犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

「虎に翼」に思う~遺産相続

2024-07-04 23:54:20 | 朝ドラ

写真:大庭家の遺産分割協議(NHKより)

 二週間前の放映分ですが、「虎に翼」で、寅子の大学時代の同級生がまたまた再登場しました。

 大庭梅子です。

 梅子は、夫の死去にともなう遺産相続で家族がもめ、家庭裁判所に調停を求めてきたのですね。

 大庭家の遺家族は5人。梅子と息子3人、それに義母です。

 戦前の民法では、戸主が死んだ場合、遺産は家督とともに長男が一人ですべてを相続することになっていました。

 戦後の新民法(昭和23年)では、配偶者(妻)と直系卑属(子ども)が相続するというように規定が変わりました。

 したがって、大庭家の遺産は、梅子が3分の1、3人の息子が残りを3等分(義母は0)ということになります。

 妻と子どもの分割比率は、昭和56年(1981年)に変更されました。この改定で、配偶者は2分の1、子どもは残りを等分することに。

 改定の理由はよくわかりませんが、昭和23年の民法の場合、子どもが多いときは、子どもよりも妻が多くなるが、子ども2人の場合は、全員が3分の1ずつで妻と子どもが同じ。一人っ子の場合は、妻が3分の1、子どもが3分の2となって、子どもの相続分が妻を上回る。戦後、子どもの数が減ってきて、そのようなケースが増えたからではないかと思います。

 私は小学校5年の時、同居の祖父が亡くなり、中3のとき父を亡くしました。

 遺産相続をめぐって家族がもめたという記憶はありません。

 祖父には、「遺産」と呼べるようなものはなかったと思います。

 家は借家でしたし、銀行を退職したときの退職金は使い尽くしていたでしょう。

 父が死んだとき、母は、残された家族の生活について、ずいぶん心配していました。

 その2年ぐらい前に、借家だった土地と家を買い取り、父には多額のローンがありました。

 母は、父の死亡時に支払われる退職金をローンの返済に充て、貯金ゼロから生活設計をするつもりだったということを、後から聞きました。

 ところが、父は住宅ローンを組むとき、融資を受けた金融機関(たぶん自分が勤めていた銀行)を受取人とする生命保険に入っていたのです。母は、このことを知りませんでした。今も、生命保険の加入なしには、金融機関はお金を貸しませんね。

 父が亡くなると、この生命保険のおかげで住宅の借金は帳消しになり、父の退職金は手つかずで相続することができました。

 昭和50年頃のことでしたから、「虎に翼」に出てくる昭和23年の民法が適用されたはずです。

 私は中学3年生でしたので、遺産相続について知らされませんでした(もしかしたら相談されたかもしれませんが覚えていません)が、退職金は母、兄、私の間で均等に分けられ、それぞれの名義で貯金されていました。

 妻が3分の1、子どもが残りを等分、という民法の規定に沿ったものです。厳密に言うと、土地と家も相続の対象なのでこちらも分けるべきだったのかもしれませんが、土地を家は母が相続しました。

 家には、祖母(父の母)、伯母(父の姉)も同居していましたが、法の定めに従い、祖母、伯母には遺産は相続されませんでした。

 私は18歳の時に遺産が貯金された通帳を渡されましたが、それまでそのお金に手をつけることはありませんでした。

 父が勤めていた銀行は、福利厚生制度が完備されており、行員が死んだとき、残された遺族に対する遺族年金が充実していたようです。そのおかげで、私たち家族は、父の死に伴う「貧困」を経験することなくすみました。

 私が社会人になってから、祖母が亡くなりました。祖母は倹約家でしたので、謡曲を教えていた月謝と年金を毎月貯金し、亡くなったときにはけっこうまとまった額の現金があったそうです。

 それは、「遺言」により、全額娘(私の伯母)に相続されました。理由は「伯母には子どもがいないから」。伯母は、祖母の決めた相手と結婚しましたがうまくいかず離婚。その後ずっと独り身でいたのです。祖母は伯母の結婚の失敗にずっと責任を感じていたようです。

 もし遺言がなくても、民法の規定によれば、法定相続人は直系卑属(子ども)だけなので、結果は同じです。

 母は、「私がこの家に嫁に来てからずっと祖母に尽くしていたし、亡くなる前の数年間、病院通いにもずっと付き添って面倒を見たのに…」と不満を漏らしていたことを覚えています。

 ドラマの中の大庭家は、父親の妾が遺言による全額相続を主張するが、遺書が偽造であることが発覚。長男は弁護士で戦後の民法改正を知っているのに、戦前の民法のように「長男がすべてを相続する」といって譲らない。戦争から復員した次男、学生の三男は「母が遺産を放棄して、残りを子どもの間で等分しよう」と言い出す(夫婦は事実上離婚状態でしたが届はだされていなかった)。驚くべきことに、母になついていたはずの三男は、父の妾と関係を持っていた!

 ドロドロの家族関係に我慢ならなくなった梅子は、ついに遺産を放棄して、大庭家との間のあらゆる関係を断ち切ることを決断する…。

 遺産相続問題が家族間の不和をもたらすことはよくありますが、ここまで揉めるのはドラマならではでしょう。

 ところで、お隣韓国の民法は、日本の民法と似ていますが、父親が死んだとき、妻はそれぞれの子どもの1.5倍を相続することになっているそうです。

子どもが3人の場合、子どもは9分の2ずつで、妻は3分の1。
子どもが2人の場合、子どもは7分の2ずつで、妻は7分の3。
子どもが1人の場合、子どもは5分の2で、妻は5分の3。

 いずれの場合も、妻の取り分は子どもより多く、妻に対して手厚いといえます。

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