ブロッコリーと医療保険

2012-04-08 11:41:07 | 日常

4月5日東京新聞(朝刊)に掲載された 本音のコラム
自由の呪縛 竹田茂夫(法政大学教授)
 先週の連邦最高裁の口頭弁論は、全米の耳目を集めた。二年前に成立した現政権
の目玉の医療改革法(オバマ・ケア)をめぐる裁判だ。
 米国では貧困層などの無保険者が全国民の七分の一、約四千七百万人に上る。
その救済のためには公的医療保険制度が望ましいが、強大な政治力を持つ民間保険
業界に妥協せざるをえない。
 病歴の有無で保険加入を差別しないという条件と引き換えに、オバマ政権は
全国民に対し、いずれかの民間保険への加入を義務づけた(個人強制保険)。
これは経済学の初歩で教えるように、加入義務がなければ、医療保険に入ろうと
する者は高齢者や病弱な者などに限られ、保険そのものが成立しないからだ。
 ところが、最高裁の半数を占める(超)保守派判事の目には個人への強制は
憲法違反にみえる。特定の私的財の購入を国民が命令されるのは「自由」に
反するというわけだ。ある著名判事は個人強制を「ブロッコリーの購入強制」
という不条理に例えて、オバマ・ケア全体を葬ろうとする。
 裁判の丁々発止のやりとりは多層の意味合いを含むが、米国保守派の本音が
垣間見える。いわば、生病老死の自己責任論であり、福祉とは連帯ではなく、
他人のカネにたかるただ乗りと考えるのだ。オバマ・ケアを挟撃する保守派と
公的保険推進の進歩派の溝は深い。(コラム終了)

 
医療保険をブロッコリーに例えたのは、アントニン・スカリア判事です。
ポール・クルーグマンはニューヨークタイムズのコラムで以下のように
反論していますが、保守派の考えを変えることはできないように思います。

Broccoli and Bad Faith
By PAUL KRUGMAN March 29, 2012

Let’s start with the already famous exchange in which Justice Antonin Scalia
compared the purchase of health insurance to the purchase of broccoli, with 
the implication that if the government can compel you to do the former, it can 
also compel you to do the latter. That comparison horrified health care experts 
all across America because health insurance is nothing like broccoli.

アントニン・スカリア判事が、ブロッコリーの購入を医療保険の購入に例えた有名な
やりとりから始めましょう。政府が医療保険の購入を強制できるなら、ブロッコリーの
購入も強制できるとにおわせているのだが、その例えは、全米の医療専門家をあきれ
させた。なぜなら医療保険はブロッコリーとは全く別物だからだ。

Why? When people choose not to buy broccoli, they don’t make broccoli
unavailable to those who want it. But when people don’t buy health insurance
until they get sick — which is what happens in the absence of a mandate —
the resulting worsening of the risk pool makes insurance more expensive, and
often unaffordable, for those who remain. As a result, unregulated health
insurance basically doesn’t work, and never has.

なぜって?人々がブロッコリーを買わないという選択をしても、それを欲しがる人に手に
入らないという事態は起らない。しかし人々が病気になるまで医療保険を買わなければ
(強制されない場合に起ることだが、リスクプールが悪化し、そこにとどまる人に)
保険は一層高額になり、そして多くの場合、買えなくなってしまうのだ。
結果的に、規制をされない医療保険は、根本的にうまくいかないし、うまくいった
こともない。


ブロッコリー アントニン・スカリア判事


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