるみたいなの。予知能力っていうのかしら」

「ほう」

「買う株がほとんどあがるので,最近はほかの人からアドバイスを求められるのよ」

「株を初めてどれぐらいなの」

「2年ぐらい。お店は閉めて,株に集中しようかと思っているところ」

「株の儲けだけで生活できるの?」

「もちろんよ。お店より何倍も儲かるわ」

「…」

 連れの出張者も酔いと眠気の限界が来たようなので,別のお客さんが入ってきたところで切り上げます。ママさん,元気そうでなによりでした。

※ なお,帰国後に調べたところ,ナクチ,ムノ,コッケのカドミウムは再調査の結果,基準値以下で安全であることが確認されたとのこと。

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