ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

この難局に地域としていかに対応していくか?

2007年07月19日 | 地域医療

地方の病院で医師確保がだんだん難しくなってきて、医師不足により存亡の危機に直面している地域中核病院も少なくありません。

しかし、『増大する医療費の抑制を図る』という名目で、『病床数の適正化、すなわち病院の数を現在の半分にまで減少させる』という政策を厚生労働省が掲げている以上、『今後、相当数の病院が姿を消していく!』のが、国の規定方針と考えられます。

従って、この難局に対して、個々の病院、自治体だけで個別に対応していこうとしても、今後の見通しは非常に厳しいと思います。

従来の医療圏の枠にはこだわらず、長期的な視野に立って、地域全体で今後いかに対応していくのか?を検討する必要があると思います。

**** 医療タイムス、長野、2007年7月12日

産婦人科、整形外科の維持が困難に 
~昭和伊南、助産所やお産制限も検討

 常勤医の相次ぐ退職や信大からの派遣医の引き揚げなどを受け、昭和伊南総合病院(千葉茂俊院長)がその対応に追われている。産婦人科では、信大が来年3月末に医師2人を引き揚げる予定で、整形外科では現在4人いる常勤医が退職などによって8月末までに1人に減少する。同院は、「伊那中央病院などの近隣病院や地元医師会などに協力を要請し、現在の医療体制を維持できるように努めていきたい」としている。

 年間500件のお産を取り扱っている産婦人科は、院内助産所の設置や里帰り出産の制限、医師確保などを視野に、現在の分娩件数を維持していく方向で検討している。帝王切開などの外科的処置が必要な患者の対応については、伊那中央病院と今後さらに協議を重ねていく方針だ。ただ、伊那中央病院でも産科医が不足していることから、同院では地域内における産科医療体制の再編案がまとまった時点で、信大や関係機関に再び協力を要請していくとしている。

 また、整形外科に関しては外来患者のみの受け入れを軸に、入院や複雑な手術が必要な患者は伊那中央や飯田市立などの近隣病院に受け入れを要請していく考え。一方、小児科は現在常勤2人体制となっているので、医師数が減少しないよう病院として現状維持に努めていく。

 同院の福澤利彦事務長は「地域医療体制を維持していくためにも、さまざまな方法を検討していきたい」としている。

■日曜日の1次救急患者を開業医が診察

 医師数の減少に伴い、同院では5月から同院の救命救急センターで日曜日に受け入れる1次救急患者の処置を開業医に委託している。協力しているのは上伊那医師会南部地区の開業医8人で、原則1人が希望した日に勤務している。

 同院が日曜日に受け入れる1次救急患者は約20~30人。担当した開業医は午前8時~午後5時までセンターに常駐し、専門外の患者が来院した場合には、オンコールで該当する診療科の勤務医が駆けつけるシステムになっている。

 同院では、「開業医の戦士方の協力で勤務医の負担が大幅に軽減できている」としている。

(医療タイムス、長野、2007年7月12日)

****** 伊那毎日新聞、2007年7月13日

全員協議会で千葉院長らが説明 飯島町議会

 駒ケ根市の昭和伊南総合病院の深刻化する医師不足を受け12日、飯島町議会は議会全員協議会を開き、昭和伊南総合病院の千葉院長、福沢事務長らを招き、病院の現況と当面の対応について説明を受けた。

 説明では整形外科の常勤医4人が新規開業や派遣元の信州大学の異動で、8月末には1人になる。産婦人科は常勤医2人が来年3月で信大に引き揚げになるため、以降は常勤医師がゼロになる見込み。

 対策として、伊那中央病院、飯田市立病院などと協力、連携するとともに、日直は近隣の開業医の協力を得て、なんとかやりくりしていく-とした。

 これを受けた質疑で、議員からは「医師の絶対数が不足しているのか」「まずは近所の開業医を受診するなど、1次医療と2次医療のすみわけ意識が必要では」「院内産院への取り組みは」など質問や意見が出された。

 また、「一部住民が不安を煽るような会議が持たれている。医師不足は全国的なこと、昭和伊南病院だけの問題ではない。誤解を受けるような言動は慎もう」と言った意見もあり、町議会として、町広報や議会報を通じて、町民に正しい情報を伝える。勤務医の負担軽減に向け、1次医療と2次医療のすみわけを呼び掛ける-などを確認した。

(伊那毎日新聞、2007年7月13日)

****** 長野医報、2007年7月1日

地域医療崩壊への道か?
    ~医師不足の現状~

昭和伊南総合病院 院長 千葉茂俊

 当院に限らず、地方の中小都市の公立・公的病院の勤務医不足が加速している。それは、新臨床研修制度の開始された3年前から始まった。そして、年毎に顕著になってきているし、極端な地域格差となって現れている。最近の医療の混迷振りを、マスコミは、「医療崩壊」と呼んでいるが、その要因の多くが地方の病院の医師不足による。東北、北海道地域では、既に報道されている通りである。

 地方の各病院は、これまで基本的に大学医局からの医師派遣に頼っていたために、医師の大学への引き揚げで、もろに影響を受けたのである。これは、新制度によって、大学の医局への入局者が極端に減少したせいもあるが、従来の医局制度が機能しなくなったことが大きい。

 というのも、「医局の決定により、各地域に行き渡るように医師を供給する態勢」が壊れてしまったからである。すなわち、大学在籍の医師数が減り、大学の各講座は、地方病院から医師を引き揚げざるを得なくなったのである。そして、そのターゲットは、まず小都市の病院となった。

 この他に、勤務医不足に拍車をかけている要因は、主に、①過重労働、②診療所開業による病院辞職、および③より良い病院(条件の良い病院)を求めての転院、等である。

 まず①であるが、勤務医の過重労働は日常化している。地方の基幹病院としての役割を果たすために、医師は、通常の診療のほかに、ウィークデーの当直、祝土日の日直が割り当てられている。それに加えて、緊急時には、当然ながら専門範囲の診療や手術が入る。もちろん、年中365日予定の立つ時間などには全く関係なしにである。

 医師不足になるもう一つの大きな要因は、②の勤務医の診療所開業のための辞職が大きい。これは、日常化している過重労働に疲弊した結果ということもできる。また、無理の出来ない年齢に達したことを実感してのこともある。元気な医師であっても、いずれ加齢の影響は免れない。マスコミでは、無責任な表現で「燃え尽き症候群」とか、あまり感心しない言葉、「立ち去り型サボタージュ」とか、様々な表現がなされている。

 しかし、考えるまでもなく、自分の全人生をかけ、全て投げ打って医療に打ち込めというのは、本来無理である。家庭が成り立たなくなったり、人間的な生活が出来なくなっても、患者のために頑張れと、誰も言うことは出来ない筈である。

 ③は、医師がある程度自由に勤務病院を自分で選べることになった現状では、給料を上げることも、勧誘のひとつかもしれないが、私は、③がそれ以上の条件だと思っている。特に、地元出身でない者の多い医師側からすれば、魅力のない病院や地方に来る必然性はないのである。

 快適な職場での勤務は、働く者の誰もが望んでいる。すなわち、施設が適切かどうか、新しい基準に準じた環境か、医師のみならずその家族が生活する環境、住居は適切であるのか、居住する町の学校、文化施設に満足できるのか等、公私を含めて働き生活する環境面がトータルで満足できるのかが、医師誘致には欠かせない。

 云々と記した理由は、大学の医局の権威が低下し、いわゆる民主的となり、若い医師が比較的選択して病院を選べる仕組みになったからである。医師自身が適切と考えなかったり、家族が賛成しなかったりしたら、赴任してくれないことになる。

 大学病院自体が医師不足で悲鳴を上げている現状では、関連病院の医師引き揚げに動くのは、止めることが出来ない流れである。さらに悪いことに、人口の少ない地方病院がより割を食ってしまう。それが、またまた残された医師の負担増につながってゆくという悪循環となっている。

 この状態が長く続き、対策が遅れれば相当の病院が姿を消すことになるだろう。今のところ、厚生労働省自身が、対策を講じることはない筈である。

 というのも、増大する医療費の抑制を図るという名目で、病床数の適正化、すなわち病院の数を現在の半分にまで減少するという政策を掲げているからである。現在の療養病床38万床は、平成24年までに15万床まで減らす方針が決定している。次に、一般病床90万床も、いずれ、50~60万床に減少するだろうと言われているのだから。

 現在、人口の少ない地域の医療崩壊を回避するドラスティックな方策を見出すことは極めて難しい。となると、この難局を乗り切るには、地域の医療人全体の手堅い連携以外に道は残されていないのかもしれない。それには、地域住民が現状を理解し、支える気持ちを示してくれることも大きな要素である。

(長野医報、2007年7月1日)