犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

複線化されていたロシア語急行

2020-12-06 23:08:12 | 言葉
ロシア急行物語メインストーリー(前編)

 実は、『ニューエクスプレスプラス ロシア語』は、本課のメインストーリーとは別に、2課ごとに1つある練習問題にもスキットがあり、そのスキットには本課とは別の人物たちがもう一つのストーリーを展開していきます。これは、同じシリーズの他言語版には見られない独特の構成です。本課と練習問題で、二つの物語が同時に進行していくわけです。

 つまり、ロシア語急行は複線化していたのです!

 この手法は、村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を思わせます。

 今回は、練習問題に出てくるサイドストーリーを紹介しましょう。

 登場人物は、アンドレイという男性と裕子(漢字表記は不明ですが、仮に裕子としておきます)です。

 アンドレイの父親はロシア人、母親は日本人です。メインストーリーのアンナ、ナターシャ姉妹同様、日露のハーフです。両親がどのような経緯で国際結婚をしたのかは、やはり書かれていません。(練習問題1)

 アンドレイの両親は二人とも教師です。ところが、アンドレイの持っている車は小さくて、古い。アンドレイ自身、自分が貧しいことを告白しています。ロシアの教師は給料が安いのだと思われます。(練習問題2)

 練習問題3では、奇妙な事実が明らかになります。アンドレイは、母親が日本人であるのに、日本語ができないのです。自分の第一言語を「母語」ということからもわかるように、子どもは母親の言語を母語として身につけます。アンドレイが日本語を解さないことから、母親も日本語ができなかったと推測できます。おそらく母親は、幼くして日本人の両親から引き離され、ロシア人の養父母のもとで育ったため、ロシア語しかできないのではないでしょうか(両親がシベリア抑留者だった可能性もあります!)。

 もっと奇妙なことに、アンドレイは日本語ができないかわりに、フィンランド語ができるのです!

 アンドレイは、「なぜフィンランド語ができるのか、自分でもわからない」と言っていますが、おそらく共稼ぎで子育てが難しかった両親が、フィンランド人の乳母にアンドレイの養育を任せたのだと思われます。

 アンドレイは大学に行くお金がないからか、レストランで働いています。

裕子「仕事はおもしろい?」

アンドレイ「ぜんぜん」


 仕事がつまらないうえに、私生活も寂しそうです。映画を見る趣味はなく、テレビも見ない。本も、雑誌も、新聞もまったく読まないそうです。そのため、裕子に「あなたって、つまらない人ね」と言われてしまいます(練習問題4)。

 一方、裕子は、大型車に乗り、最新型のパソコンと携帯電話を持っています。さらに母親は美人で、父親は金持ちだということです。

「裕子、君にはすべてがあるね!」

 アンドレイは裕子をうらやましく思います。

 裕子に「つまらない人」と言われて傷ついたアンドレイは、練習問題5で、慣れない読書に挑戦します。

「アンドレイ、何を読んでるの?」

「鳥の本だよ」

「題名は?」

「チャイカ(かもめ)」

「それ、鳥の本じゃないわよ」

 両親ともに教師であるアンドレイは、ロシアの国民的作家アントン・チェーホフの戯曲『かもめ』を知らなかったのです!

 ここで前編が終わります。

 アンドレイと裕子の関係は恋愛に発展していくのでしょうか。そしてこのサイドストーリーは、いつかメインストーリーとシンクロするのでしょうか。

 興味は尽きません。
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