****** 毎日新聞、岐阜、2007年7月21日
医師不足 広がる地域格差
恵那市内で唯一、分べんを扱っていた「恵那産婦人科」を今年5月、22年間務めてきた1人の産婦人科医が辞めた。
一杉明員(あきかず)医師、60歳。「今夜、自分の身に何かあったら、患者はどうなるのか」。1人で24時間対応しなくてはならない緊張と体力が、還暦を迎えた自分にはなくなっていた。考え抜いた末の結論だった。
1人の産婦人科医が年間に扱う分べん数は100~150件が理想と言われる。一杉医師は平均約450件に及んでいた。一杉医師の退職で、同医院は閉院に追い込まれた。いま恵那市には、分べんできる産婦人科は存在しない。
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土岐市立総合病院は、唯一の常勤医だった産婦人科部長(39)の退職で、今年9月から産婦人科を休診することを決めた。後任が見つかり次第、再開する予定だが、医師確保の見通しは立っていない。飛騨市民病院でも今年4月、常勤医が11人から6人に減り、小児科の常勤医がいなくなった。
医師不足の進展にあせる県は同月、「県地域医療対策協議会」を設立し、医療関係者らとともに医師確保や病院支援などの議論を始めた。だが「国の医療費削減と医師数抑制政策が招いた結果。県や病院ができることはほとんどない」との声が上がる。
医師の卵が研修先を選ぶ「研修医制度」も医療の地域格差を招いた。医学部生は卒業後4年間、研修医として勤務するが、選ぶのは最先端の医療技術を学べる都市部の病院が多い。結果、地方には研修医が来ず、現場の医師の負担が重くなっている。土岐市立総合病院の加藤靖也事務局長は「地方の医師不足の波は止められない。ならば、地方の中核都市に医師を集めて手厚い医療体制を整える方が、医師の負担も減り患者にも充実した医療を提供できるのではないか」と話す。
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一杉医師は今年6月から、中津川市民病院(中津川市)で勤務を始めた。3人の医師が常勤している。「患者に責任ある医療を提供できる。恵那を辞めてよかった」と思うという。
今月、同病院で出産した母親は以前、一杉医師が恵那で取り上げた赤ちゃんだった。「赤ちゃんが母親になるまで、医師としてずっと成長を見守れる。地方医療だからこそ味わえる感動とやりがい」。自分の口から出た言葉と現実とのギャップに、一杉医師はうつむいてしまった。【中村かさね】
(毎日新聞、岐阜、2007年7月21日)