ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

昭和伊南総合病院 産婦人科常勤医ゼロに

2007年07月11日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

長野県・上伊那医療圏の中核病院の一つである昭和伊南総合病院・産婦人科の常勤医が、来年4月以降はいなくなってしまう見通しであることが公表されました。同時に、この秋以降、同病院の整形外科の常勤医が1人だけになってしまうので、整形外科的な救急対応が難しくなる見込みであること、小児科の存続が厳しい状況にあること、なども公表されました。昭和伊南総合病院と伊那中央病院の代表者らが集まって、今後のこの地域の医療体制をどうするのか?についての話し合いが始まったとのことです。

地元新聞を読むと、昭和伊南総合病院で産婦人科の常勤医がいなくなった後に、病院にとり残されてしまった助産師達による『院内助産所』の設置も検討されているとの記事がありました。

しかしながら、産婦人科の常勤医不在の病院での『院内助産所』では、緊急時の医学的対応が病院内では全くできなくなるので、分娩経過中に何か少しでも異常が発生するたびに、他の病院に緊急母体搬送しなければならないことになってしまい、その助産所が病院の中に存在する意義が全くありません。

『地域の貴重な人的医療資源を有効に活用する』という観点から言えば、今後、近隣の病院での分娩件数が激増することも十分に予想されますので、できることならば、昭和伊南総合病院の助産師の方々に近隣の病院に移籍していただき、今まで同様に大活躍していただく方が、地域全体から見れば、より意義深いのではないか?とも思われます。今後、関係者間で十分に話し合っていく必要があると思われます。

いずれにせよ、この問題は一つの医療圏内の話し合いだけでは簡単に解決できそうにありません。従来の医療圏の枠にこだわらず、長期的な視野に立って、今後の対応を考えていく必要があると思います。

参考:長野県・上伊那地域の産科医療の状況

産科・小児科の重点配置を提言 (長野県産科・小児科医療対策検討会)

****** 信濃毎日新聞、2007年7月10日

昭和伊南病院 産婦人科常勤医ゼロに

 来年4月 院内助産所を検討

 昭和伊南総合病院(駒ヶ根市)は9日、信大から派遣されている産婦人科の常勤医2人が来年4月に引き揚げられていなくなる見通しを明らかにした。緊急処置として来年4月以降、院内に助産所を設置、自然分娩(ぶんべん)は助産師資格を持つ院内の看護師が担当し、帝王切開などの場合は伊那中央病院(伊那市)の医師に依頼する方向で検討を始めたという。

 整形外科、秋から1人

 また、常勤医3人の整形外科は8月に2人、9月に1人に減る見込みを示した。整形外科の治療が必要な救急患者の受け入れは、命に別状がない限り伊那中央病院や飯田市立病院(飯田市)に依頼する考えも示した。

 昭和伊南総合病院の説明に対し、伊那中央病院事務部は「現状のままでは産婦人科、整形外科とも人員や施設に余裕がなく(受け入れは)厳しい」。飯田市立病院事務局は「状況を見て受け入れるかどうか判断することになる」としている。

 昭和伊南総合病院の千葉茂俊院長が、同日開かれた伊南行政組合議会全員協議会で説明。「少ない医療人員を最大限に生かして窮地を乗り切りたい」と理解を求めた。来年4月以降、臨時(パート)の産婦人科医を確保することを検討しているが、地域に腰を据えた医師でなければ抜本的対策にならないとみている。

 同病院産婦人科のお産の扱い件数は年間約500件。院内助産所を設置しても100~150件しか取り扱えないといい、千葉院長は「ほかの対応策も考える必要がある」と指摘。他地域では里帰り出産の受け入れを制限している病院もあるとした。

 昭和伊南総合病院は今後、伊那中央病院とつくる検討組織で協議を進める方針だ。

(信濃毎日新聞、2007年7月10日)

****** 長野日報、2007年7月10日

昭和伊南総合病院 診療体制一部見直し

 伊南行政組合議会全員協議会は9日開き、同組合が運営し、医師不足に悩む昭和伊南総合病院(駒ケ根市)の今後の診療体制について、理事者や病院関係者が説明した。開業による勤務医の離職が相次ぐ整形外科は、現在3人の常勤医が9月から常勤1人臨時1人となるが、手術、入院、救急いずれも対応していく。県の方針による連携強化病院の医師集約で、来年4月から産科は臨時1人となる見通しで、院内産院の設置を検討していく。

 整形外科は外来も入院可能だが、常勤医が2人になる8月から複雑な手術を必要とするケースや、長期入院が必要な患者は他院を紹介することで対応する。千葉茂俊院長は、「複雑骨折など整形の重傷な救急はそれほど多くない」と述べ、従来の24時間、全員体制での救急受け入れは存続させ、重傷者は救急隊の判断で転院搬送する―とした。

 産科はこれまで医師2人で年間平均500例の出産を扱ってきた。千葉院長は、自然分娩(ぶんべん)が可能なケースを対象に、助産師による院内産院の設置を検討していることを説明。「伊那中央病院のバックアップ、助産師のモチベーションにもよるが、その場合年間、100例から150例を扱えるのではないか」と述べた。

 中原正純組合長は、南部医師会を通じ、開業医に日直協力してもらっていること、6月に県と信大医学部に要望を行ったことなどを報告。「『伊那中央・昭和伊南病院―病々連携による医療を守る対策委員会』(仮称)をつくり、両院長が中心になって地域医療を守るための取り組みを進めている」と述べ、住民の不安を和らげるために最大の努力をする―とした。

 福沢利彦事務長は、今年4月から3人いた小児科医師が2人になったが、現状維持に向け努力する―とした。

 議会側からは、昭和伊南と伊那中央の救急体制の違いは調整できるのかや、今回の措置が恒常的なものかなどの質問が出た。中原組合長は「今回の措置は緊急避難的なもの」と述べた上で、将来的には伊那中央と昭和伊南が特徴を生かしながら存続していく方法を探るしかない―とした。

(長野日報、2007年7月10日)

****** 伊那毎日新聞、2007年7月10日

昭和伊南病院が今後の動向説明

 整形外科、産婦人科、小児科の存続を心配する声が住民から上がっていることを受けて昭和伊南総合病院(千葉茂俊院長)と病院を運営する伊南行政組合(組合長・中原正純駒ケ根市長)は9日、駒ケ根市役所で開いた伊南行政組合議会全員協議会で病院の当面の動向と対応について説明し、伊那中央病院などと協力、連携して上伊那の地域医療を守るために全力で取り組んでいきたい―とする方針を示して理解と協力を求めた。

 同病院では整形外科の常勤医師がこれまで4人体制だったのに対して、新規開業や派遣元の信州大の異動で他病院に移るなどの理由で3人の医師が6月から相次いで減少。8月末には1人となる。これにより複雑な手術や長期入院が困難になることから、患者をほかの病院に紹介したり、重傷の救急搬送患者は伊那中央、飯田市立の各病院に受け入れてもらわざるを得ない状況となる。

 産婦人科は、常勤医師2人を派遣している信州大が08年3月での引き揚げを決めたことで以降の常勤医師はゼロとなる見込み。当面は臨時(パート)の医師でしのぐ考えだ。引き揚げは信州大でも深刻化が進む医師の絶対数不足からやむを得ない措置として決定され、通告を受けたもの。

 小児科は3人体制だった医師が今年4月から2人となっているが、引き続き現状維持に努めたいとしている。

 日直についても医師数の不足により5月以降、近隣の開業医の協力を得て何とか遣り繰りしている。

 中原組合長は「この状態では地域医療は守れない。経営的なことも含め、将来は上伊那広域で、場合によっては飯田との連携も視野に入れながらやっていくべきだ」として、広域連携の必要性を強調した。

(伊那毎日新聞、2007年7月10日)

****** 中日新聞、2007年7月10日

重傷者 他院搬送へ 

昭和伊南総合病院 院内産院設置も検討

 伊南行政組合は9日、組合が運営する昭和伊南総合病院(駒ヶ根市)の整形外科が医師不足に陥る8月以降、骨折など危険度の低い重傷者は近隣の伊那中央病院(伊那市)と飯田市立病院(飯田市)の両病院へ救急搬送する方針を明らかにした。

 組合によると整形外科の常勤医は7月末で開業のため1人が辞め、8月末には信大から派遣されていた医師1人も他の病院へ異動するため、9月から1人体制になる。

 外来は臨時医師1人を新たに雇うことで1診または2診を維持するが、8月以降は複雑な手術や長期入院を要する患者は伊那中央か飯田市立に紹介する。救急患者の受け入れも24時間体制で行うが、脳や心臓などの緊急手術を要する急患を除き、整形外科の重傷者は両病院へ搬送する。

 産婦人科の常勤医2人も来年3月末で信大が引き揚げるため、4月以降は伊那中央と連携してお産に対応する。助産師の資格を持つ看護師が代わりにお産を扱う「院内産院」の設置が可能か、信大とも今後検討する。

 これらの課題を協議するため伊那中央や信大、県衛生部の関係者を含めた対策委員会を6月下旬に設置した。組合長の中原正純駒ヶ根市長は「上伊那の医療を守るため、病院のすみ分けや機能特化のあり方も考えなくてはいけない」と話した。【平井剛】

(2007年7月10日)

****** 信濃毎日新聞、2007年7月11日

昭和伊南病院・医師不足で 市民有志の会発足 実情説明求め要望書提出へ

 伊南4市町村の市民有志による「昭和伊南総合病院の充実を進める会」が9日、発足した。4市町村の共産党議員が中心で「住民と一緒に考えたい」としている。病院側に医師不足の実情など詳しく説明を求め、要望を提出するなどしていく方針。

 JR駒ヶ根駅前ビル「アルパ」で開いた会合で、同党所属の伊南行政組合議員が、同日の全員協議会で病院側から「来年4月に産婦人科の常勤医がいなくなる」「整形外科は9月に常勤1人に減る」と説明があったことを報告。出席者から「地域の人が病院を頼れなくなってしまう」との意見が相次いだ。重症患者を24時間体制で受け入れている救命救急センターについても「きちんと機能するのか」と心配する声があった。

(信濃毎日新聞、2007年7月11日)

****** 中日新聞、2007年7月11日

行政と情報の共有を 昭和伊南総合病院医師不足問題 住民が考える会

 医師不足などの問題を抱えた昭和伊南総合病院の今後を考える「昭和伊南総合病院の充実を進める会」が9日夜、駒ヶ根市内で発足した。

 前県議の林奉文代表が中心となって呼び掛け、伊南地域の住民25人が出席した。

 同病院は整形外科の医師不足で8月から一部の重傷者を他の病院へ救急搬送することを決め、産婦人科では来年3月末に常勤医2人が退職して、お産が扱えない恐れが出てきている。

 会では病院を運営する伊南行政組合に医師の確保やお産、救命救急の維持を要請し、病院の現状や医師の実態などを住民に広く公開するように求めていく。

 林代表は「住民にとっても深刻な問題であり、行政任せにせず、情報を共有し一緒に考えていく必要がある」と述べた。【平井剛】

(中日新聞、2007年7月11日