卵巣に腫瘍が発生する頻度は、女性の全生涯でみると5~7%とされる。
卵巣には極めて多種類の腫瘍が発生するが、その起源により、表層上皮性・間質性腫瘍surface epithelial-stromal tumors、性索間質性腫瘍sex cord/stromal tumors、胚細胞腫瘍germ cell tumorsの大きく3群に分類され、各々の全体に占める割合は、表層上皮性・間質性腫瘍60~70%、性索間質性腫瘍5~10%、胚細胞腫瘍15~20%である。以上の3群それぞれに、良性、境界悪性、悪性腫瘍が存在する。さらに、転移性腫瘍(metastatic tumors)も重要であり、その全体に占める割合は5%である。これに加えて、真の腫瘍ではない類腫瘍性病変(tumor-like lesions)が存在する。
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①良性腫瘍
臨床像
卵巣腫瘍は無症状のことが多く、しばしば検診にて偶然に発見される。腫瘤の増大に伴い患者は下腹部痛や圧迫感を訴え、新生児頭大以上になると骨盤腔を越え、自ら下腹部腫瘤として触れる。巨大な腫瘤や多量の腹水貯留を伴う場合には腹部膨満が主訴となる。また、良性腫瘍は茎捻転を起こすことが多く、急性腹症として緊急開腹術を要する。
また性索間質性腫瘍の多くはエストロゲン産生腫瘍であり、不正性器出血、無月経、思春期早発などの症状をもたらす。
まれに、卵巣線維腫などで腹水や胸水を伴う(Meigs 症候群)。
診断―画像診断と腫瘍マーカー
卵巣腫瘍の良悪性の鑑別には腫瘤が嚢胞性か充実性かが重要であり、超音波検査が極めて有用である。また、カラードプラ法により充実部の血流をみることも悪性の補助診断として役立つ。MRI 検査は腫瘤内部にどのような物質が貯留しているかの質的診断に用いる。水のような液体であれば漿液性腫瘍、脂肪であれば成熟嚢胞性奇形腫、古い血液であれば子宮内膜症性嚢胞が疑われる。さらに、良悪性や組織型の推定に腫瘍マーカーのパターンを検討することも重要である。
(1)表層上皮性・間質性腫瘍
漿液性腫瘍は卵巣表層上皮が卵管上皮への分化を示す腫瘍群であり、漿液性嚢胞腺腫には卵管と同様に線毛細胞が観察される。単房性の嚢胞性腫瘤であることが多く、内壁も卵管壁に似てしばしば乳頭状構造を呈する。超音波検査で、嚢胞性の壁が薄く充実性部分を認めない場合は嚢胞腺腫が考えられ、また充実部が小さく少数の場合も良性のことが多い。
一方、径2cm 以下の小さな充実部が多数認められる場合は境界悪性、壁全体が肥厚し粗造なものや内部に大きな充実部を認める場合は腺癌と予想される。
MRI では嚢胞内容が水と同様に、T1強調で低信号、T2強調で高信号を呈する。腫瘍マーカーはCA125が重要で、良性ではCA125の上昇は認められない。これに対して、軽度上昇の場合は境界悪性、200U/ml を越える高値を示す場合は腺癌のことが多い。
粘液性腫瘍は表層上皮が子宮頸管腺上皮あるいは腸管上皮への分化を示す腫瘍群であり、粘液産生性の上皮細胞で構成される。多房性の嚢胞性腫瘤であることが多く、これが超音波検査で認められ、MRI で嚢胞の各房で信号が異なるという特徴が認められる。腫瘍マーカーはCA19-9とCEA が重要で、良性腺腫ではこれらの上昇が認められない。すなわち、多房性に嚢胞性腺腫で明らかな充実部がなく、CA19-9、CEA が正常の場合は良性と考えられる。
一方、CA19-9またはCEA が上昇し、充実部を思わせる小さな嚢胞の集合を認める場合は境界悪性腫瘍、明らかな充実部が存在する場合は腺癌のことが多い。
類内膜腫瘍および明細胞腫瘍の良性腫瘍は極めてまれで、多くは腺線維腫の形態をとり、術後診断により境界悪性および悪性腫瘍と区別される。
(2)性索間質性腫瘍
性索間質性腫瘍の多くはホルモン産生性であり、これによる臨床症状が重要である。良性腫瘍の莢膜細胞腫はエストロゲン産生性で、不正性器出血、無月経、思春期早発などをきたす。高齢の女性で腟壁がみずみずしく年齢に比して若々しい場合エストロゲン産生卵巣腫瘍の存在を疑う。
莢膜細胞腫は通常、嚢胞性成分は認められず、まったく充実性の比較的小さな腫瘤である。線維腫も莢膜細胞腫と同様に充実性の腫瘤を形成するが、ホルモン産生性に乏しく、また大きな腫瘤を形成することもある。
(3)胚細胞腫瘍
胚細胞腫瘍は若年女性に多いことが特徴的であり、最も高頻度にみられる腫瘍は成熟嚢胞性奇形腫である。茎捻転を起こしやすいが、検診では偶然発見されることも多い。嚢胞性であるが、その内部に皮膚組織、毛髪、脂肪、軟骨、骨などの奇形腫成分を含むため、超音波検査で極めて多彩な像を呈する。とくに脂肪成分の存在は、MRI にてT1強調で高信号、T2強調で中等度の信号、chemical shift artifact の存在、脂肪抑制画像による信号抑制により診断される。脂肪が証明されれば、まず成熟嚢胞性奇形腫と診断してよい。腫瘍マーカーではCA19-9の軽度上昇をみることが多い。
(4)類腫瘍病変
卵巣が嚢胞性に腫大しているが真の腫瘍でないものに卵巣嚢胞や黄体嚢胞などのいわゆる機能性嚢胞がある。特異な内分泌環境下で認められることが多く、経過観察にて縮小することにより臨床的に診断される。しかし、機能性嚢胞のなかには大きなものや超音波にて内部エコーの複雑なものがあり、真性腫瘍と誤診する場合があるので注意を要する。
卵胞嚢胞は排卵が障害され卵胞が存続することによるもので、更年期の機能性出血の際にしばしば認められる。直径3~5cm の球形嚢胞で、超音波にて内部に均一で低輝度の液体を含有する。
また、妊娠初期に認められる黄体嚢胞は片側性でhCG の刺激によりかなり大きくなり、比較的長期間存続しうる。いずれも時間経過とともに縮小する。
出血性黄体嚢胞は排卵や黄体形成の際の卵胞内出血が通常より増量したもので、下腹部痛または不快感を伴うことが多い。超音波では嚢胞内部に特有の網状エコー像が観察され、これは凝血塊と析出フィブリンによるものとされる。
多発性黄体化卵胞嚢胞(黄体化過剰反応hyperreactio luteinails)は絨毛性疾患の際に多く認められるが、まれに正常妊娠においても出現する。両側性で臨床的にルテイン嚢胞と呼ばれる。拡張した黄体化卵胞嚢胞が多数観察され、卵巣径が20cm にも達する。一見、多房嚢胞性腫瘤にみえるため粘液性腺腫と誤診され、開腹術を行うことが多いので注意を要する。特異な内分泌環境であること、両側性であること、個々の嚢胞の大きさがよく揃っていることにより、本疾患を強く疑い、経過観察を行う。ゴナドトロピン製剤を用いた排卵誘発において認められる卵巣過剰刺激症候群(OHSS)も同様の所見を呈する。
卵巣の子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)も類腫瘍病変に分類されている。嚢胞内部には異所性内膜の剥脱により古い血液を貯留する。超音波にて、典型的なものは砂粒状の内部エコー像を呈する。MRI が有用で、T1強調で高信号を示すが脂肪抑制画像で抑制されないことで血液の貯留が強く示唆される。腫瘍マーカーではCA125やCA19-9の軽度上昇がしばしば認められる。
治療
卵巣の腫大が認められた場合、超音波やMRI を用いた画像診断の所見および腫瘍マーカーのパターンを検討し、卵巣腫瘍の組織型や悪性度に関する十分な評価を行ったうえで、治療方針を決定する。
(1)経過観察および保存的治療
類腫瘍病変が疑われる場合は基本的に経過観察とする。通常、現病歴からhCG の関与やホルモン異常が示唆され、経過による形状の変化を把握することが大事である。
子宮内膜症性嚢胞には、状況に応じて経過観察、ホルモン療法、または手術療法を行う。すなわち、挙児希望のない若年女性に認められた小さな内膜症性嚢胞で症状も軽度の場合は経過観察を行う。月経困難症や性交痛などがある場合、大きな嚢胞の場合、不妊症で挙児を希望している場合は、ホルモン療法と手術療法を組み合わせた治療を行う。手術では腹腔鏡を用いた嚢胞摘出術や焼灼術を行い健常卵巣部分をできるだけ残す。
腫瘍性病変の可能性があるが径5cm 未満の小さな嚢胞性腫瘤で充実性部分をまったく認めない場合は経過観察を行う。しかし,増大したり充実性部分が出現すれば手術を行う。
(2)手術療法
真性の卵巣腫瘍には原則として手術療法を行い、組織学的な確定診断を得る必要がある。開腹時に腹水細胞診または腹腔内洗浄細胞診を行うこと、また術中の迅速組織診を行う。良性腫瘍には、卵巣腫瘍摘出(核出)術、卵巣摘除術、または付属器摘除術を行う。どの術式を選択するかは、患者の年齢、腫瘍の大きさ、周囲との癒着などを考慮して決定されるが、妊孕性温存を要する若年女性では、原則として卵巣腫瘍摘出(核出)術を行う。とくに成熟嚢胞性奇形腫に対してこの手術を行う機会が多いが、薄く進展された正常卵巣部分に多くの卵胞が存在しており、これをできるだけ広く残すことが大事である。また、茎捻転により全体が壊死に陥っている場合は付属器摘除術を行わざるを得ないが、捻転を解除できる場合は腫瘍摘出(核出)術とする。
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②悪性卵巣腫瘍
Ⅰ.卵巣腫瘍の臨床病理学的分類
卵巣には、他のどの臓器よりも多種多様な腫瘍が発生する。卵巣は皮質と髄質からなり、表層には胎生期の体腔上皮(coelomic epithelium)を起源とする表層上皮(surface epithelium)、髄質内には周囲を顆粒膜細胞と莢膜細胞(性索間質細胞sex cord stromal cell)が取り囲んだ卵細胞(胚細胞germ cell)があり、卵胞を形成している。卵巣腫瘍はこれらの組織から発 生してくるものと考えられている。
日本産科婦人科学会は、日本病理学会の協力で1990年7 月、卵巣腫瘍の臨床病理学的新分類を作成した。各組織から発生してくる腫瘍はそれぞれ良性、境界悪性、悪性に分類される。国際分類(WHO 分類)との変換が容易である
ことを念頭において作成されたが、基本的にはWHO 分類に準拠すべきである。以下に組織学的分類とその特徴について述べる。
卵巣腫瘍の臨床病理学的分類
|
良性 |
境界悪性 |
悪性 |
表層上皮 性・間質 性腫瘍 |
漿液性嚢胞腺 腫 粘液性嚢胞腺 腫 類内膜腺腫 明細胞腺腫 腺線維腫(上 記の各型)
表在性乳頭腫 ブレンナー腫 瘍 |
漿液性嚢胞腫 瘍、境界悪性 粘液性嚢胞腺 腫、境界悪性 類内膜腫瘍、 境界悪性 明細胞腫瘍、 境界悪性 腺線維腫(上 記の各型) 表在性乳頭腫 瘍、境界悪性 ブレンナー腫 瘍、境界悪性 |
漿液性嚢胞腺 癌 粘液性嚢胞腺 癌 類内膜腺癌 明細胞癌 腺癌線維腫 腺肉腫 中胚葉性混合 腫瘍(癌肉腫) 悪性ブレンナ ー腫瘍 移行上皮癌 未分化癌 |
性索間質 性腫瘍 |
莢膜細胞腫 線維腫 硬化性間質腫 瘍 セルトリ・間 質腫瘍 (高分化型) ライディック 細胞腫 輪状細管を伴 う性索腫瘍 |
顆粒膜細胞腫 セルトリ・間 質腫瘍 (中分化型) ステロイド細胞 腫瘍 ギナンドロブラ ストーマ
|
線維肉腫 セルトリ・間 質腫瘍 (低分化型) |
胚細胞腫 瘍 |
成熟嚢胞性奇 形腫 成熟充実性奇 形腫 卵巣甲状腺腫 |
未熟奇形腫 (G1、G2) カルチノイド 甲状腺腫性カ ルチノイド |
未分化胚細胞 腫 卵黄嚢腫瘍 胎芽性癌 多胎芽腫 絨毛癌 悪性転化を伴 う成熟奇形腫 未熟奇形腫 (G3) |
その他 |
非特異的軟部 腫瘍 腺腫様腫瘍 |
性腺芽腫 (純粋型) |
癌腫 肉腫 悪性リンパ腫 (原発性) 二次性(転移 性)腫瘍 |
1)表層上皮性・間質性腫瘍Surface epithelial-stromal tumors
最も発生頻度が高く全卵巣腫瘍の約2/3を占め、卵巣癌の70~80%は本腫瘍である。上皮性組織と間質性組織が種々の割合に混在する。腫瘍性上皮成分は卵巣表面を覆う体腔上皮に由来するが、多分化能を有し、卵巣表層上皮ないし卵管上皮に類似する漿液腫瘍、子宮頸部の腺上皮に類似する粘液性腫瘍や子宮内膜腺上皮に類似する類内膜腫瘍など、種々のミューラー管上皮への分化を示す。
さらにこの範疇に入る腫瘍では、良性と悪性の中間病変として境界悪性borderline malignancy の例が存在する。
境界悪性腫瘍の組織学的特徴は、
1.上皮細胞の多層化
2.腫瘍細胞集団の内腔への分離増殖
3.同一細胞型における良性と悪性の中間的な核分裂活性と核異型
4.間質浸潤の欠如
A.漿液性腫瘍Serous tumors
卵管上皮あるいは卵巣表層上皮に類似した細胞からなる腫瘍
漿液性腺癌:全卵巣癌の約40%を占める
1.好塩基性の狭小な胞体,比較的小型の癌細胞
2.乳頭状の増殖
3.微細な樹枝状乳頭
4.間質は狭細
5.砂粒小体psammoma body の出現(悪性例で高頻度)
B.粘液性腫瘍Mucinous tumors
内頸部型endocervical type(子宮頸部の腺上皮に類似)、腸上皮型intestinal type(杯細胞やPaneth 細胞を含む)、およびこれらの混合型mixed type が認められる。
粘液性腺癌
1.不規則な腺腔形成
2.小型の腺構造
3.腺癌細胞の重層性または乳頭状増殖
C.類内膜腫瘍Endometrioid tumors
子宮内膜の腫瘍に類似する所見を呈する腫瘍
類内膜癌
1.純粋型の類内膜細胞癌endometrioid adenocarcinoma
2.腺扁平上皮癌adenosquamous carcinoma
3.腺棘細胞癌adenoacanthoma
4.子宮内膜症から発生する例
上皮性成分と間質性成分が混在する悪性群
1.腺癌線維腫adenocarcinofibroma、
嚢胞性腺癌線維腫cystadenocarcinofibroma
:上皮性成分が悪性(類内膜腺癌)で間質成分が良性
2.腺肉腫adenosarcoma
:上皮成分が良性または境界悪性で間質成分が悪性
3.中杯葉性混合腫瘍mesodermal mixed tumor
:両者が悪性
間質肉腫:子宮内膜間質肉腫に類似するもの
D.明細胞腫瘍Clear cell tumors
良性や境界悪性例の報告はまれ
明細胞腺癌:欧米に比し本邦で高頻度
(上皮性悪性腫瘍の10~15%)
1.淡明な胞体でグリコーゲンに富む癌細胞
2.核が細胞の遊離面に近く突出するhobnail 型の癌細胞
3.両者またはいずれかよりなる腺癌で管状、乳頭状、微小嚢胞状あるいは充実性の構造
E.ブレンナー腫瘍Brenner tumors
特異な上皮構造(移行上皮型の充実巣)と間質の増殖を伴い、大部分が良性である。上皮細胞の核はしばしば縦溝を呈し、コーヒー豆様(coffee-bean nuclei)と表現。境界悪性腫瘍は増殖性ブレンナー腫瘍、悪性腫瘍は悪性ブレンナー腫瘍と呼ばれる。
F.移行上皮癌Transitional cell carcinoma
泌尿器系の移行上皮癌に類似する。本腫瘍と診断するにはブレンナー腫瘍成分を認めないことが必要。
G.混合型上皮性腫瘍Mixed epithelial tumors
2つ以上の組織型が混在し、どの組織型が優位かを決定できないもの。
H.未分化癌Undifferentiated carcinoma
極めて未分化でどの組織型に属するか判定できないもの。
I.分類不能Unclassified
分類判定不能なもの。
2)性索間質性腫瘍Sex cord/stromal tumors
顆粒膜細胞、莢膜細胞およびこれらの黄体化細胞、セルトリ細胞、ライディク細胞、性索間質起源の線維芽細胞およびこれらすべての幼弱細胞が単独に、あるいは種々の組み合わせで含まれる腫瘍。
A.顆粒膜・間質細胞腫瘍Granulosa-stromal cell tumors
①顆粒膜細胞腫Granulosa cell tumors
顆粒膜細胞を優位に含む腫瘍。組織像から成人型、若年型に分ける。通常エストロゲン産生性。少数例は悪性の経過を示すが、通常は低悪性で、境界悪性腫瘍に分類。
②莢膜細胞腫・線維腫群腫瘍
莢膜細胞腫、線維腫、線維肉腫、僅少な性索成分を伴う間質性腫瘍、硬化性間質性腫瘍、間質性ライディク細胞腫などが含まれる。悪性は線維肉腫。
B.セルトリ・間質性腫瘍Sertoli-stromal cell tumors
種々の成熟段階のセルトリ細胞、ライディク細胞および線維芽細胞がさまざまな割合で含まれる。ほとんどが男性化徴候を示すが、ホルモン活性がないもの、エストロゲン活性を示すものもある。高分化型(良性)、中分化型(境界悪性)、低分化型(悪性)。
C.ステロイド細胞腫瘍Steroid cell tumors
ステロイドホルモン産生腫瘍、すなわちライディク細胞、黄体化細胞ないし副腎皮質細胞類似の細胞からなる腫瘍。ライディク細胞腫(良性)、間質性黄体腫(良性)、分類不能型(境界悪性)に分類。
D.輪状細管を伴う性索腫瘍Sex cord tumor with annular tubules
特異な単純また複雑な輪状細管からなる腫瘍。Peutz-Jeghers 症候群を伴う例(良性) と伴わないもの(境界悪性)がある。
E.ギナンドロブラストーマGynandroblastoma
典型的なCall-Exner body をもつ顆粒膜細胞の胞巣が,セルトリ細胞性の腔を有する管と共存するまれな腫瘍.境界悪性.
F.分類不能Unclassified
卵巣あるいは精巣への分化が認められない腫瘍。
3)胚細胞腫瘍Germ cell tumors
胚細胞腫瘍とは、原始胚(生殖)細胞が配偶子に成熟する過程のいずれかの時期に発生する腫瘍と考えられ、広範囲の腫瘍が含まれ、極めて多彩な組織像が認められる。全卵巣腫瘍の20~25%は胚細胞起源で、良性の大部分は成熟奇形腫であり、若年者に発生する卵巣腫瘍の約2/3は胚細胞腫瘍である。
A.未分化胚細胞腫Dysgerminoma
腫瘍細胞は大型円形、類円形で、細胞質は淡明でグリコーゲンに富む。明瞭な核小体、間質のリンパ球浸潤が特徴的。ときにsyncytiotrophoblast を伴いβ-hCG が証明される。悪性。
B.卵黄嚢腫瘍Yolk sac tumor
特徴ある多彩な組織像を呈する腫瘍で、種々の組織像が混在し、移行もみられる。免疫組織化学的にAFPが証明される。主として次の4 組織像からなる。
①内胚葉洞型Endodermal sinus pattern:最も高頻度で,網目状loose reticular network,Schilller-Duval body(腫瘍細胞が血管周囲に配列),hyaline globules(好酸性球状の硝子様小球)などがみられる。
②多嚢胞性卵黄型Polyveiscular vitelline pattern:卵黄嚢に類似した多数の嚢胞からなり、一層の扁平な中皮様細胞に被覆。
③類肝細胞型Hepatoid pattern:未熟肝細胞あるいは肝細胞癌に類似する腫瘍細胞が索状に配列。
④腺型Glandular pattern:立方形の腫瘍細胞が管状、胞巣状あるいは原腸状配列を示す。
C.胎芽性癌Embryonal carcinoma
精巣の胎児性癌に類似し、大型の上皮様の腫瘍細胞が管状、乳頭状または充実性に増生。卵黄嚢腫瘍と共存することが多い。
D.多胎芽腫Polyembryoma
胎生初期のembryonic body に類似した構造(類胎芽体embryoid body)が多数認められる腫瘍。極めてまれな腫瘍で、多くは卵黄嚢腫瘍や未熟奇形腫の一部にみられる。
E.絨毛癌Choriocarcinoma
Cytotrophblast とsyncytiotrophoblast に類似する細胞からなる2 cell pattern がみられる。結合織に乏しく、出血と壊死が著しい。
F.奇形腫Teratomas
1.成熟奇形腫Mature teratoma
a)嚢胞性Cystic
(1)成熟嚢胞性奇形腫Mature cystic teratoma
嚢胞内に皮脂と毛髪を認めることが多い.
(2)悪性転化を伴う成熟嚢胞性奇形腫
扁平上皮癌が大部分、まれに腺癌や悪性黒色腫を認める。
b)充実性Solid
未熟な組織成分の存在を除外しておくことが必要。
c)胎児型Fetiform
よく分化した各種器官を模倣する充実性奇形腫。
2.未熟奇形腫Immature teratoma
未熟な胎児性成分を伴う奇形腫をいう。未熟な組織、とくに神経外胚葉組織が豊富なものほど播種や転移を起こしやすい。分化度に応じ(未熟な成分,核分裂像の多寡),Grade1(境界悪性)、Grade 2(境界悪性)、Grade 3(悪性)の3 群に分類。
3.単胚葉性および高度限定型奇形腫Monodermal and highly specialized teratomas
a)卵巣甲状腺腫struma ovarii
腫瘍の全体が甲状腺組織で占められる。
b)カルチノイドCarcinoid
腫瘍細胞が腸管由来で、腫瘍細胞の配列により島状と索状に区別。
c)甲状腺性カルチノイドStromal carcinoid
a)とb)が共存。
d)粘液性カルチノイドMucinous carcinoid
杯細胞と円柱上皮が小型腺管を形成し、胞体に好銀性顆粒を認める。
e)神経外胚葉性腫瘍Nueroectodermal tumors
さまざまな成熟段階の神経組織からなる。
f)皮脂腺腫瘍Sebaceous tumors
皮脂腺に類似する腫瘍。
G.性腺芽腫 Gonadoblastome
未分化胚細胞腫あるいはセミノーマに類似した胚細胞と、顆粒膜細胞腫あるいはセルトリ細胞に類似した小型の性索系細胞よりなる腫瘍である。
4)起源不明の腫瘍
小細胞癌 Small cell carcinoma
胞体の乏しいN/C比の大きい円形核をもつ小型細胞が、密に充実性あるいは索状構造をとり増殖する。若年者に発生し、高カルシウム血症をきたすまれな腫瘍で、きわめて悪性の経過をとる。
****** 問題と解答
Q458 卵巣腫瘍全般について正しいのはどれか。2つ選べ。
a)○女性が生涯で卵巣腫瘍を発生する確率は5%程度である
b)×発生頻度は表層上皮性・間質性腫瘍よりも胚細胞性腫瘍の方が高い
c)×子宮内膜症性嚢胞は性索間質性腫瘍の一種といえる
d)×ホルモン産生腫瘍の多くは表層上皮性・間質性腫瘍である
e)○成熟嚢胞性奇形腫は胚細胞腫瘍の良性群に分類される
解答:a、e
b)わが国の頻度は、表層上皮性・間質腫瘍が60~70%、胚細胞腫瘍が30%、性索間質性腫瘍が6%、その他が約4%である。わが国では欧米に比して明細胞腺癌と胚細胞腫瘍の頻度が高い。
c)子宮内膜症性嚢胞は類腫瘍病変 Tumour-like lesionsの一種といえる。
d)性索間質性腫瘍の多くはホルモン産生性である。
******
Q459 卵巣腫瘍の術前診断で正しいのはどれか。2つ選べ。
a)×漿液性嚢胞腺腫では血中CA125値が上昇する
b)○粘液性嚢胞腺腫は多房嚢胞性の腫瘍が多い
c)×莢膜細胞腫はしばしば男性化兆候を伴う
d)○成熟嚢胞性奇形腫ではCA19-9値の上昇をしばしば認める
e)×MRI T1強調で高信号を示す部分は脂肪組織と診断される
解答:b、d
c)莢膜細胞腫(thecoma)の好発年齢は閉経期以降の中高年層であり、約1/3の症例でエストロゲン活性を示す。生物学的には常に良性とされている。
e)T1強調で高信号を示す場合は脂肪または血液である。脂肪成分の存在は、T1強調で高信号、T2強調で中等度の信号、Chemical shift artifactの存在、脂肪抑制画像による信号抑制により診断される。
******
Q460 卵巣の類腫瘍病変で正しいのはどれか。2つ選べ。
a)○更年期にしばしば認められる機能性嚢胞は卵胞嚢胞である
b)×正常妊娠の初期に認められる嚢胞はルテイン嚢胞という
c)×出血性黄体嚢胞は超音波検査にて充実性エコー像を呈する
d)×多発性黄体化卵胞嚢胞の発生は、通常、片側性である
e)○多発性黄体化卵胞嚢胞は粘液性嚢胞腺腫と誤診されやすい
解答:a、e
a)卵胞嚢胞は排卵が障害され卵胞が存続することによるもので、更年期の機能性出血の際にしばしば認められる。直径3~5cmの球形嚢胞で、超音波にて内部に均一で低輝度の液体を含有する。時間経過とともに縮小する。
b)正常妊娠の初期に認められる黄体嚢胞(黄体化卵胞嚢胞)は、片側性でhCGの刺激によりかなり大きくなり比較的長期間存続しうるが、時間経過とともに縮小する。
c)出血性黄体嚢胞は排卵や黄体形成の際の卵胞内出血が通常より増量したもので、下腹部痛または不快感を伴うことが多い。超音波では嚢胞内部に特有の網状エコー像が観察され、これは凝血塊と析出フィブリンによるものとされる。
d)e)多発性黄体化卵胞嚢胞(黄体化過剰反応)は絨毛性疾患の際に多く認められるが、まれに正常妊娠においても出現する。両側性で臨床的にルテイン嚢胞と呼ばれる。拡張した黄体化卵胞嚢胞が多数観察され、卵巣径が20cmにも達する。粘液性腺腫と誤診されやすい。
******
Q461 卵巣腫瘍の治療で正しいのはどれか。2つ選べ。
a)×類腫瘍病変のうち径5cmを超える腫瘤は手術を行う
b)○良性腫瘍の基本術式は患側卵巣腫瘍摘出(核出)術である
c)×茎捻転を起こしている場合は付属器切除術を要する
d)×成熟嚢胞性奇形腫は良性の診断が確実ならば手術を行わない
e)○不妊症患者の子宮内膜症性嚢胞に対しては外科的治療を行う
解答:b、e
a)類腫瘍病変が疑われる場合は基本的に経過観察とする。
b)良性腫瘍で、妊孕性温存を要する若年女性では、原則として卵巣腫瘍摘出(核出)術を行う。
c)茎捻転により全体が壊死に陥っている場合は付属器切除を行わざるを得ないが、捻転を解除できる場合は腫瘍摘出(核出)術とする。
d)真性の卵巣腫瘍には原則として手術療法を行い、組織学的な確定診断を得る必要がある。
e)子宮内膜症性嚢胞には、状況に応じて経過観察、ホルモン療法、または手術治療を行う。すなわち、挙児希望のない若年女性に認められた小さな内膜症性嚢胞で症状の軽度の場合は経過観察を行う。月経困難症や性交痛などがある場合、大きな嚢胞の場合、不妊症で挙児を希望している場合は、ホルモン療法と手術療法を組み合わせた治療を行う。手術では腹腔鏡を用いた嚢胞摘出術や焼灼術を行い、健常卵巣部分をできるだけ残す。
******
Q462 正しいものはどれか。
a)×境界悪性腫瘍の組織学的特徴のひとつは、間質浸潤を認めることである
b)○漿液性腺癌は全卵巣癌の約40%を占める
c)×砂粒小体psammoma bodyの出現があれば、漿液性腺癌である
d)×明細胞腺癌は欧米に比し本邦での発生頻度は低い
e)×ブレンナー腫瘍は良性腫瘍である
解答:b
a)境界悪性腫瘍の組織学的特長は、
1.上皮細胞の多層化
2.腫瘍細胞集団の内腔への分離増殖
3.同一細胞型における良性と悪性の中間的な核分裂活性と核異型
4.間質浸潤の欠如
b)漿液性腺癌:全卵巣癌の約40%を占める。
c)砂粒小体psammoma bodyの出現は悪性例で高頻度に認められるが、悪性に特異的な所見とは言えない。
d)明細胞腺癌は欧米に比し本邦で高頻度にみられる。
e)ブレンナー腫瘍:特異な上皮構造(移行上皮型の充実巣)と間質の増殖を伴い、大部分が良性である。上皮細胞の核はしばしば縦溝を呈し、コーヒー豆様(coffee-bean nuclei)と表現。境界悪性腫瘍は増殖性ブレンナー腫瘍、悪性腫瘍は悪性ブレンナー腫瘍と呼ばれる。
******
Q463 正しいものはどれか
a)×顆粒膜細胞腫はエストロゲンを産生する良性腫瘍もある
b)×莢膜細胞腫は悪性腫瘍に分類される
c)○セルトリ・間質細胞腫瘍にはエストロゲン活性を示すものがある
d)×ライディック細胞腫は境界悪性に分類される
e)×輪状細管を伴う性索腫瘍には全例でPeutz-Jeghers症候群を合併する
解答:c
a)顆粒膜細胞腫は顆粒膜細胞を優位に含む腫瘍。組織像は成人型、若年型に分けられる。通常、エストロゲン産生性。少数例は悪性の経過を示すが、通常は低悪性で、境界悪性腫瘍に分類。
b)莢膜細胞腫は良性腫瘍に分類される。
c)セルトリ・間質細胞腫瘍:ほとんどが男性化徴候を示すが、ホルモン活性がないもの、エストロゲン活性を示すものもある。高分化型(良性)、中分化型(境界悪性)、低分化型(悪性)。
d)ライディック細胞腫は良性腫瘍に分類される。ラインケ結晶を胞体に有する。3/4の症例で多毛、男性化症状を示すが、まれにエストロゲン活性を示すこともある。ステロイド細胞腫瘍(ライディック細胞腫:良性、間質性黄体腫:良性、分類不能型:境界悪性)。
e)輪状細管を伴う性索腫瘍:特異な単純また複雑な輪状細管からなる腫瘍。Peutz-Jeghers症候群を伴う例(良性)と伴わないもの(境界悪性)がある。
約1/3はPeutz-Jeghers症候群(消化管ポリポーシス、口腔・皮膚のメラニン沈着)を合併し、ときに子宮頸部の悪性腺腫を伴うこともある。40%の例では高エストロゲン症状を示す。
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Q464 誤っているものはどれか
a)×全卵巣腫瘍の50~55%は胚細胞起源である
b)○若年者に発生する卵巣腫瘍の約2/3は胚細胞腫瘍である
c)○未分化胚細胞腫は間質のリンパ球浸潤が特徴的で悪性に分類される
d)○卵黄嚢腫瘍の内胚葉洞型にはloose reticular network, Schiller-Duval body,hyaline globules などがみられる
e)○未熟奇形腫のGrade 3は悪性腫瘍に分類される
解答:a
a)表層上皮性・間質性腫瘍:60~70%、性索間質性腫瘍:5~10%、胚細胞腫瘍:15~20%。
b)胚細胞腫瘍は若年女性に多いことが特徴的であり、最も高頻度にみられる腫瘍は成熟嚢胞性奇形腫である。
c)未分化胚細胞腫:腫瘍細胞は大型円形、類円形で、細胞質は淡明でグリコーゲンに富む。明瞭な核小体、間質のリンパ球浸潤が特徴的。ときにsyncytiotrophoblastを伴いβ-hCGが証明される。悪性。
d)卵黄嚢腫瘍
ⅰ.内胚葉洞型:最も高頻度で、網目状loose reticular network, Schiller-Duval body(腫瘍細胞が血管周囲に配列),hyaline globules(好酸性球状の硝子様小体) などがみられる。
ⅱ.多嚢胞性卵黄型:卵黄嚢に類似した多数の嚢胞からなり、一層の扁平な中皮様細胞に被覆。
ⅲ.類肝細胞型:未熟肝細胞あるいは肝細胞癌に類似する腫瘍細胞が索状に配列。
ⅳ.腺型:立方形の腫瘍細胞が管状、胞巣状あるいは原腸状配列を示す。
e)未熟奇形腫:未熟な胎児性成分を伴う奇形腫をいう。未熟な組織、とくに神経外胚葉組織が豊富なものほど播種や転移を起こしやすい。分化度に応じ、Grade 1、2(境界悪性)、Grade 3(悪性)に分類。