ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

外陰・腟の腫瘍・類腫瘍、問題と解答

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

Q33 外陰疾患で細胞診が有用なのはどれか。
a)外陰白斑症
b)外陰萎縮症
c)外陰異形成
d)○ 外陰Paget病
e)急性外陰潰瘍

解答:d

d) 細胞像は比較的特徴的で、大型の広い細胞質をもつ異型細胞がシート状の小集団として出現する。核は偏在し、細顆粒状で、肥大した核小体が認められる。ときに細胞封入像や細胞質内メラニン顆粒が認められる。

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Q409 次のうち誤っているものはどれか。
a) ○尖形コンジローマはヒトパピローマウイルスの感染によって発症する
b) ×尖形コンジローマは発癌性ウイルス感染である
c) ○尖形コンジローマは悪性腫瘍ではない
d) ○尖形コンジローマはポドフィリンに良好な感受性がある
e) ○尖形コンジローマは男性パートナーの亀頭に感染することがある。

解答:b

尖形コンジローマの発症には、HPV 6型、11型が関与するとされる。発生、発育には宿主側の免疫状態も強く関与するとされ、免疫の低下している妊娠中や移植手術後、担癌、糖尿病の患者では病変が発症しやすく増悪する傾向がある。

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Q412 腟癌について次の記述で誤っているものを1つ選べ。
a)×腟癌が外子宮口まで及ぶ場合は病変の大きな方を原発とする
b)○腟癌の好発部位は腟の上部1/3である
c)○腟の上部1/3に発生した癌の所属リンパ節は骨盤内リンパ節である
d)○腟悪性腫瘍では扁平上皮癌が多い
e)○腟の上1/3に発生した癌では手術療法も考慮できる

解答:a

a)分類の前提として、腟病変が子宮腟部を侵しかつ外子宮口に及ぶものは子宮頚癌に、外陰を侵すものは外陰癌にそれぞれ分類される。

c)所属リンパ節
腟の上部2/3の場合:骨盤リンパ節
腟の下部1/3の場合:鼠径リンパ節

d)組織型別頻度では、扁平上皮癌が多い(85%)。

e)Ⅰ期で手術療法を選択する場合には、上部1/3の症例では骨盤リンパ節郭清を含めた広汎子宮全摘術(+腟全摘術)を施行するのが一般的である。

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Q413 外陰癌について次の記述で誤っているものを一つ選べ。
a)○外陰癌のほとんどは扁平上皮癌である
b)○Ⅰa期の癌であれば治療は根治的外陰部分切除のみでよい
c)○Ⅰb期であっても病変が正中部に存在する場合には両側の鼠径リンパ節郭清が望ましい
d)×類基底細胞型の扁平上皮癌の大部分でHPV6型が検出される
e) ○両側の鼠径リンパ節に転移のある症例はⅣ期に分類される

解答:d

a)外陰悪性腫瘍の86.2%は扁平上皮癌である。

b)Ⅰa期:外陰または会陰に限局した最大径2cm以下の腫瘍で、間質浸潤の深さが1mm以下のもの。Ⅰa期では鼠径リンパ節転移はないと考えられ、最低1cm以上病変から離れて切除する根治的外陰部分切除のみでよいと考えられる。

c)Ⅰb期:外陰または会陰に限局した最大径2cm以下の腫瘍で、間質浸潤の深さが1mmを超えるもの。Ⅰb期では根治的外陰部分切除術、病変側の鼠径リンパ節郭清術を基本とする。ただし、病変が正中から1cm以内の場合や、郭清した片側のリンパ節転移が陽性だった場合には両側の郭清を施行する

d)類基底細胞型、湿疣型HPV16型との関連が指摘されている。

e)Ⅳa期:腫瘍が次のいずれかに浸潤するもの。上部尿管、膀胱粘膜、直腸粘膜、骨盤骨および/または両側の所属リンパ節転移があるもの。

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Q414 次の記述で誤っているものを一つ選べ。
a)○悪性黒色腫はリンパ節転移を起こしやすい
b)○悪性黒色腫では確定診断のため、術前に生検することがある
c)×悪性黒色腫では免疫染色でCEAが陽性となり有用である
d)○Paget病では主訴として、外陰掻痒感、疼痛が多い
e)○Paget病の手術にあたっては術前に腫瘍周囲の多数の生検が望ましい

解答:c

b)確定診断には可能な限り病変部の全摘が勧められる。なお現在ではその後のすみやかな手術が可能であれば生検は禁忌とはされていない。

c)悪性黒色腫:免疫染色でS-100、NSE、HMB-45などが陽性。
  Paget細胞:免疫染色でCEA、EMA、低分子ケラチンが陽性。

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Q415 次の記述で誤っているものを一つ選べ。
a)○VAINは多中心性に発生することが多い
b)○VAINの診断にはSchillerテストは有用である
c)○VINの発生とHPVとの関連が指摘されている
d)×Bowen様丘疹症は単純外陰切除術が必要である
e)○VIN3ではCO2レーザーによる蒸散も可能である

解答:d

a)VAINの好発部位は膣の上1/3であるが多中心性に発生することが多い。CINやVINと互いにしばしば合併して存在するが、その発生率は子宮頸部、外陰に比して低い。

b)VAINの診断には、ルゴール液を用いた上での観察(Schillerテスト)も病変の発見に有用である。

c)VINの50~80%にHPVが検出される

d)Bowen様丘疹症Bowenoid papulosis:若年者に好発する色素沈着を伴った丘疹である。Bowen病と同様の組織像を示すにもかかわらず自然消退することが知られている。HPV16型が関与しているとされる。進行する例もあるともいわれていることから臨床的にはVIN3として取り扱う

e)VIN3では外科的切除が基本である。病変が限局している場合には広い局所切除とし、多発性で病変が広範囲に及ぶ場合には単純外陰切除術が確実な方法である。多発性の病変に対してはCO2レーザーによる蒸散も有効とされているが、美容面では優れているものの確定診断がつかず、浸潤癌の除外など治療前の診断を慎重にすべきである。

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Q416 尖形コンジローマについての次の記述で誤っているものを一つ選べ。
a)○HPV 6型の感染が関係している
b)○組織診断上、koilocytosisは特徴的な所見の一つである
c)×内科的治療としてコルチコステロイドの外用が有効である
d)○外科的治療としてCO2レーザーによる蒸散も有効である
e)○妊娠中は増悪しやすい

解答:c

a)HPV 6型、11型が関与するとされる。

b)組織学的所見では有棘細胞層の肥厚、表層細胞の角化、錯角化などを認める。表層上皮細胞のkoilocyte(細胞の核周囲が広く、空洞状に抜けて見える)は特徴的である。

c)尖形コンジローマの内科的治療法としては、ポドフィリン、5-FU軟膏、ブレオマイシン軟膏などがある。

e)発生、発育には宿主側の免疫状態も強く関与するとされ、免疫の低下している妊娠中や移植手術後、担癌、糖尿病の患者では病変が発症しやすく増悪する傾向がある。


子宮頚癌、組織分類

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

A.上皮性腫瘍と関連病変

a.扁平上皮病変

 1)扁平上皮乳頭腫squamous papilloma
扁平上皮に異型がなく、線維と血管からなる茎をもつ良性の乳頭状腫瘍である。通常単発性で、子宮腟部あるいはSCJに好発する。HPV感染の所見は認めない。

 2)尖形コンジローマcondyloma acuminatum
乳頭状発育を示し、間質は線維と血管からなる良性腫瘍である。表層の扁平上皮にはHPV 感染の所見がみられ、通常koilocytosisの形態を示す。

 3)異形成-上皮内癌、
   CIN (cervical intraepithelial neoplasia)

異形成は、上皮の各層において細胞成熟過程の乱れと核の異常を示す病変と定義され、上皮内癌の基準を満たさないものとされる。具体的には、極性の消失、多形性、核クロマチンの粗大顆粒状化、核膜不整、異常分裂を含む核分裂像などを認める。その程度によって軽度異形成・中等度異形成・高度異形成に分類されている。

現在ではCIN を3 段階に分けて軽度異形成に相当するCIN1、中等度異形成に相当するCIN2、高度異形成および上皮内癌に相当するCIN3に分類することが国際的に主流となっており、わが国の取扱い規約でもCIN 分類が併記されることとなった。
 a)軽度異形成mild dysplasia(CIN1)
核異型を示すN/C 比の高い細胞が主として扁平上皮の下1/3に存在するが、上2/3は扁平上皮への分化が明瞭に認められる。細胞質は豊富であり、核異型は軽度である。HPV感染による細胞異型であるkoilocytosis は軽度異形成に含まれる。
 b)中等度異形成moderate dysplasia(CIN2)
異形成が上皮の下層2/3にある扁平上皮内病変である。
 c)高度異形成severe dysplasia(CIN3)
異形成が上皮の表層1/3に及ぶ扁平上皮ない病変である。上皮の層形成や極性の乱れは著しいが、完全には失われていない。
 d)上皮内癌carcinoma in situ(CIN3)
癌としての形態学的特徴をもつ細胞が上皮の全層に及ぶものをいう。本病変にはしばしば腺侵襲を伴うが、これは浸潤としない。

 4)微小浸潤扁平上皮癌microinvasive squamous cell carcinoma
微小浸潤癌とは癌細胞の間質内浸潤を組織学的に確認することができ、かつ浸潤の深さが表層基底膜よりも計測して5mm を越えず、またその縦軸方向の広がりが7mm を越えないものをいう。診断は円錐切除術かそれに準じた方法で行う。

 5)扁平上皮癌squamous cell carcinoma
重層扁平上皮に類似した細胞からなる浸潤癌であり,角化傾向を指標にして組織学的にa)角化型b)非角化型とに分類される。両者の鑑別は角化傾向が著明か否かであり、非角化型では角化はあっても単一細胞角化にとどまり角化真珠(癌真珠)は認められない。このほかに特殊型として疣状癌、コンジローマ様癌乳頭状扁平上皮癌リンパ上皮腫様癌がある。

b.腺上皮病変

 1)内頸部ポリープEndocervical polyp
頸管内へ突出し,内頸腺と線維性間質よりなる良性病変をいう.

 2)ミュラー管乳頭腫Mullerian papilloma
単発または多発の乳頭状病変で、ミュラ-管型の円柱上皮が時に扁平上皮化生を伴って細い線維血管性の茎の表面を覆って増殖する病変をいう。

 3)腺異形成glandular dysplasia
扁平上皮病変の異形成に相当するものとして腺異形成がある。核の異常が反応性異型よりも高度であるが、上皮内腺癌の診断基準を満たさない腺上皮の病変をいう。診断は円錐切除術かそれに準じた方法で行う。なお、腺異形成と上皮内腺癌との鑑別が困難な場合は上皮内腺癌として取り扱う

 4)上皮内腺癌adenocarcinoma in situ(AIS)
組織学的に悪性の腺上皮細胞が正常の内頸腺の構造を保ったまま上皮を置換して増殖するが、間質への浸潤を欠くものである。上皮内腺癌は同一腺腔内あるいは一連の被覆上皮内に、非癌円柱上皮と明瞭な境界を形成するという特徴を有する(フロント形成)。診断は円錐切除術かそれに準じた方法で行う。本病変は40~100%と高い確率で扁平上皮の異形成・上皮内癌・微小浸潤癌と共存し、それらの手術摘出検体中に偶然発見されることもある。術前細胞診での診断は困難であることが少なくない。

 5)微小浸潤腺癌microinvasive adenocarcinoma
正常の内頸腺領域に限局し、微小浸潤を示す腺癌である。微小浸潤とは腺癌上皮の間質への芽出を認め、その輪郭が滑らかなものをいう。診断は円錐切除術あるいはそれに準じた方法で行う。扁平上皮病変とは異なり、腺上皮病変では微小浸潤腺癌の細分類は行われない。なお、上皮内腺癌か微小浸潤腺癌かの判定が困難な症例は上皮内腺癌とされる。また、組織学的に明瞭な浸潤腺癌との鑑別が困難な例は浸潤癌とされる

 6)腺癌adenocarcinoma
 a)粘液性腺癌mucinous adenocarcinoma
浸潤腺癌のうち最も頻度の高いものは粘液性腺癌であり、腫瘍の細胞質内に粘液を認めることが特徴である。
  (1)内頸部型endocervical type
内頸粘膜の円柱上皮細胞に類似する粘液性腺癌をいう。さらに腺構造と細胞の分化度によって高分化型中分化型低分化型に分けられる。

また,特殊型として細胞異型や構造異型をほとんど伴わない(a)悪性腺腫adenoma malignum,特異な絨毛構造を有する(b)絨毛腺管状乳頭腺癌villoglandular papillary adenocarcinomaが付記されている。

  (2)腸型intestinal type
腸の腺癌と類似し、杯細胞と時に好銀細胞を伴う粘液性腺癌を指す。

 b)類内膜腺癌endometrioid adenocarcinoma
子宮内膜の類内膜腺癌と同様の組織像を示す腺癌をいう。本腫瘍と子宮内膜癌との鑑別は腫瘍の発生部位および占拠部位である。類内膜腺癌のほとんどは内頸部下端の変換帯に最も深い病変を認めるため、頸管内と体部にまたがる腺癌の場合、頸部の深達度が体部よりも大きければ頸部腺癌と診断する。一方、頸部と体部の境界である子宮峡部に限局して発生する腺癌は子宮体癌に分類される。

 c)明細胞腺癌clear cell adenocarcinoma
主として明細胞あるいはホブネイル細胞からなり、充実性、管状・嚢胞状、乳頭状構造あるいはこれらの組み合わせからなる腺癌である。

 d)漿液性腺癌serous adenocarcinoma

 e)中腎性腺癌mesonephric adenocarcinoma

c.その他の上皮性腫瘍

 1)腺扁平上皮癌adenosquamous carcinoma
腺癌と扁平上皮癌の両成分が移行・混在する癌

 2)すりガラス細胞癌glassy cell carcinoma

 3) 神経内分泌癌neuroendocrine carcinoma
  カルチノイドcarcinoid

  小細胞癌small cell carcinoma


子宮頸癌、進行期分類

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

子宮頸癌臨床進行期分類
(日本産科婦人科学会1997 年,FIGO 1994 年)

0 期:上皮内癌(注1)

Ⅰ期:癌が子宮頸部に限局するもの(体部浸潤の有無は考慮しない)。
 Ⅰa 期:組織学的にのみ診断できる浸潤癌。肉眼的に明らかな病巣はたとえ表層浸潤であってもⅠ b 期とする。浸潤は、計測による間質浸潤の深さが5mm 以内で、縦軸方向の広がりが7mmをこえないものとする。浸潤の深さは、浸潤がみられる表層上皮の基底膜(注2)より計測して5mm をこえないものとする。脈管(静脈またはリンパ管)侵襲があっても進行期は変更しない。
  Ⅰa1期:間質浸潤の深さが3mm 以内で,広がりが7mm をこえないもの。
  Ⅰa2期:間質浸潤の深さが3mm をこえるが5mm 以内で、広がりが7mm をこえないもの。
 Ⅰb期:臨床的に明らかな病巣が子宮頸部に限局するもの、または臨床的に明らかではないがⅠ a期をこえるもの。
  Ⅰb1期:病巣が4cm 以内のもの。
  Ⅰb2期:病巣が4cm をこえるもの。

Ⅱ期:癌が頸部をこえて広がっているが、骨盤壁または腟壁下1/3には達していないもの。
  Ⅱa期:腟壁浸潤が認められるが、子宮傍組織浸潤は認められないもの。
  Ⅱb期:子宮傍組織浸潤の認められるもの。

Ⅲ期:癌浸潤が骨盤壁にまで達するもので、腫瘍塊と骨盤壁との間にcancer free space を残さない。または、腟壁浸潤が下1/3 に達するもの。
 Ⅲa期:腟壁浸潤は下1/3 に達するが、子宮傍組織浸潤は骨盤壁にまでは達していないもの。
 Ⅲb期:子宮傍組織浸潤が骨盤壁にまで達しているもの。または、明らかな水腎症や無機能腎を認めるもの。
 注:ただし、明らかに癌以外の原因によると考えられる水腎症や無機能腎は除く。

Ⅳ期:癌が小骨盤腔をこえて広がるか、膀胱、直腸の粘膜を侵すもの。
 Ⅳa期:膀胱、直腸の粘膜への浸潤があるもの。
 Ⅳb期:小骨盤腔をこえて広がるもの。

[注1]FIGO分類の0期には上皮内癌とCIN3が併記してある。
[注2]浸潤の深さについてFIGO分類では腺上皮の基底膜からの計測も併記されている。

分類にあたっての注意事項

(1)臨床進行期分類は原則として治療開始前に決定し、以後これを変更してはならない。

(2)進行期分類の決定に迷う場合には軽い方の進行期に分類する。FIGOでは習熟した医師による麻酔下の診察を勧めている。

(3)進行期決定のために行われる臨床検査は以下のものである。
 a)触診、視診、コルポスコピー、診査切除、頸管内掻爬、子宮鏡、膀胱鏡、直腸鏡、排泄性尿路造影、肺および骨のX 線検査。
 b)子宮頸部円錐切除術は,臨床検査とみなす。

(4)リンパ管造影、動・静脈撮影、腹腔鏡、CT、MRI 等による検査結果は治療計画決定に使用するのは構わないが、進行期の決定に際しては、これらの結果に影響されてはならない。その理由は、これらの検査が日常的検査として行われるには至っておらず、検査結果の解釈に統一性がないからである。
 CT や超音波検査で転移が疑われるリンパ節の穿刺吸引細胞診は、治療計画に有用と思われるが、進行期決定のための臨床検査とはしない。

(5)Ⅰa1期とⅠa2期の診断は、摘出組織の顕微鏡検査により行われるので、病巣がすべて含まれる円錐切除標本により診断することが望ましい。
 Ⅰa期の浸潤の深さは、浸潤が起こってきた表層上皮の基底膜から計測して5mm をこえないものとする。浸潤の水平方向の広がり、すなわち縦軸方向の広がりは7mm をこえないものとする。静脈であれリンパ管であれ、脈管侵襲があっても進行期は変更しない。脈管侵襲や癒合浸潤が認められるものは将来治療方針の決定に影響するかもしれないので別途記載する。
 ただし、子宮頸部腺癌についてはⅠa1,Ⅰa2期の細分類は行わない。

(6)術前に非癌、上皮内癌、またはⅠa期と判断して手術を行い、摘出子宮にⅠa期、Ⅰb期の癌を認めた場合は(1)の規定にかかわらず、それぞれⅠa期,Ⅰb期とする。従来用いられていたⅠb期“occ”は省かれている。

(7)術前に非癌、上皮内癌、またはⅠa期と判断して子宮摘出を行ったところ、癌が子宮をこえて広がっていた場合に従来は一括して“Ch”群としていたが、このような症例は臨床進行期の分類ができないので治療統計には含まれない。これらは別に報告する。

(8)進行期分類に際しては子宮頸癌の体部浸潤の有無は考慮しない。

(9)Ⅲb期とする症例は子宮傍組織が結節状となって骨盤壁に及ぶか原発腫瘍そのものが骨盤壁に達した場合であり、骨盤壁に固着した腫瘍があっても子宮頸部との間にfree space があればⅢ b 期としない。

(10)膀胱または直腸浸潤が疑われるときは、生検により組織学的に確かめなければならない。膀胱内洗浄液中への癌細胞の出現、あるいは胞状浮腫の存在だけではⅣa期に入れてはならない。膀胱鏡所見上、隆起と裂溝が認められ、かつ、これが触診によって腫瘍と硬く結びついている場合、組織診をしなくてもⅣa期に入れてよい。

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TNM治療前臨床分類

1.T:原発腫瘍の進展度
 TX:原発腫瘍が評価できないもの.
 T0:原発腫瘍を認めない.
 Tis:浸潤前癌(carcinoma in situ )

 T1:癌が子宮頸部に限局するもの(体部への進展は考慮に入れない)。
  T1a:浸潤が組織学的にのみ診断できる浸潤癌。肉眼的に明らかな病巣は、たとえ表層浸潤であってもT1b とする。浸潤は、計測による間質浸潤の深さが5mm 以内で、縦軸方向の広がりが7mm をこえないものとする。浸潤の深さは、浸潤がみられる表層上皮の基底膜より計測して5mm をこえないものとする。浸潤の深さは、隣接する最も浅い上皮乳頭から浸潤最深部までを計測する。脈管(静脈またはリンパ管)侵襲があっても進行期は変更しない。
   T1a1:間質浸潤の深さが3mm 以内で、広がりが7mm をこえないもの。
   T1a2:間質浸潤の深さが3mm をこえるが5mm 以内で、広がりが7mm をこえないもの。
  T1b:臨床的に明らかな病巣が子宮頸部に限局するもの,または臨床的に明らかではないがT1aをこえるもの。
   T1b1:病巣が4cm 以内のもの。
   T1b2:病巣が4cm をこえるもの。

 T2:癌が子宮頸部をこえるが、骨盤壁には達していないもの。癌が腟に進展しているが、その下1/3には達していないもの。
  T2a:子宮傍結合織浸潤のないもの。
  T2b:子宮傍結合織浸潤を伴うもの。

 T3:癌が骨盤壁に達しているもの。直腸診で腫瘍と骨盤壁の間にcancer free space がない。癌が腟の下1/3を侵しているもの。癌によると思われる水腎症または無機能腎がみられるもの。
  T3a:骨盤壁には進展していないが、腟の下1/3を侵しているもの。
  T3b:骨盤壁に進展しているか、水腎症または無機能腎のあるもの。

 T4:癌が小骨盤腔をこえて進展しているか、膀胱または直腸の粘膜を臨床的に侵しているもの。

 [注1]FIGOの臨床進行期分類(1994 年)では,CINⅢもTis のカテゴリーに含まれている。
 [注2]Tis とT0 を混同しないこと。
 [注3]T0 は臨床所見より子宮頸癌と診断したが、原発巣より組織学的な癌の診断ができないもの(組織学的検索をせずに治療を始めたものを含む)。
 [注4]TX は組織学的に子宮頸癌と診断したが、その進行度の判定が何らかの障害で不可能なもの。

2.N:所属リンパ節

 所属リンパ節は,基靱帯リンパ節,閉鎖リンパ節,外腸骨リンパ節,内腸骨リンパ節,総腸骨リンパ節,仙骨リンパ節である.
 [注]鼠径上リンパ節は所属リンパ節に含める.
 [注]傍大動脈リンパ節はM 分類に入れる.

 NX:所属リンパ節を判定するための最低必要な検索が行われなかったとき。
 N0:所属リンパ節に転移を認めない。
 N1:所属リンパ節に転移を認める。

3.M:遠隔転移

 MX:遠隔転移の有無を判定するための最低必要な検索が行われなかったとき。
 M0:遠隔転移を認めない。
 M1:遠隔転移を認める。
 MA:傍大動脈リンパ節に転移を認める。

TNM分類の注意

(1)組織診のないものは区別して記載する。

(2)TNM 分類は一度決めたら変更してはならない。

(3)分類評価の判定には以下の検索が必要である。
  TNM 分類に必要な検査

   T分類:臨床的検索、膀胱鏡、直腸鏡、尿路造影を含む画像診断
   N分類:臨床的検索、尿路造影とリンパ管造影を画像診断
   M分類:臨床的検索、画像診断

(4)判定に迷う場合は進行度の低いほうの分類に入れる。

(5)複数の医師によって麻酔下に内診および直腸診することが望ましい。
近年の画像診断の普及を考慮すると、所属リンパ節転移の検索に対しては
腹部・骨盤CT、MRI、超音波検査などを用いることが望ましい。また、転移が疑われるときは、穿刺吸引細胞診をすることが望ましい。

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pTNM 術後分類

「この分類は治療法が決まるまでの情報を基にし、これを手術所見や治療目的で切除された材料の検索で得られた知見で、補足修正したものである」とTNM 分類総則に記されている。したがって、本来この分類はhistopathological な所見によって規定されているにもかかわらず、postsurgical という概念も加わっているため、切除時、切除後の肉眼所見や触診所見も加えるべきなのか、完全な組織学的検索に基づいた所見のみとすべきかが不明確である。この点を考慮して,日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会では以下のごとき注釈を加えた(pT,pN,pM はそれぞれTNM 分類に準ずる)

 [注1]子宮頸部円錐切除術は原則として臨床検査とみなし、これによる組織検査の結果はTNM 分類に入れ、pTNM 分類には入れない。ただし,臨床検査(狙い組織診、円錐切除診を含む)によって術前に確認された癌が、摘出子宮(治療を目的とした頸部円錐切除を含む)の組織学的検索では認められない場合、あるいは術前のものより軽度の癌しか認められない場合には、pT の記述は術前検査で確認された組織診によることとする。

 [注2]摘出物の組織学的な癌の広がりを検索しないときはX とする。

 [注3]不完全手術または試験開腹に終わり、その際バイオプシー程度の組織検査で癌の広がりを検索した結果、癌が小骨盤腔をこえていない場合はpTX とし、癌が小骨盤腔をこえて認められた場合はpT4 として報告する。またこのような場合のpN についての報告は注4 に準ずる。

 [注4]pN の報告に際して、組織学的検索を行わなかった場合は腫大リンパ節触知の有無を加味した以下の分類細目に従って報告する。

 [pN の分類細目]
組織学的検索を施行しなかった場合
 所属リンパ節に腫大を触知したか否かで以下のごとく記載する.
 所属リンパ節に腫大(-):pNX(0)
 所属リンパ節に腫大(+):pNX(1)
組織学的検索を施行した場合
 所属リンパ節に転移(-):pNR(0)
 [注]pN0 の決定:組織学的検査は骨盤内リンパ節10 個またはそれ以上の個数のリンパ節が通常含まれる。
 所属リンパ節に転移(+):pNR(1)


子宮頸癌、放射線治療

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

Ⅰ.はじめに

子宮頸癌に対する放射線療法はほぼ確立されており、手術療法に匹敵する治療成績が得られている。本邦では、臨床進行期Ⅰ期、Ⅱ期といった比較的早期の癌には手術療法が適用されており、Ⅲ期、Ⅳ期といった進行癌には放射線療法が適用されているのが実状である。一方、欧米では、手術可能なⅠ期、Ⅱ期の症例にも積極的に放射線療法が適用されている。

Ⅱ.放射線治療の適応

本邦では、臨床進行期に従って治療法が決定されているのが現状であるが、患者の状態によっては、進行期にかかわらず、放射線治療が第1選択となることもある。

放射線治療を優先する条件
高齢者
高度の肥満がある場合
重篤な合併症を有する場合
手術に対する患者の同意が得られない場合
(手術に対する恐怖,術後合併症に対する不安等)
術者の技術が未熟な場合

手術療法を優先する条件(放射線治療が回避される条件)
① 開腹手術既往、あるいは付属器炎・腹膜炎の既往があり、腹腔内に高度の癒着が予想される場合
② 妊娠を合併している場合
腟萎縮あるいは子宮萎縮が高度で、腔内照射が困難な場合
④ 放射線治療設備が十分でない施設
⑤ 患者が子宮残存を不安がる場合

最終的には、臨床進行期と患者の状態の両者の兼合いで治療法が決定される。

Ⅲ.放射線治療の実際

子宮頸癌の放射線治療は、原則として外部照射(体外照射)腔内照射を併用して行う。

1)外部照射

1.照射範囲は骨盤リンパ節を十分含める。照射は原則として腹背(前後)からの対向2門で実施する。
・腔内照射を効果的にするため、外部照射はできるだけ照射野の中央部を遮蔽した照射法を採用する。この場合、中央遮蔽は、4cm幅(A 点間距離)のものを用いる。
・その中央遮蔽をとれば全骨盤照射の照射野となる.

2.外部照射の治療スケジュールは原則として、週5 回の単純分割照射とし、週間病巣線量を10.0Gy前後とする。病巣総線量は40.0Gy以上を必要とする。
全骨盤照射では1回線量1.8
Gy中央遮蔽による照射では1回線量2.0Gyで照射するのが望ましい。
・例外として、腔内照射のみ、あるいは外部照射(全骨盤)のみで治療することがある。

2)腔内照射

1.腔内照射は原則として、子宮内線源(tandem)腟内線源(ovoid)による照射を併用する。

2.腔内照射は腔内照射可能となった時点で、外部照射期間中のできるだけ早期に開始する。

3.Tandem とovoid は同時に使用されるが、別個に使用されることもある。

4.Tandem 線源は子宮底まで挿入する。

5.Ovoid 線源の線源間隔はできるだけ大きいものを使用する。

6.腔内照射の線源配置は歴史のあるマンチェスター法または類似の方法で治療することが望ましい。
・マンチェスター類似の線源配置とはtandem とovoid の各線源の強さ(放射能と照射時間の積)が同程度のことをいう。

7.腔内照射の病巣線量A 点線量を基準にする。

8.A 点の定義:外子宮口を基準として、前額面上、子宮腔長軸に沿って上方2cmの高さを通る垂線上で、側方に左右それぞれ2cmの点とし、腔内照射の病巣線量の基準点に用いる。
・A 点線量は原発巣の治療量、膀胱・直腸の障害量の指標となる。

9.A 点線量は左右2つあるが、左右差があるときは少ない方の線量を用いる。

10.B 点の定義:骨盤腔内にて、前額面上の左右A 点の中間の高さで正中線より側方5cmの点をいう。
・B 点線量は、骨盤壁への浸潤病巣、骨盤リンパ節に対する治療量の指標となる。

11.腔内照射は治療ごとに線量計算を実施する線源位置確認のX線写真は治療ごとに撮影する。撮影の際、腟内にリングを入れておけば拡大率を計算できる。

12.直腸,膀胱の被曝線量は実測または計算によって求めることが望ましい。

13.高線量率腔内照射の略称はRALS(Remote After Loading System)とする。

14.腔内照射の治療は原則として次のような条件で照射することが望ましい。
RALS 治療では中央遮蔽の外部照射の場合、週1回5.0~6.0Gyで5回照射し、病巣総線量を29.0±3.0Gyとする全骨盤外部照射で20.0~30.0Gy照射された場合は、週1回の腔内照射を4 回実施し、病巣総線量を20.0~25.0Gyとする

低線量率治療では、外部照射が中央遮蔽で実施された場合、週1回の照射で3~4回実施し、病巣総線量を50.0±5.0Gyとする

・腔内照射の病巣総線量を示すときは分割回数を明記する。

3)期別による基準治療法

病巣の大きさ、広がり、病理組織など、個人により病状が異なるので、期別による基準治療法を一律に決めることは難しいが、基本的には下に示した参考例に準じて実施することが望ましい。

標準治療スケジュール(日本)
進行期 外部照射(Gy) 腔内照射(Gy/回、A点線量)
全骨盤 中央遮蔽 高線量率 低線量率
45 ~ 50 29/5 50/4
II 45 ~ 50 29/5 50/4
20 30 23/4 40/3
III 小 ~ 中 20 ~ 30 20 ~ 30 23/4 30/2 ~ 40/3
30 ~ 40 20 ~ 25 15/3 ~ 20/4 30/2 ~ 40/3
IVA 30 ~ 50 10 ~ 20 15/3 ~ 20/4 20/2 ~ 40/3

4)術後照射

1.術後照射とは、手術で肉眼的には病巣が十分切除されているが、顕微鏡的な癌細胞の残存が疑われる場合に行う予防照射のことである。

2.術後照射の適応には次のような症例が考えられる。
a)リンパ節転移陽性例
b)子宮傍組織浸潤例
c)上記以外で原発浸潤の著しい例、または脈管侵襲の認められる例
d)腟壁摘出が不十分と考えられる例

3.術後照射は原則として外部照射で実施する。
全骨盤照射か中央遮蔽かは症例ごとに放射線科医と婦人科医で話し合って決める。
1日1.8~2.0Gy、週5回の照射とし、病巣総線量が40.0~50.0Gy程度になるのが望ましい。
・腟断端部の照射のみが必要なときは、ovoid を使用し、病巣線量の基準は断端粘膜表面から5mmの深さとする。病巣総線量は、低線量率治療で40.0Gy/2分割高線量率治療では24.0Gy/2分割程度が望ましい。

5)傍大動脈リンパ節照射

現状では、照射の意義が確立されているとはいえず、標準的指針はない。原発巣の病期や骨盤内リンパ節転移、脈管侵襲等の有無とその程度を考慮し適応を決定する。

6)子宮頸部腺癌の治療

主として手術療法が選択されるが、手術不能例では、集学的治療の立場から放射線治療を行う。照射方法は扁平上皮癌に準じて行う。

7)高齢者の放射線治療

病期(腫瘍因子)だけでなく、合併症の有無や一般状態(患者因子)を十分に検討し、個別化した治療を行う。

Ⅳ.治療成績

東京女子医科大学および慶應義塾大学医学部の放射線科における子宮頸癌に対する放射線治療の5年生存率をみると、Ⅰ期80~84%Ⅱ期71%Ⅲ期47~53%ⅣA 期12~32%と、手術療法と遜色のない成績が報告されている。

Ⅴ.放射線治療による合併症

放射線治療による合併症には、照射中に出現する急性反応と、照射終了後に出現する晩期合併症がある。急性反応は、通常一過性のものであり、永久的な障害を残すことはないが、照射中に強い急性反応を示した症例は晩期合併症も出現する可能性が高い

急性反応
放射線宿酔
直腸炎、小腸炎症状(下痢、腹痛、嘔吐)
膀胱炎症状
皮膚障害
骨髄抑制

晩期合併症
直腸、S状結腸障害(出血、直腸腟瘻)
小腸障害(腸閉塞,穿孔)
尿路障害(出血,感染,膀胱腟瘻・尿管腟瘻)
外陰,腟障害(狭窄,閉鎖)

放射線治療における合併症の程度による分類
Ⅰ度:一過性障害(合併症)で治療の必要のないもの
Ⅱ度:持続的障害(合併症)で内科的治療を必要とするもの
Ⅲ度:高度の障害(合併症)で外科的処置を必要とするもの
Ⅳ度:障害(合併症)による死亡

Ⅲ度の合併症発生率は約4~11%といわれている。進行癌では照射線量が多くなるため合併症の発生頻度が高くなる。

低線量率照射法と高線量率照射法との間には合併症の発生率に差がないといわれているが、高線量率照射における1回線量が7.0Gyを越えると合併症が有意に増加すると報告されている。至適1回投与量、分割回数については、まだ検討の余地がある。

Ⅵ.化学放射線同時併用療法
  (Concurrent chemoradiation : CCR)

最近、放射線治療成績改善のため、放射線治療に化学療法を組み合わせた方法が試みられている。放射線治療の前に化学療法を行い、腫瘍縮小とともに顕微鏡的遠隔転移病巣の治療を目的としたNeoadjuvant Chemotherapy(NAC)、および化学療法と放射線療法を同時に行うConcurrent Chemoradiation (CCR)がそれである。

NAC後の放射線治療については、メタアナリシスの結果、その効果が否定的な結論となったため、最近は、試みられなくなっている。

一方、CCRは最近盛んに行われており、相次いで、その有効性が報告されている。この方法の利点は以下の通りである。

化学放射線同時療法の利点
① 放射線療法と抗癌剤の相乗効果が期待できる。
② 主治療である放射線治療を早く開始できる。
③ 交叉耐性が出現する余裕を与えずに治療できる。
④ 原発巣と遠隔病変を同時に治療できる。

これらの報告の共通点は、CDDP を用いたCCR によって、放射線単独療法群やCDDP以外の薬剤併用群より有意に高い生存率が得られたということである。米国では、NCIが,CDDP 併用によるCCR を推奨する勧告を出しており、今後、本邦においても、進行頸癌、あるいは再発頸癌の治療において、プラチナ製剤を併用したCCR が主流になると思われる。今後は使用する化学療法の併用薬剤および投与法の検討が必要である。

****** 問題と解答

Q437 子宮頚癌の放射線治療について、誤っているものはどれか。
a)A点線量とは外照射を行う場合の照射線量の目安となるものである
b)B点線量とは骨盤リンパ節への照射線量の目安となる
c)外部照射を行う際に中央遮蔽を入れるのは、膀胱直腸障害を軽減するためである
d)外部照射の治療線量としては、通常、週間病巣線量を10.0Gy前後とし、総線量は40,0Gy以上を必要とする。
e)子宮頚癌の病期によって、照射方法および照射総線量が異なる

解答:a

a)A点の定義:外子宮口を基準として、前額面上、子宮腔長軸にそって上方2cmの高さを通る垂線上で、側方に左右それぞれ2cmの点とし、腔内照射の病巣線量の基準点に用いる。
 A点線量は原発巣の治療量、膀胱・直腸の障害量の指標となる。
 A点線量は左右2つあるが、左右差があるときは少ない方の線量を用いる。

b)B点の定義:骨盤腔内にて、前額面上の左右A点の中間の高さで正中腺より側方5cmの点をいう。
 B点線量は、骨盤壁への浸潤病巣、骨盤リンパ節に対する治療量の指標となる。

c)外部照射の治療スケジュールは原則として、週5回の単純分割照射とし、週間病巣線量を10.0Gy前後とする。病巣総線量は40.0Gy以上を必要とする。

******

Q438 放射線治療に使われる機器の説明について、誤っているものはどれか。
a)RALSとは遠隔操作で腔内照射を行うものである
b)tandemとは子宮腔の長軸に沿って直線的に線源を並べる子宮腔内管をいう
c)ovoidとは左右の腟円蓋部を進展させるように装填される線源支持器をいう
d)線源位置はほとんど変わらないので、確認のX線写真は一度撮影すれば十分である
e)tandemとovoidは別個に用いられることもある

解答:d

a)高線量率腔内照射RALS (Remote After Loading System)

d)線源位置確認のX線写真は治療ごとに撮影する

e)腔内照射は原則として、子宮内線源(tandem)と腟内線源(ovoid)による照射を併用するが、別個に使用されることもある。

******

Q439 子宮頚癌の手術療法と放射線療法の比較について、誤っているものはどれか。
a)肥満の女性に放射線療法は適している
b)高度の糖尿病がある患者には放射線治療が適している
c)高齢の患者には放射線療法が適している
d)腟の狭小な患者に放射線治療は不利である
e)手術の既往や癒着のある症例には放射線療法がよい

解答:e

放射線治療を優先する条件
① 高齢者
② 高度の肥満がある場合
③ 重篤な合併症を有する場合
④ 手術に対する患者の同意が得られない場合
(手術に対する恐怖,術後合併症に対する不安等)
⑤ 術者の技術が未熟な場合

手術療法を優先する条件(放射線治療が回避される条件)
① 開腹手術既往、あるいは付属器炎・腹膜炎の既往があり、腹腔内に高度の癒着が予想される場合
② 妊娠を合併している場合
③ 腟萎縮あるいは子宮萎縮が高度で、腔内照射が困難な場合
④ 放射線治療設備が十分でない施設
⑤ 患者が子宮残存を不安がる場合

******

Q440 子宮頚癌術後照射の適応について、誤っているものはどれか。
a)子宮傍組織浸潤例
b)骨盤リンパ節転移例
c)子宮体部浸潤例
d)子宮頸部筋層内浸潤および脈管侵襲が著しい例
e)腟壁摘出が不十分と考えられた例

解答:c

術後照射の適応
・リンパ節転移陽性例
・子宮傍組織浸潤例
・上記以外で原発浸潤の著しい例、または脈管侵襲の認められる例
・腟壁摘出が不十分と考えられる例

******

Q441 放射線障害について、誤っているのはどれか。
a)放射線治療中に、下痢をきたすことが多い
b)放射線治療中、白血球減少がみられる
c)放射線直腸炎で出血があっても、放射線治療終了後、1年もたてば止血するのが普通である
d)放射線治療終了後、腟が閉鎖することがある
e)放射線治療終了後、1年以上経っても血尿が続くことがある

解答:c

c)照射中に強い急性反応を示した症例は晩期合併症も出現する可能性が高い。

Ⅲ度(高度の障害で外科的処置を要するもの)の合併症発生率は約4~11%といわれている。

急性反応
・放射線宿酔
・直腸炎、小腸炎症状(下痢、腹痛、嘔吐)
・膀胱炎症状
・皮膚障害
・骨髄抑制

晩期合併症
・直腸、S状結腸障害(出血、直腸腟瘻)
・小腸障害(腸閉塞,穿孔)
・尿路障害(出血,感染,膀胱腟瘻・尿管腟瘻)
・外陰,腟障害(狭窄,閉鎖)


子宮頚癌、化学療法

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

子宮頚癌の緩解導入または補助化学療法(例)

BOMP療法:BLM、VCR、MMC、CDDP

BIP療法:BLM、IFM、CDDP

PIP療法:PEP、IFM、CDDP

P-CPT療法:CPT11、CDDP

CPT-11+ネダプラチン療法:CPT-11、254-S

NIP療法:254-S、IFM、PEP

エトポシド単独(経口)療法:ETP


子宮頚癌、問題と解答

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

Q427 子宮頚癌Ⅰ期に関して誤っているのはどれか。
a)○Ⅰa期細分類は子宮頸部腺癌には適応されない
b)○Ⅰa期の診断は縦軸方向の広がりに規定される
c)○Ⅰa1期とⅠa2期の診断は、円錐切除標本により診断することが望ましい
d)×組織学的にⅠa2期の診断であっても、脈管侵襲がみられる場合はⅠb期とする
e)○Ⅰa期までの術前診断で摘出子宮にⅠb期の癌を認めた場合Ⅰb期とする

解答:d

a)子宮頸部腺癌についてはⅠa1期、Ⅰa2期の細分類は行わない。

b)Ⅰa期:組織学的にのみ診断できる浸潤癌。肉眼的に明らかな病巣はたとえ表層浸潤であってもⅠb期とする。浸潤は、計測による間質浸潤の深さが5 mm 以内で、縦軸方向の広がりが7 mm をこえないものとする。

c)Ⅰa1期とⅠa2期の診断は、摘出組織の顕微鏡検査により行われるので、病巣がすべて含まれる円錐切除標本により診断することが望ましい。

d)脈管(静脈またはリンパ管)侵襲があっても進行期は変更しない。

e)術前に非癌、上皮内癌、またはⅠa期と判断して子宮摘出を行い、摘出子宮にⅠa期、Ⅰb期の癌が認められた場合には、それぞれⅠa期、Ⅰb期とする

******

Q428 子宮頸部腺癌について正しいのはどれか。2つ選べ。
a)×粘液性腺癌は内頸部型、腸型、類内膜型に分けられる
b)×上皮内腺癌か微小浸潤腺癌か判定が困難な場合、微小浸潤腺癌に分類する
c)×上皮内腺癌では扁平上皮初期病変との共存はまれである
d)○上皮内腺癌の診断には頸部円錐切除術またはそれに準じた方法が望ましいが困難である。
e)○悪性腺腫では、ほとんどの腺は組織学的に正常の内頸腺と区別できない


解答:d、e

a)子宮頸部の浸潤腺癌のうち最も頻度の高いものは粘液性腺癌であり、腫瘍の細胞質内に粘液を認めることが特徴である。内頸部型、腸型に分けられる。

b)上皮内腺癌か微小浸潤腺癌かの判定が困難な症例は上皮内腺癌とされる
 
また、微小浸潤癌と浸潤癌との鑑別が困難な例は浸潤癌とされる

c)上皮内腺癌は40~100%と高い確率で扁平上皮の異形成、上皮内癌、微小浸潤癌と共存し、それらの手術摘出検体中に偶然発見されることもある。

d)上皮内腺癌の術前細胞診での診断は困難であることが少なくない。

e)悪性腺腫では、細胞異型や構造異型をほとんど伴わない

******

Q429 子宮頚癌TNM分類(UICC、1997年)について誤っているのはどれか。
a)○T1は癌が子宮頸部に限局するものである
b)○TNM分類は一度決めたら変更してはならない
c)×所属リンパ節には、傍大動脈リンパ節が含まれる
d)○Nの記載に際し、画像診断を施行しなかった症例についてはNX(0)またはNX(1)と記載する
e)○判定に迷う場合は進行度の低いほうの分類に入れる

解答:c

a)T1:癌が子宮頸部に限局するもの(体部への進展は考慮に入れない)。

c)所属リンパ節は、基靱帯リンパ節、閉鎖リンパ節、外腸骨リンパ節、内腸骨リンパ節、総腸骨リンパ節、仙骨リンパ節、鼠径上リンパ節である。
 
なお、傍大動脈リンパ節はM分類に入れる。
 MA:傍大動脈リンパ節に転移を認める。

d)NX:所属リンパ節を判定するための最低必要な検索が行われなかったとき。

******

Q430 子宮頸部の扁平上皮病変について誤っているのはどれか。
a)○尖形コンジローマは通常コイロサイトーシスの形態を示す
b)○軽度異形成は異形成が上皮の下層1/3に限局する
c)×上皮内癌で腺侵襲を伴うものは微小浸潤癌とされる
d)○扁平上皮癌の非角化型は角化真珠形成を伴わない
e)○特殊型の一つとして疣状癌がある

解答:c

b)軽度異形成:核異型を示すN/C比の高い細胞が主として扁平上皮の下1/3に存在するが、上2/3は扁平上皮への分化が明瞭に認められる。細胞質は豊富であり、核異型は軽度である。HPV感染による細胞異型であるコイロサイトーシスは軽度異形成に含まれる。

c)上皮内癌:癌としての形態学的特長をもつ細胞が上皮の全層に及ぶものをいう。本病変にはしばしば腺侵襲をともなうが、これは浸潤としない

d)扁平上皮癌の角化傾向を指標として組織学的に角化型、非角化型に分類される。両者の鑑別は角化傾向が著明か否かであり、非角化型では角化はあっても単一細胞角化にとどまり角化真珠(癌真珠)は認められない

e)扁平上皮癌の特殊型として、疣状癌、コンジローマ様癌、乳頭状扁平上皮癌、リンパ上皮腫様癌がある。
 疣(いぼ)状癌:乳頭状外向性増殖を示し、間質浸潤部の先端は膨張性の上皮突起を形成する高度に分化した扁平上皮癌で、角化型の変異型とみなされる。組織学的に異型性は少ない。HPV感染所見はみいだされない。切除後、局所再発することはあるが、通常遠隔転移は形成しない。
 コンジローマ様癌:表面がいぼ状でかつHPV感染所見を伴う扁平上皮癌をいう。

******

Q431 子宮頸癌臨床進行期分類(日産婦1997年、FIGO 1994年)に関して誤っているのはどれか。
a)○臨床的に明らかな病巣が子宮頸部に限局し、病巣が4cmをこえるものはⅠb2期となる
b)×膀胱内洗浄液中に癌細胞が出現している場合、Ⅳa期に入れる
c)○子宮頚癌の体部浸潤は進行期に影響しない
d)○原則として治療開始前に決定し、以後これを変更してはならない
e)○進行期分類の決定に迷う場合は軽い方の進行期に分類する

解答:b

a)Ⅰb期:臨床的に明らかな病巣が子宮頸部に限局するもの、または臨床的に明らかではないがⅠa期をこえるもの。
Ⅰb1期:病巣が4cm以内のもの。
Ⅰb2期:病巣が4cmをこえるもの。

b)Ⅳ期:癌が小骨盤腔をこえて広がるか、膀胱、直腸の粘膜を侵すもの。
Ⅳa期:膀胱、直腸への浸潤があるもの。
Ⅳb期:小骨盤腔をこえて広がるもの。
 膀胱または直腸浸潤が疑われるときは、生検により組織学的に確かめなければならない。膀胱内洗浄液中への癌細胞の出現、あるいは胞状浮腫の存在だけではⅣa期に入れてはならない。膀胱鏡所見上、隆起と裂溝が認められ、かつ、これが触診によって腫瘍と硬く結びついている場合、組織診をしなくてもⅣa期に入れてよい。

******

Q432 次のうち正しいものはどれか。
a)×広汎子宮全摘出術には傍大動脈リンパ節郭清術も含まれる
b)×下腹神経はL4から出る交感神経である →T11~L2
c)×卵巣動脈は内腸骨動脈から分岐する
d)○尿管は膀胱子宮靱帯内を走行して膀胱に入る
e)×広汎子宮全摘出術は膀胱子宮靱帯の前層処理で完遂できる

解答:d

a)郭清範囲:総腸骨節、外腸骨節、鼠径上節、閉鎖節、内腸骨節、基靱帯節

b)交感神経T11~L2より発し、下腹神経として直腸の両側を下降し、仙骨子宮靱帯および直腸腟靱帯の外側を走行し、骨盤神経叢を形成し、さらに膀胱に至り排尿筋を弛緩させる。
 副交感神経S2~S4より発し、骨盤神経として基靱帯の神経部分を構成し、交感神経とともに骨盤神経叢を形成し、排尿筋を収縮させる。

c)卵巣動脈は腹大動脈から分岐する。

e)広汎子宮全摘術では、膀胱子宮靱帯の前層処理に引き続き、後層処理が行われる

******

Q433 次のうち正しいものはどれか。
a)×子宮頚癌Ⅰa1期の手術治療ではリンパ節の郭清を実施しなければならない
b)○生検で上皮内癌と診断され子宮全摘を行ったが、組織診は3mm以内の微小浸潤癌であったので進行期Ⅰa1と訂正した
c)子宮頚癌では付属器転移が約20%に認められる →扁平上皮癌で1%以下腺癌で4~8%
d)子宮頚癌Ⅰa2期リンパ節転移は約15%である →4.8% (Novak’s Gynecology)
e)×広汎子宮全摘出術では腟傍組織の切断・結紮を行わなくともよい

解答:b

a)Ⅰa1期の手術治療は基本的には0期と同様である。リンパ節の郭清は最近ほとんど実施されてない。脈管侵襲が存在する症例へのリンパ節郭清の実施は個別化される。

b)術前に非癌、上皮内癌、またはⅠa期と判断して子宮摘出を行い、摘出子宮にⅠa期、Ⅰb期の癌が認められた場合には、それぞれⅠa期、Ⅰb期とする

c)子宮頚癌Ⅰb期癌の卵巣転移の頻度は、扁平上皮癌で1%以下腺癌で4~8%である。

d)子宮頚癌Ⅰa2期のリンパ節転移は4.8%(Berek JS: Novak’s Gynecology, 2002)

e)広汎子宮全摘術では、腟傍組織の切断・結紮を行う。

****** 

Q434 次のうち誤っているものはどれか。
a)×傍大動脈節は子宮頚癌の所属リンパ節なのでリンパ節郭清は実施される
b)○準広汎子宮全摘出術では膀胱子宮靱帯の前層のみ処理する
c)○子宮頸部腺癌には我が国の取り扱い規約ではⅠa期の細分類はない
d)○広汎性全摘出術での腟壁の切除は病巣から3cm以上離れて実施されることが望ましい
e)○腟壁の切除の長さが充分でない場合、切除を追加した

解答:a

a)所属リンパ節は、基靱帯リンパ節、閉鎖リンパ節、外腸骨リンパ節、内腸骨リンパ節、総腸骨リンパ節、仙骨リンパ節、鼠径上リンパ節である。なお、傍大動脈リンパ節はM分類に入れる。
 MA:傍大動脈リンパ節に転移を認める。

d)広汎子宮全摘における腟切断では、腟管は病巣から3cm以上離れた部位を切断する

******

Q435 子宮頚癌の進行状態で骨盤除臓術が適応となるものはどれか。
a)×膀胱浸潤が疑われるⅢb期子宮頚癌
b)○基靱帯浸潤が骨盤壁に達していないが直腸浸潤が疑われる症例
c)×肺転移が疑われるが、Ⅳa期子宮頚癌
d)×放射線治療後のすべての局所再発症例
e)×膀胱剥離が困難なⅢb期子宮頚癌

解答:b

骨盤除臓術:膀胱、直腸など骨盤内臓器全部含めて摘出する全除臓術のほかに、直腸を温存する前方除臓術、膀胱を温存する後方除臓術がある。遠隔転移がある場合は適応とならない。対象はⅣa期

******

Q436 次のうち正しいものはどれか。
a)×円錐切除の組織標本で病巣から切除端までの正常組織が2mmあるので適切と判断した →最低3 mm
b)×腺癌で病巣の深さが表層から3mm以内でかつ幅が7mm以内であることからⅠa1期と診断した
c)○膀胱の機能には下腹神経と骨盤神経が関与する
d)×欧米でも子宮頚癌Ⅱb期は広汎子宮全摘出術の適応になっている
e)×腟傍組織の部分には血管が豊富でないことから、結紮は通常の方法でよい

解答:c

a)円錐切除術では、病巣から最低3mm離れた位置に円周切開を加える

b)微小浸潤腺癌の細分類は行われない。

c)交感神経はT11~L2より発し、下腹神経として直腸の両側を下降し、仙骨子宮靱帯および直腸腟靱帯の外側を走行し、骨盤神経叢を形成し、さらに膀胱に至り排尿筋を弛緩させる。
 副交感神経はS2~S4より発し、骨盤神経として基靱帯の神経部分を構成し、交感神経とともに骨盤神経叢を形成し、排尿筋を収縮させる。

d)欧米、特に米国では、Ⅱb期は手術治療の適応になっていない

e)腟傍組織は強彎曲鉗子をかけて切断、結紮する

******

Q437 子宮頚癌の放射線治療について、誤っているものはどれか。
a)×A点線量とは外照射を行う場合の照射線量の目安となるものである
b)○B点線量とは骨盤リンパ節への照射線量の目安となる
c)○外部照射を行う際に中央遮蔽を入れるのは、膀胱直腸障害を軽減するためである
d)○外部照射の治療線量としては、通常、週間病巣線量を10.0Gy前後とし、総線量は40,0Gy以上を必要とする。
e)○子宮頚癌の病期によって、照射方法および照射総線量が異なる

解答:a

a)A点の定義:外子宮口を基準として、前額面上、子宮腔長軸にそって上方2cmの高さを通る垂線上で、側方に左右それぞれ2cmの点とし、腔内照射の病巣線量の基準点に用いる。
 A点線量は原発巣の治療量、膀胱・直腸の障害量の指標となる。
 A点線量は左右2つあるが、左右差があるときは少ない方の線量を用いる

b)B点の定義:骨盤腔内にて、前額面上の左右A点の中間の高さで正中腺より側方5cmの点をいう。
 B点線量は、骨盤壁への浸潤病巣、骨盤リンパ節に対する治療量の指標となる。

c)外部照射の治療スケジュールは原則として、週5回の単純分割照射とし、週間病巣線量を10.0Gy前後とする。病巣総線量は40.0Gy以上を必要とする。

******

Q438 放射線治療に使われる機器の説明について、誤っているものはどれか。
a)○RALSとは遠隔操作で腔内照射を行うものである
b)○tandemとは子宮腔の長軸に沿って直線的に線源を並べる子宮腔内管をいう
c)○ovoidとは左右の腟円蓋部を進展させるように装填される線源支持器をいう
d)×線源位置はほとんど変わらないので、確認のX線写真は一度撮影すれば十分である
e)○tandemとovoidは別個に用いられることもある

解答:d

a)高線量率腔内照射RALS (Remote After Loading System)

d)線源位置確認のX線写真は治療ごとに撮影する

e)腔内照射は原則として、子宮内線源(tandem)と腟内線源(ovoid)による照射を併用するが、別個に使用されることもある。

******

Q439 子宮頚癌の手術療法と放射線療法の比較について、誤っているものはどれか。
a)○肥満の女性に放射線療法は適している
b)○高度の糖尿病がある患者には放射線治療が適している
c)○高齢の患者には放射線療法が適している
d)○腟の狭小な患者に放射線治療は不利である
e)×手術の既往や癒着のある症例には放射線療法がよい

解答:e

放射線治療を優先する条件
① 高齢者
② 高度の肥満がある場合
③ 重篤な合併症を有する場合
④ 手術に対する患者の同意が得られない場合
(手術に対する恐怖,術後合併症に対する不安等)
⑤ 術者の技術が未熟な場合

手術療法を優先する条件(放射線治療が回避される条件)
① 開腹手術既往、あるいは付属器炎・腹膜炎の既往があり、腹腔内に高度の癒着が予想される場合
② 妊娠を合併している場合
③ 腟萎縮あるいは子宮萎縮が高度で、腔内照射が困難な場合
④ 放射線治療設備が十分でない施設
⑤ 患者が子宮残存を不安がる場合

******

Q440 子宮頚癌術後照射の適応について、誤っているものはどれか。
a)○子宮傍組織浸潤例
b)○骨盤リンパ節転移例
c)×子宮体部浸潤例
d)○子宮頸部筋層内浸潤および脈管侵襲が著しい例
e)○腟壁摘出が不十分と考えられた例

解答:c

術後照射の適応
・リンパ節転移陽性例
・子宮傍組織浸潤例
・上記以外で原発浸潤の著しい例、または脈管侵襲の認められる例
・腟壁摘出が不十分と考えられる例

******

Q441 放射線障害について、誤っているのはどれか。
a)○放射線治療中に、下痢をきたすことが多い
b)○放射線治療中、白血球減少がみられる
c)×放射線直腸炎で出血があっても、放射線治療終了後、1年もたてば止血するのが普通である
d)○放射線治療終了後、腟が閉鎖することがある
e)○放射線治療終了後、1年以上経っても血尿が続くことがある

解答:c

c)照射中に強い急性反応を示した症例は晩期合併症も出現する可能性が高い。

Ⅲ度(高度の障害で外科的処置を要するもの)の合併症発生率約4~11%といわれている。

急性反応
・放射線宿酔
・直腸炎、小腸炎症状(下痢、腹痛、嘔吐)
・膀胱炎症状
・皮膚障害
・骨髄抑制

晩期合併症
・直腸、S状結腸障害(出血、直腸腟瘻)
・小腸障害(腸閉塞,穿孔)
・尿路障害(出血,感染,膀胱腟瘻・尿管腟瘻)
・外陰,腟障害(狭窄,閉鎖)


子宮体癌

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

子宮体癌の組織分類

1.類内膜癌 endometrioid carcinoma

類内膜腺癌 endometrioid adenocarcinoma
 正常子宮内膜腺に類似した形態を示す癌腫をいう。類内膜腺癌は子宮内膜癌のなかでは最もよくみられる癌である。

扁平上皮への分化を伴う類内膜腺癌 endometrioid adenocarcinoma with squamous differentiation
 良性ないし悪性の形態を示す扁平上皮への分化が局所的にみられる類内膜腺癌をいう。

 腺扁平上皮癌 adenosquamous cell carcinoma
 腺棘細胞癌 adenoacanthoma

類内膜癌は腺癌成分の形態により、Grade 1、2、3に分類される。分類の指標は、構造異型と細胞異型の異型の程度であり、細胞異型では特に核異型が重視される。

類内膜腺癌では、細胞異型の程度は構造異型の程度と並行することが多い。構造異型によるGradeに不釣合いな著しい核異型を示す場合は、構造異型からはGrade 1であってもGrade 2に、同様にGrade 2はGrade 3と判定する。扁平上皮への分化を伴う腺癌のGradeは腺癌成分によって判定する。

漿液性腺癌 serous Adenocarcinoma
 乳頭状に入り組んだ構造と細胞の芽出を特徴とする腺癌で、しばしば砂粒体を伴う。漿液性腺癌の組織学的なGradeは核異型により判定する。

2.明細胞腺癌 clear cell Adenocarcinoma
 主に明細胞ないしホブネイル細胞からなる腺癌で、充実性、管状嚢胞性、乳頭状ないしこれらの混在した組織構造を示す。

明細胞腺癌の組織学的なGradeは核異型により判定する。

3.粘液性腺癌 mucinous Adenocarcinoma
 粘液性腺癌は通常は高分化型腺癌で、子宮頸部の粘液性腺癌に類似する。

4.扁平上皮癌 squamous cell carcinoma
 扁平上皮に類似する癌腫である。子宮内膜では扁平上皮癌はまれである。
扁平上皮癌の組織学的なGradeは核異型により判定する。

5.混合癌 mixed carcinoma
 複数の組織型が混在する癌腫で、各成分は腫瘍全体の少なくとも10%を占めるものをいう。

6.未分化癌 undifferentiated carcinoma
 上記のいかなる組織型にも該当しない未分化な癌をいう。

****** 発生機序による分類

・Ⅰ型子宮体癌

 発生機序:unopposed estrogenの長期持続により、子宮内膜異型増殖症を経由しそれが癌に至るもの
 好発年齢:閉経前~閉経早期
 頻度:80~90%
 病巣周辺の子宮内膜異型増殖症:あり
 組織型:類内膜腺癌
 分化度:高分化型
 筋層浸潤:軽度
 予後:比較的良好
 遺伝子K-ras(癌原遺伝子)、PTEN(癌抑制遺伝子)の変異が高率で見られる

******

・Ⅱ型子宮体癌

 発生機序:子宮内膜異型増殖症を介さないで癌化するもの(de novo癌)
 頻度:10~20%
 病巣周辺の子宮内膜異型増殖症:なし
 組織型:漿液性腺癌、明細胞癌など
 分化度:低分化型
 筋層浸潤:高度
 予後:不良
 遺伝子p53(癌抑制遺伝子)の変異が高率に見られる

******

子宮体癌の進行期分類

子宮体癌の進行期分類は、日本産科婦人科学会(日産婦)では、治療前の進行期分類として、臨床進行期分類(日産婦1983、FIGO1982 )とUICC(International Union Against Cancer)によるTNM 分類、術後分類として、手術進行期分類(日産婦1995、 FIGO 1988)とUICCによるpTNM 分類(内容はTNM 分類に準ずる)を採用している。

A. 手術進行期分類(日産婦 1995,FIGO 1988)

0 期 子宮内膜異型増殖症

Ⅰ期 癌が子宮体部に限局するもの
 Ⅰa 期 子宮内膜に限局するもの
 Ⅰb 期 浸潤が子宮筋層1/2以内のもの
 Ⅰc 期 浸潤が子宮筋層1/2をこえるもの

Ⅱ期 癌が体部および頸部に及ぶもの
 Ⅱa 期 頸管腺のみを侵すもの
 Ⅱb 期 頸部間質浸潤のあるもの

Ⅲ期 癌が子宮外に広がるが、小骨盤をこえていないもの、または所属リンパ節転移のあるもの
 Ⅲa 期 漿膜ならびに/あるいは付属器を侵す、ならびに/あるいは腹腔細胞診陽性のもの
 Ⅲb 期 腟転移のあるもの
 Ⅲc 期 骨盤リンパ節ならびに/あるいは傍大動脈リンパ節転移のあるもの
 (注:子宮傍結合織浸潤例はⅢc期とする)

Ⅳ期 癌が小骨盤腔をこえているか、明らかに膀胱または腸粘膜を侵すもの
 Ⅳa 期 膀胱ならびに/あるいは腸粘膜浸潤のあるもの
 Ⅳb 期 腹腔内ならびに/あるいは鼠径リンパ節転移を含む遠隔転移のあるもの

〔分類にあたっての注意事項〕
(1)初回治療として手術がなされなかった例(放射線療法など)には、従来からの臨床進行期分類が適用される。

(2)各期とも腺癌の組織学的分化度により、それぞれ亜分類される。
(3)0期は治療統計に含まれない。FIGOでは0期は設定されていないが、日本産科婦人科学会では従来の分類との整合性により0期を設定した。
(4)所属リンパ節とは、基靭帯リンパ節、仙骨リンパ節、閉鎖リンパ節、内腸骨リンパ節、鼠径上リンパ節、外腸骨リンパ節、総腸骨リンパ節、および傍大動脈リンパ節をいう。
(5)子宮傍結合織浸潤例はⅢc期とする。
(6)本分類は手術後分類であるから、従来Ⅰ期とⅡ期の区別に用いられてきた部位別掻爬などの所見は考慮しない。
(7)子宮筋層の厚さは腫瘍浸潤の部位において測定することが望ましい。

〔子宮体部腺癌の組織学的分化度〕
すべての類内膜癌は腺癌成分の形態によりGrade 1、2、3に分類される。

Grade 1: 充実性増殖の占める割合が腺癌成分の5%以下であるもの
Grade 2: 充実性増殖の占める割合が腺癌成分の6~50%のもの。あるいは充実性増殖の割合が5%以下でも細胞異型の著しく強いもの
Grade 3: 充実性増殖の占める割合が腺癌成分の50%を超えるもの。あるいは充実性増殖の割合が6~50%でも細胞異型の著しく強いもの

〔組織学的分化度に関する注意〕
(1)漿液性腺癌、明細胞腺癌、扁平上皮癌核異型によりGradeを判定する。
(2)扁平上皮への分化を伴う腺癌のGradeは腺癌成分によって判定する。

B. 臨床進行期分類(日産婦 1983,FIGO 1982)

0 期 子宮内膜異型増殖症、上皮内癌
組織所見が悪性を疑わせるが決定的ではない

Ⅰ期 癌が子宮体部に限局する(子宮峡部を含む)。これを2 群に分ける。
 Ⅰa 期 子宮腔長が8cm 以下のもの
 Ⅰb 期 子宮腔長が8cm をこえるもの

Ⅱ期 癌が体部、および頸部に及ぶ

Ⅲ期 癌が子宮外に広がるが、小骨盤をこえていない

Ⅳ期 癌が小骨盤をこえるか、明らかに膀胱または直腸の粘膜を侵す
 Ⅳa 期 膀胱、直腸、S状結腸または小腸などの隣接臓器に広がったもの
 Ⅳb 期 遠隔転移のあるもの

腺癌については、その分化度を以下のごとく群別する.
 G1 高分化型腺癌
 G2 一部充実性の中分化型腺癌
 G3 主に充実性または完全な未分化癌
 GX 組織分化度がわからないもの

C. TNM 分類(UICC 1990)

T―原発腫瘍
 T0 原発腫瘍を認めないもの
 Tis  上皮内癌(子宮内膜異型増殖症)

 T1  癌が子宮体部に限局するもの
  T1a 子宮内膜に限局するもの
  T1b 浸潤が子宮筋層1/2 以内のもの
  T1c 浸潤が子宮筋層1/2 をこえるもの

 T2  癌が子宮体部および頸部に及ぶもの
  T2a 頸管腺のみを侵すもの
  T2b 頸部間質浸潤のあるもの

 T3 癌が子宮外に広がるが小骨盤をこえていないもの。または所属リンパ節転移のあるもの
  T3a 漿膜ならびに/ あるいは付属器を侵す、ならびに/ あるいは腹腔細胞診陽性のもの
  T3b 腟転移のあるもの

T4  膀胱ならびに/ あるいは腸粘膜浸潤のあるもの。

TX 原発腫瘍が評価できないもの

N―所属リンパ節
 N0 所属リンパ節に転移を認めない
 N1 所属リンパ節に転移を認める
 NX 所属リンパ節転移を判定するための最低必要な検索が行われなかったとき

所属リンパ節は、閉鎖リンパ節、内腸骨リンパ節、外腸骨リンパ節、鼠径上リンパ節、総腸骨リンパ節、仙骨リンパ節、基靭帯リンパ節および傍大動脈リンパ節である。

M―遠隔転移
 M0 遠隔転移を認めない。
 M1 遠隔転移を認める。
 MX 遠隔転移を判定するための最低必要な検索が行われなかったとき。

******

子宮体癌の治療法

 子宮体癌の根本的治療法は手術療法と放射線療法である.他に、化学療法、ホルモン療法がある。子宮体癌の治療の主体は手術療法であり、第一選択である。放射線療法が適応となるのは、手術不能と考えられる進行症例、重篤な合併症、高齢者および肥満などのため手術リスクの高い症例、手術拒否症例、である。本邦では放射線療法が単独で用いられることは少ない。日産婦婦人科腫瘍委員会報告(1999年度子宮体癌患者年報)によるとⅠ期~Ⅳ期まで合わせて放射線単独治療例は0.7%でしかない。

子宮体癌の予後不良因子として、組織学的分化度G3、筋層浸潤1/2以上、頸部浸潤、骨盤リンパ節転移、子宮外浸潤、付属器転移などがあげられるが、手術症例でこれらにあてはまるものに対しては、術後放射線療法または術後化学療法が行われている。

再発癌の治療については、化学療法、放射線療法、ホルモン療法が組み合わされて用いられる。

(1)手術療法
準広汎子宮全摘術または広汎子宮全摘術+骨盤リンパ節郭清+腹部大動脈周囲(傍大動脈)リンパ節郭清または生検が行われる。

0期(複雑型異型内膜増殖症)や組織学的分化度G1で術前にMRI などで筋層浸潤がないと判断される初期症例では単純子宮全摘出術(筋膜外術式)が行われ、原則として両側付属器と腟壁を1cm付けて摘出する。

広汎子宮全摘術を行うのはⅡ期やⅢ期症例の場合である。

体癌の臨床進行期と選択すべき術式との対応は頸癌ほど明確にされておらず、リンパ節郭清にしても骨盤内にとどめるか、傍大動脈節まで行うか、郭清か、生検か、など標準化されたものはいまだない。したがって個々の症例に応じて選択される。

(2)放射線療法
根治的照射と術後照射がある。根治的照射は通常全骨盤照射と腔内照射を組み合わせて行う。Ⅰa期G1やⅣb期症例で止血目的の時には腔内照射のみを行うこともある。

術後照射は予後不良因子がある場合に行われ全骨盤外部照射で45~50Gy 照射する。

(3)化学療法
子宮体癌の化学療法は手術や放射線療法と併用して行われるが、手術療法が不可能な進行症例や、放射線療法が行えないような再発症例では化学療法が第一選択となる。

手術症例で予後不良因子のある症例では術後化学療法が行われる。

術後の追加治療として放射線治療と化学療法のどちらが有効であるかについてはいまだ結論はでていない

化学療法ではCAP 療法(cyclophosphamide+adriamycin+cisplatin)が最も汎用されてきたregimen である。最近ではTJ 療法(paclitaxel+carboplatin)が、子宮体癌でも有効であるという報告が多くみられるようになり注目されている

ただし果たして化学療法が子宮体癌の予後を改善するかどうかについてはいまだ結論はでていない

(4)ホルモン療法
高分化型腺癌の中には、高用量の酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)(400~600mg_day)が有効なものがあり、再発症例に用いられるほか、若年者で子宮の温存を強く希望するⅠaG1期症例で用いられることがある。

若年子宮体癌は40歳以下の症例をいうが、月経不順、不妊の患者に多く、不妊治療中に発見されることもある。筋層浸潤がないかどうかはMRIなどの画像診断によるが、実際の進行期と異なる可能性もあり、その点についての充分なインフォームドコンセントが必要である。MPA 投与中には1カ月ごとに内膜の組織検査を行い、改善がみられない時には子宮全摘もやむを得ない。また子宮鏡および子宮鏡下生検による経過観察も有用である。

高用量のMPA の重篤な副作用として血栓症がある。若年子宮体癌の患者では、肥満、高血圧、高脂血症がみられることもあり、凝固系の検査(thrombin anti-thrombin complex など)が必要であり注意を要する。


子宮体癌、問題と解答

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

Q442 子宮体癌について次のうち正しいのはどれか。
a)×類内膜腺癌ではGradeは細胞異型により判定する
b)×漿液性腺癌のGradeは構造異型により判定する
c)×扁平上皮への分化を伴う類内膜腺癌のGradeは扁平上皮成分により判定する
d)○類内膜腺癌では細胞異型の程度は構造異型の程度と平行することが多い
e)×明細胞癌のGradeは構造異型により判定する

解答:d

a)類内膜腺癌は腺癌成分の形態により、Grade 1、2、3に分類される。分類の指標は、構造異型と細胞異型の異型の程度であり、細胞異型では特に核異型が重視される。

b)、e)漿液性腺癌、明細胞癌、扁平上皮癌は核異型によりGradeを判定する

c)扁平上皮への分化を伴う腺癌のGradeは腺癌成分によって判定する。

d)類内膜腺癌では、細胞異型の程度は構造異型の程度と平行することが多い。構造異型によるGradeに不釣合いな著しい核異型を示す場合は、構造異型からはGrade 1であってもGrade 2に、同様にGrade 2はGrade 3と判定する。

******

Q443 子宮体癌の進行期分類について正しいのはどれか。
a)×手術症例では進行期を決定するにあたって、術前のMRIが重要である
b)×手術症例では子宮鏡所見は進行期の判定に不可欠である
c)×日本産科婦人科学会では手術前に進行期を決定することとした
d)×FIGOでは手術症例でも術前に進行期を決定する分類を採用している
e)○初回治療として放射線療法が行われた症例では臨床進行期が用いられる

解答:e

a)b)c)d) 手術症例に関しては、手術進行期分類(日産婦1995、FIGO1988)が適用される。

e)初回治療として手術が施行されなかった症例(放射線療法、化学療法を施行した症例)には、従来からの臨床進行期分類(日産婦1983、FIGO1982)が用いられる。

******

Q444 子宮体癌の進行期について正しいのはどれか。
a)×筋層浸潤の程度は関係がない
b)×腹水細胞診は進行期とは無関係である
c)○癌が子宮頚部にいたるとⅡ期になる
d)×傍大動脈リンパ節転移があればⅣ期である
e)×癌が子宮内膜に限局するものは0期である

解答:c

a)e)
Ⅰ期 癌が子宮体部に限局するもの
Ⅰa期:癌が子宮内膜に限局するもの
Ⅰb期:浸潤が子宮筋層1/2以内のもの
Ⅰc期:浸潤が子宮筋層1/2をこえるもの

b)d)
Ⅲ期 癌が子宮外に広がるが小骨盤をこえていないもの、または所属リンパ節転移のあるもの
 Ⅲa期:漿膜ならびに/あるいは付属器を侵す、ならびに/あるいは腹腔細胞診陽性のもの
 Ⅲb期:腟転移のあるもの
 Ⅲc期:骨盤リンパ節ならびに/あるいは傍大動脈リンパ節転移のあるもの

c)Ⅱ期 癌が体部および頸部に及ぶもの
Ⅱa期:頚管腺のみを侵すもの
Ⅱb期:頸部間質浸潤のあるもの

e)0期:子宮内膜異型増殖症

******

Q445 子宮体癌について誤っているのはどれか。
a)○類内膜腺癌は子宮体癌のなかで最もよくみられる癌である
b)×進行期は術後に変更してはならない
c)○高齢者で重篤な合併症のある症例では放射線治療を行う
d)○扁平上皮への分化を伴う腺癌の場合、組織学的分化度は腺癌部分で判定する
e)○卵巣に転移しているものはⅢ期である

解答:b

b)手術症例に関しては手術進行期分類が採用される。

e)Ⅲ期 癌が子宮外に広がるが小骨盤をこえていないもの、または所属リンパ節転移のあるもの
 Ⅲa期:漿膜ならびに/あるいは付属器を侵す、ならびに/あるいは腹腔細胞診陽性のもの
 Ⅲb期:腟転移のあるもの
 Ⅲc期:骨盤リンパ節ならびに/あるいは傍大動脈リンパ節転移のあるもの

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Q446 子宮体癌の治療について正しいのはどれか。
a)○Grade 1の類内膜腺癌では酢酸メドロキシプロゲステロンが有効なことがある
b)×化学療法が有効ながんのひとつである
c)×進行例でも開腹手術をまず施行して進行期を決定しなければならない
d)×初期症例であれば放射線療法が第一選択である
e)×エチニルエストラジオールが進行期症例に用いられる

解答:a

a)高分化型腺癌のなかには高用量の酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)400~600mg/日が有効なものがあり、再発症例に用いられるほか、若年者で子宮の温存を強く希望するⅠaG1期症例で用いられることがある。

b)果たして化学療法が子宮体癌の予後を改善するかどうかについてはいまだ結論はでていない

c)初回治療として手術が施行されなかった症例(放射線療法、化学療法を施行した症例)には、従来からの臨床進行期分類(日産婦1983,、FIGO1982)が用いられる。
放射線療法の適応となるのは、
①手術不能と考えられる進行症例
②重篤な合併症、高齢者および肥満などのために手術リスクの高い症例
③手術拒否例

d)子宮体癌の治療の主体は手術療法であり、第一選択である。


子宮肉腫

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

子宮肉腫は子宮の悪性間質性腫瘍で、平滑筋とともにしばしば種々の中胚葉性由来組織から発生する。直接周囲の臓器に連続的に波及するが、しばしばリンパ行性あるいは血行性に転移する。

子宮体部から発生する悪性腫瘍の5%以下で、比較的まれな婦人科悪性腫瘍である。主として閉経後に発症し、不正性器出血を訴える場合が多く、ときに子宮が急速に増大してみつかる場合もある。子宮内膜間質肉腫や特に癌肉腫は内膜の細胞診や生検で悪性が疑われる場合が多いが、平滑筋肉腫は通常筋腫摘出子宮の組織診断で確定される場合が多い。

治療は手術療法が優先するが、放射線療法化学療法、特に内膜間質肉腫に対しては内分泌療法が併用される。予後は進行期が最も影響するが、子宮に限局した早期でも5 年生存率は50%前後と極めて不良である。

1.分類

子宮肉腫は組織発生学的に複雑で、その機序は十分に解明されていないが、主に子宮内膜間質肉腫平滑筋肉腫癌肉腫の3 範疇に分類される。半数近くを癌肉腫が占めるが、ついで平滑筋肉腫、ときに子宮内膜間質肉腫が発生する。

1)子宮内膜間質肉腫

低悪性度は子宮内膜間質細胞に類似した細胞よりなる肉腫で、子宮筋層ことに脈管を侵襲し、ときに子宮外の脈管へ進展する。子宮内膜間質結節とは腫瘍境界部の特徴(脈管侵襲を示さない)で鑑別される。

高悪性度は低悪性度と腫瘍境界浸潤部は共通しているが多くの分裂像(10高倍率視野で10以上)を伴った多形性の細胞よりなり、低分化で特徴ある組織像を示さない場合が多く、また異所性成分を含まない。

2)平滑筋肉腫
典型的な場合は高い細胞密度著しい核の多形性異型分裂像を含む高頻度(10高倍率視野で10以上)の核分裂像などがみられ、また腫瘍の凝固壊死や境界部の浸潤所見より平滑筋腫と区別される。

極めてまれであるが、上皮性細胞に類似した細胞よりなる類上皮平滑筋肉腫など変異型がある。

3)癌肉腫(悪性ミュラー管混合腫瘍)

上皮性、間葉性混合腫瘍の中で最もよくみられる肉腫で、診断には癌腫と肉腫両者が必要で、両成分の判定は通常の組織染色によって行われる。異所性成分(骨,軟骨,横紋筋など)の有無によりいわゆる癌肉腫異所性癌肉腫(悪性中胚葉性混合腫瘍)に分類される。

胎児性横紋筋肉腫は幼少児の子宮頸部から発生し、ブドウの房に似ているのでブドウ状肉腫と呼ばれる。

2.診断

1)症状

患者の年齢は60歳前後にピークがあり、ほとんど閉経後に発症する。しかしながら、平滑筋肉腫は比較的(10歳前後)若年に多い。ほとんどが不正性器出血を訴えて来院するが、平滑筋肉腫で不正性器出血を訴える患者は半数に満たない。ときに疼痛や腫瘤感を訴える場合もある。腟鏡診で偶然壊死性の脆いポリープ状の腫瘍が頸管から突出していたり、通常双合診で正中に増大した球形の柔らかい子宮を触れる。

2)細胞診、生検

ルーチンの子宮腟部や特に内膜の細胞診および生検による異常がほとんどの癌肉腫で認められるが、特に平滑筋肉腫では異常を示す患者は20%に満たないので注意する。

3)補助診断

画像診断で子宮肉腫に特異的な所見はないので、子宮が増大したり骨盤内に腫瘤を形成する(特に変性を伴う)平滑筋腫、腺筋症、癒着している卵巣腫瘍、骨盤内炎症性疾患、子宮体癌などと鑑別する必要がある。

超音波検査では典型的な筋腫や腺筋症と異なった腫瘤で比較的に血管が豊富、CT スキャンで腫瘤中央部のlow density area,MRI ではサイズが大きくて内部が不均一な腫瘤、などの所見が子宮肉腫でみられる。

感度、特異度ともに満足な腫瘍マーカーはないが、通常進行すると血清LDH 値が上昇し、ときに子宮外に広がると血清CA125値も上昇する。

4)進行期分類

FIGO の子宮体癌臨床進行期分類に準じる。

3.治療

治療の第一選択は手術療法であり、腹水あるいは洗浄細胞診の後、一般に標準手術として単純子宮全摘出術、両側付属器摘除術、骨盤および傍大動脈の選択的リンパ節切除術が行われる。さらに放射線療法を追加併用する施設があり、その有効性が報告されている。

術後の放射線療法あるいは化学療法によるアジュバント療法の有効性については不明である。他の婦人科悪性腫瘍ほど抗癌剤が奏効しないが、子宮肉腫に対してはIfosfamide(奏効率17~30%)とAdriamycin(16~19%)が比較的奏効する。

併用化学療法の奏効率ではIfosfamide, Adriamycin, Cisplatin 3 剤併用が最も奏効する。

例:CYVADIC療法 (VCR/DXR/CPA/DTIC)

また子宮内膜間質肉腫には合成プロゲステロンによる内分泌療法も行われる。

1)Ⅰ、Ⅱ期
標準手術のみ,手術+放射線療法,手術+アジュバント療法

2)Ⅲ期
標準手術(+腫瘍縮小手術)+放射線療法あるいは化学療法

3)Ⅳ期
個別化、化学療法(+内分泌療法)

4.予後

悪性度の高い平滑筋肉種や癌肉腫の予後は極めて悪く,子宮に限局している Ⅰ、Ⅱ期でも50%前後、Ⅲ、Ⅳ期では90%以上が2 年以内に死亡する。

一方、悪性度の低い平滑筋肉腫や低悪性度子宮内膜間質肉腫の予後は比較的よく、Ⅰ、Ⅱ期では80%以上の5 年生存率が期待できる。


子宮肉腫、問題と解答

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

Q452 次のうち誤っているものはどれか
a)○子宮肉腫は主として子宮体部から発生する
b)○子宮肉腫は悪性間質性腫瘍である
c)○子宮肉腫の半数近くを癌肉腫が占める
d)×子宮内膜間質肉腫はすべて悪性度が高い
e)○子宮平滑筋肉腫にはまれではあるが上皮性細胞に類似した細胞よりなる変異型がある

解答: d

a)子宮肉腫は、子宮体部から発生する悪性腫瘍の5%以下で、比較的まれな婦人科悪性腫瘍である。

b)子宮肉腫は子宮の悪性間質性腫瘍で、平滑筋とともにしばしば種々の中胚葉性由来組織から発生する。

c)子宮肉腫は、主に子宮内膜間質肉腫平滑筋肉腫癌肉腫の3範疇に分類される。半数近くを癌肉腫が占め、ついで平滑筋肉腫、ときに子宮内膜間質肉腫が発生する。

d)子宮内膜間質肉腫、低悪性度:子宮内膜間質細胞に類似した細胞よりなる肉腫で、子宮筋層ことに脈管を侵襲し、ときに子宮外の脈管へ進展する
 子宮内膜間質結節とは腫瘍境界部の特徴(脈管侵襲を示さない)で鑑別される。
 高悪性度は、低悪性度と腫瘍境界部浸潤部は共通しているが、多くの分裂像(10高倍率視野で10以上)を伴った多形性の細胞よりなり、低分化で特徴ある組織像を示さない場合が多く、また異所性成分を含まない。

e)平滑筋肉腫:典型的な場合は、高い細胞密度著しい核の多形成異型分裂像を含む高頻度(10高倍率視野で10以上)の核分裂像などがみられ、また腫瘍の凝固壊死や境界部の浸潤所見より平滑筋腫と区別される。
 極めてまれであるが、上皮性細胞に類似した細胞よりなる類上皮平滑筋肉腫など変異型がある。

******

Q453 次のうち誤っているものはどれか
a)○子宮肉腫のほとんどは閉経後に発症する
b)○子宮肉腫の多くは不正性器出血を訴える
c)×子宮平滑筋肉腫の大部分に内膜の細胞診や生検で異常が認められる
d)○画像診断で子宮肉腫に特異的な所見はない
e)○通常子宮肉腫が進行すると血清LHD値が上昇する

解答:c

a)b)子宮肉腫は、主として閉経後に発症し、不正性器出血を訴える場合が多く、ときに子宮が急速に増大してみつかる場合もある。

c)子宮内膜間質肉腫や特に癌肉腫は内膜の細胞診や生検で悪性が疑われる場合が多い。しかし、平滑筋肉腫では、内膜の細胞診・生検で異常を示す患者は20%に満たない。通常、筋腫として摘出された子宮の組織診断で確定される場合が多い。

d)画像診断で子宮肉腫に特異的な所見はないので、骨盤内に腫瘤を形成する平滑筋腫、腺筋症、癒着している卵巣腫瘍、骨盤内炎症性疾患、また子宮体癌と鑑別する必要がある。

e)通常進行すると血清LDH値が上昇し、ときに子宮外に広がると血清CA125値も上昇する。

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Q454 次のうち誤っているものはどれか
a)○子宮肉腫の治療は手術療法が優先する
b)×骨盤および傍大動脈リンパ節切除は必要ない
c)○Ⅰ期でも放射線療法を併用することがある
d)○子宮肉腫に対してシスプラチンは卵巣癌ほど奏功しない
e)○子宮内膜間質肉腫には合成プロゲステロンによる内分泌療法が行われることがある

解答:b

治療の第一選択は手術療法であり、腹水あるいは洗浄細胞診の後、一般に標準手術として単純子宮全摘出術、両側付属器摘除術、骨盤および傍大動脈の選択的リンパ節切除術が行われる。さらに放射線療法を追加併用する施設があり、その有効性が報告されている。

******

Q455 次のうち誤っているものはどれか
a)×子宮肉腫は子宮体癌に比べて予後良好である
b)○多くの細胞分裂像は子宮肉腫の予後に影響する
c)○癌肉腫は他の子宮肉腫に比べて予後が悪い
d)○進行期は子宮肉腫の予後を決定する因子である
e)○子宮に限局した子宮肉腫の5年生存率は50%前後である

解答:a

悪性度の高い平滑筋肉種や癌肉腫の予後は極めて悪く,子宮に限局している Ⅰ、Ⅱ期でも50%前後、Ⅲ、Ⅳ期では90%以上が2 年以内に死亡する。

一方、悪性度の低い平滑筋肉腫や低悪性度子宮内膜間質肉腫の予後は比較的よく、Ⅰ、Ⅱ期では80%以上の5 年生存率が期待できる。

******

Q456 次のうち誤っているものはどれか
a)○子宮筋腫から発生する子宮肉腫はまれである
b)○閉経後に急速に増大する子宮腫瘍は子宮肉腫の特徴である
c)○子宮肉腫の治療は手術療法とアジュバント放射線療法が優先する
d)○進行した子宮肉腫の治療には腫瘍縮小手術が行われる
e)×抗癌剤ではシスプラチンが子宮肉腫に最も奏効する

解答:e

e)他の婦人科悪性腫瘍ほど抗癌剤が奏効しないが、子宮肉腫に対してはIfosfamide(奏効率17~30%)とAdriamycin(16~19%)が比較的奏効する。


卵管癌

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

卵管は女性生殖器のうち腫瘍発生頻度の最も低い臓器である。良性腫瘍の発生は極めてまれで、悪性腫瘍である卵管癌(tubal carcinoma)も女性性器悪性腫瘍の0.3%を占めるのみである。卵管癌はまず卵管内腔の卵管上皮より発生し、内腔に乳頭状に発育するが早期より筋層にも浸潤する。初期癌は卵管が水腫状を呈することが多い。組織学的には、大部分が腺癌であり卵巣の漿液性腺癌に類似する。

BRCA1、BRCA2遺伝子異常を原因とする乳癌/卵巣癌家系に好発する。

          臨床像と診断

好発年齢は40~65歳(平均55歳)で約半数が閉経後である。

症状のトリアスは水様性帯下または性器出血下腹痛腹部腫瘤である。なかでも多量の水様性帯下はhydrops tubae profluens として最も特徴的な臨床症状とされる。これは、水腫状になった卵管の内腔に漿液性の液体が貯留し、これが卵管平滑筋の収縮によって間歇的に子宮内腔・腟を通じて体外に排出されるものである。これに血液が混ずることも多い。典型的な水様性帯下は15%未満と多くないが卵管癌を疑うべき重要な症状であり、水様性帯下や不正性器出血を訴える患者では卵管癌も必ず念頭に置く必要がある。

内診にて、進行した癌では硬い付属器腫瘤として触知するが、初期病変は把握しにくく、術前診断が困難とされてきた。しかし、最近の画像診断法は卵管癌の早期診断に有用である。経腟超音波検査では、付属器部にくねくねとしたソーセージ状の腫瘤があり、そのなかに液体を貯留し充実部もあれば卵管癌の可能性が高い。CT やMRI でも卵管癌に特徴的なソーセージ状の腫瘤像が描出される。

細胞診が陽性となる頻度は低い。腺型悪性細胞が検出されたにもかかわらず子宮頸管および内膜ともに病変が認められない場合は卵管癌を考慮する必要がある。

血中腫瘍マーカーではCA125値の上昇をみる。

卵管癌は筋層に浸潤した後、隣接する卵巣や子宮へ、あるいは卵管_を通じて消化管などに直接浸潤する。また卵巣癌と同様に腹腔内播種性転移をきたすことも多く、開腹時に腹水細胞診および腹腔内の精査が重要である。骨盤内および傍大動脈リンパ節転移もしばしば認められる。

進行期分類は卵巣癌に準じた分類を用いる。

            治療
治療方針も卵巣癌と同様であり、手術療法と化学療法を組み合わせる。両側付属器切除術、単純子宮全摘術、大網切除術、および骨盤内および傍大動脈リンパ節郭清術を行い、腹腔内播種性病変も可能な限り切除する。また卵管から直接浸潤した隣接臓器を合併切除することは予後改善における意義が大きい。術後化学療法として、これまでのCAP(cyclophosphamide+adriamycin+cisplatin)療法が行われ有効性が報告されてきたが、最近のTJ(paclitaxel+calboplatin)療法も有効である。

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FIGO進行期分類

0期:上皮内癌(卵管粘膜に限局)

Ⅰ期:卵管に限局

 Ⅰa期:1側の卵管粘膜下層あるいは筋層に限局し、癌による漿膜穿通は認められない。腹水はない。

 Ⅰb期:両側の卵管粘膜下層あるいは筋層に限局し、癌による漿膜穿通は認められない。腹水はない。

 Ⅰc期:Ⅰa期あるいはⅠb期で、癌による漿膜穿通が認められるか、あるいは腹水細胞診または腹腔洗浄細胞診で悪性細胞が存在する。

Ⅱ期:骨盤内に腫瘍の蔓延が認められる。

 Ⅱa期:子宮あるいは卵巣への浸潤/転移がある。

 Ⅱb期:他の骨盤内臓器への浸潤がある。

 Ⅱc期:Ⅱa期あるいはⅡb期で腹水細胞診あるいは腹腔洗浄細胞診で悪性細胞が存在する。

Ⅲ期:骨盤外の腹膜への転移あるいは後腹膜リンパ節または鼠径リンパ節への転移がある。肝臓表面に転移がある場合もⅢ期に含まれる。肉眼的に腫瘍が小骨盤腔に限局していても、組織学的に小腸や大網への転移が認められる場合はⅢ期に分類する。

 Ⅲa期:腫瘍は肉眼的には骨盤内に限局するが、顕微鏡的腹膜播種が認められる。リンパ節転移はない。

 Ⅲb期:長径2cm以下の腹膜播種があるがリンパ節転移はない。

 Ⅲc期:長径2cmを超える腹膜播種がある。あるいは、後腹膜リンパ節あるいは鼠径リンパ節への転移があるもの。

Ⅳ期:遠隔転移があるか、あるいは腫瘍細胞が証明された胸水がある。肝臓実質への転移がある場合もⅣ期分類する。

****** 問題と解答

Q457 卵管癌について正しいのはどれか.2つ選べ.
a)患者の平均年齢は約40歳である
b)水様性帯下は特徴的な症状である
c)細胞診でスクリーニングできる
d)MRI などの画像診断が有用である
e)化学療法は無効である

解答:b、d

a)患者の平均年齢は55歳で、約半数が閉経後である。

c)細胞診が陽性となる頻度は低い

e)術後化学療法(CAP、TJ)は有効である。


卵巣の腫瘍・類腫瘍、全般・組織型

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

卵巣に腫瘍が発生する頻度は、女性の全生涯でみると5~7%とされる。

卵巣には極めて多種類の腫瘍が発生するが、その起源により、表層上皮性・間質性腫瘍surface epithelial-stromal tumors、性索間質性腫瘍sex cord/stromal tumors、胚細胞腫瘍germ cell tumorsの大きく3群に分類され、各々の全体に占める割合は、表層上皮性・間質性腫瘍60~70%、性索間質性腫瘍5~10%、胚細胞腫瘍15~20%である。以上の3群それぞれに、良性、境界悪性、悪性腫瘍が存在する。
さらに、転移性腫瘍(metastatic tumors)も重要であり、その全体に占める割合は5%である。これに加えて、真の腫瘍ではない類腫瘍性病変(tumor-like lesions)が存在する。

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①良性腫瘍

臨床像

卵巣腫瘍は無症状のことが多く、しばしば検診にて偶然に発見される。腫瘤の増大に伴い患者は下腹部痛や圧迫感を訴え、新生児頭大以上になると骨盤腔を越え、自ら下腹部腫瘤として触れる。巨大な腫瘤や多量の腹水貯留を伴う場合には腹部膨満が主訴となる。また、良性腫瘍は茎捻転を起こすことが多く、急性腹症として緊急開腹術を要する。

また性索間質性腫瘍の多くはエストロゲン産生腫瘍であり、不正性器出血、無月経、思春期早発などの症状をもたらす。

まれに、卵巣線維腫などで腹水や胸水を伴う(Meigs 症候群)。

診断―画像診断と腫瘍マーカー

卵巣腫瘍の良悪性の鑑別には腫瘤が嚢胞性か充実性かが重要であり、超音波検査が極めて有用である。また、カラードプラ法により充実部の血流をみることも悪性の補助診断として役立つ。MRI 検査は腫瘤内部にどのような物質が貯留しているかの質的診断に用いる。水のような液体であれば漿液性腫瘍、脂肪であれば成熟嚢胞性奇形腫、古い血液であれば子宮内膜症性嚢胞が疑われる。さらに、良悪性や組織型の推定に腫瘍マーカーのパターンを検討することも重要である。

(1)表層上皮性・間質性腫瘍

漿液性腫瘍卵巣表層上皮が卵管上皮への分化を示す腫瘍群であり、漿液性嚢胞腺腫には卵管と同様に線毛細胞が観察される。単房性の嚢胞性腫瘤であることが多く、内壁も卵管壁に似てしばしば乳頭状構造を呈する。超音波検査で、嚢胞性の壁が薄く充実性部分を認めない場合は嚢胞腺腫が考えられ、また充実部が小さく少数の場合も良性のことが多い。

一方、径2cm 以下の小さな充実部が多数認められる場合は境界悪性、壁全体が肥厚し粗造なものや内部に大きな充実部を認める場合は腺癌と予想される。

MRI では嚢胞内容が水と同様に、T1強調で低信号、T2強調で高信号を呈する。腫瘍マーカーはCA125が重要で、良性ではCA125の上昇は認められない。これに対して、軽度上昇の場合は境界悪性、200U/ml を越える高値を示す場合は腺癌のことが多い。

粘液性腫瘍表層上皮が子宮頸管腺上皮あるいは腸管上皮への分化を示す腫瘍群であり、粘液産生性の上皮細胞で構成される。多房性の嚢胞性腫瘤であることが多く、これが超音波検査で認められ、MRI で嚢胞の各房で信号が異なるという特徴が認められる。腫瘍マーカーはCA19-9CEA が重要で、良性腺腫ではこれらの上昇が認められない。すなわち、多房性に嚢胞性腺腫で明らかな充実部がなく、CA19-9、CEA が正常の場合は良性と考えられる。

一方、CA19-9またはCEA が上昇し、充実部を思わせる小さな嚢胞の集合を認める場合は境界悪性腫瘍、明らかな充実部が存在する場合は腺癌のことが多い。

類内膜腫瘍および明細胞腫瘍の良性腫瘍は極めてまれで、多くは腺線維腫の形態をとり、術後診断により境界悪性および悪性腫瘍と区別される。

(2)性索間質性腫瘍
性索間質性腫瘍の多くはホルモン産生性であり、これによる臨床症状が重要である。良性腫瘍の莢膜細胞腫エストロゲン産生性で、不正性器出血、無月経、思春期早発などをきたす。高齢の女性で腟壁がみずみずしく年齢に比して若々しい場合エストロゲン産生卵巣腫瘍の存在を疑う。

莢膜細胞腫は通常、嚢胞性成分は認められず、まったく充実性の比較的小さな腫瘤である。線維腫も莢膜細胞腫と同様に充実性の腫瘤を形成するが、ホルモン産生性に乏しく、また大きな腫瘤を形成することもある。

(3)胚細胞腫瘍
胚細胞腫瘍は若年女性に多いことが特徴的であり、最も高頻度にみられる腫瘍は成熟嚢胞性奇形腫である。茎捻転を起こしやすいが、検診では偶然発見されることも多い。嚢胞性であるが、その内部に皮膚組織、毛髪、脂肪、軟骨、骨などの奇形腫成分を含むため、超音波検査で極めて多彩な像を呈する。とくに脂肪成分の存在は、MRI にてT1強調で高信号、T2強調で中等度の信号、chemical shift artifact の存在、脂肪抑制画像による信号抑制により診断される。脂肪が証明されれば、まず成熟嚢胞性奇形腫と診断してよい。腫瘍マーカーではCA19-9の軽度上昇をみることが多い。

(4)類腫瘍病変
卵巣が嚢胞性に腫大しているが真の腫瘍でないものに卵巣嚢胞や黄体嚢胞などのいわゆる機能性嚢胞がある。特異な内分泌環境下で認められることが多く、経過観察にて縮小することにより臨床的に診断される。しかし、機能性嚢胞のなかには大きなものや超音波にて内部エコーの複雑なものがあり、真性腫瘍と誤診する場合があるので注意を要する。

卵胞嚢胞は排卵が障害され卵胞が存続することによるもので、更年期の機能性出血の際にしばしば認められる。直径3~5cm の球形嚢胞で、超音波にて内部に均一で低輝度の液体を含有する。

また、妊娠初期に認められる黄体嚢胞は片側性でhCG の刺激によりかなり大きくなり、比較的長期間存続しうる。いずれも時間経過とともに縮小する。

出血性黄体嚢胞は排卵や黄体形成の際の卵胞内出血が通常より増量したもので、下腹部痛または不快感を伴うことが多い。超音波では嚢胞内部に特有の網状エコー像が観察され、これは凝血塊と析出フィブリンによるものとされる。

多発性黄体化卵胞嚢胞(黄体化過剰反応hyperreactio luteinails)は絨毛性疾患の際に多く認められるが、まれに正常妊娠においても出現する。両側性で臨床的にルテイン嚢胞と呼ばれる。拡張した黄体化卵胞嚢胞が多数観察され、卵巣径が20cm にも達する。一見、多房嚢胞性腫瘤にみえるため粘液性腺腫と誤診され、開腹術を行うことが多いので注意を要する。特異な内分泌環境であること、両側性であること、個々の嚢胞の大きさがよく揃っていることにより、本疾患を強く疑い、経過観察を行う。ゴナドトロピン製剤を用いた排卵誘発において認められる卵巣過剰刺激症候群(OHSS)も同様の所見を呈する。

卵巣の子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)も類腫瘍病変に分類されている。嚢胞内部には異所性内膜の剥脱により古い血液を貯留する。超音波にて、典型的なものは砂粒状の内部エコー像を呈する。MRI が有用で、T1強調で高信号を示すが脂肪抑制画像で抑制されないことで血液の貯留が強く示唆される。腫瘍マーカーではCA125やCA19-9の軽度上昇がしばしば認められる。

治療
卵巣の腫大が認められた場合、超音波やMRI を用いた画像診断の所見および腫瘍マーカーのパターンを検討し、卵巣腫瘍の組織型や悪性度に関する十分な評価を行ったうえで、治療方針を決定する。

(1)経過観察および保存的治療
類腫瘍病変が疑われる場合は基本的に経過観察とする。通常、現病歴からhCG の関与やホルモン異常が示唆され、経過による形状の変化を把握することが大事である。

子宮内膜症性嚢胞には、状況に応じて経過観察、ホルモン療法、または手術療法を行う。すなわち、挙児希望のない若年女性に認められた小さな内膜症性嚢胞で症状も軽度の場合は経過観察を行う。月経困難症や性交痛などがある場合、大きな嚢胞の場合、不妊症で挙児を希望している場合は、ホルモン療法と手術療法を組み合わせた治療を行う。手術では腹腔鏡を用いた嚢胞摘出術や焼灼術を行い健常卵巣部分をできるだけ残す。

腫瘍性病変の可能性があるが径5cm 未満の小さな嚢胞性腫瘤で充実性部分をまったく認めない場合は経過観察を行う。しかし,増大したり充実性部分が出現すれば手術を行う。

(2)手術療法
真性の卵巣腫瘍には原則として手術療法を行い、組織学的な確定診断を得る必要がある。開腹時に腹水細胞診または腹腔内洗浄細胞診を行うこと、また術中の迅速組織診を行う。良性腫瘍には、卵巣腫瘍摘出(核出)術、卵巣摘除術、または付属器摘除術を行う。どの術式を選択するかは、患者の年齢、腫瘍の大きさ、周囲との癒着などを考慮して決定されるが、妊孕性温存を要する若年女性では、原則として卵巣腫瘍摘出(核出)術を行う。とくに成熟嚢胞性奇形腫に対してこの手術を行う機会が多いが、薄く進展された正常卵巣部分に多くの卵胞が存在しており、これをできるだけ広く残すことが大事である。また、茎捻転により全体が壊死に陥っている場合は付属器摘除術を行わざるを得ないが、捻転を解除できる場合は腫瘍摘出(核出)術とする。

******

②悪性卵巣腫瘍

Ⅰ.卵巣腫瘍の臨床病理学的分類
卵巣には、他のどの臓器よりも多種多様な腫瘍が発生する。卵巣は皮質と髄質からなり、表層には胎生期の体腔上皮(coelomic epithelium)を起源とする表層上皮(surface epithelium)、髄質内には周囲を顆粒膜細胞莢膜細胞性索間質細胞sex cord stromal cell)が取り囲んだ卵細胞胚細胞germ cell)があり、卵胞を形成している。卵巣腫瘍はこれらの組織から発 生してくるものと考えられている。

日本産科婦人科学会は、日本病理学会の協力で1990年7 月、卵巣腫瘍の臨床病理学的新分類を作成した。各組織から発生してくる腫瘍はそれぞれ良性、境界悪性、悪性に分類される。国際分類(WHO 分類)との変換が容易である
ことを念頭において作成されたが、基本的にはWHO 分類に準拠すべきである。以下に組織学的分類とその特徴について述べる。

     卵巣腫瘍の臨床病理学的分類

良性 境界悪性 悪性
表層上皮
性・間質
性腫瘍
漿液性嚢胞腺

粘液性嚢胞腺

類内膜腺腫
明細胞腺腫
腺線維腫(上
記の各型)

表在性乳頭腫
ブレンナー腫
漿液性嚢胞腫
瘍、境界悪性
粘液性嚢胞腺
腫、境界悪性
類内膜腫瘍、
境界悪性
明細胞腫瘍、
境界悪性
腺線維腫(上
記の各型)
表在性乳頭腫
瘍、境界悪性
ブレンナー腫
瘍、境界悪性
漿液性嚢胞腺

粘液性嚢胞腺

類内膜腺癌
明細胞癌
腺癌線維腫
腺肉腫
中胚葉性混合
腫瘍(癌肉腫)
悪性ブレンナ
ー腫瘍
移行上皮癌
未分化癌
性索間質
性腫瘍
莢膜細胞腫
線維腫
硬化性間質腫

セルトリ・間
質腫瘍
(高分化型)
ライディック
細胞腫
輪状細管を伴
う性索腫瘍

顆粒膜細胞腫
セルトリ・間
質腫瘍
(中分化型)
ステロイド細胞
腫瘍
ギナンドロブラ
ストーマ

線維肉腫
セルトリ・間
質腫瘍
(低分化型)

胚細胞腫

成熟嚢胞性奇
形腫
成熟充実性奇
形腫
卵巣甲状腺腫

未熟奇形腫
(G1、G2)
カルチノイド
甲状腺腫性カ
ルチノイド
未分化胚細胞

卵黄嚢腫瘍
胎芽性癌
多胎芽腫
絨毛癌
悪性転化を伴
う成熟奇形腫
未熟奇形腫
(G3)
その他 非特異的軟部
腫瘍
腺腫様腫瘍
性腺芽腫
(純粋型)
癌腫
肉腫
悪性リンパ腫
(原発性)
二次性(転移
性)腫瘍

1)表層上皮性・間質性腫瘍Surface epithelial-stromal tumors

最も発生頻度が高く全卵巣腫瘍の約2/3を占め、卵巣癌の70~80%は本腫瘍である。上皮性組織と間質性組織が種々の割合に混在する。腫瘍性上皮成分は卵巣表面を覆う体腔上皮に由来するが、多分化能を有し、卵巣表層上皮ないし卵管上皮に類似する漿液腫瘍、子宮頸部の腺上皮に類似する粘液性腫瘍や子宮内膜腺上皮に類似する類内膜腫瘍など、種々のミューラー管上皮への分化を示す。

さらにこの範疇に入る腫瘍では、良性と悪性の中間病変として境界悪性borderline malignancy の例が存在する。

境界悪性腫瘍の組織学的特徴は、
1.上皮細胞の多層化
2.腫瘍細胞集団の内腔への分離増殖
3.同一細胞型における良性と悪性の中間的な核分裂活性と核異型
4.間質浸潤の欠如

A.漿液性腫瘍Serous tumors

卵管上皮あるいは卵巣表層上皮に類似した細胞からなる腫瘍

漿液性腺癌:全卵巣癌の約40%を占める
1.好塩基性の狭小な胞体,比較的小型の癌細胞
2.乳頭状の増殖
3.微細な樹枝状乳頭
4.間質は狭細
5.砂粒小体psammoma body の出現(悪性例で高頻度)

B.粘液性腫瘍Mucinous tumors
内頸部型endocervical type(子宮頸部の腺上皮に類似)、腸上皮型intestinal type(杯細胞やPaneth 細胞を含む)、およびこれらの混合型mixed type が認められる。

粘液性腺癌
1.不規則な腺腔形成
2.小型の腺構造
3.腺癌細胞の重層性または乳頭状増殖

C.類内膜腫瘍Endometrioid tumors

子宮内膜の腫瘍に類似する所見を呈する腫瘍

類内膜癌
1.純粋型の類内膜細胞癌endometrioid adenocarcinoma
2.腺扁平上皮癌adenosquamous carcinoma
3.腺棘細胞癌adenoacanthoma
4.子宮内膜症から発生する例

上皮性成分と間質性成分が混在する悪性群

1.腺癌線維腫adenocarcinofibroma、
    嚢胞性腺癌線維腫cystadenocarcinofibroma
 :上皮性成分が悪性(類内膜腺癌)で間質成分が良性
2.腺肉腫adenosarcoma
  :上皮成分が良性または境界悪性で間質成分が悪性
3.中杯葉性混合腫瘍mesodermal mixed tumor
  :両者が悪性

間質肉腫子宮内膜間質肉腫に類似するもの

D.明細胞腫瘍Clear cell tumors

良性や境界悪性例の報告はまれ

明細胞腺癌:欧米に比し本邦で高頻度
(上皮性悪性腫瘍の10~15%)
1.淡明な胞体でグリコーゲンに富む癌細胞
2.核が細胞の遊離面に近く突出するhobnail 型の癌細胞
3.両者またはいずれかよりなる腺癌で管状、乳頭状、微小嚢胞状あるいは充実性の構造

E.ブレンナー腫瘍Brenner tumors
 
特異な上皮構造(移行上皮型の充実巣)と間質の増殖を伴い、大部分が良性である。上皮細胞の核はしばしば縦溝を呈し、コーヒー豆様(coffee-bean nuclei)と表現。境界悪性腫瘍は増殖性ブレンナー腫瘍、悪性腫瘍は悪性ブレンナー腫瘍と呼ばれる。

F.移行上皮癌Transitional cell carcinoma
 泌尿器系の移行上皮癌に類似する。本腫瘍と診断するにはブレンナー腫瘍成分を認めないことが必要。

G.混合型上皮性腫瘍Mixed epithelial tumors
2つ以上の組織型が混在し、どの組織型が優位かを決定できないもの。

H.未分化癌Undifferentiated carcinoma
極めて未分化でどの組織型に属するか判定できないもの。

I.分類不能Unclassified
分類判定不能なもの。

2)性索間質性腫瘍Sex cord/stromal tumors
顆粒膜細胞、莢膜細胞およびこれらの黄体化細胞、セルトリ細胞、ライディク細胞、性索間質起源の線維芽細胞およびこれらすべての幼弱細胞が単独に、あるいは種々の組み合わせで含まれる腫瘍。

A.顆粒膜・間質細胞腫瘍Granulosa-stromal cell tumors

 ①顆粒膜細胞腫Granulosa cell tumors
  顆粒膜細胞を優位に含む腫瘍。組織像から成人型、若年型に分ける。通常エストロゲン産生性。少数例は悪性の経過を示すが、通常は低悪性で、境界悪性腫瘍に分類。
 ②莢膜細胞腫・線維腫群腫瘍
  莢膜細胞腫、線維腫、線維肉腫、僅少な性索成分を伴う間質性腫瘍、硬化性間質性腫瘍、間質性ライディク細胞腫などが含まれる。悪性は線維肉腫。

B.セルトリ・間質性腫瘍Sertoli-stromal cell tumors
種々の成熟段階のセルトリ細胞、ライディク細胞および線維芽細胞がさまざまな割合で含まれる。ほとんどが男性化徴候を示すが、ホルモン活性がないもの、エストロゲン活性を示すものもある。高分化型(良性)、中分化型(境界悪性)、低分化型(悪性)。

C.ステロイド細胞腫瘍Steroid cell tumors
ステロイドホルモン産生腫瘍、すなわちライディク細胞、黄体化細胞ないし副腎皮質細胞類似の細胞からなる腫瘍。ライディク細胞腫(良性)、間質性黄体腫(良性)、分類不能型(境界悪性)に分類。

D.輪状細管を伴う性索腫瘍Sex cord tumor with annular tubules
特異な単純また複雑な輪状細管からなる腫瘍。Peutz-Jeghers 症候群を伴う例(良性) と伴わないもの(境界悪性)がある。

E.ギナンドロブラストーマGynandroblastoma
典型的なCall-Exner body をもつ顆粒膜細胞の胞巣が,セルトリ細胞性の腔を有する管と共存するまれな腫瘍.境界悪性

F.分類不能Unclassified
卵巣あるいは精巣への分化が認められない腫瘍。

3)胚細胞腫瘍Germ cell tumors
胚細胞腫瘍とは、原始胚(生殖)細胞が配偶子に成熟する過程のいずれかの時期に発生する腫瘍と考えられ、広範囲の腫瘍が含まれ、極めて多彩な組織像が認められる。全卵巣腫瘍の20~25%は胚細胞起源で、良性の大部分は成熟奇形腫であり、若年者に発生する卵巣腫瘍の約2/3は胚細胞腫瘍である。

A.未分化胚細胞腫Dysgerminoma
腫瘍細胞は大型円形、類円形で、細胞質は淡明でグリコーゲンに富む。明瞭な核小体、間質のリンパ球浸潤が特徴的。ときにsyncytiotrophoblast を伴いβ-hCG が証明される。悪性。

B.卵黄嚢腫瘍Yolk sac tumor
特徴ある多彩な組織像を呈する腫瘍で、種々の組織像が混在し、移行もみられる。免疫組織化学的にAFPが証明される。主として次の4 組織像からなる。
 ①内胚葉洞型Endodermal sinus pattern:最も高頻度で,網目状loose reticular network,Schilller-Duval body(腫瘍細胞が血管周囲に配列),hyaline globules(好酸性球状の硝子様小球)などがみられる。
 ②多嚢胞性卵黄型Polyveiscular vitelline pattern:卵黄嚢に類似した多数の嚢胞からなり、一層の扁平な中皮様細胞に被覆。
 ③類肝細胞型Hepatoid pattern:未熟肝細胞あるいは肝細胞癌に類似する腫瘍細胞が索状に配列。
 ④腺型Glandular pattern:立方形の腫瘍細胞が管状、胞巣状あるいは原腸状配列を示す。

C.胎芽性癌Embryonal carcinoma
精巣の胎児性癌に類似し、大型の上皮様の腫瘍細胞が管状、乳頭状または充実性に増生。卵黄嚢腫瘍と共存することが多い。

D.多胎芽腫Polyembryoma
胎生初期のembryonic body に類似した構造(類胎芽体embryoid body)が多数認められる腫瘍。極めてまれな腫瘍で、多くは卵黄嚢腫瘍や未熟奇形腫の一部にみられる。

E.絨毛癌Choriocarcinoma
Cytotrophblast とsyncytiotrophoblast に類似する細胞からなる2 cell pattern がみられる。結合織に乏しく、出血と壊死が著しい。

F.奇形腫Teratomas

1.成熟奇形腫Mature teratoma
 a)嚢胞性Cystic
 (1)成熟嚢胞性奇形腫Mature cystic teratoma
  嚢胞内に皮脂と毛髪を認めることが多い.
 (2)悪性転化を伴う成熟嚢胞性奇形腫
  扁平上皮癌が大部分、まれに腺癌や悪性黒色腫を認める。

 b)充実性Solid
 未熟な組織成分の存在を除外しておくことが必要。

 c)胎児型Fetiform
 よく分化した各種器官を模倣する充実性奇形腫。

2.未熟奇形腫Immature teratoma
未熟な胎児性成分を伴う奇形腫をいう。未熟な組織、とくに神経外胚葉組織が豊富なものほど播種や転移を起こしやすい。分化度に応じ(未熟な成分,核分裂像の多寡),Grade1(境界悪性)、Grade 2(境界悪性)、Grade 3(悪性)の3 群に分類。

3.単胚葉性および高度限定型奇形腫Monodermal and highly specialized teratomas
 
a)卵巣甲状腺腫struma ovarii
 腫瘍の全体が甲状腺組織で占められる。

 b)カルチノイドCarcinoid
 腫瘍細胞が腸管由来で、腫瘍細胞の配列により島状索状に区別。

 c)甲状腺性カルチノイドStromal carcinoid
 a)とb)が共存。

 d)粘液性カルチノイドMucinous carcinoid
 杯細胞と円柱上皮が小型腺管を形成し、胞体に好銀性顆粒を認める。

 e)神経外胚葉性腫瘍Nueroectodermal tumors
 さまざまな成熟段階の神経組織からなる。

 f)皮脂腺腫瘍Sebaceous tumors
 皮脂腺に類似する腫瘍。

G.性腺芽腫 Gonadoblastome
未分化胚細胞腫あるいはセミノーマに類似した胚細胞と、顆粒膜細胞腫あるいはセルトリ細胞に類似した小型の性索系細胞よりなる腫瘍である。

4)起源不明の腫瘍

小細胞癌 Small cell carcinoma
 胞体の乏しいN/C比の大きい円形核をもつ小型細胞が、密に充実性あるいは索状構造をとり増殖する。若年者に発生し、高カルシウム血症をきたすまれな腫瘍で、きわめて悪性の経過をとる。

****** 問題と解答 

Q458 卵巣腫瘍全般について正しいのはどれか。2つ選べ。
a)○女性が生涯で卵巣腫瘍を発生する確率は5%程度である
b)×発生頻度は表層上皮性・間質性腫瘍よりも胚細胞性腫瘍の方が高い
c)×子宮内膜症性嚢胞は性索間質性腫瘍の一種といえる
d)×ホルモン産生腫瘍の多くは表層上皮性・間質性腫瘍である
e)○成熟嚢胞性奇形腫は胚細胞腫瘍の良性群に分類される

解答:a、e

b)わが国の頻度は、表層上皮性・間質腫瘍が60~70%胚細胞腫瘍が30%性索間質性腫瘍が6%、その他が約4%である。わが国では欧米に比して明細胞腺癌と胚細胞腫瘍の頻度が高い

c)子宮内膜症性嚢胞は類腫瘍病変 Tumour-like lesionsの一種といえる。

d)性索間質性腫瘍の多くはホルモン産生性である。

******

Q459 卵巣腫瘍の術前診断で正しいのはどれか。2つ選べ。
a)×漿液性嚢胞腺腫では血中CA125値が上昇する
b)○粘液性嚢胞腺腫は多房嚢胞性の腫瘍が多い
c)×莢膜細胞腫はしばしば男性化兆候を伴う
d)○成熟嚢胞性奇形腫ではCA19-9値の上昇をしばしば認める
e)×MRI T1強調で高信号を示す部分は脂肪組織と診断される

解答:b、d

c)莢膜細胞腫(thecoma)の好発年齢は閉経期以降の中高年層であり、約1/3の症例でエストロゲン活性を示す。生物学的には常に良性とされている。

e)T1強調で高信号を示す場合は脂肪または血液である。脂肪成分の存在は、T1強調で高信号、T2強調で中等度の信号、Chemical shift artifactの存在、脂肪抑制画像による信号抑制により診断される。

******

Q460 卵巣の類腫瘍病変で正しいのはどれか。2つ選べ。
a)○更年期にしばしば認められる機能性嚢胞は卵胞嚢胞である
b)×正常妊娠の初期に認められる嚢胞はルテイン嚢胞という
c)×出血性黄体嚢胞は超音波検査にて充実性エコー像を呈する
d)×多発性黄体化卵胞嚢胞の発生は、通常、片側性である
e)○多発性黄体化卵胞嚢胞は粘液性嚢胞腺腫と誤診されやすい

解答:a、e

a)卵胞嚢胞は排卵が障害され卵胞が存続することによるもので、更年期の機能性出血の際にしばしば認められる。直径3~5cmの球形嚢胞で、超音波にて内部に均一で低輝度の液体を含有する。時間経過とともに縮小する。

b)正常妊娠の初期に認められる黄体嚢胞黄体化卵胞嚢胞)は、片側性でhCGの刺激によりかなり大きくなり比較的長期間存続しうるが、時間経過とともに縮小する。

c)出血性黄体嚢胞は排卵や黄体形成の際の卵胞内出血が通常より増量したもので、下腹部痛または不快感を伴うことが多い。超音波では嚢胞内部に特有の網状エコー像が観察され、これは凝血塊と析出フィブリンによるものとされる。

d)e)多発性黄体化卵胞嚢胞(黄体化過剰反応)絨毛性疾患の際に多く認められるが、まれに正常妊娠においても出現する。両側性で臨床的にルテイン嚢胞と呼ばれる。拡張した黄体化卵胞嚢胞が多数観察され、卵巣径が20cmにも達する。粘液性腺腫と誤診されやすい

******

Q461 卵巣腫瘍の治療で正しいのはどれか。2つ選べ。
a)×類腫瘍病変のうち径5cmを超える腫瘤は手術を行う
b)○良性腫瘍の基本術式は患側卵巣腫瘍摘出(核出)術である
c)×茎捻転を起こしている場合は付属器切除術を要する
d)×成熟嚢胞性奇形腫は良性の診断が確実ならば手術を行わない
e)○不妊症患者の子宮内膜症性嚢胞に対しては外科的治療を行う

解答:b、e

a)類腫瘍病変が疑われる場合は基本的に経過観察とする。

b)良性腫瘍で、妊孕性温存を要する若年女性では、原則として卵巣腫瘍摘出(核出)術を行う。

c)茎捻転により全体が壊死に陥っている場合は付属器切除を行わざるを得ないが、捻転を解除できる場合は腫瘍摘出(核出)術とする。

d)真性の卵巣腫瘍には原則として手術療法を行い、組織学的な確定診断を得る必要がある。

e)子宮内膜症性嚢胞には、状況に応じて経過観察、ホルモン療法、または手術治療を行う。すなわち、挙児希望のない若年女性に認められた小さな内膜症性嚢胞で症状の軽度の場合は経過観察を行う。月経困難症や性交痛などがある場合、大きな嚢胞の場合、不妊症で挙児を希望している場合は、ホルモン療法と手術療法を組み合わせた治療を行う。手術では腹腔鏡を用いた嚢胞摘出術や焼灼術を行い、健常卵巣部分をできるだけ残す。

******

Q462 正しいものはどれか。
a)×境界悪性腫瘍の組織学的特徴のひとつは、間質浸潤を認めることである
b)○漿液性腺癌は全卵巣癌の約40%を占める
c)×砂粒小体psammoma bodyの出現があれば、漿液性腺癌である
d)×明細胞腺癌は欧米に比し本邦での発生頻度は低い
e)×ブレンナー腫瘍は良性腫瘍である

解答:b

a)境界悪性腫瘍の組織学的特長は、
 1.上皮細胞の多層化
 2.腫瘍細胞集団の内腔への分離増殖
 3.同一細胞型における良性と悪性の中間的な核分裂活性と核異型
 4.間質浸潤の欠如

b)漿液性腺癌:全卵巣癌の約40%を占める。

c)砂粒小体psammoma bodyの出現は悪性例で高頻度に認められるが、悪性に特異的な所見とは言えない。

d)明細胞腺癌は欧米に比し本邦で高頻度にみられる。

e)ブレンナー腫瘍:特異な上皮構造(移行上皮型の充実巣)と間質の増殖を伴い、大部分が良性である。上皮細胞の核はしばしば縦溝を呈し、コーヒー豆様(coffee-bean nuclei)と表現。境界悪性腫瘍は増殖性ブレンナー腫瘍、悪性腫瘍は悪性ブレンナー腫瘍と呼ばれる。

******

Q463 正しいものはどれか
a)×顆粒膜細胞腫はエストロゲンを産生する良性腫瘍もある
b)×莢膜細胞腫は悪性腫瘍に分類される
c)○セルトリ・間質細胞腫瘍にはエストロゲン活性を示すものがある
d)×ライディック細胞腫は境界悪性に分類される
e)×輪状細管を伴う性索腫瘍には全例でPeutz-Jeghers症候群を合併する

解答:c

a)顆粒膜細胞腫は顆粒膜細胞を優位に含む腫瘍。組織像は成人型若年型に分けられる。通常、エストロゲン産生性。少数例は悪性の経過を示すが、通常は低悪性で、境界悪性腫瘍に分類。

b)莢膜細胞腫は良性腫瘍に分類される。

c)セルトリ・間質細胞腫瘍:ほとんどが男性化徴候を示すが、ホルモン活性がないもの、エストロゲン活性を示すものもある。高分化型(良性)、中分化型(境界悪性)、低分化型(悪性)。

d)ライディック細胞腫は良性腫瘍に分類される。ラインケ結晶を胞体に有する。3/4の症例で多毛、男性化症状を示すが、まれにエストロゲン活性を示すこともある。ステロイド細胞腫瘍(ライディック細胞腫:良性、間質性黄体腫:良性、分類不能型:境界悪性)。

e)輪状細管を伴う性索腫瘍:特異な単純また複雑な輪状細管からなる腫瘍。Peutz-Jeghers症候群を伴う例(良性)と伴わないもの(境界悪性)がある。
約1/3はPeutz-Jeghers症候群(消化管ポリポーシス、口腔・皮膚のメラニン沈着)を合併し、ときに子宮頸部の悪性腺腫を伴うこともある。40%の例では高エストロゲン症状を示す。

******

Q464 誤っているものはどれか
a)×全卵巣腫瘍の50~55%は胚細胞起源である
b)○若年者に発生する卵巣腫瘍の約2/3は胚細胞腫瘍である
c)○未分化胚細胞腫は間質のリンパ球浸潤が特徴的で悪性に分類される
d)○卵黄嚢腫瘍の内胚葉洞型にはloose reticular network, Schiller-Duval body,hyaline globules などがみられる
e)○未熟奇形腫のGrade 3は悪性腫瘍に分類される

解答:a

a)表層上皮性・間質性腫瘍:60~70%、性索間質性腫瘍:5~10%、胚細胞腫瘍:15~20%。

b)胚細胞腫瘍は若年女性に多いことが特徴的であり、最も高頻度にみられる腫瘍は成熟嚢胞性奇形腫である。

c)未分化胚細胞腫:腫瘍細胞は大型円形、類円形で、細胞質は淡明でグリコーゲンに富む。明瞭な核小体、間質のリンパ球浸潤が特徴的。ときにsyncytiotrophoblastを伴いβ-hCGが証明される。悪性。

d)卵黄嚢腫瘍
ⅰ.内胚葉洞型:最も高頻度で、網目状loose reticular network, Schiller-Duval body(腫瘍細胞が血管周囲に配列),hyaline globules(好酸性球状の硝子様小体) などがみられる。
ⅱ.多嚢胞性卵黄型:卵黄嚢に類似した多数の嚢胞からなり、一層の扁平な中皮様細胞に被覆。
ⅲ.類肝細胞型:未熟肝細胞あるいは肝細胞癌に類似する腫瘍細胞が索状に配列。
ⅳ.腺型:立方形の腫瘍細胞が管状、胞巣状あるいは原腸状配列を示す。

e)未熟奇形腫:未熟な胎児性成分を伴う奇形腫をいう。未熟な組織、とくに神経外胚葉組織が豊富なものほど播種や転移を起こしやすい。分化度に応じ、Grade 1、2(境界悪性)、Grade 3(悪性)に分類。


卵巣癌、進行期分類

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

臨床進行期分類

FIGO進行期分類

FIGO (国際産科婦人科連合、International Federation of Gynecology and Obsterics)

進行期の決定は臨床的検査ならびに/あるいは、外科的検索によらねばならない。進行期決定にあっては組織診を、また体腔滲出液については細胞学的診断を考慮すべきである。骨盤外の疑わしい箇所については生検して検索することが望ましい。

Ⅰ期:卵巣内限局発育
Ⅰa:腫瘍が一側の卵巣に限局し、癌性腹水がなく、被膜表面への浸潤や被膜破綻の認められないもの。
Ⅰb:腫瘍が両側の卵巣に限局し、癌性腹水がなく、被膜表面への浸潤や被膜破綻の認められないもの。
Ⅰc:腫瘍は一側または両側の卵巣に限局するが、被膜表面への浸潤や被膜破綻が認められたり、腹水または洗浄の細胞診にて悪性細胞の認められるもの。

【注】 腫瘍表面の擦過細胞診にて腫瘍細胞陽性の場合はⅠcとする。

Ⅱ期:腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し、さらに骨盤内への進展を認めるもの
Ⅱa:進展ならびに/あるいは転移が、子宮ならびに/あるいは卵管に及ぶもの。
Ⅱb:他の骨盤内臓器に進展するもの。
Ⅱc:腫瘍発育がⅡaまたはⅡbで、被膜表面への浸潤や被膜破綻が認められたり、腹水または洗浄の細胞診にて悪性細胞の認められるもの。

【注1】 ⅠcおよびⅡc症例において予後因子としての関連を評価するために、下記のごとく分類・表記することが望ましい。
 Ⅰc(a):自然被膜破綻
 Ⅰc(b):手術操作による被膜破綻
 Ⅰc(1):腹腔洗浄液細胞診陽性
 Ⅰc(2):腹水細胞診陽性
  Ⅱcも同様とする。

【注2】 他臓器への進展、転移などは組織学的に検索されることが望ましい。

Ⅲ期:腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し、さらに骨盤外の腹膜播種ならびに/あるいは後腹膜、または鼠径部のリンパ節転移を認めるもの。また腫瘍は小骨盤に限局しているが小腸や大網に組織学的転移を認めるものや、肝表面への転移の認められたものもⅢ期とする。
Ⅲa:リンパ節転移陰性で腫瘍は肉眼的には小骨盤に限局しているが、腹膜表面に顕微鏡的播種を認めるもの。
Ⅲb:リンパ節転移陰性で、組織学的に確認された直径2cm以下の腹腔内播種を認めるもの。
Ⅲc:直径2cmをこえる腹腔内播種ならびに/あるいは後腹膜または鼠径リンパ節に転移の認められるもの。

【注1】 腹腔内病変の大きさは最大のものの径で示す。すなわち、2cm以下のものが多数認められてもⅢbとする。

【注2】 リンパ節郭清が行われなかった場合、触診その他できうるかぎりの検索で知りえた範囲で転移の有無を判断し進行期を決定する。

Ⅳ期:腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し、遠隔転移を伴うもの
 胸水の存在によりⅣ期とする場合には、胸水中に悪性細胞を認めなければならない。また肝実質への転移はⅣ期とする。

【注】 肝実質転移は組織学的(細胞学的)に証明されることが望ましいが、画像診断で転移と診断されたものもⅣ期とする。

******

TNM 臨床分類

a.T:原発腫瘍の進展度
(T 分類はFIGO の進行期分類に適合するように定義されている)

TX:原発腫瘍の広がりの検索が行われなかったとき
T0:原発腫瘍を認めない
T1:卵巣内限局発育
 T1a:腫瘍が一側の卵巣に限局し、癌性腹水がなく、被膜表面への浸潤や被膜破綻の認められないもの
 T1b:腫瘍が両側の卵巣に限局し、癌性腹水がなく、被膜表面への浸潤や被膜破綻の認められないもの
 T1c:腫瘍は一側または両側の卵巣に限局するが、被膜表面への浸潤や被膜破綻が認められたり、腹水または洗浄液中の細胞診にて悪性細胞の認められるもの

T2:腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し,さらに骨盤内への進展を認めるもの
 T2a:進展ならびに/ あるいは転移が子宮ならびに/ あるいは卵管に及ぶもの
 T2b:他の骨盤内臓器に進展するもの
 T2c
腫瘍発育がT2a またはT2b で、被膜表面への浸潤や被膜破綻が認められたり、腹水または洗浄液中の細胞診にて悪性細胞の認められるもの
T3 : 腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し、さらに骨盤外の腹膜播種を認めるもの。また腫瘍は小骨盤に限局しているが小腸や大網に組織学転移を認めるものや肝表面への転移もT3 とする。
 T3a:腫瘍は小骨盤内に限局し、腹膜表面に顕微鏡的播種を認めるもの。
 T3b:組織学的に確認された直径2cm 以下の腹腔内播種を認めるもの。
 T3c:直径2cm をこえる腹腔内播種の認められるもの。

b.N:所属リンパ節

所属リンパ節:傍大動脈節。総腸骨節、内・外腸骨節、仙骨節、閉鎖節、鼠径節などが含まれる。

NX:所属リンパ節転移を判定するための検索が行われなかったとき。

N0:所属リンパ節転移を認めない。

N1:所属リンパ節転移を認める。

c.M:遠隔転移

MX:遠隔転移を判定するための検索が行われなかったとき。

M0:遠隔転移を認めない。

M1:遠隔転移を認める。

(注)M1およびpM1についてはさらに以下の記号をもって表示する.
肺転移:PUL 骨髄転移:MAR
骨転移:OSS 胸膜転移:PLE
肝転移:HEP 
皮膚転移:SKI
脳転移:BRA その他:OTH

リンパ節:LYM

d.G:病理組織学的分化度

GX:分化度の検索がなされていない場合

GB:境界悪性腫瘍

G1:高分化型
G2:中分化型
G3:低分化型

e.その他
1)y-symbol
TNM 分類決定前に集学的治療がなされた場合はy-symbol を用いて以下のように示す。
(例)yT2N1M0,ypT2pN1pM0

2)r-symbol
再発腫瘍のTNM 分類についてはr-symbol を用い以下のように示す。
(例)rT2N0M0,yrT2pN1pMX

****** 問題と解答

Q465 卵巣癌のFIGO臨床期分類で正しいものはどれか
a) ×子宮のみへの浸潤を認めた:Ⅱb期
b) ×腫瘍は一側卵巣に限局していたが、術中、卵巣腫瘍が破綻した:Ⅰa期
c) ×S状結腸浸潤を認め、腹水細胞診が陽性:Ⅱc期
d) ×脾実質への転移を認めた:Ⅳ期
e) ○肝実質への転移を認めた:Ⅳ期

解答:e

a) Ⅱa期:進展ならびに/あるいは転移が、子宮ならびに/あるいは卵管に及ぶもの。

b) Ⅰc(b)期:手術操作による被膜破綻

c) d) Ⅲ期:腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し、さらに骨盤外の腹膜播種ならびに/あるいは後腹膜、または鼠径部のリンパ節転移を認めるもの。また腫瘍は小骨盤に限局しているが小腸や大網に組織学的転移を認めるものや、肝表面への転移の認められたものもⅢ期とする。

e) 肝実質への転移Ⅳ期とする。

******

Q466 卵巣癌の臨床進行期で誤っているものはどれか
a)○肺転移や肝実質転移などには画像診断も有用である
b)○腹膜播種の診断には、腹膜腫瘍の組織学的診断が必要である
c)○胸水細胞診で癌細胞が証明されないもの(疑陽性も含む)は、Ⅳ期とはしない
d)○TNM 分類でT2bN1M0は、FIGO 分類ではⅢc 期である
e)×卵巣癌において骨盤内リンパ節は所属リンパ節であるが、膨大動脈リンパ節は遠隔リンパ節である

解答:e

d)Ⅲc期:直径2cmをこえる腹腔内播種ならびに/あるいは後腹膜または鼠径リンパ節に転移の認められるもの。

e)所属リンパ節:傍大動脈節、総腸骨節、内・外腸骨節、仙骨節、閉鎖節、鼠径節など。

******

Q467 卵巣癌の手術進行期決定のために必ずしも必要でない手術操作はどれか。1つ選べ。
a)○大網切除
b)○子宮全摘術
c)×横隔膜生検
d)○腹水・腹腔洗浄細胞診
e)○後腹膜リンパ節郭清あるいは生検

解答:c

標準手術:腹水・腹腔洗浄細胞診、単純子宮全摘出術、両側付属器切除、大網切除、後腹膜リンパ節郭清あるいは生検。

******

Q468 Ⅰ期の早期卵巣癌をリスク因子で分類した場合、ローリスクとされるのはどれか。2つ選べ。
a)×粘液性腺癌、stage Ⅰc
b)○漿液性腺癌、stage Ⅰb、grade1
c)×明細胞腺癌、stage Ⅰa
d)×類内膜細胞癌、stage Ⅰb、grade 3
e)○粘液性腺癌、stage Ⅰb、grade 1、癒着なし

解答:b、e

c)明細胞腺癌:約50%がFIGOⅠ期症例である。化学療法が奏功せず、予後は漿液性腺癌に比較して不良である。


卵巣癌の手術療法

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

① staging laparotomy

卵巣癌の治療に際しては手術療法と化学療法は表裏一体であり、予後とQOL を左右する。手術による正確なstaging は、その後の治療戦略を立てるための大前提である。

 staging laparotomy

1.腹水・腹腔洗浄液の細胞診
2.腹腔内各部擦過細胞診(横隔膜を含む)
3.単純子宮全摘
4.両側付属器切除
5.大網切除
6.骨盤~傍大動脈リンパ節郭清

腹腔・骨盤内臓器の丹念な視診・触診後に播種・転移を疑う異常所見があれば生検あるいは可及的に腫瘍を摘出する。

リンパ節郭清に関しては、Ⅰ・Ⅱ期癌が疑われるケースでは意見の分かれるところではあるが、Ⅰ・Ⅱ期癌を再開腹し、リンパ節郭清を施行した結果、30%以上がⅢ期にupgradeされたとの報告がある反面、郭清未施行症例の予後は郭清症例と変わらないとする報告もあり、生検のみでよいとする立場も少なくない。また、Ⅲ期癌でも腹腔内病変がほぼ完全に切除し得れば、リンパ節の生検あるいは郭清を施行するが、suboptimal 以上の病巣が残存する場合は、初回手術時に郭清せずに化学療法後のinterval debulking surgery 時に施行することを提唱する臨床医も多い。

一方、妊孕性温存を希望する若年者の卵巣癌でⅠa 期が疑われた場合、NCCN( National Comprehensive Cancer Network)のOvarian Cancer Guidelineでは片側付属器切除のみを推奨しているが、前述のようにⅠa 期の診断が正確なstaging laparotomy に基づくものであることを鑑みた場合、片側付属器切除のみでの安全性は確証がなく、この場合のリスクをinformed consent に含める必要がある。

② 腫瘍縮小術(cytoreductive surgery)

1.可及的な腫瘍切除
2.単純子宮全摘
3.両側付属器切除
4.大網切除
5.場合により腸管等の臓器合併切除
6.骨盤~傍大動脈リンパ節郭清あるいは腫大リンパ節摘出

進行卵巣癌に対しては,cytoreductive surgeryが施行される。

広範な腹腔内播種が存在する場合でも、可及的なoptimal debulking が予後にimpact を与えることには明らかなevidence がある。

術後の残存腫瘍径が1cm 以下optimal)の症例と1cm 以上suboptimal)の症例の生存率を比較した場合、前者では39%、後者では17%と明らかな差を認めている。

また、optimal debulking が不可能な症例でも可及的に2cm 以下に残存腫瘍を縮小可能であった場合の延命効果も示されている。

③ interval debulking surgery

進行卵巣癌に対しては、組織型と進行期を決定するためのminimal surgery(開腹あるいは腹腔鏡)を施行後、化学療法を概ね3 コース施行し(neoadjuvant chemotherapy:NAC)、その後に腫瘍減量手術を施行する治療方針が検討されている。

EORTC(European Organization for Research and Treatment of Cancer)の報告で、初回手術で残存腫瘍1cm 以上の進行癌に対して、CP(cyclophosphamide+cisplatin)療法3 コース後にinterval debulking surgery を施行し、さらにCP 療法を3 コース追加した群は、interval debulking surgery 未施行の群と比較し、生存期間、無病生存期間の有意な延長が示されている。

従来の初回腫瘍縮小術+補助化学療法と比較し、NAC+interval debulking surgery が長期予後において優位であるか否かにつき、現在GOG(Gynecologic Oncology Group)やEORTC 等で検討されている。

****** 問題と解答

Q467 卵巣癌の手術進行期決定のために必ずしも必要でない手術操作はどれか。1つ選べ。
a)大網切除
b)子宮全摘術
c)横隔膜生検
d)腹水・腹腔洗浄細胞診
e)後腹膜リンパ節郭清あるいは生検

解答:c

staging laparotomy

1.腹水・腹腔洗浄液の細胞診
2.腹腔内各部擦過細胞診(横隔膜を含む)
3.単純子宮全摘
4.両側付属器切除
5.大網切除
6.骨盤~傍大動脈リンパ節郭清


卵巣癌、化学療法

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

卵巣癌は化学療法が奏功する腫瘍である。一般に進行癌が多く、早期癌でもしばしば再発することから、多くの症例が化学療法の対象となる。

上皮性卵巣癌の標準的寛解導入・補助化学療法の変遷(CAP療法以降)
1.1980年代後半から1990年代前半にかけては、CAP療法(シクロホスファミド+ドキソルビシン+シスプラチン)あるいはCP療法(シクロホスファミド+シスプラチン)が標準治療とされた。 GOG: Gynecologic Oncology Group

GOG47(1986年):CA療法(シクロホスファミド+ドキソルビシン)よりシスプラチンを含むCAP療法が、奏功率、生存率、無病期間において優れていることが報告された。

GOG52(1989年):CP療法とCAP療法の比較試験で、両者に奏功率、生存率、無病期間に差がないことが報告された。

2.TP療法(パクリタクセル+シスプラチン)とCP療法の比較試験が施行されて、TP療法の有益性が示され、TP療法が標準治療となった。

GOG111(1996年):CP療法 vs TP療法の比較試験が行われ、これによりTP療法の優位性が示された。

OV-10(1998年):GOG111の追試が行われ、同様の結果が得られた。

3.プラチナ製剤としてカルボプラチンとシスプラチンを比較した場合、抗腫瘍効果は同等であるが、毒性の軽減と簡便性によりカルボプラチンが選択されることが多い。TJ療法(パクリタクセル+カルボプラチン)は、現時点での標準治療として定着している。

GOG158(1999年):TP療法 vs TJ療法の比較試験が行われ、両者の抗腫瘍効果は同等であるものの神経毒性に関してはTJ療法の方が軽度であることが示された。

4.TJ毎週投与(weekly TJ)療法
以下の点より注目されている。
a.標準的な投与に比べて骨髄抑制が有意に低い。
b.その他の副作用では有意差はみられない。
c.標準的な投与に比べて奏功率は差がない。

5.TJ療法とDJ療法(ドセタキセル+カルボプラチン)とを比較するphase Ⅲ study(SCOTROC: Scottish Randamized trial in Ovarian Cancer、2001年)で、奏功率、progression free survivalで両者に差を認めなかった。長期予後に関する結論がまだ出ていないので、DJ療法を卵巣癌の標準初期治療とするには時期早尚である。合併症として末梢神経障害が危惧される患者に対しては、DJ療法を選択し施行することも十分に想定される。

******

胚細胞腫瘍の初回化学療法

BEP療法(ブレオマイシン+エトポシド+シスプラチン)が標準的治療である。

一般的に、完全摘出例には腫瘍マーカーが陰性化していれば3コースで終了し、不完全摘出例にはマーカー陰性化後さらに1~2コースを追加することがある。

二次発癌:エトポシド投与により急性白血病と骨髄異形成の発生率が増大する。

再発例に対する化学療法(例):
・VeIP療法
(ビンブラスチン、イホスファミド、シスプラチン)

・VIP療法(エトポシド、イホスファミド、シスプラチン)

・TIP療法(パクリタクセル、イホスファミド、シスプラチン)

※ シクロホスファミドは卵巣毒性が強い。

****** 問題と解答

Q469 卵巣癌に対する化学療法に関する記述で正しいのはどれか。2つ選べ。
a)CAP療法はCP療法に比較し、奏功率、生存率ともに有意に高い
b)paclitaxelのDLT (dose limiting factor)は好中球減少、神経障害、血圧低下である
c)docetaxelのDLT (dose limiting factor)は好中球減少である
d)paclitaxelはその薬理作用から腹腔内投与は不可能である
e)docetaxelはweekly投与には適していない

解答:b、c

a)GOG52(1989年):CP療法とCAP療法の比較試験で、両者に奏功率、生存率、無病期間に差がないことが報告された。

b)投与量規制因子(dose limiting factor, DLF)。paclitaxelの最大投与量規制因子は神経毒性であった。

c)DJ療法には好中球減少が多く認められた。

d)GOG172では、Ⅲ期で残存腫瘍径1cm以下の症例に対し、TP(paclitaxel、cisplatin)の腹腔内投与群と静脈内投与群を比較し、progression free survivalの中央値は24.3か月、19.3か月と、腹腔内投与群で有意な延長が認められた。

e)docetaxelでのweekly投与も実施されている

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Q470 卵巣癌に対する化学療法の記述で正しいのはどれか。2つ選べ。
a)TJ療法とDJ療法の奏功率は同等とみなされる
b)TJ療法とDJ療法による好中球減少の程度は同等である
c)DJ療法が現在の標準的治療とされる
d)腹腔内投与は微小な腹腔内残存病変に対する効果が認められている
e)TP療法はTJ療法に比較し、末梢神経障害が少ないとされる

解答:a、d

a)c)TJ療法(パクリタクセル+カルボプラチン)とDJ療法(ドセタキセル+カルボプラチン)とを比較するphase Ⅲ study(SCOTROC: Scottish Randamized trial in Ovarian Cancer、2001年)で、奏功率、progression free survivalで両者に差を認めなかった。長期予後に関する結論がまだ出ていないので、DJ療法を卵巣癌の標準初期治療とするには時期早尚である。合併症として末梢神経障害が危惧される患者に対しては、DJ療法を選択し施行することも十分に想定される。

b)TJ療法に神経毒性が多く出現し、DJ療法に好中球減少症が多く認められる。

e)GOG158(1999年):TP療法 vs TJ療法の比較試験が行われ、両者の抗腫瘍効果は同等であるものの神経毒性に関してはTJ療法の方が軽度であることが示された。

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Q471 再発卵巣癌に対する治療に関する記述で正しいのはどれか。1つ選べ。
a)再発癌に対しては手術が第一選択となる
b)初回治療修了後6ヶ月以内の再発は、薬剤抵抗性である可能性が高い
c)初回治療終了後6ヶ月以降の再発に対しては、薬剤の変更が必要である
d)シスプラチン耐性症例に対してはCPT-11が第一選択となる
e)再発癌に対しては単剤よりも多剤併用療法のほうが効果が高い

解答:b

a)孤立局在性の再発巣に対しては第二次腫瘍縮小手術の選択肢があるものの、長期予後に関するエビデンスには乏しい。

b)c)初回治療後6ヶ月以上経過してからの再発例に対しては、初回治療薬剤に感受性があるとされることから、同様の薬剤投与が試みられる。一方、6ヶ月以内の再発例は、薬剤抵抗性と考えられ、交差耐性のない薬剤が選択されるものの標準的治療法は確立されてない。

d)Platinum製剤に耐性である場合、paclitaxelは40%、docetaxelは24~40%の奏効率を示すことよりsecond lineの候補となる。一方、paclitaxel耐性に対しては、23%の奏効率を示すdocetaxelが候補となる。

e)再発癌に対して単剤と多剤併用のどちらが有効かに関してはエビデンスに乏しい。再発症例の大多数がpalliative careでありQOLの面からもweekly paclitaxel、weekly TJ、weekly docetaxelなどが選択肢になり得る。

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Q472 卵巣癌化学療法でのG-CSF製剤使用について正しい用法はどれか。
a)好中球数500(白血球数1000/μl)未満で投与、好中球数3000(白血球数6000/μl)以上で中止
b)好中球数500(白血球数1000/μl)未満で投与、好中球数5000(白血球数10000/μl)以上で中止
c)好中球数1000(白血球数2000/μl)未満で投与、好中球数3000(白血球数6000/μl)以上で中止
d)好中球数1000(白血球数2000/μl)未満で投与、好中球数5000(白血球数10000/μl)以上で中止
e)好中球数2000(白血球数4000/μl)未満で投与、好中球数5000(白血球数10000/μl)以上で中止

解答:b

G-CSF製剤の癌化学療法による好中球減少症に対する適応は好中球数が500/μl(白血球数1000/μl)未満の時である。好中球数が5000/μl(白血球数10000/μl)以上で投与中止と規定されている。

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Q473 次の抗癌剤のうち血小板減少が投与量規制因子となっているものはどれか。
a)シスプラチン
b)カルボプラチン
c)エトポシド
d)シクロフォスファミド
e)パクリタクセル

解答:b

血小板減少が用量規制因子となっている薬剤:カルボプラチン
マイトマイシンCによる血小板減少が高度となる症例もあるので注意が必要である。

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Q474 抗癌剤投与時の悪心・嘔吐対策で誤っているものはどれか。
a)初回化学療法時の制吐管理はとくに重要である
b)CAP療法では即時型の悪心・嘔吐のみならず遅延型の悪心・嘔吐も発現し管理に苦慮することがある
c)CAP療法に伴う悪心・嘔吐に対しては、5-HT3受容体拮抗剤を第一選択にすべきである
d)5-HT3受容体拮抗剤は即時型、遅延型嘔吐いずれにも同様に有効である
e)制吐方法には個別化が重要である

解答:d

d)5-HT3受容体拮抗剤は、即時型の嘔吐に対しては有効であるが、遅延型の嘔吐に対しては有効でない。

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Q475 抗癌剤投与時の腎・尿路障害について誤っているものはどれか。
a)cisplatin投与時の腎障害の指標としてはクレアチニンクリアランスが鋭敏であり、60ml/分以下の症例には投与を控えるべきである
b)cisplatin投与時の腎毒性軽減処置として行われる電解質輸液は投与時のみならず投与前後も十分な量を行うべきである
c)cisplatin投与時の腎毒性軽減のためチオ硫酸ソーダが用いられることがある
d)carboplatinはcisplatinに比べ腎障害の発現頻度が高い
e)ifosfamideの代表的な尿路系障害に出血性膀胱炎がある

解答:d

腎毒性を用量規制因子とする代表的なものは、cisplatinifosfamideである。

b)c)cisplatinでは十分な輸液と利尿剤により、腎毒性の軽減が図られる。

d)carboplatinはcisplatinに比べ腎障害の発現頻度が低い

e)ifosfamide急性尿細管障害のほかに出血性膀胱炎を40~50%の頻度で起こすことから、中等度以上のifosfamideやcyclophosphamideを投与する時には、十分輸液をして尿量を100ml/時以上に維持する一方、両薬剤の腎尿路障害に特異的なchemoprotectantである2-mercaptoethane sulfonate(メスナ)を用いることが必要である。

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Q476 抗癌剤投与による神経障害で誤っているものはどれか。
a)神経障害の発生・推移は薬剤の投与回数・用量に関係する
b)cisplatinの末梢神経障害は、知覚神経障害が主体である
c)cisplatinの投与中に難聴をきたすことがあるので定期的に聴覚検査を行うことが望ましい
d)paclitaxelの方がdocetaxelより抹消神経障害の頻度が高い
e)抗癌剤による神経障害にはビタミンB12が著効を示す

解答:e

a)b)cisplatinによる末梢神経障害は、四肢の感覚障害を主徴とした知覚神経障害が主体であり、cisplatinの総投与量が200~300mg/m2より発現し、500~600 mg/m2でほぼ全例に何らかの神経障害が認められる。

d)TJ療法に神経毒性が多く出現し、DJ療法には好中球減少症が多く認められる。

e)cisplatinの神経障害では、回復にも時間を要し、著効薬もない。