
韓国の最大野党、国民の力の大統領選統一候補が決まりました。元検察総長(検事総長)で、文大統領の宿敵、尹錫悦氏です。
与党、共に民主党の統一候補はすでに李在明(イ・ジェミョン)に決まっていますから、来年3月の大統領候補は李在明と尹錫悦の対決になりそうです。他の野党も候補を立てると思いますが、現時点の世論調査では支持率が伸びていないので、事実上、二人の一騎打ちになると思われます。
次は、大統領選に関するwowKorea11月6日付記事の冒頭です(リンク、日本語)。
韓国では昨日5日に、保守系の最大野党「国民の力」がユン・ソクヨル(尹錫悦、ユン・ソギョル、ユン・ソンニョル)前検事総長を大統領候補に選出した。これで与野党の大統領候補が確定し、大統領選に向けた本格的な戦いが始まる。…
候補者の名前が、実に複雑に表記されています。
尹錫悦のカタカナ表記が
ユン・ソクヨル、
ユン・ソギョル、
ユン・ソンニョル
と、3種類挙げられているのです。
これはどういうことでしょうか。
尹錫悦のハングル表記は윤석열です。
ハングルは表音文字なので、つづりが発音を表します。しかし、音のつながり具合によっては、音が変化する場合があり、ハングル表記と実際の発音が異なるケースが生じます。
ユン・ソクヨル
は、윤석열を一文字ずつ発音した場合のカタカナ表記です。
ユン・ソギョル
は、석と열を連音化させたときのカタカナ表記です。
韓国語の音節は母音で終わる開音節と子音で終わる閉音節があります。閉音節のあとに母音が来ると、母音が直前の子音と結合します。発音を忠実にハングルで表すと서결になります。このときㄱ(k)音は有声音化してg音になります。したがって、カタカナ表記はソキョルではなく、ソギョルになるわけです。
ユン・ソンニョル
は、석と열の間に「音の添加」が起こった場合のカタカナ表記です。
国立国語院の「標準語規定」は第7章音の添加第29項で次のように定めています。
第29項 合成語及び派生語で、前の単語や接頭辞の終わりが子音であり後の単語や接尾辞の最初の音節が이、야、여、요、유の場合には、ㄴ音を添加して니、냐、녀、뇨、뉴と発音する。
この規定に従えば、석열は석녈になります。すると今度は、第18項の規定にしたがって、さらに音変化します。
第18項 ㄱパッチム(音節末の子音。終音、末子音ともいう)は、ㄴの前でㅇと発音される。
したがって、석녈はさらに성녈(カタカナではソンニョル)になるわけです。
でも、석열は合成語でも派生語でもないので、第29項の規定はあてはまらないはずです。
名前の発音は、本人に聞くのが手っ取り早いでしょう。
尹錫悦が統一候補に決まったときのコメントの動画を見てみます(リンク)。
「今回の大選(大統領選挙)は常識の尹錫悦と非常識の李在明の戦いです。合理主義者とポピュリスト(大衆迎合主義者)の戦いです…」
リポーターはユン・ソギョルと発音しているのに、尹錫悦本人は自分の名前をユン・ソンニョルと発音しているんですね。
これについて、韓国日報が記事にしています。尹錫悦が文大統領から検察総長に指名された直後の記事です。
2019年6月24日付韓国日報(リンク、韓国語)
[韓国語探索]ユン・ソギョル? ユン・ソンニョル?
最近、放送を見ると検察総長に指名された尹錫悦候補者の名前を「ユン・ソギョル」と発音したり、「ユン・ソンニョル」と発音したりしている。いったい、どちらの発音が正しいのだろうか。
もし表記が윤석열なら、석のパッチムㄱを連音化させて윤서결(ユン・ソギョル)と発音するのが正しく、윤석렬なら音の同化現象にしたがって윤석렬を윤석녈とし、さらに윤석녈を윤성녈(ユン・ソンニョル)に変えて発音するのが正しい。
しかし尹候補の漢字表記は尹錫悅であって、悅という漢字の本音(本来の音)は렬ではなく열だ。悅という漢字が入る「法悅」と「感悅」は、법열、감열と表記し、버별(ポビョル)、가ː멸(カーミョル)と発音するように、尹錫悅も윤석열と表記して윤서결(ユン・ソギョル)と発音するのが正しい。
ところがマスコミ報道によれば、尹候補本人は幼いときから家で自分のことを성열と呼ばれてきたので、慣れている윤성열(ユン・ソンギョル)と呼んでほしいと言っているそうだ。
現在、名前の表記に関しては、ハングル正書法に合わなくても個人の意思を尊重して表記することにしている。たとえば김응용(キム・ウンヨン)大韓野球ソフトボール協会会長と선동열(ソン・ドンヨル)前野球監督の漢字表記は、金應龍、宣銅烈だが、龍と烈の本音が룡、렬なので、김응룡、선동렬と書くのが正しいが、マスコミでは本人の意思を尊重して김응용、선동열と表記している。
しかし、これは表記に限ったことであり、発音を標準発音ではなく、本人が望む発音で呼ぶというのは極めて異例だ。こうして見てくると、尹候補本人が望む発音を知っている人は윤성열(ユン・ソンギョル)または윤성녈(ユン・ソンニョル)と発音し、知らない人は윤서결(ユン・ソギョル)と発音しているわけだ。
問題はさらに複雑化しました。尹錫悅氏は、ユン・ソギョルでもユン・ソンニョルでもなく、ユン・ソンギョルと呼んでほしがっているらしいのです!
でも、先ほどの演説では、尹錫悅氏は明らかにユン・ソンニョルと発音していました。
この辺りはネイティブじゃないとわからないのかもしれませんが、윤성열(ユン・ソンギョル)と윤성녈(ユン・ソンニョル)は極めて近い発音で、多くの人は区別しないのかもしれません。記事の中でも、윤성열と윤성녈を同じ発音とみなしているようですから。
今獄中にいる朴槿恵元大統領が日本のマスコミに登場したころは、パク・クンヘと表記されることがあったのに、いつしかパク・クネに統一されていきました。
尹錫悅氏の場合も、今は、ユン・ソクヨル、ユン・ソギョル、ユン・ソンニョル、(ユン・ソンギョル)という複数の異なった表記が使われていますが、いずれはどれかに統一されるのでしょう。
私は、尹氏が実際に発音しているユン・ソンニョルに統一するのがいいと思います。
与党、共に民主党の統一候補はすでに李在明(イ・ジェミョン)に決まっていますから、来年3月の大統領候補は李在明と尹錫悦の対決になりそうです。他の野党も候補を立てると思いますが、現時点の世論調査では支持率が伸びていないので、事実上、二人の一騎打ちになると思われます。
次は、大統領選に関するwowKorea11月6日付記事の冒頭です(リンク、日本語)。
韓国では昨日5日に、保守系の最大野党「国民の力」がユン・ソクヨル(尹錫悦、ユン・ソギョル、ユン・ソンニョル)前検事総長を大統領候補に選出した。これで与野党の大統領候補が確定し、大統領選に向けた本格的な戦いが始まる。…
候補者の名前が、実に複雑に表記されています。
尹錫悦のカタカナ表記が
ユン・ソクヨル、
ユン・ソギョル、
ユン・ソンニョル
と、3種類挙げられているのです。
これはどういうことでしょうか。
尹錫悦のハングル表記は윤석열です。
ハングルは表音文字なので、つづりが発音を表します。しかし、音のつながり具合によっては、音が変化する場合があり、ハングル表記と実際の発音が異なるケースが生じます。
ユン・ソクヨル
は、윤석열を一文字ずつ発音した場合のカタカナ表記です。
ユン・ソギョル
は、석と열を連音化させたときのカタカナ表記です。
韓国語の音節は母音で終わる開音節と子音で終わる閉音節があります。閉音節のあとに母音が来ると、母音が直前の子音と結合します。発音を忠実にハングルで表すと서결になります。このときㄱ(k)音は有声音化してg音になります。したがって、カタカナ表記はソキョルではなく、ソギョルになるわけです。
ユン・ソンニョル
は、석と열の間に「音の添加」が起こった場合のカタカナ表記です。
国立国語院の「標準語規定」は第7章音の添加第29項で次のように定めています。
第29項 合成語及び派生語で、前の単語や接頭辞の終わりが子音であり後の単語や接尾辞の最初の音節が이、야、여、요、유の場合には、ㄴ音を添加して니、냐、녀、뇨、뉴と発音する。
この規定に従えば、석열は석녈になります。すると今度は、第18項の規定にしたがって、さらに音変化します。
第18項 ㄱパッチム(音節末の子音。終音、末子音ともいう)は、ㄴの前でㅇと発音される。
したがって、석녈はさらに성녈(カタカナではソンニョル)になるわけです。
でも、석열は合成語でも派生語でもないので、第29項の規定はあてはまらないはずです。
名前の発音は、本人に聞くのが手っ取り早いでしょう。
尹錫悦が統一候補に決まったときのコメントの動画を見てみます(リンク)。
「今回の大選(大統領選挙)は常識の尹錫悦と非常識の李在明の戦いです。合理主義者とポピュリスト(大衆迎合主義者)の戦いです…」
リポーターはユン・ソギョルと発音しているのに、尹錫悦本人は自分の名前をユン・ソンニョルと発音しているんですね。
これについて、韓国日報が記事にしています。尹錫悦が文大統領から検察総長に指名された直後の記事です。
2019年6月24日付韓国日報(リンク、韓国語)
[韓国語探索]ユン・ソギョル? ユン・ソンニョル?
最近、放送を見ると検察総長に指名された尹錫悦候補者の名前を「ユン・ソギョル」と発音したり、「ユン・ソンニョル」と発音したりしている。いったい、どちらの発音が正しいのだろうか。
もし表記が윤석열なら、석のパッチムㄱを連音化させて윤서결(ユン・ソギョル)と発音するのが正しく、윤석렬なら音の同化現象にしたがって윤석렬を윤석녈とし、さらに윤석녈を윤성녈(ユン・ソンニョル)に変えて発音するのが正しい。
しかし尹候補の漢字表記は尹錫悅であって、悅という漢字の本音(本来の音)は렬ではなく열だ。悅という漢字が入る「法悅」と「感悅」は、법열、감열と表記し、버별(ポビョル)、가ː멸(カーミョル)と発音するように、尹錫悅も윤석열と表記して윤서결(ユン・ソギョル)と発音するのが正しい。
ところがマスコミ報道によれば、尹候補本人は幼いときから家で自分のことを성열と呼ばれてきたので、慣れている윤성열(ユン・ソンギョル)と呼んでほしいと言っているそうだ。
現在、名前の表記に関しては、ハングル正書法に合わなくても個人の意思を尊重して表記することにしている。たとえば김응용(キム・ウンヨン)大韓野球ソフトボール協会会長と선동열(ソン・ドンヨル)前野球監督の漢字表記は、金應龍、宣銅烈だが、龍と烈の本音が룡、렬なので、김응룡、선동렬と書くのが正しいが、マスコミでは本人の意思を尊重して김응용、선동열と表記している。
しかし、これは表記に限ったことであり、発音を標準発音ではなく、本人が望む発音で呼ぶというのは極めて異例だ。こうして見てくると、尹候補本人が望む発音を知っている人は윤성열(ユン・ソンギョル)または윤성녈(ユン・ソンニョル)と発音し、知らない人は윤서결(ユン・ソギョル)と発音しているわけだ。
問題はさらに複雑化しました。尹錫悅氏は、ユン・ソギョルでもユン・ソンニョルでもなく、ユン・ソンギョルと呼んでほしがっているらしいのです!
でも、先ほどの演説では、尹錫悅氏は明らかにユン・ソンニョルと発音していました。
この辺りはネイティブじゃないとわからないのかもしれませんが、윤성열(ユン・ソンギョル)と윤성녈(ユン・ソンニョル)は極めて近い発音で、多くの人は区別しないのかもしれません。記事の中でも、윤성열と윤성녈を同じ発音とみなしているようですから。
今獄中にいる朴槿恵元大統領が日本のマスコミに登場したころは、パク・クンヘと表記されることがあったのに、いつしかパク・クネに統一されていきました。
尹錫悅氏の場合も、今は、ユン・ソクヨル、ユン・ソギョル、ユン・ソンニョル、(ユン・ソンギョル)という複数の異なった表記が使われていますが、いずれはどれかに統一されるのでしょう。
私は、尹氏が実際に発音しているユン・ソンニョルに統一するのがいいと思います。
西岡省二さんという方の記事です。
https://news.yahoo.co.jp/byline/nishiokashoji/20211108-00267118
最後のパク・クネの例まで一致しているのが驚きです。
大学時代にラテン語を習ったとき、先生が、読み方は適当でいい。ラテン語は話し言葉としては死語だから、と言っていたのを覚えています。
漢文(古典語としての)も日本では訓読みを混ぜて、語順も変えて読んでもなんの問題もないですね。
そういえばそうでした。しかし私はあんまり意識に登らなかった。聞き言葉を大事にしない史料人間だからでしょうか。?。