コメント(私見):
へき地勤務枠の医学部卒業生たちの卒後臨床研修はどうなるのでしょうか? このへき地勤務枠という新しい制度で、将来、どのような医師を養成しようとしているのでしょうか?
2年間の初期臨床研修が終了したばかりの若手医師たちをへき地に単独で配属しても、せいぜい、とりあえずの応急処置くらいしかできません。へき地に単独で配属する前に、初期臨床研修に加えて、研修環境が整備されている地域拠点病院で最低でも3年間程度の後期臨床研修を済ませておかないと、現場では全く使い物にならないと思われます。
しかし、現実には、今、地方の地域拠点病院の多くは、大学病院への医師引き揚げにより常勤医数が大幅に減少し、辞めた医師達の補充もできないので、医師不足で非常に困窮している病院が増えています。少ない常勤医達が日常の診療に忙殺され、研修医の指導どころではない病院が少なくないと思われます。
指導体制が不十分な病院に、研修医が多く配属されたとしても、まともな研修ができる筈がありません。もしも、今後、地域拠点病院に多くの研修医を誘導するのであれば、先行して、まず地域拠点病院の常勤医数を大幅に増やし、指導医が研修医の指導に専念できるような研修環境を実現しておく必要があります。
また、診療科によっては、チーム医療が中心となり、医師1人の体制では医療が成立しなくなっている分野も少なくありません。例えば、周産期医療に関して言えば、多数の産婦人科医、小児科医、麻酔科医、助産師などからなる周産期医療チームを結成する必要があり、現在、多くの地域で、拠点病院に産婦人科医や小児科医を集約化して、周産期医療の継続に必要な人員を確保しようとしています。もしも、産婦人科専門医をめざして育成中の若手医師までも、一律に、拠点病院からへき地に派遣するのを義務化したら、今後、多くの地域で周産期医療の継続が困難となってしまうかもしれません。診療科ごとの柔軟な対応が必要になると思われます。
****** 朝日新聞、2007年8月6日
医学部定員にへき地勤務枠を新設へ 都道府県に最大5人
政府は医師不足対策として、都道府県ごとに、大学医学部の入学定員を最大5人程度増やすことを認める方針を固めた。定員増加枠の学生には都道府県が奨学金を支給し、代わりに学生は、卒業後最低9年間、都道府県が指示するへき地の病院などでの勤務を約束する。早い都道府県では来春の入試から増加枠を設ける可能性がある。
政府は昨年8月、人口や面積あたりの医師数が少ない10県と自治医科大学(栃木県)について、08年度から10人までの定員増を認めた。現在、11大学が計110人の定員増を文部科学省に申請している。地元への定着が条件だが、卒業後の勤務先までは拘束しないため地方の中核都市に医師が集中し、へき地の医師不足は解消されないとの指摘が出ていた。
今回新設する増加枠で入学する学生については、卒業後2年間の臨床研修期間を含む9年間、都道府県が指示する医療機関で勤務してもらう。医師不足が深刻な産婦人科や小児科など、都道府県が求める診療科の医師になれば、勤務先までは指定しない措置の導入も検討している。
増加枠を何人にするかは各都道府県が決め、一般の定員枠とは別に入試を行う。推薦、筆記など入試方法は各都道府県に委ねるが、将来にわたって地域医療を担う意欲をみるため面接試験は必須とする考えだ。
増加枠の学生には入学金と授業料分の奨学金を支給する。学業に必要な生活費分も上乗せする方向だ。卒業後、約束通りに勤務すれば返済を免除し、従わない場合は奨学金の全額返済を求める。
自治医大は、各都道府県から毎年2~3人ずつ学生を受け入れている。学生は、都道府県から奨学金を受ける代わりに、卒業後9年間は勤務先が拘束される。今回の取り組みは「各県自治医大構想」(厚生労働省幹部)ともいえる。
今回の増員枠と自治医大の卒業生を合わせると、各都道府県は毎年最大で7~8人程度、へき地などに医師を計画的に派遣できるようになる。ただ、来春以降に入学する学生が卒業するまでに6年かかるため、今の医師不足がすぐに改善されるわけではない。
07年入学の全国の医学部総定員は約7600人。総定員は70年代の医大新設で急増し、80年代前半は8000人を超えていたが、その後は医師数が過剰になるとの判断から抑えられてきた。政府は昨年に続く定員増を「臨時的な措置」としているが、医師不足の深刻化を踏まえ、定員抑制策の転換を求める声も出ている。
(朝日新聞、2007年8月6日)