小腸切除。翌日、目を覚ました僕の目の前に置かれた書類にはそう記されていた。
切除?
こう書かれると何やら小腸の全てを失ったようにもとれるが、一部切除だよね?
内装解体と内装一部解体ではだいぶ違う。
そんなことより、スマホがないことに大変困ったが、同レベルで困ったのが喫煙場所が皆無なこと。敷地内全面禁煙。
マジかよ。
吸えませんと言われて、はぁそうですか、と納得できるのなら、こんなご時世になってまで喫煙などしてない。
地下から外に抜ける通用口があったので、そこで吸ってみる。
病院のパジャマ姿で、右手は点滴のガラガラを掴み、首からは背中に刺さってる痛み止めの容器が垂れ下がっているという、どこからどう見てもザ・病人という姿で。
異様な異人。
もちろんソッコーで看護婦さんがスッ飛んで来てこっぴどく叱られる。
病人という自覚はあるんですか?と看護婦さん。ある。こんな管だらけの常人がいるものか。自覚はしている。だからタチが悪い。
とにかくこの姿では目立ちすぎる。タダでさえ必要以上に目立つのだ。
まずパジャマを何とかしなければ。汗でベタベタなのでという理由で私服を着用することに成功。
残る問題はこの点滴だな。これを引きずっている時点で何しててもアウト。
こんなのガラガラした奴が駅前の喫煙所に現れたら、なんかヤバいやつ登場しましたけど!みたいな感じで罪のない労働者諸君たちをビックリさせてしまうに違いない。
かくなる上は近めの敷地外でわりと堂々と普通に吸うしかない。
そこまでして煙草を吸いたいか、と言われるかもしれないが、何も自分の欲求を満たしたいだけでやってるわけではないのだ。
これは喫煙者を簡単に阻害し、安易に吸わせなきゃいいじゃないという手段を取る人たちへの挑戦状なのだ。遊びでやってんじゃないんだよぉっ!
でもまぁ今回はこれくらいで手を引いてやろう。あの看護婦さん超こわいし。
ああいう人をデキの悪い猿か何かみたいに怒る人を見てると、とある身内を思い出してしまう。
まだ退院日もいつになるか分からないのに、目の敵にされて看護婦さん全員から敵視されるなんてゾッとしない。もう日常やん。
俗世から切り離されて入院してるときくらい、せめて心安らかに過ごしたいものだ。