コメント(私見):
ここのところ、地域の周産期医療を支えてきた基幹病院でも、分娩取り扱い業務を縮小ないし中止するという報道が相次いでいます。
基幹施設の産科では、24時間体制で緊急事態に対応しなければならないので、産科医、新生児科医、麻酔科医、助産師など、非常に多くのマンパワーを要します。
いくら地域からの要請があっても、いったん産科スタッフが立ち去ってしまった基幹病院で、産科スタッフをまた一から集めなおして、分娩取り扱い業務を再開するというのは、本当に至難の業だと思われます。
今現在、辞めないで、病院に踏み留まっているスタッフが、今後も、無理なく楽しく働き続けられるように、全体の仕事量を調節し、激務になり過ぎないよう、十分に気を配っていく必要があります。
*** 医療タイムス、長野、2007年8月8日
9月以降の出産受け入れを中止
松本病院 信大に産科常勤医の派遣を要請
国立病院機構松本病院(米山威久院長)は、9月からの出産受け入れを休止する。今月末で産婦人科の常勤医1人が退職し、常勤医が1人となってしまうためで、9月以降の産婦人科の診療は外来のみとなる。同院は、出産の受け入れを早期に再開したいとしており、信大医学部に常勤医の派遣を強く要望していく方針だ。
同院の産科は、05年度に3人いた常勤医が06年度には2人に減少するなど、産科常勤医の減少が深刻化。これに伴い、分娩件数も05年度の472件から06年度は316件と大幅に減り、産科医療体制の維持が困難になっていた。このため、患者に対しては6月ごろから出産受け入れの中止を周知し、近隣の産科医療機関を紹介するなど、理解を求めていた。
今回の措置について、同院の植田正孝事務部長は「当院にはこれまで松本市南部から塩尻市にかけてのお産患者を中心に受け入れ、地域の産科医療を支えてきたという自負があった。しかし、常勤医が1人体制になってしまうと安全なお産を実施できない恐れがあるため、やむを得ず産科の休止を決めた」としている。また、常勤医の確保については「信大医学部から派遣してもらえるよう、要請を続けていく」(同)としている。
(医療タイムス、長野、2007年8月8日)
****** 毎日新聞、岩手、2007年8月14日
県立病院:胆沢での出産不能に
釜石は高リスク分娩移転
県医療局は13日、県立胆沢病院産婦人科の分娩や手術の機能を県立北上病院に移転すると正式発表した。婦人科外来や妊婦検診は継続するが、胆沢病院での出産はできなくなる。また県立釜石病院の産婦人科も、帝王切開などリスクが高い分娩の機能を県立大船渡病院に移し、婦人科外来や妊婦検診と、健康な妊婦の通常分娩のみを取り扱う体制に縮小する。
県立病院の産婦人科の常勤医師は現在、二戸1▽久慈1▽中央5▽宮古3▽北上2▽胆沢1▽釜石2▽大船渡2▽磐井4――の9病院21人。このうち今月中に釜石病院から大船渡病院に、胆沢病院から北上病院に医師を移す。釜石病院には大船渡病院から医師1人を常駐派遣し分娩に対応。また助産師による「院内助産」の導入も検討中だ。
一方で県北・沿岸地域の拠点となる県立二戸病院、県立久慈病院では医師が確保できず、引き続き1人産科医体制を続ける。常勤産科医が3人以上となるのは、中央▽宮古▽北上▽大船渡▽磐井――の5病院。
過酷な勤務環境などを背景に、県内の産婦人科医は00年の115人から04年は89人に減少。同局の根子忠美経営改革監は「過労でさらに産科医が辞める可能性もある。あくまでも緊急措置だ」と話している。【念佛明奈】
◇運動実らず残念--相原奥州市長
相原正明・奥州市長は「胆沢病院の産科存続に向け力を合わせ運動してきたが極めて残念な結果だ。根底の医師不足は国家・政府が解決しなければならない問題だが、住民の不安解消のため医師の再配置を知事などに強く要望する」と話した。【石川宏】
(毎日新聞、2007年8月14日)
****** 河北新報、2007年8月14日
産科医7病院に集約 岩手県
釜石、胆沢は常勤ゼロに
岩手県医療局は13日、今月中に県立病院の産婦人科医を7病院に集約する拠点化を進めると発表した。常勤医を3人以上とし、医師不足に対応するのが狙い。集約に伴い釜石、胆沢の2病院は常勤医がゼロになる。拠点に位置付けられた県北の二戸、久慈の2病院は依然、1人しか常勤医を確保できておらず、安心して出産できる体制には遠いのが現状だ。
拠点病院となるのは二戸、久慈、中央(盛岡市)、宮古、北上、大船渡、磐井(一関市)。県内を7地区に分け、県内ほぼ全域から1時間で患者を搬送できるように設定した。
常勤医は5人の中央、4人の磐井、3人の宮古は現行のまま。大船渡は釜石から2人が移って4人に、北上は胆沢から1人が移って3人となる。
常勤医がいなくなる釜石については、大船渡から1人を毎日派遣し、婦人科外来と妊婦健診に当たる。分べんはリスクの低いケースだけで、早産や妊娠中毒症などリスクの高い出産は行わない。
胆沢は分べんは行わず、北上、磐井の常勤医と奥州市内の開業医が平日のみ、外来診療や妊婦健診に交代で当たる。
胆沢では6月末、3人いた常勤医のうち1人が退職、もう1人が休職。深刻化する産科医不足に対応するため、県は県立病院の集約化を検討していた。
一方で、常勤医が不在となる2病院は昨年、500件前後の分べんを実施。このうち約35%がリスクの高いケースで、今回の集約化によって、多くの妊産婦が不便を強いられる。県医療局病院改革室は「引き続き医師確保に努め、状況に応じて体制を見直すとともに、1人体制が続く久慈、二戸の常勤医増も目指したい」と話している。
(河北新報、2007年8月14日)
****** 北海道新聞、2007年8月11日
天使病院 産婦人科医全員が退職へ
来月末 「周産期医療、困難」
産婦人科医の集団退職が明らかになった札幌市東区の天使病院(杉原平樹(つねき)院長、二百六十床)で、診療科長を含む産婦人科医全員の六人が、九月末までに離職することが十日分かった。同病院は年間約八百件の出産を扱うほか、道内に二十五施設ある地域周産期母子医療センターに指定されており、道央全域の産婦人科医療への影響は避けられない。
現在、医療法人社団カレスアライアンス(室蘭)が経営する同病院は十月、同じカレスグループの特定医療法人社団カレスサッポロ(札幌)への移管が予定されている。院内では移管に反対していた産婦人科医の前院長が八月下旬で退職し、診療科長を含む三人も「経営内容の不透明な新法人による再雇用を望まない」と病院側に伝え、九月末の離職を決めていた。
さらに、残る二人の若手医師も十日までに、「中核となるベテラン医師が不在のまま、高リスクの周産期医療は続けられない」と、同じく九月末で離職する意思を杉原院長に伝えた。
医療法人の関係者によると、同病院は新たな産婦人科医の確保を始めているが、全国的に産婦人科医が不足する現状で、新たに六人の雇用は難しい見通し。杉原院長は「(リスクの高い妊婦を診療する)母体搬送の受け入れは難しく、診療体制の縮小は避けられない」とした上で、「今後も医師確保に向けて努力を続ける」と話している。
周産期医療 妊娠後期から生後約一週間を指す「周産期」の母体と胎児・新生児を対象にした、産科と小児科の2科による総合的な医療体制。特に出産時の新生児仮死や低体重児出産など、母子の生命にかかわる緊急事態に備える。
(北海道新聞、2007年8月11日)
****** 北海道新聞、2007年8月11日
“出産難民”出る可能性
産科医全員退職する天使病院
産婦人科医六人全員が九月末までに退職することが十日明らかになった札幌市東区の天使病院は、地域周産期母子医療センターとして、早産や重い妊娠中毒症など高いリスクの出産を道央全域から受け入れてきた。高リスク出産に対応できる他の医療機関は満床状態が続いており、同病院が後任医師を確保できずに産科の診療体制を縮小すれば、産む場所の見つからない「出産難民」が出る可能性もある。
「天使病院が高リスク出産の受け入れをやめたら本当に困る。今でも受け入れ先を探すのはひと苦労なのに」。同市白石区で産婦人科医院を開業する小泉基生医師は影響を予測する。天使病院では、高リスクの妊婦が別の医療機関から運び込まれる「母体搬送」だけで年間七十件を数え、道央圏では市立札幌病院の同百四十件に次ぐ多さだ。
高齢出産の増加などで増えている高リスク出産には、新生児集中治療施設(NICU)を設置し、産科と小児科が連携した二十四時間体制の医療が必要。人手を確保できる医療機関は限られ、道央圏で積極的に受け入れている病院は、北大病院などごくわずか。
一方、母体搬送の受け入れ率は現在でも、市立札幌病院が約75%、天使病院は約50%にとどまり、空きのある病院が見つけてやりくりしている。市立札幌病院の晴山仁志産婦人科部長は「天使病院が高リスク出産の受け入れをやめたら、現場は大混乱する」と危機感を募らせている。
(北海道新聞、2007年8月11日)
****** 産経新聞/山梨、2007年8月9日
都留市立病院 分娩予約 新規を休止
きょうから 派遣医師が不足
都留市の小林義光市長は8日、市立病院の産婦人科で分娩(ぶんべん)予約の受け付けを9日から一時休止することを明らかにした。医師を派遣している山梨大医学部が来年度以降、産婦人科医の減少で派遣が困難と通告してきたと説明した。これに伴い、県東部の公立病院では分娩が不可能な事態となる。ただ、来年3月20日まではすでに予約された分娩は実施するという。
郡内地域で分娩可能な公立病院は富士吉田市立病院、山梨赤十字病院(富士河口湖町)、都留市立病院の3病院のみ。
市によると、山梨大が今年3月、医師不足を理由に来年度からの産婦人科の常勤医師派遣が困難と通告してきたという。大学側は打開策として、郡内地域の複数の病院に派遣する医師を1病院に集約し、診療対応する方針を示している。
さらに、安全性から麻酔科医の常駐を求めている。市立病院では現在、産婦人科の常勤医師が3人で、麻酔科医は13人の非常勤医師が手術の際に交代で務めている。
小林市長は「(都留市立病院では)年間約400件の分娩を扱い、3分の1が大月、上野原市民だ。産婦人科医を富士吉田市立病院などに集約すると県東部では分娩できなくなる」と危機感を抱く。このため、常勤の麻酔科医を確保し、山梨大に都留市立病院を医師の集約先とするよう交渉する考えだ。だが、いまだに常勤麻酔科医の確保ができていない。
同病院は来年3月21日以降の分娩予約を一時休止するが、妊婦健診は継続し、他病院を紹介する措置を取る。
(産経新聞/山梨、2007年8月9日)
****** 読売新聞/徳島、2007年7月27日
海部病院、お産休止
9月以降 徳島大医師派遣打ち切り
徳島県海部郡で唯一、産婦人科がある県立海部病院(牟岐町)で9月以降、当面、出産ができなくなることになった。昨年8月から受け入れていた徳島大病院の産婦人科医の派遣が8月末で打ち切りとなるためで、地元では海部郡内の分娩施設が休止されることに不安の声が募っている。
海部病院では、昨年7月、医師の退職で常勤の産婦人科医が不在に。県の要望を受けた徳島大病院が、昨年8月から産科医を交代で派遣してきた。
1年間の派遣期間が今年7月末に切れるのを前に、県は派遣の継続を要望。しかし、徳島大側が、産科医1人で対応するのは危険が大きく、継続は困難と判断した。周知期間を設けるため、産科医の派遣は8月末までとなる。
9月以降、県は大学病院の産科医による週2回の外来診療や妊婦健診のほか、医師や助産師による相談窓口を設ける予定。また、緊急の出産時には県の防災ヘリを活用するほか、搬送が難しい場合は徳島大病院や県立中央病院の産科医が海部病院に出向くことも検討する。
同病院での出産数は2005年度の43件から06年度は26件、今年度は現時点でまだ2件と激減。大神憲章・牟岐町長は「海部郡内でお産ができないのは妊婦さんの立場としては不安でたまらないだろう。残念で仕方ない」と語った。
(読売新聞/徳島、2007年7月27日)