ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

卵管・卵巣の腫瘍・類腫瘍、問題と解答

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

Q457 卵管癌について正しいのはどれか.2つ選べ.
a)×患者の平均年齢は約40歳である →55歳
b)○水様性帯下は特徴的な症状である
c)×細胞診でスクリーニングできる
d)○MRI などの画像診断が有用である
e)×化学療法は無効である

解答:b、d

a)患者の平均年齢は55歳で、約半数が閉経後である。

c)細胞診が陽性となる頻度は低い

e)術後化学療法(CAP、TJ)は有効である

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Q458 卵巣腫瘍全般について正しいのはどれか。2つ選べ。
a)○女性が生涯で卵巣腫瘍を発生する確率は5%程度である
b)×発生頻度は表層上皮性・間質性腫瘍よりも胚細胞性腫瘍の方が高い
c)×子宮内膜症性嚢胞は性索間質性腫瘍の一種といえる
d)×ホルモン産生腫瘍の多くは表層上皮性・間質性腫瘍である
e)○成熟嚢胞性奇形腫は胚細胞腫瘍の良性群に分類される

解答:a、e

b)わが国の頻度は、表層上皮性・間質腫瘍が60~70%、胚細胞腫瘍が30%、性索間質性腫瘍が6%、その他が約4%である。わが国では欧米に比して明細胞腺癌と胚細胞腫瘍の頻度が高い

c)子宮内膜症性嚢胞は類腫瘍病変 Tumour-like lesionsの一種といえる。

d)性索間質性腫瘍の多くはホルモン産生性である。

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Q459 卵巣腫瘍の術前診断で正しいのはどれか。2つ選べ。
a)×漿液性嚢胞腺腫では血中CA125値が上昇する
b)○粘液性嚢胞腺腫は多房嚢胞性の腫瘍が多い
c)×莢膜細胞腫はしばしば男性化兆候を伴う
d)○成熟嚢胞性奇形腫ではCA19-9値の上昇をしばしば認める
e)×MRI T1強調で高信号を示す部分は脂肪組織と診断される

解答:b、d

c)莢膜細胞腫(thecoma)の好発年齢は閉経期以降の中高年層であり、約1/3の症例で顆粒膜細胞と同様のホルモン活性(通常はestrogenic)を示す。生物学的には常に良性とされている。

e)T1強調で高信号を示す場合は脂肪または血液である。脂肪成分の存在は、T1強調で高信号、T2強調で中等度の信号、Chemical shift artifactの存在、脂肪抑制画像による信号抑制により診断される。

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Q460 卵巣の類腫瘍病変で正しいのはどれか。2つ選べ。
a)○更年期にしばしば認められる機能性嚢胞は卵胞嚢胞である
b)×正常妊娠の初期に認められる嚢胞はルテイン嚢胞という
c)×出血性黄体嚢胞は超音波検査にて充実性エコー像を呈する
d)×多発性黄体化卵胞嚢胞の発生は、通常、片側性である
e)○多発性黄体化卵胞嚢胞は粘液性嚢胞腺腫と誤診されやすい

解答:a、e

a)卵胞嚢胞は排卵が障害され卵胞が存続することによるもので、更年期の機能性出血の際にしばしば認められる。直径3~5cmの球形嚢胞で、超音波にて内部に均一で低輝度の液体を含有する。時間経過とともに縮小する。

b)正常妊娠の初期に認められる黄体嚢胞(黄体化卵胞嚢胞)は、片側性でhCGの刺激によりかなり大きくなり比較的長期間存続しうるが、時間経過とともに縮小する。

c)出血性黄体嚢胞は排卵や黄体形成の際の卵胞内出血が通常より増量したもので、下腹部痛または不快感を伴うことが多い。超音波では嚢胞内部に特有の網状エコー像が観察され、これは凝血塊と析出フィブリンによるものとされる。

d)e)多発性黄体化卵胞嚢胞(黄体化過剰反応)は絨毛性疾患の際に多く認められるが、まれに正常妊娠においても出現する。両側性で臨床的にルテイン嚢胞と呼ばれる。拡張した黄体化卵胞嚢胞が多数観察され、卵巣径が20cmにも達する。粘液性腺腫と誤診されやすい。

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Q461 卵巣腫瘍の治療で正しいのはどれか。2つ選べ。
a)×類腫瘍病変のうち径5cmを超える腫瘤は手術を行う
b)○良性腫瘍の基本術式は患側卵巣腫瘍摘出(核出)術である
c)×茎捻転を起こしている場合は付属器切除術を要する
d)×成熟嚢胞性奇形腫は良性の診断が確実ならば手術を行わない
e)○不妊症患者の子宮内膜症性嚢胞に対しては外科的治療を行う

解答:b、e

a)類腫瘍病変が疑われる場合は基本的に経過観察とする。

b)良性腫瘍で、妊孕性温存を要する若年女性では、原則として卵巣腫瘍摘出(核出)術を行う。

c)茎捻転により全体が壊死に陥っている場合は付属器切除を行わざるを得ないが、捻転を解除できる場合は腫瘍摘出(核出)術とする。

d)真性の卵巣腫瘍には原則として手術療法を行い、組織学的な確定診断を得る必要がある。

e)子宮内膜症性嚢胞には、状況に応じて経過観察、ホルモン療法、または手術治療を行う。すなわち、挙児希望のない若年女性に認められた小さな内膜症性嚢胞で症状の軽度の場合は経過観察を行う。月経困難症や性交痛などがある場合、大きな嚢胞の場合、不妊症で挙児を希望している場合は、ホルモン療法と手術療法を組み合わせた治療を行う。手術では腹腔鏡を用いた嚢胞摘出術や焼灼術を行い、健常卵巣部分をできるだけ残す。

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Q462 正しいものはどれか。
a)×境界悪性腫瘍の組織学的特徴のひとつは、間質浸潤を認めることである
b)○漿液性腺癌は全卵巣癌の約40%を占める
c)×砂粒小体psammoma bodyの出現があれば、漿液性腺癌である
d)×明細胞腺癌は欧米に比し本邦での発生頻度は低い
e)×ブレンナー腫瘍は良性腫瘍である

解答:b

a)境界悪性腫瘍の組織学的特長は、
 1.上皮細胞の多層化
 2.腫瘍細胞集団の内腔への分離増殖
 3.同一細胞型における良性と悪性の中間的な核分裂活性と核異型
 4.間質浸潤の欠如

b)漿液性腺癌:全卵巣癌の約40%を占める。

c)砂粒小体psammoma bodyの出現は悪性例で高頻度に認められるが、悪性に特異的な所見とは言えない。

d)明細胞腺癌は欧米に比し本邦で高頻度にみられる。

e)ブレンナー腫瘍:特異な上皮構造(移行上皮型の充実巣)と間質の増殖を伴い、大部分が良性である。上皮細胞の核はしばしば縦溝を呈し、コーヒー豆様(coffee-bean nuclei)と表現。境界悪性腫瘍は増殖性ブレンナー腫瘍、悪性腫瘍は悪性ブレンナー腫瘍と呼ばれる。

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Q463 正しいものはどれか
a)×顆粒膜細胞腫はエストロゲンを産生する良性腫瘍もある →境界悪性
b)×莢膜細胞腫は悪性腫瘍に分類される
c)○セルトリ・間質細胞腫瘍にはエストロゲン活性を示すものがある
d)×ライディック細胞腫は境界悪性に分類される
e)×輪状細管を伴う性索腫瘍には全例でPeutz-Jeghers症候群を合併する

解答:c

a)顆粒膜細胞腫は顆粒膜細胞を優位に含む腫瘍(性索間質性腫瘍)。組織像は成人型若年型に分けられる。通常、エストロゲン産生性。少数例は悪性の経過を示すが、通常は低悪性で、境界悪性腫瘍に分類。

b)莢膜細胞腫は良性腫瘍に分類される。

c)セルトリ・間質細胞腫瘍:ほとんどが男性化徴候を示すが、ホルモン活性がないもの、エストロゲン活性を示すものもある。高分化型(良性)、中分化型(境界悪性)、低分化型(悪性)。

d)ライディック細胞腫は良性腫瘍に分類される。ラインケ結晶を胞体に有する。3/4の症例で多毛、男性化症状を示すが、まれにエストロゲン活性を示すこともある。ステロイド細胞腫瘍ライディック細胞腫:良性、間質性黄体腫:良性、分類不能型:境界悪性)。

e)輪状細管を伴う性索腫瘍:特異な単純また複雑な輪状細管からなる腫瘍。Peutz-Jeghers症候群を伴う例(良性)と伴わないもの(境界悪性)がある。
約1/3はPeutz-Jeghers症候群(消化管ポリポーシス、口腔・皮膚のメラニン沈着)を合併し、ときに子宮頸部の悪性腺腫を伴うこともある。40%の例では高エストロゲン症状を示す。

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Q464 誤っているものはどれか
a)×全卵巣腫瘍の50~55%は胚細胞起源である →15~20%
b)○若年者に発生する卵巣腫瘍の約2/3は胚細胞腫瘍である
c)○未分化胚細胞腫は間質のリンパ球浸潤が特徴的で悪性に分類される
d)○卵黄嚢腫瘍内胚葉洞型にはloose reticular network, Schiller-Duval body,hyaline globules などがみられる
e)○未熟奇形腫のGrade 3は悪性腫瘍に分類される

解答:a

a)表層上皮性・間質性腫瘍:60~70%、性索間質性腫瘍:5~10%、胚細胞腫瘍:15~20%

b)胚細胞腫瘍は若年女性に多いことが特徴的であり、最も高頻度にみられる腫瘍は成熟嚢胞性奇形腫である。

c)未分化胚細胞腫:腫瘍細胞は大型円形、類円形で、細胞質は淡明でグリコーゲンに富む。明瞭な核小体、間質のリンパ球浸潤が特徴的。ときにsyncytiotrophoblastを伴いβ-hCGが証明される。悪性。

d)卵黄嚢腫瘍
ⅰ.内胚葉洞型:最も高頻度で、網目状loose reticular network、Schiller-Duval body(腫瘍細胞が血管周囲に配列)、hyaline globules(好酸性球状の硝子様小体) などがみられる。
ⅱ.多嚢胞性卵黄型:卵黄嚢に類似した多数の嚢胞からなり、一層の扁平な中皮様細胞に被覆。
ⅲ.類肝細胞型:未熟肝細胞あるいは肝細胞癌に類似する腫瘍細胞が索状に配列。
ⅳ.腺型:立方形の腫瘍細胞が管状、胞巣状あるいは原腸状配列を示す。

e)未熟奇形腫:未熟な胎児性成分を伴う奇形腫をいう。未熟な組織、とくに神経外胚葉組織が豊富なものほど播種や転移を起こしやすい。分化度に応じ、Grade 1、2(境界悪性)、Grade 3(悪性)に分類。

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Q465 卵巣癌のFIGO臨床期分類で正しいものはどれか
a) ×子宮のみへの浸潤を認めた:Ⅱb期 →Ⅱa期
b) ×腫瘍は一側卵巣に限局していたが、術中、卵巣腫瘍が破綻した:Ⅰa期 →Ⅰc(b)期
c) ×S状結腸浸潤を認め、腹水細胞診が陽性:Ⅱc期 →Ⅲ期
d) ×脾実質への転移を認めた:Ⅳ期 →Ⅲ期
e) ○肝実質への転移を認めた:Ⅳ期

解答:e

a) Ⅱa期:進展ならびに/あるいは転移が、子宮ならびに/あるいは卵管に及ぶもの。

b) Ⅰc(b)期:手術操作による被膜破綻

c) d) Ⅲ期:腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し、さらに骨盤外の腹膜播種ならびに/あるいは後腹膜、または鼠径部のリンパ節転移を認めるもの。また腫瘍は小骨盤に限局しているが小腸や大網に組織学的転移を認めるものや、肝表面への転移の認められたものもⅢ期とする。

e) 肝実質への転移Ⅳ期とする。

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Q466 卵巣癌の臨床進行期で誤っているものはどれか
a)○肺転移や肝実質転移などには画像診断も有用である
b)○腹膜播種の診断には、腹膜腫瘍の組織学的診断が必要である
c)○胸水細胞診で癌細胞が証明されないもの(疑陽性も含む)は、Ⅳ期とはしない
d)○TNM 分類でT2bN1M0は、FIGO 分類ではⅢc 期である
e)×卵巣癌において骨盤内リンパ節は所属リンパ節であるが、膨大動脈リンパ節は遠隔リンパ節である

解答:e

d)Ⅲc期: 直径2cmをこえる腹腔内播種ならびに/あるいは後腹膜または鼠径リンパ節に転移の認められるもの

e)所属リンパ節:傍大動脈節、総腸骨節、内・外腸骨節、仙骨節、閉鎖節、鼠径節など。

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Q467 卵巣癌の手術進行期決定のために必ずしも必要でない手術操作はどれか。1つ選べ。
a)大網切除
b)子宮全摘術
c)横隔膜生検
d)腹水・腹腔洗浄細胞診
e)後腹膜リンパ節郭清あるいは生検

解答:c

標準手術:腹水・腹腔洗浄細胞診、単純子宮全摘出術、両側付属器切除、大網切除、後腹膜リンパ節郭清あるいは生検

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Q468 Ⅰ期の早期卵巣癌をリスク因子で分類した場合、ローリスクとされるのはどれか。2つ選べ。
a)×粘液性腺癌、stage Ⅰc
b)○漿液性腺癌、stage Ⅰb、grade1
c)×明細胞腺癌、stage Ⅰa
d)×類内膜細胞癌、stage Ⅰb、grade 3
e)○粘液性腺癌、stage Ⅰb、grade 1、癒着なし

解答:b、e

c)明細胞腺癌:約50%がFIGOⅠ期症例である。化学療法が奏功せず、予後は漿液性腺癌に比較して不良である。

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Q469 卵巣癌に対する化学療法に関する記述で正しいのはどれか。2つ選べ。
a)×CAP療法はCP療法に比較し、奏功率、生存率ともに有意に高い
b)○paclitaxelのDLT (dose limiting factor)は好中球減少、神経障害、血圧低下である
c)○docetaxelのDLT (dose limiting factor)は好中球減少である
d)×paclitaxelはその薬理作用から腹腔内投与は不可能である
e)×docetaxelはweekly投与には適していない

解答:b、c

a)GOG52(1989年):CP療法とCAP療法の比較試験で、両者に奏功率、生存率、無病期間に差がないことが報告された。

b)投与量規制因子(dose limiting factor, DLF)。paclitaxelの最大投与量規制因子は神経毒性であった。

c)DJ療法には好中球減少が多く認められた。

d)GOG172では、Ⅲ期で残存腫瘍径1cm以下の症例に対し、TP(paclitaxel、cisplatin)の腹腔内投与群と静脈内投与群を比較し、progression free survivalの中央値は24.3か月、19.3か月と、腹腔内投与群で有意な延長が認められた。

e)docetaxelでのweekly投与も実施されている

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Q470 卵巣癌に対する化学療法の記述で正しいのはどれか。2つ選べ。
a)○TJ療法とDJ療法の奏功率は同等とみなされる
b)×TJ療法とDJ療法による好中球減少の程度は同等である
c)×DJ療法が現在の標準的治療とされる
d)○腹腔内投与は微小な腹腔内残存病変に対する効果が認められている
e)×TP療法はTJ療法に比較し、末梢神経障害が少ないとされる

解答:a、d

a)c)TJ療法(パクリタクセル+カルボプラチン)とDJ療法(ドセタキセル+カルボプラチン)とを比較するphase Ⅲ study(SCOTROC: Scottish Randamized trial in Ovarian Cancer、2001年)で、奏功率、progression free survivalで両者に差を認めなかった。長期予後に関する結論がまだ出ていないので、DJ療法を卵巣癌の標準初期治療とするには時期早尚である。合併症として末梢神経障害が危惧される患者に対しては、DJ療法を選択し施行することも十分に想定される。

b)TJ療法に神経毒性が多く出現し、DJ療法に好中球減少症が多く認められる。

e)GOG158(1999年):TP療法 vs TJ療法の比較試験が行われ、両者の抗腫瘍効果は同等であるものの神経毒性に関してはTJ療法の方が軽度であることが示された。

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Q471 再発卵巣癌に対する治療に関する記述で正しいのはどれか。1つ選べ。
a)×再発癌に対しては手術が第一選択となる
b)○初回治療修了後6ヶ月以内の再発は、薬剤抵抗性である可能性が高い
c)×初回治療終了後6ヶ月以降の再発に対しては、薬剤の変更が必要である
d)×シスプラチン耐性症例に対してはCPT-11が第一選択となる
e)×再発癌に対しては単剤よりも多剤併用療法のほうが効果が高い

解答:b

a)孤立局在性の再発巣に対しては第二次腫瘍縮小手術の選択肢があるものの、長期予後に関するエビデンスには乏しい。

b)c)初回治療後6ヶ月以上経過してからの再発例に対しては、初回治療薬剤に感受性があるとされることから、同様の薬剤投与が試みられる。一方、6ヶ月以内の再発例は、薬剤抵抗性と考えられ、交差耐性のない薬剤が選択されるものの標準的治療法は確立されてない。

d)Platinum製剤に耐性である場合、paclitaxelは40%、docetaxelは24~40%の奏効率を示すことよりsecond lineの候補となる。一方、paclitaxel耐性に対しては、23%の奏効率を示すdocetaxelが候補となる。

e)再発癌に対して単剤と多剤併用のどちらが有効かに関してはエビデンスに乏しい。再発症例の大多数がpalliative careでありQOLの面からもweekly paclitaxel、weekly TJ、weekly docetaxelなどが選択肢になり得る。

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Q472 卵巣癌化学療法でのG-CSF製剤使用について正しい用法はどれか。
a)好中球数500(白血球数1000/μl)未満で投与、好中球数3000(白血球数6000/μl)以上で中止
b)○ 好中球数500(白血球数1000/μl)未満で投与、好中球数5000(白血球数10000/μl)以上で中止
c)好中球数1000(白血球数2000/μl)未満で投与、好中球数3000(白血球数6000/μl)以上で中止
d)好中球数1000(白血球数2000/μl)未満で投与、好中球数5000(白血球数10000/μl)以上で中止
e)好中球数2000(白血球数4000/μl)未満で投与、好中球数5000(白血球数10000/μl)以上で中止

解答:b

G-CSF製剤の癌化学療法による好中球減少症に対する適応は好中球数が500/μl(白血球数1000/μl)未満の時である。好中球数が5000/μl(白血球数10000/μl)以上で投与中止と規定されている。

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Q473 次の抗癌剤のうち血小板減少が投与量規制因子となっているものはどれか。
a)シスプラチン
b)カルボプラチン
c)エトポシド
d)シクロフォスファミド
e)パクリタクセル

解答:b

血小板減少が用量規制因子となっている薬剤:カルボプラチン
マイトマイシンCによる血小板減少が高度となる症例もあるので注意が必要である。

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Q474 抗癌剤投与時の悪心・嘔吐対策で誤っているものはどれか。
a)○初回化学療法時の制吐管理はとくに重要である
b)○CAP療法では即時型の悪心・嘔吐のみならず遅延型の悪心・嘔吐も発現し管理に苦慮することがある
c)○CAP療法に伴う悪心・嘔吐に対しては、5-HT3受容体拮抗剤を第一選択にすべきである
d)×5-HT3受容体拮抗剤は即時型、遅延型嘔吐いずれにも同様に有効である
e)○制吐方法には個別化が重要である

解答:d

d)5-HT3受容体拮抗剤は、即時型の嘔吐に対しては有効であるが、遅延型の嘔吐に対しては有効でない。

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Q475 抗癌剤投与時の腎・尿路障害について誤っているものはどれか。
a)○cisplatin投与時の腎障害の指標としてはクレアチニンクリアランスが鋭敏であり、60ml/分以下の症例には投与を控えるべきである
b)○cisplatin投与時の腎毒性軽減処置として行われる電解質輸液は投与時のみならず投与前後も十分な量を行うべきである
c)○cisplatin投与時の腎毒性軽減のためチオ硫酸ソーダが用いられることがある
d)×carboplatinはcisplatinに比べ腎障害の発現頻度が高い
e)○ifosfamideの代表的な尿路系障害に出血性膀胱炎がある

解答:d

腎毒性を用量規制因子とする代表的なものは、cisplatinifosfamideである。

b)c)cisplatinでは十分な輸液と利尿剤により、腎毒性の軽減が図られる。

d)carboplatinはcisplatinに比べ腎障害の発現頻度が低い

e)ifosfamide急性尿細管障害のほかに出血性膀胱炎を40~50%の頻度で起こすことから、中等度以上のifosfamideやcyclophosphamideを投与する時には、十分輸液をして尿量を100ml/時以上に維持する一方、両薬剤の腎尿路障害に特異的なchemoprotectantである2-mercaptoethane sulfonate(メスナ)を用いることが必要である。

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Q476 抗癌剤投与による神経障害で誤っているものはどれか。
a)○神経障害の発生・推移は薬剤の投与回数・用量に関係する
b)○cisplatinの末梢神経障害は、知覚神経障害が主体である
c)○cisplatinの投与中に難聴をきたすことがあるので定期的に聴覚検査を行うことが望ましい
d)○paclitaxelの方がdocetaxelより抹消神経障害の頻度が高い
e)×抗癌剤による神経障害にはビタミンB12が著効を示す

解答:e

a)b)cisplatinによる末梢神経障害は、四肢の感覚障害を主徴とした知覚神経障害が主体であり、cisplatinの総投与量が200~300mg/m2より発現し、500~600 mg/m2でほぼ全例に何らかの神経障害が認められる。

d)TJ療法に神経毒性が多く出現し、DJ療法には好中球減少症が多く認められる。

e)cisplatinの神経障害では、回復にも時間を要し、著効薬もない。


絨毛性疾患

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

1.絨毛性疾患の分類

絨毛性疾患は病理学的、臨床的に
・胞状奇胎(全奇胎、部分奇胎、侵入奇胎)、
・絨毛癌(妊娠性、非妊娠性)、
PSTT(placental site trophoblastic tumor)、
・存続絨毛症(臨床的絨毛癌、臨床的侵入奇胎、奇胎後hCG 存続症)
の4 つに分類されている。

胞状奇胎、絨毛癌、存続絨毛症
細胞性栄養膜細胞 cytotrophoblast、合胞性栄養膜細胞 syncytiotrophoblast の異常ないし異型増殖により発症する疾患。

PSTT
中間型栄養膜細胞 intermediate trophoblastの異常により発症する疾患。

2.診断

A.胞状奇胎(狭義)
全奇胎,部分奇胎(狭義の胞状奇胎)は短径2mm 以上の嚢胞化した絨毛の存在により診断され、すべての絨毛が嚢胞化した全奇胎と嚢胞化が一部分に限局した部分奇胎に分類される。

発生頻度は出生1,000当たり2.92と報告され、欧米の発生率に比較し、2~3倍の高率である。

奇胎の診断は肉眼所見により行われるが、流産絨毛の水腫様変性など肉眼的に鑑別が困難な場合も多く、病理学的検索、遺伝学的検索を必要とすることもある。

全奇胎の病理所見は
絨毛間質の嚢胞化
絨毛間質の血管欠如
胎児成分の欠如
絨毛細胞の過形成
の4大特徴を示す。

部分奇胎では嚢胞化絨毛ばかりではなく、正常絨毛や胎児成分を認め、 絨毛細胞の過形成の程度も全奇胎に比較して軽微である。

一方、水腫様変性では絨毛間質に胎児血管を認め、絨毛細胞の過形成はほとんど認めない。しかし、病理学的検索によっても鑑別困難な場合もあり、遺伝学的鑑別が必要となる。

全奇胎の自他覚症状は無月経grape-juice like といわれる不正出血(90%)、妊娠悪阻(30%)、子宮過大(30%)、妊娠中毒症様症状(頻脈)lutein cyst の存在等であるが,特異的なものはなく,奇胎診断の第一歩は出血に伴う妊娠では奇胎を疑うことである。部分奇胎の症状も全奇胎と同様であるが,典型的な症状を示さないことも多い。

奇胎の診断は超音波断層法によりvesicular pattern 所見を認めれば容易である。また奇胎妊娠では正常妊娠に比較して高hCG低hPLを示すことが多いとされるが、全奇胎であっても正常妊娠の範囲内、あるいはそれ以下の値を示すこともあり、hCG 測定により奇胎妊娠を鑑別することは困難である。

胞状奇胎のエコー像(vesicular pattern
Mole

遺伝学的鑑別
全奇胎、部分奇胎の鑑別は原則として肉眼所見により行われるが、部分奇胎と水腫様変性、胎児共存奇胎と部分奇胎のように肉眼的鑑別が困難な場合には、遺伝学的鑑別が必要とされる。

全奇胎は、核のない卵子(ゲノム欠損卵)に精子が受精することにより発症し、すべての対立遺伝子が夫由来となり(雄核発生)、受精精子の本数によりホモ奇胎(1精子受精)ヘテロ奇胎(2精子受精)に分類される。ホモ奇胎が90%ヘテロ奇胎が10%を占めるとされる。全奇胎の核型はほとんどが46,XXで、残りの少数が46,XYである。

部分奇胎は、正常卵子に2精子受精した倍体がほとんどで、まれに2倍体の母方由来染色体を持つ3倍体の場合もある。

水腫様変性は正常の受精パターンを 示すことになり、遺伝学的に鑑別することが可能である。

B.侵入奇胎,臨床的侵入奇胎

胞状奇胎掻爬後10~20%に侵入奇胎、絨毛癌を発症する。

本邦では奇胎掻爬後、血中hCG が
5 週間で1,000mIU/ml 以上
8 週間で100mIU/ml 以上
20週間でcut off 値以上
の症例は、奇胎掻爬後経過非順調型とし、画像診断等で病巣の有無を検索する。

子宮内の病巣は経腟超音波でcystic lesion とsolid mass が混在した状態を示している。肺転移は胸部単純レントゲン撮影で診断されるが、CTを併用するべきである。腟転移は肉眼的易出血性の腫瘤を認めることにより診断する。

骨盤動脈撮影は超音波断層法などで病巣を確認できない症例について施行することもあるが、血栓症など重篤な合併症を起こすことがあり、注意を要する。

病巣が画像診断で認められない場合は奇胎後hCG 存続症、病巣が確認できれば絨毛癌診断スコアにより採点し、
4 点以下であれば臨床的侵入奇胎あるいは転移性奇胎
5 点以上であれば臨床的絨毛癌
と診断する。

絨毛癌診断スコア
スコア    0 1 2 3 4 5
先行妊娠 胞状奇胎 - - 流産 - 満期産
潜伏期   ~6ヶ月 - - - 6ヶ月~3年 3年~
原発病巣 子宮体部 - - 卵管 子宮頚部 骨盤外
        子宮傍結合織   卵巣
               腟
転移部位 なし・肺 - - - - 骨盤外
       骨盤内          (肺を除く)
肺転移巣
直径    ~20mm - - 20~30mm - 30mm~
大小不同性 なし - - - あり -
個数       ~20 - - - - 20~
尿中hCG値 ~106 10~10 - 10 - -
mIU/mL
BBT    不規則・一相性 - - - - 二相性
(月経周期) (不規則)             (整調)

侵入奇胎は、胞状奇胎が子宮筋層内に浸潤しているのを病理学的に診断した症例であり、侵入全奇胎侵入部分奇胎に分類される(得られた病理標本が子宮内膜掻爬物のみの場合、臨床的侵入奇胎とする)。侵入奇胎の大部分は奇胎掻爬後短期間のうちに発症し、約30%に肺、腟転移を認める。

部分奇胎より侵入奇胎、絨毛癌を発症する頻度は全奇胎に比較して低いが、皆無ではなく、奇胎後の管理は全奇胎と同様に必要である。

C.絨毛癌,臨床的絨毛癌

絨毛癌は胞状奇胎を含むすべての妊娠に続発する悪性腫瘍であり、30~50%は胞状奇胎を先行妊娠とする。病理学的には絨毛構造を認めず、およそ70%の症例ではなどへの血行性転移をきたす。

病巣を画像診断などで確認できた症例は絨毛癌診断スコアで採点し、5 点以上であれば臨床的絨毛癌とする。

子宮摘出、肺転移巣切除などにより病理学的確定診断ができた症例は絨毛癌とする。

遺伝学的に証明された部分奇胎後に発症した絨毛癌症例も報告されている。

また卵巣、胃、肝臓、肺などに、妊娠と関連しない非妊娠性絨毛癌を発症することもある。

D.PSTT(placental site trophoblastic tumor)

PSTT は中間型栄養膜細胞 intermediate trophoblastが腫瘤を形成した疾患であり、絨毛癌と同様すべての妊娠に続発して発症する。以前はtrophoblastic pseudotumor と呼ばれ予後良好な疾患と考えられていたが、死亡例が報告され、PSTT と診断されるようになった。

自覚症状は無月経不正出血であり、子宮筋層内に充実性腫瘍として確認される。絨毛癌と異なり、病巣の大きさに比較して低hCG、高hPL を示すとされる。

3.治療

A.全奇胎、部分奇胎

全奇胎、部分奇胎の治療は胞状奇胎除去術であり、掻爬時の子宮穿孔、大量出血などの合併症に注意する必要がある。再掻爬の是非に関してはさまざまな意見があるが、奇胎後の管理にあたっては子宮内に奇胎の遺残がないことを確認する必要がある。

奇胎掻爬後に、侵入奇胎、絨毛癌を続発する症例があり、定期的に血中hCGを測定し、下降不良の症例では胸部レントゲン撮影、超音波断層法等の画像診断により、病巣の有無を確認する。

奇胎掻爬後の観察期間についてはさまざまな意見があるが、2~5 年間の経過観察は必要と考えられる。基礎体温の測定は絨毛癌の早期診断に有用であり、可能な限り施行させる。

B.侵入奇胎、臨床的侵入奇胎
C.絨毛癌,臨床的絨毛癌

侵入奇胎、絨毛癌は早期より血行性転移をきたし、全身的治療である化学療法が治療の 中心を占め、局所療法である手術、放射線療法は補助的な役割を演じている。

1.Methotrexate(MTX)
MTX は葉酸拮抗剤であり、1963年以降絨毛性疾患に最も汎用されている抗癌剤である。 MTX の有害事象として肝機能障害口内炎が特異的である。

2.Actinomycin D(Act-D)
Streptomyces より分離された抗癌抗生物質であり、1962年以降現在にいたるまで使用されている。特異的な有害事象は脱毛血管外漏出による壊死性皮膚炎等である。

3.Etoposide(VP-16)
Ⅱ型DNAトポイソメラーゼ阻害剤。植物より得られたPodophyllotoxin の半合成誘導体であり、DNA2本鎖を切断することにより抗腫瘍効果を示す。比較的新しい薬剤であり、本邦では1983年以降使用されて いる。特異的有害事象として脱毛がある.近年二次性発癌白血病)を起こす可能性が指摘され、使用にあたっては注意を要する。

侵入奇胎(臨床的侵入奇胎)は,上記の化学療法剤より1 剤を選択して治療を行う。治療中はhCG を定期的に測定し、1 回の化学療法でhCG が1/10以下に下降すれば有効であると判定される。約20%の症例では薬剤抵抗性となり、化学療法剤の変更を必要とする。

絨毛癌(臨床的侵入奇胎)では上記3 剤を中心とした
MEA 療法(MTX、Act-D、Etoposide)
EMA/CO 療法(MTX、Act-D、Etoposide、Cyclophosphamide、Vincristine)
などが行われている。これら多剤併用療法による骨髄毒性、消化器毒性は単剤の化学療法に比較して重篤である。

化学療法のレジメン

1.MTX 5-Day schedule
Day1 ~ 5:MTX 0.4mg/kg(20mg)筋注
休薬期間:10 ~ 14 日間
肝機能障害が多いとされ、欧米ではMTX-FA 療法が一般的である。

2.MTX-FA
Day 1,3,5,7:MTX 1mg/kg 筋注
Day 2,4,6,8:FA(ロイコボリン:葉酸)0.1mg/kg 筋注
休薬期間:10 ~ 14 日間
抗腫瘍効果が高く、有害事象が少ないとされる。

3.Actinomycin D(コスメゲン)5-Day schedule
Day 1 ~ 5:Act-D 10 ~ 12 μg/kg 静注
休薬期間:10 ~ 14 日間
悪心、嘔吐はMTX より強い。また不可逆的有害事象として血管外漏出による壊死性皮膚炎がある。

4.Pulsed Act-D
Day 1:Act-D 1.25mg/m2 静注
休薬期間:14 日間

5.Etoposide(ラステット、べプシド)
Day 1 ~ 5:Etoposide 100mg/body 点滴静注
休薬期間:10 ~ 14 日間
シスプラチン併用化学療法で二次性白血病の報告があり、使用にあたっては注意を要する。

6.EMA/CO 療法
Day 1: Etoposide 100mg/m2 点滴静注
     MTX 100mg/m2 静注
     MTX 200mg/m2 点滴静注(12 時間以上)
     Act-D 0.35mg/m2 静注
Day 2: Etoposide 100mg/m2 点滴静注
     Act-D 0.35mg/m2 静注
     FA 15mg 筋注 6 時間ごと4 回
Day 8: Vincristine 1.0mg/m2 静注
     Cyclophosphamide 600mg/m2 点滴静注

7.MEA 療法
Day 1: MTX 300mg 点滴静注
     MTX 150mg 静注
     Etoposide 100mg 点滴静注
     Act-D 0.5mg 静注
Day 2 ~ 5: Etoposide 100mg 点滴静注
     Act-D 0.5mg 静注
     FA 15mg 12 時間ごと3 回

4.予後

A.全奇胎、部分奇胎

全奇胎、部分奇胎の予後は掻爬時の合併症(大量出血、穿孔)がなければ良好である。しかし、奇胎掻爬後全奇胎の10~20%、部分奇胎の2~5%に侵入奇胎、絨毛癌を続発するため、定期的な血中hCG 測定による奇胎掻爬後管理が必須である。

外来通院ができない症例に予防的化学療法を行うべきとの意見もあるが、予防的化学療法により絨毛癌発症の予防はできないとされ、本邦では一般的ではない

奇胎掻爬後の妊娠許可時期は1~2 年とされていたが、近年は6 カ月程度で妊娠許可する傾向にある。

奇胎掻爬後の妊娠転帰に関してはさまざまな報告がなされているが、奇胎を反復する頻度が2%前後と高率である以外、流産率、早産率、胎児奇形については差を認めなかった。

B.侵入奇胎、絨毛癌
化学療法が汎用される以前の絨毛性疾患の治療法は、手術、放射線療法が主体であり、 この時代の予後は20~30%とされていたが、MTX の導入により著しく向上し、現在、侵入奇胎(臨床的侵入奇胎を含む)では転移の有無にかかわらず、ほぼ100%の寛解率を達成している。しかし、約20%の症例では薬剤抵抗性、有害事象のため化学療法剤の変更が必要とされ、2~3 %の症例では再発をきたすとされている。侵入奇胎治療後の再発症例は絨毛癌と考えられ、多剤併用療法で治療することが必要である。

絨毛癌(臨床的絨毛癌を含む)の予後も有効な多剤併用療法の導入により向上し、80~90%の寛解率となっている。しかし、およそ20%の症例では再発、薬剤抵抗性となり、現在さまざまなSecond line 化学療法が報告されている。

これら化学療法後の妊娠転帰についても反復奇胎が高率であること以外、流早産率、胎児奇形率などに差は認めなかった。治療終了後の避妊期間に関しては現在でも約1 年とされている。


絨毛性疾患、問題と解答

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

Q447 正しいものを1つ選択せよ.
a)×部分奇胎は雄核発生によって発症する
b)×部分奇胎より侵入奇胎、絨毛癌を発症する頻度は全奇胎と同様である
c)○部分奇胎の自覚症状として典型的なものはない
d)×部分奇胎は全奇胎に比較して典型的な超音波所見を呈する
e)×部分奇胎では正常妊娠に比較してhCGが低値となる

解答:c

a)部分奇胎は、正常卵子に2精子受精した3倍体がほとんどで、まれに2倍体の母方由来染色体を持つ3倍体の場合もある

b)部分奇胎より侵入奇胎、絨毛癌を発症する頻度は全奇胎に比較して低いが、皆無ではなく、部分奇胎後の管理は全奇胎と同様に必要である。

d)全奇胎のエコー所見はvesicular patternを示す。部分奇胎ではそれに加えて胎嚢や胎児がみられることがある。

e)胞状奇胎では、正常妊娠と比べて、高hCG、低hPLを示す場合が多いが、全奇胎であっても低hCGの場合もあり、hCG測定により奇胎妊娠を鑑別することは困難である。部分奇胎ではhCG異常高値を示さない場合が多い

******

Q448 正しいものを1つ選択せよ.
a)×全奇胎の約半数は不正出血を主訴とする →90%
b)○全奇胎の絨毛間質に胎児血管は存在しない
c)×全奇胎の約10%に絨毛癌が続発する →1~2%
d)×直径2mm 以上の胞化絨毛を肉眼的に診断した場合,全奇胎と診断する
e)×全奇胎はゲノム欠損卵に1 精子が受精して生じる

解答:b

a)全奇胎における無月経後の不正出血(grape-juice like)の頻度は90%

b)全奇胎では、絨毛細胞の過増殖、絨毛間質の水腫化、絨毛内血管の欠如、胎児成分の欠如が認められる。絨毛間質に胎児血管は存在しない。

c)全奇胎の1~2%に絨毛癌、10%に侵入奇胎が続発する。年齢が高いほど発生率が上昇する。

d)全奇胎または部分奇胎。

e)全奇胎は、ゲノム欠損あるは不活化卵子に、1精子または2精子が受精することにより発症する(雄核発生)

******

Q449 正しいものを1つ選択せよ.
a)×子宮内膜掻爬により奇胎細胞が子宮筋層内に浸潤していたので,侵入奇胎と診断した
b)×奇胎掻爬後8 週間でhCG が6,000mIU_ml を示し, 直径2cm の肺転移を認めたので,臨床的絨毛癌と診断した
c)○奇胎掻爬後の妊娠の是非を質問され,奇胎を繰り返すRisk が正常の人に比べ約10倍高率であると説明した
d)×奇胎掻爬後20週で血中hCG 値がcut off 値以上あったのでただちに化学療法を開始した
e)×奇胎掻爬後10週で血中hCG 値がcut off 値以下となり,現在6カ月を経過したので検診の必要はないと説明した

解答:c

c)胞状奇胎を反復する頻度は2%前後と高率である。一般の奇胎の発生頻度は、出生1000あたり2.92と報告される。

d)経過非順調型なので、画像診断を進める。画像による病巣確認ができないものを奇胎後hCG存続症という。

e)奇胎掻爬後、2~5年の観察期間は必要と考えられる。

******

Q450 正しいものを1つ選択せよ.
a)×絨毛癌の先行妊娠の約半数は胞状奇胎であり,その頻度は上昇しつつある
b)×絨毛癌の化学療法としてMTX 単独療法を選択した
c)×25歳未婚,奇胎掻爬後hCG の下降不良であり,子宮摘出術を施行した
d)×奇胎掻爬後9 週で肺,腟転移を認め,臨床的絨毛癌として治療を開始した
e)○正常分娩後出血が断続し,肺転移を認めたので臨床的絨毛癌と診断した

解答:e

a)絨毛癌は胞状奇胎を含むすべての妊娠に続発する悪性腫瘍であり、30~50%は胞状奇胎を先行妊娠とする。近年の奇胎娩出後管理の普及により、胞状奇胎に続発する絨毛癌は減少した。

b)絨毛癌の化学療法:
MEA療法:MTX、VP-16、Act-D
EMA/CO療法:VP-16、MTX、Act-D、CPA、VCR

d)潜伏期:~6ヶ月=0点
  原発病巣:子宮体部、子宮傍結合織、腟=0点
  転移部位:なし、肺、骨盤内=0点

e)先行妊娠:満期産=5点

******

Q451 絨毛性疾患化学療法後の妊娠について説明を求められ,以下のような話をした.正しいものを2つ選択せよ.
a)×2年間は避妊するようにと指導した
b)○奇胎を反復する頻度が上昇する
c)×化学療法剤による胎児奇形の頻度は上昇する
d)○化学療法剤による母体への長期的影響については明確ではない
e)×妊娠により再発再燃の頻度は上昇する

解答:b、d

絨毛癌・化学療法後の妊娠転帰については、反復奇胎が高率であること以外、流早産率、胎児奇形率などに差は認めなかった。治療終了後の避妊期間は約1 年とされている。

******

Q126 誤っている記述を選べ.
a)○アジア地域では欧米に比べ胞状奇胎の発生率が高い
b)○絨毛癌の発生予防のために胞状奇胎の正確な診断と奇胎娩出後の厳格な管理が要求される
c)×超音波断層法で胎嚢を認めず胞状奇胎が疑われ、子宮内腔ひと掻き掻爬で非侵入全奇胎と診断した
d)○45歳の経産婦に超音波断層法・MRI で胞状奇胎が疑われ、妊孕能保存の希望がなかったので子宮内容除去術を行わず単純子宮全摘術を施行した
e)○子宮内容除去術で非侵入全奇胎と診断したが、尿中hCG 値の低下がみられなかったので1 週間後に子宮内容除去術を再施行した

解答 c

******

Q127 胞状奇胎の診断・管理に有用でない検査はどれか.
a)×超音波断層法
b)×尿中hCG 値測定
c)×MRI
d)○腹部X 線撮影
e)×摘出奇胎の細胞遺伝学的・分子生物学的解析

解答 d

******

Q128 胞状奇胎の生化学的検査に関して誤っている記述を選べ.
a)○絨毛性疾患で信頼度の高い腫瘍マーカーはhCG である
b)○尿中hCG 値が1,000mlU/ml 以下になれば血中hCG 値を指標にする
c)○
血中hCG 測定はhLH との交差反応を示す
d)×血中hCGβ-CTP 測定は交差反応を示さないので、この値がカットオフ値以下であることは絨毛細胞の消失を意味する
e)○hCG 値推移パターンの経過順調型とは奇胎娩出後5 週で1,000mlU/ml 、8 週で100mlU/ml 、20週で血中hCG 値カットオフ値の3 点を結ぶ判別線を下回る場合をいう

解答:d

血中hCGβ-CTP測定:hCGのβ-サブユニットのC-末端にはhLHにはない部分があり、これに対する抗体を用いることでhLHとの交差性の少ないhCGができる。しかし高齢女性や卵巣機能の抑制された女性では脳下垂体からhCG-like substanceが分泌されているれると考えられ、それが本測定系に影響を及ぼすことが知られている。これにより測定値が3mlU/ml程度まで上昇する場合がある。

******

Q129 絨毛癌発症の高リスク群ではないものを選べ.
a)×40歳以上の胞状奇胎
b)×侵入全奇胎
c)×転移性奇胎
d)○早期にhCG 値の低下した部分奇胎
e)×正常2 倍体と全奇胎の双胎妊娠

解答:d

Q130 正しい記述を選べ.
a)○侵入奇胎や転移性奇胎は化学療法に対する感受性が高い
b)×絨毛癌に対する治療の第一選択は放射線療法である
c)×血中hCG 値がカットオフ値以下となれば続発変化を生じないので,それ以降の検査は必要ない
d)×奇胎娩出後基礎体温がニ相性となれば一次管理終了としてよい
e)×奇胎後hCG 存続症と診断されたらhCG 値は低下傾向にあっても手術または化学療法を行う必要がある

解答:a


抗癌剤の分類

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

アルキル化薬
 シクロホスファミド:CPA(エンドキサン)
 イホスファミド:IFM(イホマイド)

代謝拮抗薬
 フルオロウラシル:5-FU(5-FU)
 メトトレキサート:MTX(メソトレキセート)
 テガフール・ウラシル:UFT(UFT)
 ドキシフルリジン:5’-DFUR(フルツロン)
 ゲムシタビン:GEM(ジェムザール)
  シタラビン:Ara-C(キロサイド)

抗腫瘍性抗生物質

 アクチノマイシンD:ACT-D(コスメゲン)
 ドキソルビシン:DXR、ADM(アドリアシン)
 エピルビシン:EPI(ファルモルビシン)
 ピラルビシン:THP(テラルビシン、ピノルビン)
 マイトマイシンC:MMC(マイトマイシン)
 ブレオマイシン:BLM(ブレオ)
 ペプレオマイシン:PEP(ペプレオ)

微小管阻害薬
 パクリタクセル:TXL(タキソール)
 ドセタキセル:TXT(タキソテール)
 ビンブラスチン:VBL(エグザール、ビンブラスチン)
 ビンクリスチン:VCR(オンコビン)

トポイソメラーゼ阻害薬
 イリノテカン:CPT-11(トポテシン、カンプト)
 エトポシド:ETP、VP-16(ベプシド、ラステッド)

白金製剤
 シスプラチン:CDDP(ランダ、ブリプラチン)
 カルボプラチン:CBDCA(パラプラチン)
 ネダプラチン:NDP、254-S(アクプラ)


緩和医療

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

WHO がん疼痛治療指針

1)by the mouth(経口投与を基本とする):
患者さんが痛いときにはレスキューのモルヒネをいつでも服用することができるようになり、
複雑な機器も必要ないため痛みの治療は自宅でも十分可能となる。

2)by the clock(時間を決めて服用する):
薬物の作用時間を考え十分な投与量を時間を決めて服用することが重要である.これによって薬物の血中濃度をある程度一定に保つことができる.

3)by the ladder(痛みの強さに応じて):
弱い痛みに対しては,非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンで開始し、中等度,強い痛みに対しては痛みに応じた鎮痛薬を時間を決めて定期的に使用する。

4)for the individual:
個々の患者で薬剤の有効性、副作用は異なるのでそれぞれにあった薬剤、
適量を見つける。

5)with attention to detail:
細かいところにも気を止め,可能な限り対応する。

******

オピオイドの実際の使い方

1)経口投与・経皮的投与:

モルヒネ開始量はMS コンチンで20mg/12時間ごと/日である。

オキシコンチンの開始量は10mg/12時間ごと/日である。

フェンタニルパッチの開始量は2.5mg/3 日であり、モルヒネ投与量60mg/日(フェンタニル600 ?g/日)に相当すると考えている。

オキシコンチン20mg/日はMS コンチン30mg/日に換算している。いずれも吐き気、眠気、便秘が起こる可能性がある。

吐き気に関しては、プロクロルペラジン15~30mg/分3/日が有用である。便秘に対しては酸化マグネシウム1.5g/分3/日(緩下剤)、センナ製剤(プルゼニド12mg/眠前から開始)を併用するとよい。フェンタニルは眠気、吐き気、便秘ともに他のいずれのオピオイドよりも少ないことが知られている。

2)それ以外の投与法:

経口投与ができない患者に対しては持続皮下投与持続静脈内投与が基本となる。

モルヒネの場合には経口投与と静脈・皮下投与では、2:1の割合が等量であり、その割合で変更する。フェンタニル静注・皮下注は、モルヒネ静注・皮下注とは1 : 100の割合で変更するとよい。

****** 問題と解答

Q 22 以下の文で正しいものを2 つ選べ。
a)モルヒネは末期のみに使用されることが多い
b)モルヒネは,がんの痛みに対して使用していれば原則的に精神依存は起こらない
c)モルヒネの副作用で頻度の多いものは,便秘,吐き気,眠気である
d)モルヒネはほとんどが尿から代謝されずにそのまま排泄される
e)モルヒネの代謝の中心はチトクロームP-450による

解答:b、c

a)緩和ケアでは、末期だけでなく、治療早期から関わっていくことが推奨される。

d)モルヒネの代謝の中心は、肝でのグルクロンサン包合をうけ、モルヒネ3グルクロニド(M3G:不活性)とモルヒネ6グルクロニド(M6G:活性代謝産物であり鎮痛効果、副作用あり)とに分かれ、腎臓から排泄される。

e)オキシコンチンは、肝臓のチトクロームP450で代謝されオキシモルフォン(活性)が発生するが微量であり、ほとんどが非活性代謝産物のみである。

******

Q 23 以下の文で正しいものを2 つ選べ。
a)×モルヒネは皮膚からの直接的な吸収がフェンタニルに比べ著しく少ない
b)○フェンタニルの方がモルヒネよりも便秘が少ない
c)×フェンタニルの方が吐き気が強い
d)○フェンタニルの方が脂溶性が低い
e)×フェンタニルは麻薬指定となっていない

解答:b、d

******

Q 24 以下の文で正しいものを2 つ選べ。
a)○オキシコンチンは腎機能障害時においてモルヒネよりも有利である
b)×オキシコンチンはかみ砕いて使用する
c)○オキシコンチンはモルヒネよりも生物学活性(bioavailability)が高い
d)×オキシコンチンとモルヒネは、変換比率が1:1 である
e)×オキシコンチンは服用後薬2 時間で血中に出現する

解答:a、c

d)オキシコンチン20mg/日はMS コンチン30mg/日に換算している。

******

Q 25 以下の文で正しいものを2 つ選べ。
a)×フェンタニルパッチは切断して貼付できる
b)×貼付時は局所の毛はカミソリできれいに剃っておく
c)○フェンタニルパッチは体温の上昇によって吸収が高まる可能性がある

d)○2.5mg パッチ2 枚と5mg パッチ1 枚を張ることは同じことと考えてよい
e)×はがれないようにテープで4 方を貼っておく

解答:c、d

******

Q 26 以下の文で正しいものを2 つ選べ。
a)×フェンタニルパッチ2.5mg を貼付している場合での経口モルヒネのレスキュー量は5mg である
b)×オキシコンチン40mg/日で投与されている患者の経口モルヒネレスキューは20mg である
c)○モルヒネ経口投与で吐き気が強い場合は,モルヒネ持続静注に変更すると改善することが多い
d)×鎮痛補助薬の抗けいれん薬,抗うつ薬には眠気の副作用は少ない
e)○臨床的に使用可能なNMDA 受容体拮抗薬として麻酔薬のケタミンが知られている

解答:c、e

a)フェンタニルパッチ2.5mg=モルヒネ60mg/日
 レスキュードーズ1回量=塩酸モルヒネ1日量の1/6
         持続皮下注または持続静注では1時間分

b)オキシコンチン40mg=モルヒネ60mg


癌関連遺伝子

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

癌関連遺伝子とは、その機能が異常になることにより正常細胞から癌細胞への分化を引き起こす遺伝子のことである。

癌関連遺伝子には、その機能が過剰になることにより癌の原因となる癌原遺伝子癌遺伝子)と、正常な状態では発癌を抑制しており、その機能が失われることによって癌の原因となる癌抑制遺伝子がある。

癌原遺伝子は通常の細胞増殖を調節する遺伝子である。癌抑制遺伝子は、正常細胞においてはその増殖を制御している遺伝子であり、発癌に対し抑制的に作用する。 一つの癌関連遺伝子が異常になっただけでは発癌には至らず、複数の異常が蓄積することで癌を引き起こす。

癌原遺伝子:その機能が過剰になることにより癌の原因となる遺伝子。
myc遺伝子ras遺伝子c-erbB-2遺伝子、など。

癌原遺伝子の活発化は、点突然変異、染色体の転座などを伴った遺伝子再構成などによって生じる。

癌遺伝子の産物:細胞増殖因子、細胞増殖因子に対する受容体、チロシンキナーゼ群、セリン・スレオニンキナーゼ、G蛋白質、核蛋白質

癌抑制遺伝子:その機能が失われることによって癌の原因となる遺伝子。
p53遺伝子RB遺伝子BRCA1・BRCA2遺伝子WT1遺伝子VHL遺伝子PTEN遺伝子など。

Knudsonの2ヒット説:一対の癌抑制遺伝子の一方に変異が起きたのみでは癌化せず、両方の遺伝子が不活化した時のみ癌化が起こる。不活化の原因として、点突然変異、欠失、プロモーター領域の高メチル化などがある。相同染色体上の癌抑制遺伝子の一方が先天的に異常をきたしている場合、後天的にもう一方に異常が生じると発癌に結び付くことになる。

DNAミスマッチ修復遺伝子(MMR)の異常によってDNA損傷が修復されず、遺伝子変異を集積しやすい状態となる。hMSH1、hMSH2、hMSH6、など。

癌組織では塩基の繰り返し配列数の異常が検出されることがあり、これをmicrosatellite instability (MI)という。MIは、DNAミスマッチ修復異常によりDNA複製時のエラーの頻度が上昇していることを反映している。

テロメレース関連遺伝子(hTERT、hTR、など):
 遺伝子を担う染色体の末端部分はテロメアと呼ばれ、(TTAGGG)の6塩基の繰り返し配列と蛋白質からなる特殊な高次構造をしており、染色体同士の融合を防いで、染色体構造を安定に保つ役割を果たしている。テロメアは、細胞分裂毎に約100塩基ずつ短縮し、限界の長さに達すると細胞は分裂能を喪失する。テロメレース(またはテロメラーゼ)は、テロメア配列を伸長する活性を有する酵素であり、その活性によってテロメア短縮を防ぐ働きがある。生体を構成する体細胞は、テロメレース活性が無いか、極端に低いために分裂能は有限であるのに対し、癌細胞の90%はテロメレース活性を有するために分裂能が無限である。

******

卵巣癌では、ras遺伝子およびp53遺伝子の異常がその発症に関与する。

家族性乳癌・卵巣癌症候群BRCA1遺伝子BRCA2遺伝子(癌抑制遺伝子)の異常が、乳癌、卵巣癌の家族性発症に関与する。

遺伝性非腺腫性大腸癌(HNPCC)DNAミスマッチ修復遺伝子の変異が原因で、大腸癌、子宮体癌を始めとして多くの癌が家族性に発生する症候群。常染色体優性遺伝形式。HNPCCに関与する遺伝子:MLH1MSH2MSH6MLH3PMS2

子宮頸部悪性腺腫(adenoma malignum)、別名MDA(minimal deviation adenocarcinoma)は、ポイツ・イエーガー症候群(Peutz-Jeghers syndrome:STK11遺伝子の欠失)と高い頻度の合併がある。

HPVは子宮頸癌発症との関連性が確認されている。16型、18型、31型、33型、35型、39型、45型、51型、52型、56型、58型、59型、68型などがハイリスク型である。

HPVのもつ2つの癌原遺伝子、E6遺伝子E7遺伝子が発癌に関与している。E6蛋白質とE7蛋白質はHPVが産生する蛋白質で、宿主細胞の癌抑制遺伝子産物であるp53蛋白質、Rb蛋白質と結合し、その機能を抑制する。

子宮内膜異型増殖症や子宮体癌の早期浸潤癌にras遺伝子の変異が報告されている。

子宮体癌の14~21%にc-erbB-2(HER2/neu)遺伝子の過剰発現を認め予後との関連性が指摘されている。

タイプⅠ子宮体癌では、microsatellite instability (MI)、K-ras変異、PTEN変異が高率で見られる。MIは、類内膜腺癌なかでも低分化腺癌に多く、漿液性腺癌ではまれである。

子宮体部の漿液性腺癌や低分化型腺癌では、p53変異が高率に見られる。明細胞癌に関しては特異的な遺伝子異常はこれまで報告されていない。

******

Q1 次の中で癌原遺伝子はどれか
a)○ras遺伝子
b)HLA遺伝子
c)× BRCA1遺伝子
d)× RB遺伝子
e)× p53遺伝子

解答:a

癌原遺伝子:myc遺伝子、ras遺伝子、c-erbB-2遺伝子

癌抑制遺伝子:p53遺伝子、RB遺伝子、BRCA1・BRCA2遺伝子、WT1遺伝子、VHL遺伝子、PTEN遺伝子

******

Q2 癌原遺伝子の産物と考えられるものはどれか
a)○細胞増殖因子
b)○細胞増殖因子に対する受容体
c)○チロシンキナーゼ群
d)○核蛋白質

解答:a、b、c、d

******

Q3 p53遺伝子について誤った記述はどれか
a)○DNAの損傷が起こると、その産物が誘導・蓄積される
b)×癌原遺伝子と考えられている
c)○損傷されたDNAを修復するため、細胞の増殖を停止させるように作用する
d)○アポトーシスの誘導に関与する
e)○その突然変異により発癌が誘導される

解答:b

p53遺伝子:癌抑制遺伝子

Q4 発癌に関する2ヒット説について正しいものの組み合わせはどれか
a)○Knudson et al.により提唱された
b)×この説によれば、相同染色体上の癌抑制遺伝子の一方が先天的に異常をきたしている場合(点突然変異など)、先天的に異常のない例に比べ、発癌の年齢が遅くなることとなる
c)○この説によれば、相同染色体上の癌抑制遺伝子の一方が先天的に異常をきたしている場合、後天的にもう一方に異常が生じると発癌に結び付くことになる
d)○この説により、悪性腫瘍の家族集積性が説明可能である

解答:a、c、d

b)相同染色体上の癌抑制遺伝子の一方が先天的に異常をきたしている場合(点突然変異など)、先天的に異常のない例に比べ、発癌の年齢が早くなる

******

Q5 婦人科領域の悪性腫瘍と癌関連遺伝子との関連性について誤った記述は以下のうちどれか
a)○ヒトパピローマウイルス(HPV)は子宮頸癌の発症に関与している
b)○ヒトパピローマウイルス(HPV)による発癌の機序に関しては、HPVのもつE6遺伝子E7遺伝子が発癌に関与している
c)○BRCA1遺伝子は乳癌、卵巣癌などの家族性発症に関与している
d)×卵巣癌の家族性発症例でBRCA1遺伝子が先天的に異常をきたしていることはない
e)○子宮体癌組織でras遺伝子の異常が認められる例のあることが報告されている

解答:d

b)E6蛋白質E7蛋白質はHPVが産生する蛋白質で、宿主細胞の癌抑制遺伝子産物であるp53蛋白質、Rb蛋白質と結合し、その機能を抑制する。


RECISTガイドライン

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

抗癌剤治療の効果判定

化学療法の効果判定には、2000年にNCI (National Cancer Institute)より発表されたRECISTガイドライン(response evaluation criteria in solid tumors)が主に使用されるようになってきている。

RECISTガイドラインでは、病変を測定可能な標的病変と腹水や胸水などの非標的病変に分類する。

標的病変の評価(1臓器につき最大5病変、合計10病変までの最長径の和で評価)
・完全奏効 CR (complete response):すべての病変の消失が4週間以上。
・部分奏効 PR (partial response):ベースライン最長径和と比較して、標的病変の最長径の和が30%以上減少が4週間以上。
・進行 PD (progressive disease):治療開始以降に記録された最小の最長径の和と比較して、標的病変の最長径の和が20%以上増加。
・安定 SD (stable disease):PRとするには縮小が不十分、かつPDとするには増大が不十分。

非標的病変の評価(測定不要)
・完全奏効 CR:すべての非標的病変の消失かつ腫瘍マーカー値の正常化。
・不完全奏効/安定 IR/SD (incomplete response/stable disease):1つ以上の非標的病変の残存かつ/または腫瘍マーカーが正常上限値を超える。
・進行 PD:既存の非標的病変の明らかな増悪。

標的病変と非標的病変の状態の評価を組み合わせて総合評価を判定する。

効果判定の総合評価(RECIST)

標的病変 非標的病変 新病変 総合効果

CR CR なし CR

CR IR/SD なし PR

PR PD以外 なし PR

SD PD以外 なし SD

PD いずれでもよい いずれでもよい PD

いずれでもよい PD いずれでもよい PD

いずれでもよい いずれでもよい あり PD


EBM、ガイドライン

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

エビデンスの質評価基準

Ⅰ: 複数のランダム化比較試験のメタアナリシス、または複数のランダム化比較試験のエビデンス

Ⅱ: 少なくとも一つのランダム化比較試験のエビデンス、または複数のよくデザインされた非ランダム化比較試験のエビデンス

Ⅲ:  少なくとも一つの他のタイプのよくデザインされた準実験的研究のエビデンス、または比較研究、相関研究、症例比較研究など、よくデザインされた非実験的記述的研究によるエビデンス

Ⅳ: 専門家委員会の報告や意見、または権威者の臨床経験

****** 問題と解答

Q154 診療ガイドラインについて正しいのはどれか。1つ選べ。
a)エビデンスに基づいた記載に限定されている
b)これに従って診療を行えば責任を問われることはない
c)各項目は第一人者の専門家が記載する
d)定期的に改訂することが義務づけられている
e)2つのガイドラインが存在することはない

解答:d

******

Q155 エビデンスとして最も低いレベルのものを1つ選べ。
a)ランダム化比較試験
b)コホート研究
c)症例対照研究
d)ケースシリーズ
e)ランダム化比較試験のメタアナリシス

解答:d

******

Q156 優れた診療ガイドラインは何に役立つか。誤りを1つ選べ。
a)医療経済
b)医療情報秘密維持
c)過剰な情報の整理
d)医療訴訟での適切な判断
e)社会資源の有効利用

解答:b

******

Q157 Randomized Controlled Trial(ランダム化比較試験)について正しいものはどれか。1つ選べ。
a)症例対照研究のことである
b)優越性ではなく、非劣性を示すことを目的とする試験もある
c)試験治療2つでの比較試験が多い
d)すべての治療法の比較に用いることができる
e)リスク因子の解明によく使われる

解答:b

ランダム化比較試験(RCT)
治験及び臨床試験等において、データの偏り(バイアス)を軽減するため、被験者を無作為(ランダム)に処置群(治験薬群)と比較対照群(治療薬群、プラセボ群など)に割り付けて実施し、評価を行う試験。


<母子医療センター>4県で計画未策定 国の産科整備に遅れ

2006年10月22日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

産科では、患者が急変して、高次機関での早急な対応を要する事態はいつでもかなりの高頻度で起こり得ることです。分娩経過中の急変では、発症後ただちに大勢の専門スタッフによる集中的な治療を開始する必要があります。

周産期医療は、助産師、産科医、新生児科医、麻酔科医などの大勢のスタッフからなるチーム医療であり、そのうちのどの診療科が欠けても決して成り立ちません。

地域の周産期医療体制を整備するためには非常に長い年月がかかり、決して一朝一夕に達成できるものではありません。また、地域の拠点病院(地域周産期母子医療センター)だけでは対応しきれない重症例も一定頻度で必ず発生しますから、各県に3次施設(総合周産期母子医療センター)を設置する必要があります。そこには、大勢の専門スタッフ、医療設備・機器が投入される必要があり、救急患者を適切に搬送するシステムを確立しなければなりません。

現在、そのような周産期医療の整備は県単位で、計画・実施されています。周産期医療体制が十分に整備されていない地域では、今回の町立大淀病院と同様の事態はいつでも起こり得ると思われます。

****** 毎日新聞、2006年10月22日

<母子医療センター>4県で計画未策定 国の産科整備に遅れ

 緊急かつ高度な治療が必要な母子への対応を目的に、国が全都道府県で整備を目指す「総合周産期母子医療センター」が未整備の8県のうち、4県では計画が策定されておらず、残る4県でも08年3月の整備期限内に完了する見通しが立っていないことが21日、毎日新聞の調べで分かった。奈良県大淀町立大淀病院で意識不明となった妊婦が搬送先の病院で死亡した問題で、産科医療の体制不備が浮き彫りになっており、国は早急な対応を迫られそうだ。

 国は04年の「子ども・子育て応援プラン」に基づき、08年3月までに総合周産期母子医療センターを整備するよう各都道府県に求めている。現在、秋田、山形、岐阜、奈良、佐賀、長崎、宮崎、鹿児島の8県が未整備で、各県の担当課に計画の進ちょく状況や県外搬送数などを取材した。

 8県のうち、岐阜、佐賀、長崎、鹿児島は特定施設を同センターに指定する方針で、交渉などを進めている。他の4県は(1)新生児集中治療室9床以上(2)母体・胎児の集中管理治療室(MFICU)6床以上――などとする国の方針を満たす施設を整備する計画自体がなかった。

 8県の未整備の理由としては、「看護師の確保が困難」(奈良)のように要員不足が多かったが、「県内の面積が広く、交通事情も悪い。県内6カ所で受け入れる現状の方法で効率は上がっている」(宮崎)との声もあった。また秋田県は「MFICUを既存の病院に3床設ける予定で、これまでの実績から国の方針と同程度の機能を有するものになる」としている。

 一方、県外への母体の搬送数については、奈良県が04年で37.19%、長崎県が05年に1例、鹿児島県が「基本的にない」としているほかは、いずれの県も把握していなかった。

 厚生労働省母子保健課は「今回の奈良県のような問題が再び起きないように、早急に整備してほしい」と話している。【まとめ・今西拓人、河内敏康】

(毎日新聞、2006年10月22日)


妊婦転院拒否、断った大阪に余裕なし 満床や人手不足 (朝日新聞)

2006年10月21日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

どの県でも、自県内の母体救急搬送例に対応するだけで精一杯のところに、隣接する他県内の重症例までもがどんどん搬送されてきたら、とてもではないが対応しきれなくなってしまうと思われます。

ほとんどの県で、総合周産期母子医療センター(3次医療)、地域周産期母子医療センター(2次医療)がすでに設置され、重篤な母体・胎児の緊急搬送ネットワークが構築されています。

県単位で、高度周産期医療の中核をなす総合周産期母子医療センターを設置し、さらに県内各医療圏の拠点病院(地域周産期母子医療センター)を整備して、県内の母体救急搬送のシステムを確立し、その体制を恒久的に維持してゆく必要があります。

****** 朝日新聞、2006年10月21日

妊婦転院拒否、断った大阪に余裕なし 満床や人手不足

 奈良県大淀町の町立大淀病院で8月、妊婦(当時32)が次々に転院を断られた末に死亡した問題は、重体妊婦の転院を大阪府内の病院の「善意」にすがってきた奈良側の依頼に、大阪側の受け入れが限界に迫っていることを浮かび上がらせた。厚生労働省は来年度までに「総合周産期母子医療センター」を指定するよう通知しているが、近畿では同県だけが整備基準を満たす病院がなく、確立された搬送システムもない。「このままではまた、同じことが起きる」。医療関係者は危機感を募らせている。

 妊婦の容体が悪化した8月8日午前1時50分ごろ、大淀病院は県内の産婦人科の拠点施設・奈良県立医大付属病院に受け入れを要請した。だが、県立医大は満床だったため、「代わりの転院先を探す」と回答。大阪府立母子保健総合医療センター(和泉市)に同2時半ごろ打診したが、ここも満床だったために受け入れられなかった。

 県立医大は同センターに「一緒に探してほしい」と依頼。センターの当直医が照会すると、7病院が拒否し、同4時半ごろに8カ所目の国立循環器病センター(大阪府吹田市)に受け入れてもらえることが決まった。

 大阪府には、24時間態勢で高度周産期医療に対応できる府内43病院が加盟する「産婦人科診療相互援助システム」(OGCS)があり、重篤な母体・胎児の緊急搬送ネットワークが構築されている。数カ所の病院に断られるケースはたまにあるが、奈良のように受け入れ先を探すのに手間取ることはないという。端末をたたけば、どの病院に空きベッドがあるか、すぐわかるからだ。

 今回受け入れを断った大阪市立総合医療センター(都島区)は、9床ある新生児集中治療室(NICU)が満床で、臨時にもう1床を入れてやりくりしている状況だった。病院側は「とても対応できる状態ではなかった。どこから要請があっても、そのうちの3割ぐらいしか受けられない。大阪府内の基幹病院で要請の半分以上を受け入れられるところは少ないはず」と漏らす。

 ベルランド総合病院(堺市)は「人が足りず、責任ある対応ができない」と断った。病院幹部は「当日は分娩(ぶんべん)を待つ3人の妊婦がベッドにおり、うち1人は高リスク分娩。帝王切開が必要な妊婦1人も自宅待機していた。産婦人科部長を自宅から呼び出して当直医と2人で対応していた状況だった」と説明する。

 大阪市内のある私立病院は、依頼の電話の内容が「子癇(しかん)発作で意識消失がある」ということだったため、脳疾患の可能性を疑って対応しきれないと考え、受け入れなかったという。

 母子保健総合医療センターの末原則幸・診療局長兼産科部長は「母体の救急搬送を他府県に依存すれば、今回のようなケースは今後も出てくるだろう。奈良は独自で対応できるような拠点施設を早く整備すべきだ」と指摘する。

 奈良県では重篤な状態になった妊婦の県外搬送が常態化している。県医務課によると、県外病院への搬送率は04年で37%(77件)。県立医大病院経営課は「転院先を探すネットワークなど、特別なシステムがあるわけではない」と話す。

 ある民間病院関係者は「県内の公立病院では、出身大学の人的つながりで受け入れを頼んでいるケースが多い。こうした環境を変えなければ、県外に頼り切りの状態は続く」と指摘する。

 高度医療に対応できる設備を持ちながら、今回、要請されなかった近畿大学奈良病院(同県生駒市)には日頃、公立病院からの受け入れ依頼はほとんどないという。竹中勇人・業務課長は「(奈良県は)転院依頼のルールがはっきりしていない。県を中心に早期にきっちりとしたシステムを確立してほしい」と注文する。

(朝日新聞、2006年10月21日)


産婦人科医会「主治医にミスなし」 奈良・妊婦死亡で県産婦人科医会 (朝日新聞)

2006年10月20日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

分娩経過中の妊婦さんが、けいれん、意識障害、高血圧などの症状を呈した場合は、『分娩時子癇』と判断するのが普通だと思います。

高次医療機関で発症した場合は、直ちに、関係する多くの専門医を招集し、血液検査、脳CT、MRI検査などを実施して、産科医、新生児科医、脳外科医、放射線科医、麻酔科医などが集まって診断、治療方針を協議し、チームでの治療を開始することになります。

1次施設で発症した場合は、とにかく一刻も早く高次医療機関に母体搬送することを考えなければなりません。搬送先病院がなかなか決まらなくて、救急車が病院を出発するまでにこんなに時間がかかるとは誰にも予測できなかったと思います。

転送拒否続き妊婦が死亡 分娩中に意識不明

奈良県警が業務上過失致死容疑で捜査へ 妊婦死亡問題

****** 朝日新聞、2006年10月19日

産婦人科医会「主治医にミスなし」 奈良・妊婦死亡

 奈良県大淀町の町立大淀病院で8月、分娩(ぶんべん)中に重体となった妊婦(当時32)が県内外の19病院に搬送を断られ、出産後に死亡した問題について、同県医師会の産婦人科医会(約150人)は19日、同県橿原市内で臨時理事会を開き、「主治医の判断や処置にミスはなかった」と結論づけた。

 妊婦は脳内出血を起こし、意識不明となったが、主治医らは妊娠中毒症の妊婦が分娩中にけいれんを起こす「子癇(しかん)」と診断し、CT(コンピューター断層撮影)検査をしなかったとされる。

 理事会後、記者会見した同医会の平野貞治会長は「失神とけいれんは、子癇でも脳内出血でも起こる症状で、見分けるのは困難。妊婦の最高血圧が高かったこともあり、子癇と考えるのが普通だ」と説明。「CTを撮らなかったのは妊婦の搬送を優先したためで、出席した理事らは『自分も同じ診断をする』と話している」とも述べた。

 県警が業務上過失致死容疑で捜査を始めた点については、「このようなケースで警察に呼ばれるのなら、重症の妊婦の引き受け手がなくなってしまう」と懸念を示した。

(朝日新聞、2006年10月19日)

****** 共同通信、2006年10月19日

病院の判断「問題ない」 妊婦死亡で県産婦人科医会

 奈良県大淀町立大淀病院で分娩中に意識不明になった妊婦が、19病院に次々と受け入れを断られた末に大阪府内の病院で死亡した問題で、同県産婦人科医会は19日、臨時の会議を開き、大淀病院の判断に問題はなかったと確認した。

 再発防止のため、今回受け入れを打診しなかった県内の病院にも救急時の協力を要請するとともに、奈良県に対し救急体制の整備を申し入れることなどで合意した。

 会議では大淀病院の院長から事情を聴いた同医会の平野貞治会長が経過を報告。その結果、妊婦の異常を分娩時のけいれんと診断した大淀病院の対応に問題はなかったとの意見で、大筋で一致したという。

 大淀病院によると今年八月、分娩中の○○○○さん(32)が頭痛を訴え意識不明になったが、主治医はけいれんと判断しコンピューター断層撮影装置(CT)にかけなかった。妊婦は脳内出血で死亡。病院側は17日の記者会見で、脳内出血を疑わなかったことについて「結果的に判断ミスだった」と認めている。

(共同通信、2006年10月19日)

****** 読売新聞、2006年10月19日

奈良の妊婦死亡 大淀病院を捜査

 奈良県大淀町立大淀病院で8月、出産の際に意識不明になった○○○○さん(当時32歳)が相次いで転院を断られ、搬送先の病院で死亡した問題で、同県警は大淀病院から高崎さんのカルテの任意提出を受けるなど、業務上過失致死容疑で捜査を始めた。病院側は、出産直前の診断に判断ミスがあったと認めており、県警は主治医や看護師から当時の状況を聞く。当初、同病院は転院を断られたのは18病院としていたが、その後の調査で19とわかった。

 同病院によると、○○さんは8月8日、出産のため入院していた同病院で頭痛を訴え、意識不明になった。産科医は妊娠中毒症による発作と診断、嘔吐(おうと)など脳内出血の症状がみられたにもかかわらず、コンピューター断層撮影法(CT)を行わなかったという。

(読売新聞、2006年10月19日)

****** 産経新聞、2006年10月19日

奈良・妊婦死亡 強制捜査も視野

 奈良県大淀町の町立大淀病院で8月、同県五條市の○○○○さん(32)が分娩(ぶんべん)中に脳内出血のため意識不明となり、19病院から満床などで受け入れを拒否された末、転送先の病院で男児出産後に死亡した問題で、県警は業務上過失致死容疑で捜査を始めた。

 遺族から事情を聴く一方、大淀病院からカルテなど関係資料の任意提出を受けており、関係先病院の家宅捜索など強制捜査を視野に、慎重に捜査を進めるとみられる。

 関係者などによると、県警は18日、捜査員を○○さんの夫、△△さん(24)ら遺族のもとに派遣し、約2時間にわたって面会。○○さんが大淀病院に入院した8月7日から容体が急変し相次いで転院を断られた翌8日の状況や、死亡した16日までの様子など一連の経過について説明を受けた。19日以降も引き続き事情を聴くとみられる。

 また、大淀病院からもこれまでに、○○さんのカルテや当時の看護記録など関係資料の任意提出を受けるとともに、原育史院長から事情説明を受けたという。

 県警は今後、主治医らからも事情を聴くとみられる。

 病院側は、○○さんが8月8日未明に意識不明となり、脳の異状が疑われたにもかかわらず、産科医が妊婦の「子癇(しかん)発作」と判断し、CT撮影しなかったことについて、「判断ミスがあった」と認めている。

(産経新聞、2006年10月19日)

****** 毎日新聞、2006年10月19日

「周産期医療、整備を」 知事に要請文提出 共産党など

 大淀町立大淀病院で今年8月、分娩中に意識不明になった妊婦が、緊急転送された大阪府の病院で死亡した問題で、共産党県委員会は18日、柿本善也知事あての要請文を県に提出した。

 要請文は、「奈良県では周産期医療体制の不十分さから、集中治療が必要なハイリスク妊婦の約4割が県外へ搬送されている。県内で対応できる体制をつくることが緊急に求められている」としたうえで、▽県立医大に総合周産期母子医療センターの整備を進める▽産婦人科医、小児科医不足解消のための実態調査を行い、医師確保に取り組む----と明記している。

 また、奈労連と県医労連も同日、柿本知事あてに、問題の原因究明と再発防止を求める緊急要請文を提出。「県の周産期死亡は5・3と全国ワースト10となっている」と指摘し、「痛ましい死を無駄にしないためにも、県は再発防止への対応と周産期医療体制の拡充を行うべきだ」と強く求めた。【曽根田和久】

(毎日新聞、2006年10月19日)


奈良県警が業務上過失致死容疑で捜査へ 妊婦死亡問題

2006年10月19日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

母体搬送の受け入れ要請を拒否した病院は計19病院(奈良県の2病院と大阪府内の17病院)だったようです。通常であれば、母体搬送の受け入れ先はすぐに決定し、病院をすぐ出発できるはずだったのに、患者搬送の受け入れを打診をした19病院で次々に受け入れを拒否され、20カ所目の国立循環器病センターでやっと受け入れてもらえる施設が決定し、救急車の病院を出発する時刻が予想より大幅に遅れてしまいました。

いずれにしても、町立大淀病院の体制では何も対応することができないので、担当医は、母体搬送の受け入れ先が決定したらすぐに病院を出発するつもりで、搬送前に中途半端な検査をするよりも、高次機関に患者を搬送することを最優先したものと思われます。

そもそも、産科では、患者が急変して、高次機関での早急な対応を要する事態はいつでもかなりの高頻度で起こり得ることです。分娩経過中の急変では、発症後ただちに治療を開始する必要があります。それなのに、急変した患者の収容先が何時間も決まらないというその地域の周産期2次医療体制の不備が一番の問題だと思われます。

周産期2次医療体制が整備されていない地域では、今回と同様の事態はいつでも起こり得ます。

トラックバック:破綻2 (いなか小児科医)

マスコミの魔女狩り報道が正しいのか?
(東京日和@元勤務医の日々)

参考:奈良の件真相(へなちょこ医者の日記)

転送拒否続き妊婦が死亡 分娩中に意識不明

地域周産期医療体制の今後の流れは?

地域周産期医療の現場で、我々が今なすべきことは何だろうか?

****** 朝日新聞、2006年10月18日

奈良県警が業務上過失致死容疑で捜査へ 妊婦死亡問題

 奈良県大淀町の町立大淀病院で妊婦(32)が分娩(ぶんべん)中に意識不明の重体になり、大阪府内の病院に搬送後、脳内出血で死亡した問題で、奈良県警は業務上過失致死容疑で捜査する方針を固めた。大淀病院は「死亡にいたるミスがあった」と認めている。県警は同病院関係者から慎重に当時の治療内容などについて聴く方針。

 17日に会見した同病院は、ミスの内容として、(1)主治医が、妊婦の意識喪失を失神と判断した(2)妊娠中毒症の妊婦が分娩中にけいれんを起こす「子癇(しかん)」と判断し、脳内出血を見抜けなかった(3)そのためCT(コンピューター断層撮影)を撮らず、脳外科の治療を優先しなかった――などを挙げた。

 同病院などによると、主治医が分娩誘発剤を投与した後、妊婦は頭痛を訴え、意識を失った。その後、妊婦の血圧が上昇し、けいれんがひどくなるなど容体が悪化。同病院では対応できなくなったため、他府県の病院に受け入れを打診する間、当直の内科医がCTの使用を助言。付き添っていた家族も頼んだが、主治医は「安静にして受け入れ先が見つかるのを待つ」と聞き入れなかったという。

 また、重体となった妊婦の受け入れを拒んだ病院はその後1病院が新たに判明し、計19病院とわかった。内訳は、奈良県の2病院と大阪府内の17病院。

(朝日新聞、2006年10月18日)

****** 共同通信、2006年10月18日

妊婦死亡で事情聴取へ 奈良県警、医療ミス調べる

 奈良県大淀町立大淀病院で妊婦が分娩(ぶんべん)中に意識不明の重体になり、移送を要請した病院から次々に断られた末、大阪府内の病院で死亡した問題で、奈良県警は18日、業務上過失致死の疑いもあるとみて大淀病院から事情を聴く方針を固めた。

 大淀病院によると、今年8月8日未明、分娩のため入院していた○○○○さん(32)=奈良県五条市=が頭痛を訴え、意識不明になった。分娩中のけいれんと判断し県立医大病院(同県橿原市)に受け入れを求めたが、満床を理由に断られた。医大病院が18カ所の病院に打診したが断られ、19カ所目の国立循環器病センター(大阪府吹田市)に転送されたのは午前6時ごろだった。○○さんは脳内出血で約1週間後に死亡した。

 大淀病院の内科医は脳の異常の可能性を指摘していたが、主治医はコンピューター断層撮影装置(CT)にかけなかったという。病院側は17日の記者会見で「結果的に判断ミスだった」と認めており、県警は死亡との因果関係を調べる。

(共同通信、2006年10月18日)

****** 毎日新聞、2006年10月18日

奈良・妊婦転送死亡:産科満床なら他科へ 県医師会が再発防止、搬送要請で合意

 奈良県大淀町立大淀病院で今年8月、妊婦が分娩(ぶんべん)中に意識不明になり、大阪府内に搬送後死亡した問題を受け、同県医師会の産婦人科医会(平野貞治会長、約150人)が再発防止のための対応策を直後の理事会で申し合わせていたことが分かった。緊急処置を必要とする具体的な症例を例示したうえ、他診療科への協力要請や、県立病院以外の有力病院への搬送受け入れ要請などについて合意。当面、現状の治療設備・要員や収容能力不足を柔軟な対応で補い、妊婦の命を救う道を目指す。【青木絵美】

 9月14日に決まった申し合わせによると、特に緊急性を要する妊婦の症状として、▽分娩時の大量出血▽妊娠中に胎盤がはがれる胎盤早期はく離▽子癇(しかん)発作▽前置胎盤▽肺血栓塞栓(そくせん)症----の5症状を挙げた。これまで、こうした具体的基準はなかった。

 開業医や病院から、これらの症状がある妊婦の搬送打診があれば、新生児集中治療室(NICU)と母体・胎児の集中管理治療室(MFICU)を備えた県立医大病院と県立奈良病院で基本的に受け入れる。

 今回の問題では、両病院ともNICU、MFICUが満床だったため、受け入れなかったが、今後は、産科ベッドが満床でも他科と調整する。それでも難しい場合には、今回打診しなかった近畿大学奈良病院(同県生駒市)や天理よろづ相談所病院(同県天理市)にも協力を要請するという。

 奈良県は、緊急、高度な治療を要する母体搬送の約4割を大阪府内の病院に頼る状態がここ数年続いている。県産婦人科医会理事で県立奈良病院の平岡克忠・産婦人科部長は「転送先探しで18カ所も電話をかけ続ける事態を繰り返さないよう、体制を整えたい」と話した。

業過致死容疑、県警が捜査へ

 この問題を受け、奈良県警は業務上過失致死容疑で捜査する方針を固めた。大淀病院側が17日の会見で「(脳内出血でなく)子癇発作の疑いとした点で、判断ミスがあった」と述べており、ミスと死亡との因果関係の立証が焦点となる。また満床などを理由に妊婦の受け入れを拒んだ病院の対応や、一連の経緯についても調べる。

 大淀病院によると、今年8月8日未明、○○○○さん(32)=同県五條市=が18病院に断られた末、同日午前6時ごろ、国立循環器病センター(大阪府)に搬送され、男児を出産したが、○○さんは同16日に死亡した。【高瀬浩平、花沢茂人】

大淀病院長が会見: 脳内出血見抜けず 遺族への謝罪、検討中

 大淀町立大淀病院で妊婦の緊急搬送が難航した末死亡した問題を受け17日、同病院は記者会見を開いた。原育史(やすひと)院長(63)は初めて公式に脳内出血を見抜けなかった診断ミスを認めた。しかし、病院の責任を問われると明確な答えを避けた。また、遺族への謝罪も「検討中」と述べるにとどまり、歯切れの悪さはぬぐいきれなかった。(会見での主なやりとりは次の通り)

 ----搬送になぜあれほど時間がかかったのか

 けいれんが起きたので産科担当医を呼んだ。(分娩(ぶんべん)中にけいれんを起こす)子癇(しかん)発作を疑った。ここでは対応が難しいので県立医大病院に転送を依頼したが、満床なので医大病院が他の病院への依頼を始めた。異常分娩は医大病院に連絡し、責任をもって受け入れ先を探していただく形になっているが、なかなか見つからなかった。

 ----内科医は脳の異状の可能性を指摘していた。その根拠は。また、それでもCT(コンピューター断層撮影)を撮らなかった理由は

 けいれん、いびき、瞳孔が開く状況があり、内科医は頭に何か異状が起こっていると思ったようだ。一方(主治医の)産科医は、頭の中に出血があると血圧が高くなるのに当時は安定しており、子癇発作を疑い、動かすことの悪影響を考えて撮影しなかった。結果的には脳内出血だった。子癇と疑ったことに判断ミスがあった

 ----病院の責任は

 遺族と誠実に話し合いを継続している。非常に難しい問題です。

 ----謝罪の予定は

 そのあたりも検討中。

 ----今後の対応は

 医師研修制度が始まり、大学病院も医師不足になって派遣医師を引き揚げた。ここ(大淀病院)も04年に31人いた常勤医師が今は26人だ。麻酔医も常勤はいない。医大病院を中心にしたネットワークの再確立が必要で、そうなると聞いている。

(毎日新聞、2006年10月18日)


転送拒否続き妊婦が死亡 分娩中に意識不明

2006年10月18日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

周産期医療は、助産師、産科医、新生児科医、麻酔科医などの大勢のスタッフからなるチーム医療であり、そのうちのどの診療科が欠けても決して成り立ちません。

分娩経過中に、突然、母体が子癇発作を起こし意識消失し、母体搬送されて来るような事例は我々も時々経験しますが、これは母児にとって非常に危険な状況です。発症直後より、大勢の専門スタッフによる集中的な治療を要します。万一、地域内の施設より、そのような重篤なケースの母体救急搬送の受け入れ要請があれば、地域基幹病院としては、満床であろうが、とにかく直ちに受け入れ早急に治療を開始せざるを得ないと考えるのが普通です。しかし、肝心の専門スタッフ(産科医、新生児科医、麻酔科医、脳神経外科医、など)が院内に揃っていなければ何もできないので、母体搬送の受け入れを拒否せざるを得ないのかもしれません。

地域の周産期2次医療体制を整備するためには長い年月がかかり、決して一朝一夕に達成できるものではありません。いったん地域の周産期2次医療体制が崩壊してしまえば、それを再び一から立ち上げて軌道に乗せるのは至難の業です。

社会の無理解がこれ以上続けば、他の地域でも同様の事例が今後続発するのではないかと危惧します。周産期2次医療体制は地域の宝です。それが全国いたる所で崩壊の危機にあり、今は、地域ぐるみで、大切に守り育てていかねばなりません。

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奈良県の母体搬送体制ニュース
(うむうむネット ~お産を語る会~)

受けなかった病院のキモチ (S.Y.’s Blog)

奈良県 医療崩壊
奈良・大淀病院 18病院受け入れ拒否…出産…死亡 (勤務医 開業つれづれ日記)

瞳子ちゃんの「最悪の根拠」の可能性
「最悪の根拠」発生の現場に関するリンク
(「マリみて」解題の試み)

18病院が受け入れ拒否(大淀病院妊婦死亡事案)
(元検弁護士のつぶやき)

破綻 (いなか小児科医)

参考:その日が来たか・・・ (新小児科医のつぶやき)

妊婦死亡、医師を書類送検 大和高田市立病院

上田でお産の課題話し合う (南信州新聞)

****** 共同通信社、2006年10月17日

転送拒否続き妊婦が死亡 分娩中に意識不明

 奈良県大淀町立大淀病院で分娩(ぶんべん)中に意識不明になった奈良県の妊婦(32)が、受け入れ先の病院に次々断られ、大阪府の病院に収容されるまでに約6時間かかっていたことが17日、分かった。妊婦は転送先で緊急手術を受け出産したが、約1週間後に死亡した。

 県福祉部によると、奈良県では緊急、高度な医療が必要な妊婦の約3割が県外に転送されており、態勢の不備が問われそうだ。

 大淀病院によると、妊婦は今年8月7日、分娩のため同病院に入院。8日午前零時すぎに頭痛を訴えて意識不明になった。主治医は分娩中にけいれんを起こす発作と判断し、県立医大病院(橿原市)に受け入れを打診したが満床を理由に断られた。

 医大病院が県内外の転送先を探したが18カ所に断られ、大阪府吹田市の国立循環器病センターが受け入れ先に決まったのは同日午前4時半ごろ。午前6時すぎに転送後、脳内出血と診断され、脳内出血と帝王切開の手術を受け男児を出産。妊婦は意識不明のまま8月16日に死亡した。

 大淀病院では、転送先を探す途中で内科医が脳の異常の可能性を指摘したが、主治医はコンピューター断層撮影装置(CT)にかけなかった。

 病院側は「妊婦を動かすことでかえって危険が増すと判断した。しかし結果的に判断ミスだった」と非を認めた。

 妊婦の親族は「長時間ほったらかしにされた。適切な処置ができていれば助かったはずだ」と話している。

(共同通信社、10月17日)

****** 産経新聞、2006年10月17日

奈良・意識不明の妊婦 18病院、受け入れ拒否 6時間後搬送、8日後死亡

 奈良県大淀町の町立大淀病院で8月、分娩(ぶんべん)中に意識不明に陥った妊婦が、県内外の18病院から満床などを理由に次々と受け入れを拒否され、約6時間後になって大阪府吹田市の国立循環器病センターまで搬送されていたことが17日、分かった。大淀病院では、女性の容体急変後に当直医が脳の異状の可能性を指摘し、CT撮影の必要性を検討したが、産科医は妊婦特有の「子癇(しかん)発作」と判断し、CTも撮らなかった。女性は緊急手術で男児を出産したが、8日後に脳内出血で死亡した。

 妊婦は奈良県五條市に住んでいた○○○○さん(32)。大淀病院などによると、○○さんは出産予定日を過ぎた8月7日午前、同病院に入院。分娩中の翌8日午前0時ごろに頭痛を訴え、0時14分に意識不明に陥った。

 さらに、1時37分にけいれんを起こしたため、同病院は県立医大付属病院(橿原市)に受け入れを打診したが、医大病院は満床のため断念。その後、医大病院の当直医が受け入れ先を探したが、県内外の17病院にも満床として拒否され続けた。

 同4時半ごろになって、約60キロ離れた国立循環器病センターで受け入れが決定、6時ごろに救急車で到着し手術を受けた。男児を出産したが、同月16日に死亡した。

 大淀病院の原育史院長によると、○○さんがけいれんを起こしてから約40分後、当直医が「脳に異状が起きた可能性が高い」と指摘し、CT撮影などを検討したが、産科医は子癇発作だとして、結局CTは撮られなかった。

 原院長は「CTを撮らなかったことは判断ミスだった」と認めたが、一方で、同病院には常勤の麻酔医がいないことなどから「当日中の病院内での処置は無理で、搬送先を探すしかなかった」と話した。

(産経新聞、2006年10月17日)

****** 朝日放送、2006年10月17日

<奈良>重体の妊婦 19病院が受け入れを拒否

奈良県内の病院で、分娩中に意識不明になった女性が適切な処置を受けず、転送先の病院にも次々と断られ死亡していたことが解りました。この女性は、大阪府内の病院で緊急手術を受け、男の子を出産していました。

死亡したのは、奈良県五條市の○○○○さん(当時32)です。○○さんは、今年8月、奈良県大淀町の町立大淀病院で分娩中に脳内出血を起こし、意識不明の状態になりました。しかし、担当の医師は分娩中の痙攣発作と診断し、適切な処置をしませんでした。その後、大淀病院は、県内を始め、隣の大阪府など19ヵ所の病院に搬送を試みましたが、「ベッドに空きがない」という理由で次々と断られました。○○さんは、およそ6時間後に大阪府内の病院で緊急手術を受け、男の子を出産しますが、1週間後に死亡しました。○○さんの夫・△△さんは、「どこの病院でもいいから、ベッドなんてなくていいから、(妻の)命を大切にしてほしかった」と話しています。

大淀病院は、きょう記者会見を行い、CT撮影などの適切な処置を取らなかったことを認めました。原育史院長は、「CTを撮っていれば、脳内出血と診断できたと思います」「結果から見れば、判断ミスだったと考えています」と話しました。また、脳外科の専門家は、正しい情報が伝わっていれば受け入れる病院はあったと語ります。富永病院の富永紳介・脳外科医は、「(分娩中に)しかんの状態になったら、25パーセント、4人に1人くらいの割合で、脳内出血が合併するんだと。極めて死亡率が高い、あるいは、重篤な後遺症になりうる可能性があると認識して病院の選択をすべきだったと思います」と話しています。

(朝日放送、2006年10月17日)

****** 読売新聞、2006年10月17日

出産で意識不明、18病院が受け入れず…1週間後死亡

 奈良県大淀町の町立大淀病院で8月、出産の際に意識不明になった同県五條市の女性について、受け入れを打診された18の病院が断り、約6時間後、60キロ離れた大阪府吹田市内の病院に搬送されていたことが、明らかになった。

 女性は脳内出血で緊急手術を受け、同時に帝王切開で男児を出産したが、約1週間後に死亡した。

 大淀病院などによると、死亡したのは○○○○さん(当時32歳)。○○さんは8月7日に入院。8日午前0時ごろ、頭痛を訴えて意識不明になった。産科担当医が、同県立医大付属病院などに受け入れを要請したが、いずれも満床。同付属病院の当直医が電話で搬送先を探し、大淀病院で待機していた○○さんは約6時間後、吹田市の国立循環器病センターに収容された。

 大淀病院は、容体が急変した際、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)の妊婦が分娩(ぶんべん)中にけいれんを起こす「子癇(しかん)発作」と診断、脳出血の治療などはしていなかった。同病院は「脳内出血と判明しても対応のしようがなかった」としている。

 夫の△△さん(24)は「○○が意識を失っても大淀病院の主治医は『単なる失神でしょう』と言って仮眠をとっていた。命を助けようという行動は一切見えなかった。決して許せない」と訴えている。

(読売新聞、2006年10月17日)

****** 朝日新聞、2006年10月17日

奈良の妊婦が死亡 18病院が転送拒否、6時間“放置”

 奈良県大淀町の町立大淀病院で今年8月、出産中の妊婦が意識不明の重体に陥り、受け入れ先の病院を探したが、同県立医大付属病院(同県橿原市)など18病院に「ベッドが満床」などと拒否されていたことがわかった。妊婦は約6時間後に約60キロ離れた大阪府吹田市の国立循環器病センターに搬送され、男児を出産したが、脳内出血のため8日後に死亡した。

 妊婦は、奈良県五條市に住んでいた○○○○さん(32)。大淀病院によると、出産予定日の約1週間後の8月7日に入院した。主治医は○○さんに分娩(ぶんべん)誘発剤を投与。○○さんは8日午前0時ごろ頭痛を訴え、約15分後に意識を失った。

 主治医は分娩中にけいれんを起こす「子癇(しかん)」発作と判断、けいれんを和らげる薬を投与する一方、同日午前1時50分ごろ、同県の産婦人科拠点施設・県立医大付属病院に受け入れを依頼したが、断られたという。

 付属病院と大淀病院の医師らが大阪府内などの病院に受け入れを打診したが拒否が続き、19カ所目の国立循環器病センターが応じた。○○さんは同センターに同日午前6時ごろ到着、脳内出血と診断され、緊急手術で男児を出産したが、8月16日に死亡した。男児は元気だという。

 大淀病院の横沢一二三事務局長は「脳内出血を子癇発作と間違ったことは担当医が認めている」と話した。搬送が遅れたことについては「人員不足などを抱える今の病院のシステムでは、このような対応はやむを得なかった。補償も視野に遺族と話していきたい」としている。

 ○○さんの夫で会社員の△△さん(24)は「病院側は一生懸命やったと言うが、現場にいた家族はそうは感じていない」と話した。生まれた長男は□□ちゃんと名付けられた。○○さんと2人で考えた名前だったという。

(朝日新聞、2006年10月17日)

****** 毎日新聞、2006年10月17日

<分べん中意識不明>18病院が受け入れ拒否…出産…死亡

 奈良県大淀町立大淀病院で今年8月、分べん中に意識不明に陥った妊婦に対し、受け入れを打診された18病院が拒否し、妊婦は6時間後にようやく約60キロ離れた国立循環器病センター(大阪府吹田市)に収容されたことが分かった。脳内出血と帝王切開の手術をほぼ同時に受け男児を出産したが、妊婦は約1週間後に死亡した。遺族は「意識不明になってから長時間放置され、死亡につながった」と態勢の不備や病院の対応を批判。大淀病院側は「できるだけのことはやった」としている。
 妊婦は同県五条市に住んでいた○○○○さん(32)。遺族や病院関係者によると、出産予定日を過ぎた妊娠41週の8月7日午前、大淀病院に入院した。8日午前0時ごろ、頭痛を訴えて約15分後に意識不明に陥った。
 産科担当医は急変から約1時間45分後、同県内で危険度の高い母子の治療や搬送先を照会する拠点の同県立医科大学付属病院(橿原市)に受け入れを打診したが、同病院は「母体治療のベッドが満床」と断った。
 その後、同病院産科当直医が午前2時半ごろ、もう一つの拠点施設である県立奈良病院(奈良市)に受け入れを要請。しかし奈良病院も新生児の集中治療病床の満床を理由に、応じなかった。
 医大病院は、当直医4人のうち2人が通常勤務をしながら大阪府を中心に電話で搬送先を探したがなかなか決まらず、午前4時半ごろになって19カ所目の国立循環器病センターに決まったという。○○さんは約1時間かけて救急車で運ばれ、同センターに午前6時ごろ到着。同センターで脳内出血と診断され、緊急手術と帝王切開を実施、男児を出産した。○○さんは同月16日に死亡した。
 大淀病院はこれまでに2度、○○さんの遺族に状況を説明した。それによると、産科担当医は入院後に陣痛促進剤を投与。容体急変の後、妊娠中毒症の妊婦が分べん中にけいれんを起こす「子癇(しかん)発作」と判断し、けいれんを和らげる薬を投与した。この日当直の内科医が脳に異状が起きた疑いを指摘し、CT(コンピューター断層撮影)の必要性を主張したが、産科医は受け入れなかったという。
 緊急治療が必要な母子について、厚生労働省は来年度中に都道府県単位で総合周産期母子医療センターを指定するよう通知したが、奈良など8県が未整備で、母体の県外搬送が常態化している。
 大淀病院の原育史院長は「脳内出血の疑いも検討したが、もし出血が判明してもうちでは対応しようがなく、診断と治療を対応可能な病院に依頼して、受け入れ連絡を待っていた」と話した。
 一方、○○さんの遺族は「大淀病院は、総合病院として脳外科を備えながら専門医に連絡すら取っていない。適切な処置ができていれば助かったはずだ」と話している。【林由紀子、青木絵美】

(毎日新聞、2006年10月17日)

遺族「助かったはず」 母体搬送システム、改善願う

◇明るい家族の中心、残された子の服地----生きた証し、母体搬送システム改善願う

 「1週間ほど入院してきます」。元気に病院に向かったはずの妊婦は、帰らなかった。奈良県大淀町の町立大淀病院で今年8月、分娩(ぶんべん)中に起きたとみられる脳内出血の緊急転送先探しが難航し、その後死亡した同県五條市の○○○○さん(32)は、明るく温かな家族の中心だった。遺族は悲しみにくれ、病院の対応や県の搬送システムの不備に憤っている。【中村敦茂】

 8月16日午後3時45分、大阪府吹田市の国立循環器病センター。○○さんは、遺族の見守る中、息を引き取った。8日に運び込まれ緊急手術を受けた後、一度も意識は戻らなかった。家族は帝王切開で生まれた長男□□ちゃんを○○さんの腕に何度も添い寝させたが、母子が対面することはなかった。

 ○○さんは、得意の裁縫で、衣服やかばんを手作りしては、親せきらに配っていた。生まれる子どもに作るための服地も、買いそろえてあった。夫△△さん(24)が夜勤の時は、いつも励ましのメールを送った。

 今月10日にあった病院と遺族との2度目の話し合い。病院側の弁護士はいきなり「病院の対応に問題はない」と言い切り、△△さんらは怒りに震えた。前回の9月21日の話し合いでは、担当の産科医自身が、意識不明当初から脳内出血を疑わなかったことを、「結果的には過ち」と認めたはずだった。しかし病院側は「脳内出血に早く気づいたとしても、助けられなかっただろう」と反論を整えていた。

 遺族によると、容体急変時、産科医は○○さんの意識不明を確認した後、「心配はない」と、仮眠室に戻っていたという。10分おきにやってくる助産師は、○○さんの顔を何度もたたいた。「脳が問題かもしれないのに、素人じゃないのに」。△△さんらは唇をかむ。

 病床の○○さんは瞳孔が開くなどしており、脳の異状を疑った△△さんの父▽▽さん(52)らは「ここ(大淀病院)にも脳外科の設備がある。CT(コンピューター断層撮影)を撮ってくれ」「転院先にベッドの空きがないなら、廊下でもいい」と必死に訴えたが、取り合ってもらえなかった。▽▽さんは「早く処置すれば助かったとの思いしかない。大淀病院の対応も許せないし、18病院に断られるという奈良県の態勢や、母体搬送システムも問題。病院は心から謝罪し、○○の生きた証しを、せめて問題の改善で示してほしい」と話す。

(毎日新聞、2006年10月17日)


尾鷲総合病院、産婦人科医を2人確保

2006年10月15日 | 地域周産期医療

コメント(私見)

私自身も、常勤の産婦人科医の数を何とかして1人でも増やしたいと思って、八方手を尽くしてリクルートの努力をしていますが、日本中どこもかしこも産婦人科医不足で必死になって医師を探していて、厳しい医師争奪戦が繰り広げられていて医師の確保は本当に至難の業です。医療関係者でもない尾鷲市長が、よくぞ2人も産婦人科医を探し出してきたものだとつくづく感心します。

産婦人科病棟が次々に閉鎖されていますが、辞めるまで病院でバリバリ働いていた経験豊富な産婦人科医が日本のそこかしこに多く存在しているはずです。働きやすい魅力ある職場環境があれば、多くの人がまた現場に復帰して戻って来てくれるかもしれません。特に、出産・育児などで医療現場から一時的に離れている女性医師の数は非常に多いと思われます。それほどの激務でなく、余裕を持って、楽しく働ける、現場復帰しやすい職場環境を作ってゆく必要があると考えています。

参考:

医師2人の内定を報告 議会で市長 尾鷲総合病院 (南海日日)

尾鷲市で産婦人科医消滅の危機

南和歌山医療センター:「院内助産所」を開設、年内には妊婦受け入れへ

産婦人科医を集約 「大病院に偏在」拍車 三重大

****** 中日新聞、2006年10月13日

尾鷲病院の産婦人科医確保
市長、奨励金の有効性訴える

 「同時に2人の医師を確保できたのは、たまたま。本当に幸運だった」。尾鷲総合病院の産婦人科医の後任に、津市栄町の元開業医野村浩史さん(50)が決まった12日、伊藤允久尾鷲市長は地方で繰り広げられる厳しい医師争奪戦の現状を会見で切々と語った。

 産婦人科休診の危機から一転、2人の医師確保を果たした伊藤市長は「来年4月に2人目の男性医師が着任するまで安心はできないが、肩の荷が半分下りました」と胸の内を明かした。

 しかし、話題が医師との交渉過程に移ると、ゆるんだ表情は消え、「中勢や北勢、名古屋市などに勝って、医師を確保しようと思ったら何らかのインセンティブが必要」と新設した奨励金制度の有効性を訴えた。

 最低でも5年間の勤務が見込める産婦人科医に上限500万円が支給される制度について市長は「市民の安心を考えたら、1年に100万円という支出は公益性があると判断した」と説明。また「今後、地方の自治体が独自に医師を確保しようと思ったら、こういった制度を設けなくてはならないのではないか」との見通しを示した。医師の集約化を進める国に対しては「尾鷲市のように交通が不便な土地にはセーフティーネットのような特例を設けても良いのではないか」と注文も忘れなかった。

 念願の医師確保に地元の喜びは大きい。「紀北地域に産婦人科の存続を願う会」の浜田捷穂代表(64)は「給与など難しいことは分からないが、市が長期的な視野に立って医師2人を確保してくれてうれしい。お医者さんを大切にして、安心してお産ができる街にしてほしい」と願いを口にした。

 着任が決まった野村医師は12日、本紙の取材に「妊婦に安心してもらえるよう、一生懸命仕事をしたい」と抱負を話した。(鈴木龍司)

(中日新聞、2006年10月13日)

****** 毎日新聞、2006年10月13日

尾鷲総合病院、産科医2人確保 休診回避へ----市長表明

 三重県尾鷲市の伊藤允久市長は12日、市立尾鷲総合病院の産婦人科医を2人確保できる見通しを明らかにした。現在の医師と待遇面で折り合わず、今月末で休診の予定だったが、ぎりぎりで回避された。

 1人は津市内の元開業医の男性医師(50)で19日に着任。市職員として採用し、年間給与は3000万円未満。他に5年勤務を条件に奨励金500万円を支給する。もう1人は県外で勤務している男性医師(65)で来春着任する。伊藤市長は「2人の医師がそろい、安心して出産できる体制が整う」と、胸をなでおろした。

 産婦人科の存続活動をしている尾鷲市内の主婦、浜田捷穂(かつほ)さん(64)は「身近に医師がいないのは妊婦や家族にとってとても不安。それを取り除いてもらえてホッとしている」と話した。【七見憲一】

(毎日新聞、2006年10月13日)

****** 毎日新聞、2006年10月13日

尾鷲総合病院:産科医確保、態勢維持に不安の声も 市長、三重大に協力要請

 12日開かれた尾鷲市議会の全員協議会で、伊藤允久市長は市立尾鷲総合病院で後任が不在だった産婦人科医について、2人確保するめどが立ったことを報告した。休診の危機を回避できただけに、市民からは安堵(あんど)の声が聞かれたが、この態勢をいつまでも維持できるかどうか心配する声も漏れた。

 医師の1人は津市内の元男性開業医(50)で今月19日に着任。もう1人は県外で勤務している男性医師(65)で来春に就任する予定だ。伊藤市長は「産婦人科がなくなると、少子化が進む地域社会の崩壊につながりかねない。医師不足の折、後任が決まり本当に幸運」と述べた。

 議員からは2人目の医師が着任するまでの約5カ月間、1人態勢になることを懸念する声も出たが、伊藤市長は「三重大医学部に一時的に医師を派遣してもらえるようお願いしている」と答えた。

 後任が決まったことについて、市内の家事手伝いの女性(25)は「産婦人科医が来てくれるのはうれしい。安心して結婚も考えられます」と喜んでいた。市内の男性会社員(50)は「これで一安心だが、ずっと居てくれるのかどうか心配」と話していた。【七見憲一】

(毎日新聞、2006年10月13日)


初公判は来年1月26日に 福島の病院医療事故

2006年10月13日 | 報道記事

コメント(私見)

県立大野病院事件に関して、福島地裁で第4回公判前整理手続きが行われ、今後の裁判では、「手術中に胎盤の癒着が分かった時点で(手術の)中止義務があったか」が主な争点になるということらしいです。

癒着胎盤かどうか?は胎盤の癒着剥離中に大出血が始まった時点で初めてその疑いを持つことができ、摘出子宮の病理検査によって初めてその診断が可能となります。

実際の臨床の場で、胎盤が剥がれにくいケース(付着胎盤)はいくらでもあります。しかし、真の「癒着胎盤」は1万分娩に1例とも言われている非常にまれな疾患です。胎盤がいくら剥がれにくくても、実際は、ほとんどの場合(99.99%)で胎盤は剥離可能なのです。

 癒着胎盤で母体死亡となった事例

 癒着胎盤について

産科では1リットル程度の出血は正常範囲で、2リットル近い出血も日常茶飯事です。時に、10リットルを越すような大出血が突然始まって母体は出血性ショックで意識を消失し、緊急大量輸血を実施しながら全身麻酔下の緊急子宮摘出手術を実施しなければならないような場合もあります。そういう緊急事態がいつ発生するのかは全く予測できません。

産科の歴史は出血との闘いの歴史で、『大出血が始まる前に、それを予見すること』ができないので太古の昔からみんなさんざん苦労してきたのです。

Williams Obstetrics, 22nd Edition
Chapter 35. Obstetrical Hemorrhage

Obstetrics is "bloody business."
Even though hospitalization for delivery and the availability of blood for transfusion have dramatically reduced the maternal mortality rate, death from hemorrhage still remains a leading cause of maternal mortality. From 1991 through 1997 in the United States, hemorrhage was a direct cause of more than 18 percent of 3201 pregnancy-related maternal deaths, as ascertained from the Pregnancy Mortality Surveillance System of the Centers for Disease Control and Prevention (Berg and colleagues, 2003).

ウイリアムス産科学、第22版  第35章 産科出血
産科は出血との闘いである。分娩のために入院するようになり、輸血もしやすくなって、母体死亡率は劇的に減少したが、いまだに出血が母体死亡の最大原因であることに変わりがない。1991年から1997年までの米国における妊娠関連母体死亡3201例のうちの18%以上において、出血が直接の死因であった。

****** 毎日新聞、2006年10月12日

大野病院医療事故:初公判は来年1月 弁護側が意見書提出----公判前手続き /福島

地裁で第4回公判前整理手続き

県立大野病院で帝王切開の手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(39)の第4回公判前整理手続きが11日、福島地裁であった。この日は手続きを12月で終了し、初公判を来年1月26日午前10時から開くことを決めた。

手続きでは、第2回公判を2月23日、第3回を3月16日に開くことも決めた。また弁護側は、(1)手術前の癒着胎盤の予見可能性(2)手術中の大量出血の予見可能性(3)医師法の異状死の定義のあいまいさ(4)今回の起訴が医療現場に与えた悪影響----といった内容を柱とする「予定主張等記載書面」と証拠に対する意見書を提出した。

争点とみられる「手術中に胎盤の癒着が分かった時点で(手術の)中止義務があったか」については、「義務があった」とする検察側に対し、弁護側は「止血をするために胎盤剥離をするのが臨床では当然のこと」と主張している。また、弁護側は医師法違反については、異状死の定義があいまいなうえ、被告は院長に報告し違法性はないとの主張をする予定だ。

次回手続きは11月10日に行われ、弁護側が提出した書面に対して検察側が意見を述べる。12月14日の手続きで争点を最終的に整理し、手続きを終える予定だ。【松本惇】

(毎日新聞、2006年10月12日)

****** 共同通信社、2006年10月12日

初公判は来年1月26日に 福島の病院医療事故

帝王切開手術で女性=当時(29)=を死亡させたとして、業務上過失致死などの罪に問われた福島県立大野病院の産婦人科医加藤克彦(かとう・かつひこ)被告(39)の第4回公判前整理手続きが11日、福島地裁で開かれ、初公判を来年1月26日に開くことで地裁、検察側、弁護側が一致した。

この日、弁護側は公判で主張する内容をまとめた書面を提出。今後、これに対し検察側が意見を述べ、争点を絞り込んで年内に公判前整理手続きが終了する見込み。

これまでの手続きで、胎盤が子宮に癒着していると認識した際、胎盤のはく離を中止すべきだったかどうかが、公判の主な争点となる見通しになっている。

(共同通信社、2006年10月12日)

****** 福島民報、2006年10月12日

来年1月26日初公判/福島地裁/2大争点、全面対決/大野病院医療過誤訴訟

大熊町の県立大野病院の産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた医療過誤事件で、公判前整理手続きによる第4回協議が11日、福島地裁で開かれ、来年1月26日に初公判を開くことを決めた。

弁護団によると、初公判は午前10時から午後5時まで審理を行い、冒頭手続きのほか証人尋問まで進む。第2回は2月23日、第3回は3月16日を予定している。3回では結審しない見込みで、4月以降の予定は年明けに決める。公判前整理手続きは11月10日の第5回、12月14日の第6回で終える。

第4回協議では弁護団が主張や証拠をまとめた書面を提出した。検察側の証拠についてカルテなどは同意するが、供述調書はほぼすべて不同意とする意思を示した。公判では無罪を主張し、全面的に争う。

起訴されたのは大熊町下野上、産婦人科医の被告(39)。起訴状によると、被告は平成16年12月17日、楢葉町の女性の帝王切開手術を執刀した際、癒着した胎盤をはがし、大量出血で死亡させた。女性が異状死だったのに、24時間以内に警察署に届けなかった。

(福島民報、2006年10月12日)

****** 福島民友、2006年10月12日

初公判は来年1月26日/大野病院医療過誤

業務上過失致死と医師法(異状死の届け出義務)違反の罪に問われた県立大野病院の産婦人科医加藤克彦被告(39)=大熊町下野上=の公判前整理手続きの第4回協議が11日、福島地裁(大沢広裁判長)であり、初公判は1月26日に開かれることが決まった。以降の公判は2月23日、3月16日の予定。弁護側はこの日、検察側が出した供述調書について、内容と証拠採用を不同意とし、胎盤に関する病理医の岡村州博(東北大)、池ノ上克(宮崎大)、解剖医の中山雅弘(大阪府立母子総合医療センター)の3医師を証人として裁判所に申請する方針を示した。

(福島民友、2006年10月12日)