A:これは何ですか。
B:これはペンです。
あるタイ語の語学書の最初のほうに載っている例文です。文法的には平易ですが、意味的には実に難解な文です。
「これ」という指示詞は、話者の近くにあるものを指します。AさんとBさんがともに「これ」と言っているところからみると、話題になっているモノを、二人は目の前にして会話をしていることがわかります。
そして、Aさんは、「これ」が何であるか、見てもわからない。もしわかるのであれば、聞くはずがないからです。すなわち、そのものは一目見ただけではペンであることがわからない状況にあるということです。
もしAさんが「それは何ですか」と聞いた場合、「それ」は相手のそばにあり、話者からは少し離れているものを指す指示詞ですから、Bさんが持っているモノが、Aさんから視認しにくいということがありうる。しかし、上の文の場合、Aさんが「これ」と言っているので、その推理は成り立ちません。
考えられるのは、ペンがラッピングされていたこと。箱に入っていたのか、袋に入っていたのかは定かではありません。
Bさんは、きっと誰かにプレゼントするためにデパートでペンを買ってきた。箱入り、包装紙つきのペンが机の上に置いてあった。そこへAさんがやってきて、件の会話が行われたわけです。
上の例文を理解するためには、相当な想像力が必要です。
A:それは鉛筆ですか。
B:いいえ、違います。これは消しゴムです。
これは意味の明快な例文です。解釈はほぼ一通りしかない。
Bさんが持っていた消しゴムは、鉛筆型消しゴムだったわけです。形は鉛筆で、芯の部分が消しゴムになっている、あれですね。
AさんはBさんが持っている鉛筆らしきものが、遠目に(なぜなら「それ」という指示詞を使っている)自分の知っている典型的な鉛筆でないことが気にかかり、「それは鉛筆ですか」という質問を発した。そして、鉛筆のように見えたものが実は消しゴムだったということがわかり、一件落着しました。
次は別のタイ語学習書に出ていた例文です。
A:あなたは学生ですか。
B:はい、私は学生です。あなたはボクサーですか。
A:いいえ、違います。私は政治家です。
ある男性が、若い女性に出会ったときに交わした会話であると思われます。発話者の性別は、タイ語では語尾に現れます。
たぶん、大学のキャンパスの中でのことなのでしょう。通りすがりの女性に、「学生ですか」と聞いたら、案の定、そうでした。
聞かれた女性は、いきなり声を掛けられて不審に思い、相手の顔をまじまじと見つめたら、顔がいかついばかりか傷だらけだった。それで「あなたはボクサーですか」と聞いたわけですね。
すると、その見立ては間違っていて、実は政治家だった。政治家の顔になぜ傷が多かったかというと、彼は武闘派の国会議員でしばしば国会内で乱闘騒ぎを起こしていたことが容易に推察されます。
私には、その政治家の固有名詞までが推測できます。彼こそは、タイで幅広くマッサージパーラー(ソープランド)を経営し、「風俗の帝王」と呼ばれながら、政界に進出し、しばしば乱闘を繰り広げていたチューウィット・ガモンウィシット氏である可能性が相当高いのではないでしょうか。
そして、自分が経営するソープランドで働く女性をスカウトするために、大学構内で女性を物色していた可能性が大です。
A:鹿ですか。
B:いいえ、犬です。
これは文法書の例文ではありません。最近、埼玉県の私の自宅付近で実際に交わされた会話です。
Aは通りがかりの地元のおばあさん。Bは、散歩の途中だった私です。鹿と間違えられた犬は、私のプロフィールの写真を参照ください。
この短い会話から、埼玉のこのあたりでは、犬を鹿と見間違えるおばあさんがいること、近隣の山には鹿が出没し、子鹿をつかまえてきて家で飼うということが、少なくともおばあさんが子どもの頃にはありえたこと、などが推察できます。
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または、件のおばさんは、鹿がどういう動物か実はよく知らない、という結論も導けないでしょうか^^
コメントありがとうございます。
散歩してるといろんなことを言われます。
「かっこいい」「スマート」と肯定的評価もありますが、
「変わった犬」「やせすぎじゃない?」「カンガルーかと思った」
やっぱり子供が正直ですね。思ったことをそのまま口に出す。
犬鍋さん、面白すぎる!!
コメントありがとうございます。
そのミステリーは読んでいません。検索すると古典的名作だそうですね。ぜひ読んでみます。
ふと耳にした「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、まして雨の中となるとなおさらだ」という言葉だけで推論するミステリです。