遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

鑑定本9 中島信義『鑑定秘訣 美術類集』(明治28年)

2024年09月26日 | 故玩館日記

今回は、明治時代の鑑定本です。

中島信義『鑑定秘訣 美術類集』青木嵩山堂、明治二十八年九月。

小さな和綴本(18x12.5㎝、厚1.5㎝)です。

上下、2巻ですが、今回の品は上巻のみです。

詳細に調べたことは無いのですが、明治に発行されたこの本が、いわゆる鑑定本の嚆矢ではないかと思います。

江戸時代、落款印譜集は発刊されていましたが、鑑定は、本阿弥家や古筆家などの職業鑑定人が行っていたので、鑑定のノウハウを明かすような本は出されませんでした。

明治に入って、骨董に関する雑誌が発行されるとともに、このような鑑定本が出されたのでしょう。

上下巻の目次を載せておきます。上巻は陶磁器、下巻は古鏡、銅像などの古銅や木彫などを扱っています。

上巻の陶磁器では、伊万里焼(石焼)、九谷焼(土焼)、薩摩焼(ヒビ焼)と雲鶴茶碗、呉須赤絵鉢、交趾焼など和漢の名品36品について書かれています。

鑑定秘訣 美術類集
(上巻)
  陶器之事

一 石焼染付并二赤絵 肥前伊万里
一 土焼赤絵 加賀九谷焼
一 ヒビ焼之一種 薩摩焼

  和漢陶器参考雑種之部
一 雲鶴茶碗
一 黄天目茶碗
一 人形手青磁茶盌
一 乾山 茶盌
一 珠光青磁茶盌
一 黄瀬尾葵紋茶盌
一 宋胡禄柿香合
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・

(下巻)
  古銅之事
花瓶之部
一 古銅花瓶之形
一 青銅
一 古銅花瓶中古之形
・・・・・・・・
 古鏡之部
一 古鏡 裏模様説明
・・・・・・・・
・・・・・・・・
 鰐口之部
・・・・・・・・
 鈴の部
・・・・・・・・
 銅像之部
・・・・・・・・
・・・・・・・・
 和漢古代之木彫及蝋石彫刻の部
・・・・・・・・
・・・・・・・・

そのうちの一部、呉須赤絵鉢と祥瑞皿の部分は以下です。

せっかくですので、伊万里焼についての記述を載せておきます。   

 染付并二赤絵 時代鑑定之模範
   肥前伊万里
一 爰に顕すところの咄しハ肥前の伊万里焼にして人のよく知る焼物の
名所なれども此の土地に焼きしものハ何れも染付又ハ赤絵の錦手を出
すと云を知るに止まるのミ故に古伊万里の地薬及高臺又絲底の工
合を図して其製造の二三を左にしるしぬ
  最初造りたるもの皿鉢共に
  此の高臺の形なるべし

      甲
此の分地質(きじ)薄くして薬厚し

     乙
此の分地質(きじ)厚くして薬薄し

        順次底の形を変じて
        此の様を切るに至れり

           丙
此分地質薬ともに厚し

此ハ萬歴にある形に如何にも紛らハしき所あれとも
萬歴にハ天王日月の如き模様あり此ハ外に西遊
         記の模様あり中の見込にハ
            古代の龍を画がけり
この形ハ
(丙)の図
なるもの
同時位
に出来
たるものなり
呉須色薄し赤色
中分青黄えんじ
金とも施しあり
          菊形のものハ
     深鉢とも(丙)の
     図より時代遅
     れのものなり
          呉須色ハ上の品
     より濃し赤も
          又同し
                         此の形しハ菊形
                           より今少し新し
              きものにて菊形
                           と同しく呉須色
              濃くして赤も色の
              極めて深きものなり

一染付とハ素焼をしたるものへ呉須にて模様を画書きて上ハ薬を掛るも
のなり呉須ハ尤種類の多きものにて所々山より掘採もあり石を割り
て中より取出すもあるものになるが伊万里焼ハ元山に呉須出てたると
のことなり左もありなん古伊万里なるものの染付色を見るに藍色さ
へず幾分黒ずミたるを見れハ地呉須用ひたるものに相違なしと察
するところなり是が若し唐呉須をつかひしものなれバ藍色さへて薄
く奇麗に見ゆるものなり中古のものに至りてハ藍色薄くほんのりと
してさへたるものあり此等ハ地呉須に唐呉須を割りたるものと云の
説あり
一上薬元山より掘取たる石を製して掛けたるもの故薬ハ柔和に見得て
厚くかゝれるものなり中古に到りて上薬へ天艸を交たる薬りを掛る
により自然薬ハ薄くなりて品位を乏くする所あり此を趣き少なくな

ると云ふ意にして俗に流れるを憂ひ其後に到り又薬を厚くしたるも
のなり
最初の薬ハ極めて色さへず
厚くして柔らかなり中右ハ
色さへて薬薄く其後に至り
て薬の色又もとに復すれども
売刷りの肌何となく縮める心持
あり此頃に至りて呉須色さ
へず薄黒く見得る藍色とな
りたるハ地呉須のミを用る
ことになりたるものと見るべし

            此の形ある平鉢ハ中古の内最新のものなり明末に
      此形のものあるにより形のミ模したるものと知るべし

      此の形なるものハ
      八角形よりも今
      少し新しきものなり

一赤絵ハ其絵の具の赤き者を称して単に赤と云ひ緑青色のもの
を青と云ひ倣らハせたるものにして赤なるものハ紅柄及唐の土又白玉
とて所謂「ガラス粉種類のものなり其他日の岡なと云ふ石粉を入れ此
を乳鉢に入れて数カ月擦りたるものなり聞所によれバ古伊万里に施
しある赤い艶なくして薬の薄きと色のさへぬハ其頃白玉粉の上質に
乏しきが為多分にハ加へざるものなるやと云説あり中古に至りて稍
艶あるものを焼出せり其後ハ赤なるもの薬厚となり其敷ハ高く盛上
れたるものあるハ此尤白玉粉を充分に加へたるものと知るべし
青薬ハ尤白玉粉を多量に入たるものと云ことにて盛上りて就中艶あ
り古伊万里の青薬ハ真の艸葉色なり中頃のものハ萌黄又ハ鸚鵡緑り
なる色あり其後の色にも種々に変したることあれども色あい鄙して
真の青色なるもの多し

黄薬ハ唐の土配合に黄色を見せたるものと云ことにて青薬より比
較してハ艶聊少なく盛上りもまた此に随がへり色合も何となくさへず趣
あり中古ハ唐白目の配合と云ことにて色もさへ艶もありて如何にも奇
〇になりたるハ次第に趣を失ふもとなり故に其後ハ一層甚しきもの
のミ多し
燕児薬ハ金の配合にて其色を見せたるものとあり極めて古き所ハ桃
色なり中古のものハ聊紫色を帯び其後ハ色野鄙にして紫に近きもの
なり
金ハ摺り金の合せ金とて古き品より近世のものに至る迄同様に見得
るものなれども古き物ハ金色濃し中古より次第に色薄となり白光
するものあり
染付錦手の時代ハ絵の具により見るの外なし
染付模様型費によりて時代を見るハ否なり古き品に西遊記の模様あれ
ハ中古にも其模様を寫して画がくことあり中古に花籠手又ハ散桜な
るものあれバ最新の物に其寫しあるを見しにより染付模様によりて
目利するものにあらず一に薬の地合二絵の具の色と艶とによるの
外なきものと知るべし

 

 

コメント (9)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする