白水社『ニューエクスプレスプラス ロシア語』は、同じシリーズの他言語版と同じく、20課構成。各課に、短いスキットが置かれています。スキットには同じ登場人物が出てきて、全20話の、つながったストーリーになっています。
物語は、1組の男女の会話から始まります(第1課)。
アンナという女性が、一枚の写真を、つばさという日本人男性に見せています。
そこに写っているのは、ナターシャという女性とその両親です。お母さんはロシア人、お父さんは日本人だそうです。国際結婚なのですね。したがって、ナターシャは日露のハーフということになります。そして、この写真をつばさに見せているアンナは、ナターシャの姉であり、この写真がアンナの家族の写真であることが、最後の1文からわかります。
また、このスキットの説明に「アンナ先生」とあることから、アンナはおそらくロシア語の先生であり、つばさはその生徒であることが示唆されます。
アンナ姉妹の両親が、どういった経緯で国際結婚をするに至ったかは不明です。父親は、ソ連時代、日本の商社の駐在員としてロシアに派遣され、ロシア美女との恋に落ちて帰任命令を拒否、そのままロシアに居ついてしまったのかもしれません。あるいは、太平洋戦争期に満州にいて、日ソ中立条約を一方的に破棄して攻め込んできたソ連軍に捕まり、シベリアに抑留された日本人の子孫かもしれません。アンナとナターシャのファミリーヒストリーは、ベールに包まれています。
物語の舞台は、とある空港に移ります(第2課、第3課)。
ロシアの空港のようです。
空港で荷物を受け取ったつばさがロビーにいると、一人のロシア人女性が話しかけてきました。これが運命の出会いです。
「つばささんですか?」
「はい、そうです。では、あなたはナターシャさんですね」
「いいえ」
つばさは、てっきりアンナ先生の姉のナターシャが迎えに来てくれたと思ったのに、別の女性だったのでびっくりします。
この女性はナターシャの友人で、リューダ。ナターシャが仕事で来られないため、ナターシャに頼まれて、代わりにつばさを迎えに来たということです。
リューダは、自分の車でつばさをナターシャの家に連れて行きます。
ここでわかるのは、つばさの記憶力に多少問題があるということです。日本を出る直前、つばさはアンナ先生から、妹のナターシャの写真を見せてもらっていました。それにもかかわらず、つばさは別の女性をナターシャと取り違えてしまったからです。
次の場面では、ナターシャがつばさを部屋に案内します(第4課)。
アンナ先生は、妹のナターシャに、ロシアに留学するつばさをホームステイさせてくれるように頼んだのだと思われます。
部屋には、一枚の古い写真が飾られています。ナターシャのお母さんの若いころの写真で、とてもきれいな女性だったようです。
そして、もう1枚、新しい写真が飾られています。
「これはだれですか」
「私の姉のアンナよ。つばささん、彼女はあなたの先生でしょう!」
なんとつばさは、自分にロシア語を教えてくれた恩師の顔も忘れてしまっていたのでした。つばさの記憶力の悪さは、ここでも裏書きされます。
ある日、つばさが雑誌を読んでいると、リューダが話しかけます(第5課)。
リューダは、友だちのナターシャの家に遊びに来たのだと思われます。
「つばささん、何をしているの?」
「あっ、リューダさん! 歴史の雑誌を読んでいるんです」
リューダに話しかけられたときのうれしそうな様子から、つばさがリューダに恋心をもっていることがうかがわれます。
「その雑誌、おもしろい?」
「ぜんぜんおもしろくありません」
「じゃあどうして読んでるの?」
「自分でもわからないんです」
つばさはこう言っていますが、つばさがなぜおもしろくもない歴史の雑誌を読んでいるのかは、その後のストーリーの中で明らかになります。その理由をリューダに説明するには、つばさのロシア語能力が足りなかったのかもしれません。
つばさは、リューダのことが気になって仕方がありません。それで、ナターシャにリューダのことを根掘り葉掘り尋ねます(第7課)。
どこで働いているのか。ナターシャが、リューダは学生で、働いていないということを教えると、大学はどこにあるのか、リューダはどこに住んでいるのか、両親はどこに住んでいるのか、などと質問攻めにします。
でも、つばさはリューダに、空港からナターシャの家まで車で送ってもらったはずです。このように基本的なことがらを、なぜ車内で、リューダ本人に直接尋ねなかったのでしょうか。リューダに一目ぼれし、緊張して、聞きたいことが聞けなかった可能性があります。あるいは、そのときにも聞いたのに、記憶力が悪くて、忘れてしまったのかもしれません。
ある日、リューダはまたナターシャの家にやってきて、つばさにアンケート調査への協力をお願いします(第8課)。つばさは、二つ返事で引き受けます。
ロシアに住む外国人の生活についてのアンケート調査のようです。リューダは大学で社会学を専攻しているのでしょう。
「コンピュータを持っていますか?」
「はい、持っています。日本製です」
「電話はもっていますか」
「もっています。リューダさん、あなたは?」
「もちろんもっていますよ」
「じゃあ、電話番号を教えてください」
こうしてつばさは、ちゃっかりリューダの電話番号を聞き出しました。
第9課では、つばさが音楽を聴きながら、何かを書いているところに、家主のナターシャがやってきます。
「本を読んでいるんですか」
「いや、書いてるんです」
「手紙ですか? 論文ですか?」
「いえ、本です。本を書いているんです」
「本を? どんな本ですか」
「歴史小説です」
第5課で、つばさが歴史の雑誌を読んでいたのは、自分が書いている歴史小説の素材を探していたからだということが、ここで明らかになります。トルストイの向こうを張った「戦争と平和とリンゴ」という大河小説です。
つばさは、この小説を、その雑誌の懸賞小説に応募するのだと思われます。なぜなら、第10課で、つばさは郵便局で日本へ小包を発送しようとするからです。宛先は、歴史雑誌の発行元の出版社でしょう。
これで前編が終わります。
若い日本人男性つばさと、アンナ、ナターシャ、リューダという3人の女性が出てきましたが、登場人物の過去については語られていません。
なぜなら、まだ過去形を学習していないからです。
彼らがどのような過去を持ち、これからどのような事件が起きるのか。後編が楽しみです。
物語は、1組の男女の会話から始まります(第1課)。
アンナという女性が、一枚の写真を、つばさという日本人男性に見せています。
そこに写っているのは、ナターシャという女性とその両親です。お母さんはロシア人、お父さんは日本人だそうです。国際結婚なのですね。したがって、ナターシャは日露のハーフということになります。そして、この写真をつばさに見せているアンナは、ナターシャの姉であり、この写真がアンナの家族の写真であることが、最後の1文からわかります。
また、このスキットの説明に「アンナ先生」とあることから、アンナはおそらくロシア語の先生であり、つばさはその生徒であることが示唆されます。
アンナ姉妹の両親が、どういった経緯で国際結婚をするに至ったかは不明です。父親は、ソ連時代、日本の商社の駐在員としてロシアに派遣され、ロシア美女との恋に落ちて帰任命令を拒否、そのままロシアに居ついてしまったのかもしれません。あるいは、太平洋戦争期に満州にいて、日ソ中立条約を一方的に破棄して攻め込んできたソ連軍に捕まり、シベリアに抑留された日本人の子孫かもしれません。アンナとナターシャのファミリーヒストリーは、ベールに包まれています。
物語の舞台は、とある空港に移ります(第2課、第3課)。
ロシアの空港のようです。
空港で荷物を受け取ったつばさがロビーにいると、一人のロシア人女性が話しかけてきました。これが運命の出会いです。
「つばささんですか?」
「はい、そうです。では、あなたはナターシャさんですね」
「いいえ」
つばさは、てっきりアンナ先生の姉のナターシャが迎えに来てくれたと思ったのに、別の女性だったのでびっくりします。
この女性はナターシャの友人で、リューダ。ナターシャが仕事で来られないため、ナターシャに頼まれて、代わりにつばさを迎えに来たということです。
リューダは、自分の車でつばさをナターシャの家に連れて行きます。
ここでわかるのは、つばさの記憶力に多少問題があるということです。日本を出る直前、つばさはアンナ先生から、妹のナターシャの写真を見せてもらっていました。それにもかかわらず、つばさは別の女性をナターシャと取り違えてしまったからです。
次の場面では、ナターシャがつばさを部屋に案内します(第4課)。
アンナ先生は、妹のナターシャに、ロシアに留学するつばさをホームステイさせてくれるように頼んだのだと思われます。
部屋には、一枚の古い写真が飾られています。ナターシャのお母さんの若いころの写真で、とてもきれいな女性だったようです。
そして、もう1枚、新しい写真が飾られています。
「これはだれですか」
「私の姉のアンナよ。つばささん、彼女はあなたの先生でしょう!」
なんとつばさは、自分にロシア語を教えてくれた恩師の顔も忘れてしまっていたのでした。つばさの記憶力の悪さは、ここでも裏書きされます。
ある日、つばさが雑誌を読んでいると、リューダが話しかけます(第5課)。
リューダは、友だちのナターシャの家に遊びに来たのだと思われます。
「つばささん、何をしているの?」
「あっ、リューダさん! 歴史の雑誌を読んでいるんです」
リューダに話しかけられたときのうれしそうな様子から、つばさがリューダに恋心をもっていることがうかがわれます。
「その雑誌、おもしろい?」
「ぜんぜんおもしろくありません」
「じゃあどうして読んでるの?」
「自分でもわからないんです」
つばさはこう言っていますが、つばさがなぜおもしろくもない歴史の雑誌を読んでいるのかは、その後のストーリーの中で明らかになります。その理由をリューダに説明するには、つばさのロシア語能力が足りなかったのかもしれません。
つばさは、リューダのことが気になって仕方がありません。それで、ナターシャにリューダのことを根掘り葉掘り尋ねます(第7課)。
どこで働いているのか。ナターシャが、リューダは学生で、働いていないということを教えると、大学はどこにあるのか、リューダはどこに住んでいるのか、両親はどこに住んでいるのか、などと質問攻めにします。
でも、つばさはリューダに、空港からナターシャの家まで車で送ってもらったはずです。このように基本的なことがらを、なぜ車内で、リューダ本人に直接尋ねなかったのでしょうか。リューダに一目ぼれし、緊張して、聞きたいことが聞けなかった可能性があります。あるいは、そのときにも聞いたのに、記憶力が悪くて、忘れてしまったのかもしれません。
ある日、リューダはまたナターシャの家にやってきて、つばさにアンケート調査への協力をお願いします(第8課)。つばさは、二つ返事で引き受けます。
ロシアに住む外国人の生活についてのアンケート調査のようです。リューダは大学で社会学を専攻しているのでしょう。
「コンピュータを持っていますか?」
「はい、持っています。日本製です」
「電話はもっていますか」
「もっています。リューダさん、あなたは?」
「もちろんもっていますよ」
「じゃあ、電話番号を教えてください」
こうしてつばさは、ちゃっかりリューダの電話番号を聞き出しました。
第9課では、つばさが音楽を聴きながら、何かを書いているところに、家主のナターシャがやってきます。
「本を読んでいるんですか」
「いや、書いてるんです」
「手紙ですか? 論文ですか?」
「いえ、本です。本を書いているんです」
「本を? どんな本ですか」
「歴史小説です」
第5課で、つばさが歴史の雑誌を読んでいたのは、自分が書いている歴史小説の素材を探していたからだということが、ここで明らかになります。トルストイの向こうを張った「戦争と平和とリンゴ」という大河小説です。
つばさは、この小説を、その雑誌の懸賞小説に応募するのだと思われます。なぜなら、第10課で、つばさは郵便局で日本へ小包を発送しようとするからです。宛先は、歴史雑誌の発行元の出版社でしょう。
これで前編が終わります。
若い日本人男性つばさと、アンナ、ナターシャ、リューダという3人の女性が出てきましたが、登場人物の過去については語られていません。
なぜなら、まだ過去形を学習していないからです。
彼らがどのような過去を持ち、これからどのような事件が起きるのか。後編が楽しみです。
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